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社説

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集団的自衛権の行使容認 日本を誤った方向に導く

(07/02)

 この閣議決定に強く反対する。

 安倍晋三内閣が、歴代政権が行使できないとしてきた集団的自衛権について、行使できると憲法解釈を変更した。

 変更の根拠は1972年の政府見解である。ところがこの見解は集団的自衛権の行使は憲法上、許されないと明記している。

 限定的な行使だと言いながら、有効な歯止めはない。国連安全保障理事会決議に基づく集団安全保障措置も、直接の言及がないのに参加できるという。

 なし崩し的に自衛隊の海外での武力行使に大きく道を開く内容だ。政府は憲法の解釈変更と言うが、憲法の破壊に等しい。

 安倍政権はこれを、国会議論もほとんどせず、わずか1カ月余りの与党協議だけで決めてしまった。暴挙と言わざるを得ない。

 今回の決定は、とても歴史の審判に堪えられない。憲法の平和主義をねじ曲げ、国を誤った方向に導く。

■結論だけを置き換え

 首相は閣議決定後の記者会見で「現行の憲法解釈の基本的考え方は、何ら変わらない」と述べた。

 しかし、憲法解釈見直しの論理は破綻している。

 72年の政府見解は、憲法9条の戦争放棄や戦力不保持に触れた上で、憲法前文が平和的生存権を、13条が幸福追求権を定めていることから「自国の存立を全うするために必要な自衛の措置を禁じてはいない」として、個別的自衛権の行使を認めている。

 一方で、平和主義を掲げる憲法は「自衛の措置を無制限に認めていない」とも指摘し、行使は必要最小限の範囲にとどまるべきだとして「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」と結論づけた。

 閣議決定はこの見解の一部をつまみ食いし、結論だけをまったく逆に置き換えた。こんなことがまかり通るなら、時の政権の判断でどんな憲法解釈でも可能になり、法の支配が有名無実化する。

■集団安保にも道開く

 政府は、国際法上の集団的自衛権行使全てを容認したわけでなく《1》国民の幸福追求権が根底から覆される明白な危険がある《2》他に適当な手段がない《3》必要最小限度―とする「武力行使3要件」で限定していると強調する。

 だが時の政権が「明白な危険」を都合よく判断すれば、事実上、あらゆる事態を「要件に該当する」と認定し、集団的自衛権を行使することができる。

 実際、政府は中東地域のシーレーン(海上交通路)での機雷掃海など、集団的自衛権の8事例すべてで行使が可能としている。

 そればかりではない。集団安保への参加にまで道を開いた。公明党の同意を得るため「参加できる」とは明記していないが否定もしておらず、政府は「3要件を満たすなら憲法上許容される」との立場だ。

 他国を「守る」集団的自衛権に対し、集団安保は複数の国が制裁措置として一つの国を「攻める」ものだ。同じ武力行使でも次元が異なる。

 しかも首相は「これまでの政府の憲法解釈と整合しない」として、参加を明確に否定していた。国民を欺いたと言われても仕方あるまい。

■駆け付け警護可能に

 集団的自衛権の陰に隠れ、与党協議でうやむやになった自衛隊の海外での武器使用基準緩和や、多国籍軍への後方支援拡大も閣議決定された。

 武器使用について、政府はこれまで憲法で禁じる「海外での武力行使」に抵触する恐れがあるとして、正当防衛や緊急避難に限定してきた。

 この基準を緩和し、国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊が、離れた場所で襲われた他国のPKO要員らを武器を使って守る「駆け付け警護」などを可能とした。

 これまで「他国の武力行使との一体化」を避けるため「非戦闘地域」に限定していた後方支援も、「現に戦闘行為が行われている現場」以外なら一体化しないとの新基準を打ち出し、戦地での武器・弾薬の提供もできるようにする。

 自衛隊の海外での活動が常態化する中、自衛隊員が戦闘に巻き込まれ、死傷する危険性が格段に高まる。到底認められない。

 集団的自衛権をめぐる憲法解釈は、国会での長年の議論の積み重ねで定着したものだ。その根本的な変更について、国会への説明を怠った首相の責任は重大だ。一方、国会の側も政権をチェックする役割を果たしていない。

 政府は秋の臨時国会以降、実際の集団的自衛権行使などに向けた法整備を行う方針だ。憲法を無視した安倍政権の暴走を国会が食い止められなければ、将来に禍根を残す。

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