home > ONE LOVE's message

ONE LOVE's mesasge  太田匡彦

ONE LOVEへのメッセージ

太田匡彦

ONE LOVE PROJECT

週刊誌『AERA』(朝日新聞出版)で2008年12月から6回にわたって掲載された記事をもとにまとめられた『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』を出版し、日本におけるペット業界・ペット行政のあり方に一石を投じた記者の太田匡彦さん。ジャーナリスト魂あふれる太田さんに、犬を取り巻く日本の現況について語っていただきました。

人と犬の明るい未来を作るプロジェクト ONE LOVE

日本では年間に44,783頭もの犬が殺処分されているという実態があります。(平成23年度 環境省発表)この現状に対して1頭でも多くの犬たちの命を救うために、動物保護団体への寄付や飼い主さんへの啓発、保護犬文化向上のための支援に取り組んでいます。
1人ひとりの小さな“ONE LOVE”を集めて大きな力にするために、私たちに出来ることから始めませんか。


ONE BRAND(以下、O.B.) 犬の殺処分問題について取材しようと思ったきっかけは何だったのですか?

太田 AERAに配属される前は、朝日新聞社の経済部にいて、メーカーや流通関係の取材をしていました。AERAに入り、以前から気にかけていた捨て犬問題について書けないかなと思いまして。でも、飼い主が悪い、犬が可哀想だ、だけでは解決にならないような気がして、ビジネス側、ペット流通の面から取材すれば、全然違う書き方、見せ方ができるのではないかと考えました。

O.B. 経済部にいて流通に関して詳しく、そうした得意分野から切り口にされたのですね。

太田 ペット業界というのは特殊な業界です。市場規模は1兆円を越えているのに、主力の生体販売業者で上場企業がひとつもない。上場すればかなり細かくいろいろなことを情報開示しなければなりません。裏を返せば情報開示ができない業界なんですね。だから情報がないので、取材は難航しました。悪い噂は多いけれど、ウラのとれない情報では書けません。そこでまず本当に捨てられているのか、その証拠を探していきました。各自治体の愛護センターに取材し、犬を捨てるときに書く「犬の引取申請書」の情報公開請求を行いました。すると明らかに個人の飼い主が捨てたとは思えないケースがありました。同じ犬種、あるいは純血種ばかりを一度に複数捨てるのは、悪質なブリーダーやペットショップが売れ残りを捨てているのではないかと。そのうち元従業員などの話を聞くこともでき、ウラをとっていきました。

O.B. きっと取材は大変だったと思います。それにしても業者も愛護センターに持ち込んでいるのですね。

太田 ええ。主要29自治体の2007年度の「犬の引取申請書」のデータをまとめたら、捨てられた犬の数は12,138頭。そのうち雑種(犬種不明も含む)が7,885頭、純血種が4,253頭。純血種はそのうち1,105頭が、明らかに業者が捨てたとわかるものでした。全体の1割を占める数です。実際はもっと多いと考えられます。業者が個人で捨てたように装って、何回にも分けて捨てている可能性もありますから。雑種の多さから見ると、まだまだ田舎の人が飼っていて、勝手に産んだというパターンは多いですが、でも1割を占める業者分が減れば、それは大きいですし、また個人に衝動買いをさせるペットショップがなくなれば、捨てられる命は減らせると思います。

O.B. そうですね。また本の中にある「定時定点収集」、わかりやすく言うと、捨て犬を「この曜日の、この場所へ持ってきてください」という「捨て犬の日」の記述はショックでした。

太田 いまは粗大ゴミを捨てるのもいろいろ面倒じゃないですか。でも犬は、粗大ゴミよりも捨てやすい。こんなに買いやすくて、捨てやすいって、おかしいですよね。僕は、ペットショップが捨て犬の「蛇口」で、自治体が捨て犬の「受け皿」になっていると感じています。蛇口を閉める、つまり犬の流通量を減らして、受け皿をまともにしていく、すなわち愛護センターが愛護の場所としてちゃんと機能していくことが理想だと考えます。

O.B. たしかに。いまは蛇口から垂れ流し状態で、いらない犬は行政サービスの名のもとに「回収してもらえる」。

太田 そのとおりです。「キャー可愛い」で買う人もいけないけど、買わせる方が僕は悪いと思ってる。ペット業界の場合、消費者は圧倒的に情報が少ないんです。トレーサビリティー(生産出荷履歴追跡)もない。ペットオークションがブラックボックスになっているわけですが、いまは野菜だってトレーサビリティーがついている時代じゃないですか。それに車だったら、不具合がでればリコールという制度がある。なのに、ペットの場合はそうしたシステムがありません。「買えば、あとで血統書が届きますよ」と業者はよく言いますが、トレーサビリティーは買う前に明確にされていなくちゃだめなものですよね。

O.B. 犬は「商品」ではありますが、さまざまな他の「商品」に比べて不明瞭なことが多いのですね。慣習とは恐ろしいものです。そこで、2011年度の動物愛護管理法の改正に向けた動きが高まっていますが、重要なことはなんだとお考えですか?

太田 「8週齢販売規制」は、僕は絶対やらなくちゃいけないと思う。8週齢(生後56日)までは母犬や兄弟犬と一緒に生まれた環境にいないといけないというルールです。流通させるのは生後57日以降。その8週齢ルールが必要な理由は大きく2つです。1つは、少なくとも7週齢より前に母犬などがいる生まれた環境から離すと、犬の社会化に支障をきたし問題行動を起こしやすくなるからです。先の「犬の引取申請書」からの統計では、捨てられた理由の32%は「問題行動」でした。子犬の社会化期を考慮すれば、捨てられる犬を減らせる可能性があります。2つ目は、消費者の衝動買いを抑制するためです。業界は、生後45日頃の、ぬいぐるみのような時期を「子犬の旬」だと考えています。そこで生後45日で店頭に並べるためには、各店舗への流通期間が3〜4日かかるので、生後40日くらいで仕入れたい。そうなるとペットオークションで競られる日数も勘案すれば、子犬はかなり早い時期に母犬や兄弟犬、ブリーダーから引き離されているのが現状です。

O.B. ということは、生後36日くらいでブリーダーの元から「出荷」されるケースが出てくるわけですね。

太田 ええ。そして「旬」のぬいぐるみのような可愛い子犬を抱かせて、衝動買いを促します。置くスペースのこともあるので、1週間くらいで売ってしまうのが理想。生体販売業者も流通業者ですから「在庫」を長く抱えておきたくないのは当たり前で、とにかく早く小さいうちに売ってしまいたい。本当は犬を売るときに、店側は今後の飼い方の指導などをきちんと説明しないと動物愛護法第8条で定められていますが、それには1時間くらいかかります。でもそんなに時間をかけていたら効率が悪いから、法律を遵守していない店もあります。

O.B. 「衝動買いをさせたい」という姿勢では適切なマッチングなんて出来ませんよね。今回の法改正では何らかの規制が盛り込まれるのでしょうか?

太田 今回は「8週齢販売規制」の他に、「深夜販売」「ネット販売」「移動販売(実店舗のないイベント会場等での販売)」を禁止することも議論されています。でもそれらだけを通して、「8週齢販売規制」がなされなければ意味がありません。まずは「8週齢販売規制」を確実に通すことがとても重要です。幸い、環境省はやりたいと思っているようです。一層世論をつくっていくことが大事ですね。

O.B. 本にもありましたが、米、英、独、スウェーデン、オーストラリアでは「8週齢販売規制」が法律で定められているんですよね。でも業界団体の反発も多いと聞きますが…。明るい希望はあるんでしょうか?

太田 民主党でも自民党でも、改正しないといけないと思っている議員さんは多いですよ。またAERAに掲載後、捨て犬の「定時定点収集」をやる自治体は減っていますし、ペット流通業界が取材に応じるようになってきている。情報開示が進むのはよいことです。

O.B. 最後に、太田さんの今後の目標はありますか?

太田 今後はメディアの責任もきちんと書いていきたいです。某テレビ番組が、幼齢犬をテレビスタジオに連れてきて、タレントさんが「可愛い、可愛い」とべたべた触るというのは大問題だと思う。視聴者に対して誤ったメッセージを送っています。実はAERAでも反省したことがあります。2009年に『HACHI 約束の犬』という映画が公開された際、AERAの表紙に登場いただくためリチャード・ギアさんと秋田犬の子犬を撮影したのですが、そのとき彼が不快感を示しました。「アメリカでは生後12週齢未満の犬は撮影に使ってはいけない」と。アメリカでは(マスコミの)自主規制団体があって、必ず動物の撮影に立ち会うそうです。ほかにも全国各地で行われているペットイベントは、テレビ局や新聞社が主催や共催をしていることがけっこう多いのですが、そこで移動販売をしていることもある。そういうことも含めてメディアの問題をきちんとやりたい。僕は、個々人の事例(飼い主やブリーダー個人)よりも、システムそのものをたださないとダメなんじゃないかと思っているので、そうした構造的な問題について今後も発言していきたいです。

太田匡彦 (おおたまさひこ)
記者。同業他社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。07年9月からAERA編集部員。著作に、AERAで連載したものをベースに加筆した『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)がある(印税の一部をONE LOVEに寄付)。両親ともに獣医師免許を持っており、個人的にも愛犬家。柴犬と暮らしている。