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「中途半端、だから新たなものを創造できる」野々上 仁(ヴェルト代表取締役 CEO)

世界的企業での役員を辞し、ウェアラブルデヴァイスを開発するスタートアップを立ち上げた野々上。それは彼にとっての新しいラグジュアリー、つまり人とテクノロジーの偏った関係性をリバランス=再定義することへの挑戦でもあった。「中途半端」を自称する野々上の原動力となったのは、“美学をもってチャレンジ”することの意義を、次世代へと伝達することだという。

 
 
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TEXT BY SHOGO HAGIWARA
PHOTOGRAPHS BY COLLIN HUGHES

野々上 仁 | JIN NONOGAMI

ヴェルト代表取締役 CEO

1968年生まれ。京都大学経済学部を92年に卒業後、三菱化成(現・三菱化学)で光ディスク営業を担当。MDの透明ケースの発案者でもある。ネットワークコンピューティングと出合い96年サン・マイクロシステムズに入社し、同社の顔として活躍。2010年のオラクルによる買収後は執行役員を務めた。12年独立しヴェルトを設立。

野々上仁の脳裏には、いまもしっかりと記憶に残っている出来事がある。それは、ある国際的企業のトップがメディアを招いて記者会見を開いた際のこと。壇上に立ったそのトップは、おもむろにスマートフォンとおぼしきデヴァイスを取り出すと、それを片手に持ったまま、画面にディスプレイされたテキストを淡々と読み上げたのだ…その間、集まった記者には一瞥もくれずに。

「正直、これってどうなんだろうと思いましたね。せっかく会見に集まった相手に対しても、失礼なんじゃないかと。それ以来、技術があるからといって、何の思慮もスタイルもなく使ってしまうことへの違和感が生まれました。確かに技術は進化したけれど、果たしてこれでわたしたちは本当に幸せになったのか。その問いがずっと気づきとして自分の中にありました」

野々上がインタヴューの冒頭で披露してくれたこのエピソードは、ある種典型的なものともいえるが、ふとわれに帰ったとき、果たして他人事と笑っていられるのだろうか。エレヴェーターを乗り降りする短時間にFacebookをチェックしたり、同僚との会話中にスマートフォンに転送されてきたeメールを斜め読みする。実際、思い当たる読者も少なくないはずだ。

そういった行動は、スマホが普及したいま、“無害な行為”として(善悪は別として)寛容されつつあるようにも思えるが、同時に「技術は進化したが、果たしてわたしたちは本当に幸せになったのか?」という野々上の言葉が、無視出来ない重みをもってわれわれの心中に立ち返ってくる。

つまり野々上にとってそれは、“ラグジュアリーなライフスタイル”の対極に存在する、忌避すべき有様なのだ。

「世の中を見回してみると、みんなスマートフォンを覗き込む、うつむいた生活をしている印象ですよね。これはある意味、仮想世界にスレイヴ(=奴隷)化している状態だと思うんです。もう少し回りを見た方がいいんじゃないの、というのがわたしの提案です。確かにリスクはあるかも知れない。でも仮想世界ではなく、自分の身の回りにあるフィジカルな世界へ一歩を踏み出すことで、思いがけない発見や出会いが必ずあると思います」

ガラス張りのファサードから陽の光が注ぎ込む自宅のリヴィングルーム。自身で淹れたコーヒーを片手に、ソファに座って新聞を読むのも「リバランス」のための貴重な時間だ。



 
 
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