(2014年7月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ウクライナ、イラク、南シナ海――。最近は地域的な危機が報じられない日がないほどだ。しかし、一見無関係なこれらの出来事は、実は一本の糸でつながっているのではないか?
米バードカレッジのウォルター・ラッセル・ミード教授はこの点について、フォーリン・アフェアーズ誌に先日発表した論文「地政学の復活」で1つの世界的な仮説を提唱している。プリンストン大学のジョン・アイケンベリー教授による反論とともに、この論文は国際政治の現在のパターンを読み解く1つの切り口を提供してくれている。
ソビエト連邦崩壊後に登場した世界秩序の形態を説明するのは難しいことではない。その主たる特徴は、グローバル化された経済システム、機能する多国籍機関、そして最強プレーヤーたる米国の押しも押されもせぬ役割という3点にまとめられる。最も重要なのは3点目だ。
中国、ロシア、イランは現状打破を狙うリビジョニストパワーか?
ミード氏とアイケンベリー氏は、このシステムが脅かされているか否かを巡って議論している。
ミード氏によれば「中国、ロシア、イランの3カ国は冷戦後の地政学的秩序を決して受け入れたわけではなかった。そして今、3国はこの秩序をひっくり返す試みにますます力を入れている」。ミード氏がこの論文を執筆している最中に進行したウクライナ危機は、まさにこの見方の通りの出来事だった。
またロシアは1991年以降の秩序に怒りを覚えており、この怒りゆえにクリミアを正式に併合するに至っている。中国が領有権についてますます強気な主張を行っていること、イランが中東という地域の秩序に明らかに不満を抱いていることも、ミード氏の議論の柱になっている。
同氏はこの3カ国を「リビジョニストパワー(現状変更勢力)」と呼び、「これらの国々は冷戦後の秩序を覆したわけではないが・・・誰からも異議を申し立てられない現状を、異議を申し立てられる現状に変えた」と評している。
これを聞いたアイケンベリー氏は、「それは取り越し苦労だ。ミード氏は現代の大国の現実を大きく見誤っている」と反論した。アイケンベリー氏に言わせれば、「中国とロシアは、全面的な現状変更勢力ではない。せいぜいパートタイムのスポイラー(妨害者)でしかない」。
また米国は「60カ国以上の国々と軍事的な協力関係にあるが、ロシアには正式な同盟国が8カ国しかなく、中国に至っては1つだけ(北朝鮮)だ」と指摘する。合計すれば「米国主導の同盟システムの内部にある軍事力は、中国やロシアが今後数十年かけても追いつかないような規模になっている」という。