好奇心の赴くままに:Dropboxを支える女性エンジニア、ティナ・ウェンの仕事術
敏腕クリエイターやビジネスマンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ第74回。Wiredマガジンの編集者、アダム・ロジャース氏に続く今回は、Dropboxを支える女性エンジニア、ティナ・ウェン(Tina Wen)さんにインタビュー。
Dropboxは、ユーザーにとって非常にシンプルなアプリ。ファイルをドラッグ&ドロップするだけで、どこに行っても使えます。ところがその裏には、デザイナーとエンジニアからなる専属チームの、たゆみない努力が隠されているのです。ティナ・ウェンさんは、その専属エンジニアのひとり。
ウェンさんがDropboxに就職したのは2年以上前。社員数が100名から700名へと膨れ上がる間に、重要な機能の開発に取り組んできました。特に、Dropboxのフォトアプリ「Carousel」の中核機能の開発では、中心的役割を果たしたそう。今回は、そんなウェンさんの仕事術を聞きました。
氏名:ティナ・ウェン(Tina Wen)
居住地:米カリフォルニア州サンフランシスコ
現在の職業:iOS版Dropbox開発エンジニア
現在のコンピュータ:普段はMacBook Proで仕事をしていますが、出張時にはMacBook Airを持って行きます。それに、データセンターでLinux VMを数台と、その他のプロジェクト向けにRaspberry Piを使っています。
現在のモバイル端末:iPhone 5s(ウサ耳付きの超クールなケースを使用)
仕事スタイル: 困難に負けない!
── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?
「Xcode」と「Instruments」:Xcodeは、iOS開発者にはおなじみの、AppleのIDE(統合開発環境)です。DropboxやCarouselのようなリソース集中型アプリの開発では、パフォーマンスが問題になることがあります。そんなとき、Instrumentsの出番。Instrumentsを使えば、コードの状態がわかり、パフォーマンスのボトルネックを見つけて修正できるのです。
「Twitter」と「Hacker News」:モバイル開発は常に進化を続けています。だから、最新かつ最高の情報を入手するために、TwitterとHacker Newsを使っています。コーディング以外のことが必要になったとき、他社や他人がどうやっているかをチェックするのに便利です。
「Dropbox」:もちろん手前味噌なのはわかっていますが、「Dropbox」がないと生きられません。職場では、メール添付はもはや過去のもの。スクリーンショットを撮りまくって、Dropboxでシェアしています。自宅では、写真で友達をわずらわせることはありません。いつだって、Carouselでシェアされた状態になっているので。
── 仕事場はどんな感じですか?
職場でも、自宅のように快適な環境を作るのが好きです。寒がりなので、デスクにはふかふかの毛布と、熱々のコーヒーかお茶が欠かせません。オフィスの騒音を消すために、耳栓の上にヘッドフォンを装着して、ホワイトノイズを流しています。ワークステーションとしては、MacBook Proが1台と、Xcode用の縦型モニター1台、ターミナル用の縦型モニター1台。キーボードはKinesis製を愛用しています。これがないと、1日もしたら手首が痛くなってしまいます。
── お気に入りの時間節約術は何ですか?
とにかく効率です! 毎朝、スニーカーを履いて、走って出勤しています。そうすることで、わざわざジムで有酸素運動をする手間が省けるから。これぞ一石二鳥ですよね!
── 愛用中のToDoリストマネジャーは何ですか?
お気に入りのToDo管理方法は、古く1977年に開発されたテクノロジー。その名も、「ポスト・イット」です! 毎朝出社したら、モニターに今日の分のポスト・イットを貼ります。それらを全部ゴミ箱に捨てるまでは帰りません。これを1枚1枚はがしていく感覚ほど、気持ちのいいものはありませんね。日中に新しい仕事が降ってきても、朝に貼り付けたToDoが終わるまでは、手を休めないことにしています。
── 携帯電話と PC 以外で「これは必須」のガジェットはありますか?
「Fitbit」ですね。負けず嫌いな性格なので、友達との順位表でトップにいなければ気が済みません。仕事に集中しすぎてジムに行き忘れたとき、万歩計のデータほど冷徹に現実を知らしめてくれるものはありません。午後11時ごろ、その日の歩数目標を達成するため、エリプティカルトレーナーで躍起になっていることがよくあります。
── 日常のことで「これは他の人よりうまい」ということは何ですか?
走ることです。昨年の「Pycon 5kレース」では、2位に1分差をつけて優勝しました! その秘訣はただ1つ、根気です。私は少し、トレーニング中毒なところがあります。私にとって有酸素運動は、ストレス解消法であり、ヘルシーでいられるための手段です。だから、毎日トレーニングをする気になるのです。速く走れるようになるのは、副次的効果にすぎません。
── 仕事中、どんな音楽を聴いていますか?
いつも同じアルバム「Sounds of Nature White Noise for Mindfulness Meditation and Relaxation」です。山のせせらぎの音がずっと流れているのですが、周囲の雑音から私を守ってくれるので、集中して仕事を進めることができます。
── 現在、何を読んでいますか?
「Swift」というプログラミング言語です。おもしろそうでしょ? 本は、技術的なもの、特にモバイル開発に関するものばかりを読む傾向があります。もしいい本を探しているなら、Matt Gallowayの『Effective Object-C 2.0』がお勧めですよ。
── あなたは外向的ですか、内向的ですか?
外向的なので、友達に囲まれているのが好きです。週末には、ブランチを作って、友達とハイキングに出かけ、フリスビーをしたりします。でも、仕事中はかなり内向的。集中力を高めるため、周囲からの邪魔を減らすことに専念します。なるべく1人になって、IMやメールを避けるのです。
── 睡眠習慣はどのような感じですか?
早起きをしたいと思っているのですが、現実にはそんなにうまく行きません。月曜日はたいてい朝9時に起きるのですが、金曜日には午前4時に寝て11時に起きる生活になってしまって。頼みの綱のFitbitによると、平均睡眠時間は7時間3分のようです。
── あなたが受けたものと同じ質問をしてみたい相手はいますか?
スペースXのCEO、イーロン・マスク氏です。
── これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください
議論をする時は、他者の意見の背後にある、そのような意見に至った"理由"に目を向けるべし。健全な議論には、他者の信念の根っこを理解することが不可欠です。このことは、職場での技術的な議論から家族との個人的な会話まで、あらゆる議論に適用できます。
── そのほかに読者に伝えたいことがあればどうぞ
私は、好奇心を持って人生にアプローチすることで、本当に好きなことを見つけてきました。私はiOS開発者ですが、それ以外にもいくつかのサイドプロジェクトを抱えています。最近作ったのは、ホームセキュリティシステム。ウェブカメラを買ってRaspberry Piにつなぎ、シンプルなアプリを書いて動くようにしました。Rasberry Piが1分に1回、私とボーイフレンドの居場所をスマホのGPS経由でチェックして、家にいないことがわかれば、ウェブカメラでアパートの写真を撮影します。これを1つ前の写真と比較して、大きな差が見られたらDropboxにアップロードします。シンプルなCronジョブが古いアップロードを削除して、写真が増えすぎるのを防いでいます。
余談ですが、私がそもそもモバイル開発の世界に足を踏み入れたのも、好奇心を持っていたことがきっかけでした。子どものころからずっと数学と理科の成績がよかったので、大学は工学部に進みました。とりわけ私の興味をひいたのがコンピュータだったので、コンピュータアーキテクチャの道を進むことに。ソフトウェアとハードウェアの両分野でインターンをして、ソフトウェアの方が向いていることがわかったので、Appleのデスクトップソフトウェア開発の仕事に就きました。最初はObjective-Cにはまりましたが、だんだん興味はモバイルに。その興味が転じて、今ではDropboxでiOS開発に携わっています。大学に入ったばかりの人や仕事を始めたばかりの人に少しばかりのアドバイスをするなら、とにかく好奇心の赴くままに進むこと。そして、興味を引くことを探求できるチャンスがあったら、どんどん挑戦してみることです!
Andy Orin(原文/訳:堀込泰三)
- 先取り!Swift
- 諏訪悠紀,小室啓,掛川敦史|技術評論社