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ヤジは議員の仕事です

東京都議会における、女性都議に対する自民党会派からのヤジ問題。

結局「結婚したほうがいいんじゃないか」のヤジの犯人は自民党の鈴木章浩都議であったということで、鈴木都議が女性都議に頭を下げる形で、一応の幕をおろしたわけだが、まだ「女性都議の過去が」とか「他の都議もセクハラヤジを行った」として、延焼は続いているようだ。

そもそも、なぜ鈴木都議が謝罪を行うこととなったのか、僕はわかっているけど鈴木都議は理解できていないのではないか。なぜなら彼は「実直に仕事をしただけ」であるからだ。

「ヤジは議場の華」という言葉があるように、東京都議会のみならず、ほとんどの議会でヤジは「議員の仕事」と認識されている。他会派の議員にヤジを浴びせることによって、相手をいらつかせて話の腰を折ることは、議会制民主主義において、脈々と続く伝統の技である。そしてそれは決して自民党会派に限ったことではない。

もし、新人都議がヤジも飛ばさずに黙っていたら、上の人間から「黙ってないで、ちゃんとヤジを飛ばせ!」と怒られるだろう。鈴木都議だって、そうした脈々と続く議会の伝統を守って、仕事の一環としていつものようにヤジを飛ばしただけのことである。にも関わらず、今回のヤジに限ってあのような謝罪をさせられたということに、鈴木都議は忸怩たる思いをしているに違いない。「私は上の命令を守って、仕事を下だけなのに、どうして頭を下げなければならないのか。他の会派もみんなやっているではないか」と。 だが、所詮は鈴木都議が少し苛立つだけで話は終わりだろう。結局のところ、鈴木都議が都議を辞める様子もないし、延焼した火の多くは女性都議への攻撃になっているようだ。結局のところ仕事は安泰であり、あのヤジは「たまたまちょっと行き過ぎただけのこと」として、社会的に処理されるに違いない。それこそ最近歌舞伎町で発生した女子大生昏睡事件に関与した明治大学の男子学生たちと同じようにね。

ヤジが我々都民の生活を豊かにすることはないと断言できる。

都民が都議に求めるものは冷静な議論である。だいたい、民間会社の会議で議会のようにヤジを飛ばし合っていたら進む仕事も進まない。それ以前に、セクハラ発言は解雇の十分な理由ですらある。だから、本当であれば議会でのヤジは、仕事を邪魔するものと認識されるべきだし、ヤジを繰り返す議員は議会の場から排除されるべき存在だ。

しかし実質として、都議会に限らず、大抵の「議員」と呼ばれる人たちは、スーツを着て、ヤジを飛ばして、時には議場で眠ることによって「仕事をしている」とみなされる。そして、当然のように他人をヤジることもなく実直に働くコンビニのバイトよりも良い給料をもらい、特に親類縁者がいるわけでもない学校の卒業式に入り込んで挨拶ができる程度の社会的信用も手に入れる。つまり、私達の社会は「ヤジを仕事と認めている」ということである。

いくらマスメディアが、鈴木都議の言動を批判しようとも、社会全体としてはそのヤジを認めているわけだから、批判自体がフェミ女性たちの溜飲を下げるために働くとしても、ヤジで機能不全に陥っている議会を改善するための議論としては、無効と言わざるを得ないのである。

改善のための議論を有効にするには、そもそもヤジが大半の議会において蔓延していること。そして、そうした人たちの社会的立場が「仕事」というロジックにおいて守られていること。このことから考えていく必要がある。そうした先を見据えた考え方が、いまだにこの一連の問題から出てきてないことに、僕は失望を感じている。

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