日本の石油会社が産油国から輸入する原油価格が上昇している。1日に確定した6月分の長期契約の価格は、サウジアラビア産の代表油種で前月比2%上昇し、半年ぶりの高値となった。イラクなどの地政学的リスクによる供給不安が原油価格を押し上げており、ガソリンや化学製品の原料にも波及している。
産油国との長期契約に基づく輸入は直接取引(ダイレクト・ディール=DD)と呼ばれ、輸入全体の約8割を占める。サウジ産の代表油種である「アラビアンライト」の6月分は1バレル109.70ドルと、3カ月連続で上昇した。前年同月に比べて7ドル超高い。
長期契約価格はアジアの指標となるドバイ原油のスポット価格などを参考にして決められる。ドバイ原油の6月の月間平均は1バレル108ドルで、前月比で2.2%上昇。6月下旬には9カ月ぶりの高値をつける場面もあった。
イラクではイスラム教スンニ派の過激派武装組織が国家の樹立を宣言し、緊張が高まっている。今のところ南部の主要油田での生産に影響はないが、「イラクが計画していた増産は遅れる可能性が高い」(住友商事グローバルリサーチの高井裕之社長)。
イラク産原油は生産コストが安く、世界需要の増加分を補う有望産油国と位置付けられてきた。マリキ政権は外資の導入などを進め、1日あたりの生産量を約330万バレルから中期的に500万バレル超に増やす方針を打ち出している。
政情不安の続くリビアやナイジェリアでも原油の生産は低迷。中東地域全体でイスラム教の宗派対立が深まり、エネルギー価格の押し上げ圧力となるとの懸念が強まる。
原油の値上がりを受け、ガソリン価格も上昇している。店頭価格(全国平均)は6月23日時点で1リットル167.4円と5年9カ月ぶりの高水準だ。プラスチックなど石油化学製品の基礎原料であるナフサ(粗製ガソリン)の価格はこの1カ月で約5%上昇した。需給が緩く原料高の転嫁が十分に進まない化学品もあり「一部製品で採算が圧迫されている」(旭化成ケミカルズ)という。
ただ、原油の上値余地は限られるとの見方も多い。東南アジアなどで需要は鈍く、石油製品と原油の価格差を示す「精製マージン」は縮小している。原油需給が引き締まるとの観測は少ない。
1日のドバイ価格は6月下旬の直近高値から2.6%下落した。イラクなどの地政学リスクはひとまず織り込まれ、欧米市場では利益確定売りもみられる。
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