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「PVの質」を問う新指標『READ』真の狙いは、人の「意欲」を測る試みだった

2014/07/02公開

 

かつて栄華を極めた日本のテレビがつまらなくなったのは、行き過ぎた視聴率至上主義のせいである――。

こうした言説を見聞きすることは、もはや珍しくなくなった。

だが、かつてのTVのポジションを奪ったといわれるWebの世界でも、すでに同様の事態が起きていると警鐘を鳴らす声もある。すなわち、各メディアが躍起になって追っているページビュー(以下、PV)をめぐる議論である。

大手メディアから個人のブログ、2次、3次情報を扱うまとめサイトまで、大小あらゆるサイトが乱立する中で、各メディアの1PVを一律に扱うことの是非を問う声は少なくない。「PVの質」は、それぞれ違うのではないかというわけだ。

東京大学発のスタートアップ「popIn」が提唱する新指標『READ』は、こうした議論に一石を投じるべく、ユーザーがその記事をどれくらい熟読しているのかを示すものとして考案された。

熟読の度合いこそがユーザーの満足度

popInはもともと、国内大手ニュースサイト各社に独自の関連記事のレコメンドエンジン『popIn Discovery』を提供しており、その精度を上げるためには、ユーザーにとっての良い記事とは何かを考える必要があった。

popIn代表取締役の程涛氏は言う。

「いわゆる釣り記事、釣りタイトルはクリックされやすいですが、遷移先のページに興味のある情報がないために、ユーザーは最後まで読まずに離脱してしまう可能性が高い。従来、PVやクリック率がページ評価の指標とされてきましたが、クリック率とユーザーの満足度に相関はないといえます」

popIn代表の程氏

逆に言えば、あるユーザーが途中で離脱することなく、その記事を最後まで読むということは、記事中に欲しい情報があることを意味する。つまり、熟読の度合いこそがユーザーの満足度であると程氏は考えた。

しかし、熟読の度合いを測るのに、従来の指標はどれも帯に短したすきに長しだった。

「ページの滞在時間で測ろうとすれば、短いニュース記事より長いコラムの方が常に価値があるということになってしまう。また、単純にページの表示率を用いると、上から下までざっとページを表示しただけで、その記事を読み終えたと判定してしまうことになる。これでは、そのページが正当に評価されているとは言えません」

では、『READ』はどのようにして、ユーザーの熟読の度合いを測定するのか。

「テキストにしろ画像にしろ、記事を閲覧するには、それぞれのパーツごとに必要な時間があります。そこで、『READ』はまず、記事中の本文領域がどこであるかを認識し、それをパーツごとに区切って、妥当な時間をかけてブラウザ上に表示されているかを測定します。読了率はパーツごとに判定されるので、ユーザーの熟読の度合いを正確に計測することができます」

技術詳細については特許出願中のため公開できないとしているが、専用タグの設置のみで無料で導入できる手軽さも手伝い、すでに国内の100社近いメディアサイトに利用されている。

解析の先に見据える2つのアクション

『READ』導入によって、平均読了率や平均読了時間、離脱率などが細かく分かるように

こうして集めたデータを基に、popInが各メディアを横断的に解析したレポートによれば、読了率の高い記事ほど離脱率が低くなる傾向が表れているという。

「もちろん、解析するだけで終わってしまっては意味がありません。popInとしても、これを次のアクションにつなげていきたいと考えています」

そう強調する程氏が想定する『READ』の使い道は、大きく次の2つに分類できる。

一つは、解析した「熟読されやすい記事」のデータを、popInが各メディアに提供しているレコメンドエンジン『popIn Discovery』に活用すること。記事同士の関連性に加えて、熟読されやすさを基に記事をレコメンドすることで、「熟読のループ」を狙うというものだ。

「これにより、ユーザーの満足度を高めるとともに、結果として、メディアの平均PV数、平均滞在時間を延ばすことも期待できると考えています」

もう一つの活用法は、ネイティヴ広告の新たな指標とすること。

ネイティヴ広告の効果を測る指標としては従来、インプレッション、クリック、コンバージョンがあった。だが、「実際に記事を見たユーザーがどの程度、購買行動に駆り立てられたかは、判然としなかった」と程氏は言う。

「クライアント側から見れば、ちゃんと最後まで読まれているかどうかは、広告の価値を示す一つの基準となります。一方でメディア側としても、一般の記事と同じように読まれていることが、ユーザーに対してきちんとコンテンツになっていることを保証します。その結果、クライアント、メディア、ユーザーの3者がwin-win-winの関係になるというのが僕らの目指すところです」

ユーザーの意欲を喚起する「意欲エンジン」

『popIn Discovery』開発メンバーと共に、すでに次の構想に着手している

popInにはもう一つ、『popIn Discovery』とは別の代表的なサービスがある。2013年10月から展開しているEC向けサービス『popIn Action』がそれだ。

『popIn Action』は、商品訪問履歴、お気に入り登録情報、流入経路、カートなどの情報を基に、ユーザーの購買意欲をリアルタイムで解析し、ユーザーごとに最適なコミュニケーションにつなげるサービスだ。

「店頭であれば、店員はお客さまの顔色や行動を見て、購買意欲があるかどうかを判断した上で、声をかけるかどうかを決めますよね? しかし、ECに関しては、そういった当たり前のことができていなかった。『popIn Action』を使えば、初めて訪れた客には『会員登録すればポイントをプレゼント!』、商品を検索して訪れた客には『今なら●%オフ』といったように、購買意欲に合わせたメッセージを送れるようになります」

『popIn Discovery』と『popIn Action』。2つのサービスは異なるようでいて、実は根底には通じる考えがあるという。

「『popIn Action』が取り扱うのがユーザーの購買意欲だとすれば、『READ』および『popIn Discovery』が扱うのは、記事に対するユーザーの閲覧意欲。ユーザーが持つ『意欲』を測定し、その情報を基に適切な対応をすることで、ユーザーを新たな行動に駆り立てる。僕らが作ろうとしているのは、いわば『意欲エンジン』なのです」

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴


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