1. はじめに

休眠預金とは、長期にわたって取引(引出し、預入等)のない預金のことである。やや厳密には、「流動性預金及び自動継続定期預金以外の定期性預金であれば最終取引日以降」、また「自動継続定期預金であれば初回満期以降」、払出しが可能な状態であるにもかかわらず、長期間異動のないもののうち一定の条件を満たすものを「休眠預金」3と呼んでいる。

こうした休眠預金は、我が国の金融機関に限ったことではなく、預金業務を営む金融機関には普遍的に存在するものである。実際、最近英国においてこうした休眠預金を集約し、社会的に意味のある形で再生活用しようとする動きが始まっている。また、米国、カナダ、オーストラリア、アイルランド等では、休眠預金を集約し、実質的な時効の援用や預金者への還元を行うためのフレームワークが以前から存在している。北米、オセアニアでのこうしたフレームワークの構築は少なくとも20世紀半ばにまで遡る。そうしたフレームワーク導入の背景には休眠預金が実質的に金融機関収益となることへの批判があったとされる。一方、欧州の最近の事例は、東西冷戦構造が解消し、また、戦後50年の節目を迎える中で、第2次大戦の犠牲者の預金の扱いを正面から取り扱う動きが発生し、これが、休眠預金一般の取扱いに発展したものとみられる。さらに、そうした欧州諸国の中で相対的に後続のアイルランド及び英国ではこれを一歩進めて、休眠預金の再生活用にまで踏み込む形でのフレームワークを構築したないしは構築しつつあるものである。


3

「休眠預金」の基本概念
我が国の例を取って「休眠預金」の基本概念を整理すると以下のとおりである。

(1)  民法・商法

商事債権である銀行預金の時効は5年と解されている(商法522条)。なお、信金・信組の預金は民事債権とされ、その時効は10年とされている(民法167条第1項)。

(2)  全国銀行協会通達における「休眠預金」の定義
全国銀行協会通達「睡眠預金に係る預金者に対する通知および利益金処理等の取扱い」において次のとおり規定されている。

最終取引日以降、払出し可能の状態であるにもかかわらず長期間異動のないものを睡眠預金という。

・  最終取引日以降10年を経過した残高1万円以上の睡眠預金については、最終取引日から10年を経過した日の6か月後の応答日までに、各預金者の届出住所宛に郵送による通知を行うものとする。

・  郵送による通知が返送された睡眠預金および通知不要先のうち預金者が確認できなかった睡眠預金については、その通知または確認手続を行った日から2か月を経過した日の属する銀行決算期に、利益金として計上するものとする。

・  最終取引日以降10年を経過した残高1万円未満の全ての睡眠預金については、最終取引日から10年を経過した日の6か月後の応答日の属する銀行決算期までに、利益金として計上するものとする。


休眠預金については、預金者が口座開設時の住所から届出を行わないまま転居したり、相続者が名義変更手続きを取っていないことがある。

例えば、学生時代に親元からの送金用に開設した口座を卒業した後に残高を残したまま転居し、預金者が金融機関に転居通知を行わないケースで、その後預金者が預金の存在を失念したり、通帳やキャッシュカードの遺失により預金の引き出しを一定期間行わないことによって休眠預金が生じる事例が考えられる。また、遺族に預金の存在を知らせることなく預金者が亡くなった場合も休眠預金となり易いと言える。なお、名寄せ作業<後述>のために必要となるデータが欠落していると、金融機関がデータを補完しようとして預金開設時の住所にダイレクトメールを送付しても、居住者不明でダイレクトメールが返送されてきてしまい、名寄せのためのデータ整備が不可能な預金となる可能性が高い。こうした預金の存在は金融機関破綻処理時の事務を煩雑化させる。

機構の活動
資金援助等実績
金融機関の破綻処理
資本増強(震災対応含む)
健全金融機関等からの資産買取
特定回収困難債権の買取り
不良債権回収、責任追及
資金調達(借入れ・預金保険機構債)
立入検査
国際業務・調査研究
振り込め詐欺救済法に基づく業務
金融システムの安定化を図るための金融機関等の資産及び負債の秩序ある処理に関する措置