陸海空の3自衛隊は1日、発足60年を迎え、安倍政権は同日、集団的自衛権の行使容認を閣議決定する。憲法9条の平和主義の下、60年間、一度も海外での武力行使をしなかった自衛隊が、戦争に巻き込まれる危険性が高まる。節目の日を前に、県内外の自衛官は複雑な思いを口にした。
自衛隊の長野県内唯一の拠点である陸上自衛隊松本駐屯地(松本市)。30日夕、正門から帰路に就く自衛官に話し掛けると、みな硬い表情を浮かべた。「答える立場にない」「全然分からない」。他の隊員の視線を気にしてか、足早に立ち去った。
一方、長野県に隣接する県の駐屯地に勤務する50代の男性自衛官は、取材に「正直、集団的自衛権が本当に必要かどうか判断できないし、海外で戦闘することもまだ想像できない」と心境を明かした。
自衛官になって30年余り。憲法には自衛隊の存在や役割が規定されてこなかった。国防を第1の任務として訓練してきた自身の感覚と、災害派遣にばかり注目する世間の感覚のずれに、「釈然としないものを感じてきた」。ただ、現在の議論には「行使容認で何ができて何ができないのかよく分からない。法的な裏付けに基づいた活動ができるのか」と感じている。
憲法の改正ではなく、閣議決定で解釈を変えるという安倍政権の選択は「次の選挙後には集団的自衛権が容認されなくなったり、逆に自衛権の範囲が際限なく広がったりすることもあり得る」とみる。「自衛隊の根幹部分がそのたびに揺れるのは危うい。行使容認に踏み切るなら、憲法を改正するべきだ」と語った。
同じ県で勤務する別の男性自衛官は大震災の時、家族に行き先を告げずに被災地へ向かった。1週間、連絡も取らなかったが、「それが自分たちの仕事」と話す。安倍政権の決定には「個人の感情をさしはさむところではない。国外に同盟国の救出に行けと命令されれば行くしかない」。
ただ、米艦の防護といった事態と直接攻撃を受けた日本の国土を守ることとでは「気持ちに違いがあるのは確かだ」と語った。
県内で勤務する男性自衛官は「不安な気持ちでニュースを見守っている」と打ち明ける。入隊時に「わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚」することを宣誓した。だが、米艦の防護といった想定は「宣誓した使命に当たるかと言われると考えてしまう」と言う。
外国からの武力攻撃で家族が危機にさらされれば、「迷わず助ける」。だが、これからは親やきょうだいに危機が迫っているのに、国外の戦闘地域で米軍の警護を指示される事態もあるのではないか…。「その時は仕事を辞めるかどうかの瀬戸際」とこの男性自衛官。その上で「同じような不安な気持ちを抱えている隊員は本当に責務を果たせるのだろうか」とつぶやいた。