1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/01(火) 00:54:39.83 ID:s9mvBT610.net
“八尺様”という妖怪がいる。
インターネットの怖い話系のサイトでは相当有名なので、聞いたことのある人も多いかも知れない。
八尺様は、女性の姿をしていて、名前の通り身長がとても高い。ゆうに2メートル以上はある。
身長以外の容姿は目撃証言によって様々で、若い女性だったり、おばあさんだったりするらしい。服装も出てくるたびにまちまちだが、いつも頭に帽子か何かを乗せているのは、毎回共通しているそうだ。
伝承によると、八尺様は男に魅入るらしい。「ぽぽぽぽ」という独特の笑い声とともに、魅入る相手の元に現れ、魅入られた男は、数日のうちに取り殺され、行方不明になってしまうという話だ。
ただ、八尺様はお札や塩といったいわゆる清めの道具が苦手で、魅入られた男がそれによって難を免れたこともあるのだとか。

最初にこの話をインターネットで見たとき、ヘタレな僕は猛烈にガクブルしたものだった。とは言っても、特に霊感があるわけでもない平凡な高校生の僕にオカルトチックな出来事は訪れず、普通の学校生活を送っているうちに、八尺様の記憶は次第に薄れていった。

ある夏休みの日の午後、僕は体力作りのためにランニングをしていた。町内を大きく周り、休憩を取るために、町外れの公園に入る。わりと大き目な公園は、近所に住んでいるであろう人達の姿が、ちらほらとあった。
僕はベンチに1人座り、ペットボトルのスポーツドリンクをぐびぐび飲みながら、手足をだらりとさせて体力の回復を待っていた。すると、どこからともなく、人の声らしきものが聞こえてきた。
「ぽぽっ、ぽっ、ぽぽぽぽっ……」
最初は、何なのだろうと思った。笑い声にしては、ちょっとおかしい気がする。しかし、声のする方を向いた瞬間、僕の背筋は一瞬で凍り付いた。
僕から3メートルも離れていないところに、とてつもなく背の高い、若い女の人が立っていた。
八尺、つまり2メートル40センチまでは行かないかも知れないけど、軽く2メートル以上は間違いなくある。
薄手の白いワンピースに、鍔の広い白い帽子。長いストレートの黒髪は、膝下まで伸びていた。
そして、「ぽぽぽぽ……」という笑い声。
何から何まで、伝承に出てくる八尺様の特徴にそっくりだった。
――まさか、八尺様が本当に……?
ランニングしていたときとは比較にならないほど、動悸が激しくなった。冷や汗が全身を伝い、ペットボトルを思わず取り落としてしまう。
――いや待て、落ち着け。そんなはずない……
僕は必死に冷静さを取り戻し、考えた。八尺様なんて、本当にいるはずがない。それに、伝承では、八尺様が出るのは田舎の話のはずだ。ここみたいな、都会と離れていない、住宅街に現れるはずがないと思った。
――そうだ。この女の人はただ単に背が高いだけだ。ネットで八尺様の話を聞いて、ふざけて真似してるだけなんだ……
無理に自分にそう言い聞かせると、僕はペットボトルを拾い、わずかに残っていた中身を飲み干した。

2: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/01(火) 00:55:50.73 ID:s9mvBT610.net
そうしている間に、その八尺様似の女性は「ぽっ、ぽっぽっぽっ……」と笑いながら、僕の方に寄ってきた。そして、僕の隣に腰かける。僕の方を見ているらしく、視線を強く感じる。
僕は、女性の方を見なかった。例え人間だったとしても、妖怪のふりをして人を脅かそうとしているわけだから、悪質なことに変わりはない。どうやってさりげなくこの場を去るか、考え始めた。
そのとき、すっと女性が立ち上がった。すたすたと歩いて、ベンチから遠ざかっていく。よかった。自分からいなくなってくれるのか。
と、思いきや、女性はおかしなことを始めた。公園に居る人達に近寄ると、大きな身をかがめて、肩を叩いたり、目の前を横切ったりし始めたのだ。
それを見ているうちに、僕の中で、だんだん気味の悪さが募ってきた。
異様なことに、誰一人、女性の行為に反応したり、見たりしないのだ。まるで、女性がいるのに、誰も気が付かないかのように。
普通だったら、こんな背の高い女性がいるだけで、注目が集まったっておかしくないのに。
――なんで……?
戸惑っていると、女性はベンチまで戻ってきた。そして体をかがめて僕に顔を近づけると、微笑みながらこう言った。
「ぽぽっ。あなたは、あなただけは私のこと、見えてるわよね?」
心臓を握り潰されたような気分になった。僕にしか見えないということは、まさか、本物の八尺様なのか。そして僕は今、その八尺様に魅入られている?
恐ろしさのあまり、体が震える。しかし辛うじて、八尺様の声に無反応を装うことができた。こういう場合、見えていないふりをするのが一つの対処法だと、怖い話のサイトに書いてあった記憶がある。

3: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/01(火) 00:56:53.25 ID:s9mvBT610.net
「…………」
僕は最大限に冷静さを装い、ペットボトルのキャップを閉めた。そして背中をベンチの背もたれに預け、休息するように見せた。
「見えてるはずよ。あなただけが、私を見えるようにしてあげたんだから」

八尺様がまた、話しかけてくる。巨体でもって目の前に陣取られているので、逃げ出すのは簡単ではなさそうだ。

「ぽぽぽぽ……初めてあなたを見た日から、目を付けていたのよ。私の連れ合いになって、一緒に来てもらうわ」

冗談じゃない。化け物に連れていかれてたまるか。僕は心の中で『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』と唱えながら、ぼーっとした表情を作り、八尺様に気付いていないふりをした。だが八尺様はますます顔を近づけてきて、ほとんど息がかかりそうになった。
顔をそむけたら、見えているのが分かってしまう。僕は八尺様とまともに顔を突き合わせるはめになった。八尺様の切れ長の眼が、まっすぐに僕を見詰める。ぞくりとするほど美しい顔立ちだった。

「…………」

見詰め合ったまま、僕が動けずにいると、八尺様はさらに言った。

「ぽぽぽ……無視をしても無駄よ。あなたの運命はもう決まっているんだから、諦めなさい」

「…………」

それでも僕が動かずにいると、八尺様は少し体を伸び上がらせた。身長を考えても相当大きな胸が、僕の眼の前に迫ってくる。

「ぽぽぽ……これならどうかしら?」

「!」

相手は化け物だというのに、恥ずかしくなり、僕はつい、顔を少し横に向けてしまった。それを見た八尺様が、勝ち誇った笑い声を上げる。

「ぽぽっ、ぽぽぽぽっ……やっぱり見えてるじゃない。さあ、私達の将来の話をしましょう」

そう言うと八尺様は、大きな手を広げて僕を捕まえようとしてきた。

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