【新除染方針】まず行政の合意形成を(6月30日)
環境省が個人被ばく線量を活用した除染方針を7月中にも策定する。除染に取り組んでいる市町村からは「効果の薄い作業を減らせる」との声が上がる一方、「住民の混乱を招く」と否定的な意見も出ている。これでは新たな方針を示しても県民に受け入れられまい。まずは環境省が各自治体でアドバイザーを務めている専門家も含め県、市町村と合意形成を図るべきだ。
新たな除染方針の策定は、東京電力福島第一原発事故に伴い、汚染状況重点調査地域に指定された福島、郡山、相馬、伊達の4市の要望を受けた措置だ。放射性物質汚染対処特措法基本方針で、年間の追加被ばく線量が20ミリシーベルト未満の地域の除染について「長期的な目標として年間追加被ばく線量1ミリシーベルト以下を目指す」とされている。ただ、「長期的」の意味があいまいな上、年間追加被ばく線量1ミリシーベルト=毎時0・23マイクロシーベルトとする国の計算式が実態にそぐわないとして改善を求めている。
環境省が今月半ばに開いた有識者との意見交換会では事故直後に比べ、空間放射線量が大幅に下がった現状が報告された。ところが、除染については「もう必要ない」「0・23マイクロシーベルトを目指すべき」と意見が分かれた。「年間追加被ばく線量の実測値が年間1ミリシーベルトを下回っている」「住民は原状回復を求めている」などがそれぞれの主張の根拠となっている。これでは議論が平行線をたどるのは当然だ。
意見交換会では触れられなかったが、肝心なのは「長期的」の意味を明確にすることだ。事故後の復旧・回復期の放射線防護については、経済的、社会的要因を考慮し、合理的に、できるだけ低く被ばく線量を抑えるというのが国際的な考え方になっている。一定程度まで放射線量が下がり、現在の除染技術ではもはや効果が期待できない場合、技術開発や自然減衰を待つという発想があっていい。「一気に進めるのは難しいので、時間をかけて原状回復を目指す」とすれば、幅広い考えを吸い上げられるだろう。
事故から3年余りが経過し、県民の被ばく状況や除染に関しては、さまざまな知見が積み上がってきている。各種データを踏まえ、除染方針を見直すことは必要だ。
ただ、県内では40市町村が汚染状況重点調査地域の指定を受けて除染に取り組んでおり、考え方がばらばらでは住民の反発を買うだけだ。まずは除染を担う行政関係者が共通認識を持ち、ぶれずに対応することが求められる。事故直後の混乱を繰り返してはならない。(早川 正也)
( カテゴリー:論説 )