2014-06-30
2014年上半期ラノベ周辺まとめ後編
はじめに
今年のラノベ周辺まとめは、読みやすさを考慮して、内容を前編・後編に分割しています。
前編では
・ラノベホラー
・時代ノベル
・リバイバルラノベ
といった文学的側面の強い内容を取り上げます。
後編(この記事)では、
・ボカロノベル
・電子書籍
・実写化
といったメディアミックスを中心に取り上げています。
「アタマから通して読まないと意味が分からなくなる」というようなことはないと思いますので、お好きな方から読んで構いません。
ゲームでは、ライトノベル作家のシナリオライター起用が目立ちました。「セブンスドラゴン2020(森橋ビンゴ)」「ファイナルファンタジー外伝 光の4戦士(紅玉いづき)」「AKIBA'S TRIP(アサウラ)」など前例もいくつかあり、またシナリオライター出身または兼業の作家も多く存在しますが、ライトノベル作家がシナリオを担当するケースはなかなか見受けられません。
スクウェアエニックスのアーケードゲーム「パズドラバトルトーナメント」は、田口千年堂らファミ通文庫の人気作家をシナリオライターに起用しています。アプリ版に続いてコンシューマー版も大ヒットしたパズドラのアーケード進出ということで話題になっていますが、スクエニアケゲーは容赦なく畳まれることが多いのでいつまで展開されるかは不安なところ。
ソーシャルゲームでは、同じくスクエニ製で電撃の看板作家・鎌池和馬を起用した「拡散性ミリオンアーサー」、日日日を起用した「あんさんぶるガールズ」などが存在します。
ビッグタイトルの投入・一般文芸への波及が進むネット小説
電撃文庫・富士見ファンタジア文庫・MF文庫といった大手から星海社・NMG文庫といった中小レーベルまで競うように参入し、新刊が出ない月がないほどに盛況しているネット小説の上半期は、大激動といっていいほど熾烈なものでした。
一つ目は、大物タイトルの投入。
2014年は、立て続けにビッグタイトルが大量投入される年となりそうです。
「小説家になろう」の上位作品である『Re:ゼロから始める異世界転生』がMF文庫Jから書籍化されたのを筆頭に、『師匠シリーズ』『辺境の老騎士』などネット小説界でのメジャータイトルが続々と書籍化されました。
また、オーバーラップ文庫の『灰と幻想のグリムガル』のスピンオフという立ち位置で、なろうに掲載されていた『大英雄が無職で何が悪い』も書籍化されました。
二つ目は、「最強」「転生」「ハーレム」「異世界召喚」といったメインストリームから外れた作品への注目、一般文芸への波及です。
電子書籍・kindleのネット小説版というべきKDP発の青春暗黒ミステリ『ゴーストノイズ≠リダクション』(東京創元社)は、創元初のネット小説書籍化作品。kindleで先行販売され、紙書籍の発売までKDP版とほぼ同じ500円で販売するセールが行われていたことでも話題に。
「最強」「転生」といったネット小説のメインストリームから外れた美食ファンタジーもの『辺境の老騎士』(エンターブレイン)は、イラストを「鏡家サーガ」などの表紙を手掛けた笹井一個が担当し、他のネット小説とは一線を画す一般文芸的な装丁で登場。
「平易なWEB小説に飽きた、全ての人へ――。」という異色作を中心に書籍化するエンターブレインのネット小説戦略を体現したかのようなコピーを引っ提げて登場した『灰と王国』(エンターブレイン)は本編をソフトカバーで、外伝を文庫で出すというビーズログ文庫との同時展開を行っています。
小説家になろうから書籍化された『居酒屋ぼったくり』(アルファポリス)は発売後即重版がかかる人気を博し、なろう小説としては初めて王様のブランチで紹介されました。
新設キャラノベレーベルの新潮文庫nexもなろう書籍化に参入する予定で、新設の賞は公開されているネット小説を編集部がチェックしてオファーをかけるというものだそうです。
ネット小説古参のアルファポリスは自社文庫レーベルのアルファライト文庫を新設し、本格的な文庫落ちを開始しました。
また、ネット小説のアニメ化も盛んになりました。NHK夕方で放送された『ログ・ホライゾン』、ポストSAO最有力候補と目されながらも賛否両論を呼んだ『魔法科高校の劣等生』、「キルラキル」のトリガーが手掛け海外再進出も決定している『ニンジャスレイヤー』など、話題作から順次アニメ化されています。
文庫へのシフトが続くボカロノベル
ボカロノベルは、単行本から文庫への移行が急速に進みます。『セツナトリップ』(富士見ファンタジア文庫)、『覚醒ラブサバイバー』(電撃文庫)、『クロライドに没む』(ファミ通文庫)、『ヘイセイカタクリズム』(ビーズログ文庫)、『ゴーストサプリ』(ぽにきゃん)などラノベレーベルが続々とボカロノベル参入を決めており、もはや参入していないレーベルのほうが少数派になったネット小説に続いて、これから続々と他レーベルが参入してくることが予測されます。
文庫ボカロノベルの草分け的存在であり、ボカロ関連では『BRS』に続いてアニメ化された『カゲロウデイズ』は、「化物語」のスタッフと豪華キャストを武器に、『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ』『ラブライブ』ほか有力アニメが群雄割拠する大激戦の春期に投入。しかし、初見では理解しづらい内容と癖の強い演出から第1話放送後のコメントが大荒れするなど激しい賛否両論を巻き起こしました。
文庫へのシフト同様、台風の目となっているのがボカロ曲に典拠しない完全オリジナルの小説主導型ボカロノベルの出現です。
家の裏でマンボウが死んでるP『人間の分際で悩むな』や、てにをはP『ひゅうおどろ』など、有名Pがこの形式で発表し始めています。
また、泉和良『ボカロ界のヒミツの事件譜』、三上康明『from Y to Y』、木本雅彦『人生リセットボタン』など、ライトノベル作家がボカロノベルを執筆するケースも急増しています。
「ラノベ読者とは相いれない存在」と云われることもあるボカロノベルですが、ネット小説同様急速にラノベへと歩み寄っています。
追加要素をプラスした電子書籍
ローソン、ヤマダ、ソニー(海外撤退)など、電子書籍ストアが続々閉鎖され、乱立から淘汰の時期に入った感のある電子書籍業界ですが、ライトノベルにおける電子書籍も大きく変容する上半期となりました。
昨年から続く電子復刊は勢いを見せ、イラストを省略したSD名作セレクションではかの悪名高い『宅配コンバット学園』が復刊されてしまったことも一部で話題に。富士見ファンタジアデジタルでは、未完作品の完結も行われるようになりました。また、同じ富士見書房の『神様のいない日曜日』は最終巻の追加要素として真のエンディングが書き足されています。
電子書籍のセット販売も軌道に乗り始め、『学校の階段』の全巻セットには書き下ろし短編が追加されるなど電子版限定の特典も盛り込まれています。
電子書籍オリジナルコンテンツとしては『テスタメントシュピーゲル』のkindle連載などが予定されています。また、『GeneMappers』の藤井大洋が審査員として、電子書籍から新人を発掘しようとするプロジェクト・ライトなラノベコンテストも開催されました。『化物語』で知られるぽよよんろっくがイラストを手掛けた大賞受賞作『アリスの物語』、無断転載疑惑が生じた『明日が雨でも晴れでも』など良くも悪くも話題を振りまきながら幕を閉じました。
その他、ニンジャスレイヤーのように本文をツィートするtwitter連載プロモーション(ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド、オカルティックナイン、テスタメントシュピーゲル)も行われはじめ、ソーシャルメディアとの連携が一層と強まった年となりました。
大手出版社が続々と参入するティーンズラブ
ティーンズラブとは、ライトノベル的イラストをあしらった女性向け官能小説のことを指します。
女性向けAVの人気など、女性対象の性産業に注目が集まりつつあることも影響してか、このティーンズラブににわかに注目が集まっています。
大手出版社の集英社がティーンズラブレーベルのシフォン文庫を立ち上げ、少女小説レーベルの講談社WHもラインナップに加え始めたほか、今年は蜜猫文庫(竹書房)などのレーベルが新設されました。
さらに、集英社・講談社のほかにも、大手出版社が続々とティーンズラブに参入し始めています。
KADOKAWAは、角川文庫内にティーンズラブレーベル「角川クロスラブ」を設置。徳間書店は「恋のスパイス」というコピーで、徳間文庫内でティーンズラブを取り扱っています。
かつては「女性向け官能小説」ということで苦い顔をされがちであったティーンズラブですが、今年になって一般文庫での展開が本格化しだし、さらに電子書籍に積極的であることなどから急速に広まっています。
今年のノベライズの話題はずばり、「原作者直々ノベライズ」「人気作家とのコラボ企画」です。
原作者直々のノベライズとしては、ジャンプ系列では珍しいリアル系サッカー漫画の人気作『1/11』や、美麗な作画や美形の文豪同士が戦う設定で話題を集めるも原作者の文学造詣のなさや暴言が槍玉に挙げられることの多い『文豪ストレイドッグス』など。
昨年の「VSJOJO」から続く有名作家とのコラボレーションとしては、
『メタルギアソリッド スネークイーター』メタルギアソリッド×長谷敏司(『BEATLESS』)
『REALRIDERS』仮面ライダー鎧武×江波光則(『鳥葬』)
『ウサギツキ双魔鏡』うーさーのその日暮らし×杉井光(『神様のメモ帳』)
『暁のヴァンピレス 〜アグレイアーデンの緋百合〜』暁のヴァンピレス×桜井光(『殺戮のマトリクスエッジ』)
『いちろ少年奇譚』×黒史郎(『幽霊詐欺師ミチヲ』)
がありました。
また、今年復刊された『左巻キ式ラストリゾート』も、一応ゲームノベライズです。
このように、単なるファンアイテムから、読み物としてのクオリティを追求し、ノベライズ作家のファンをも取り込んだ作品へとノベライズは変動し続けています。
『ニンジャスレイヤー』『AllYouNeedIsKill』といった有名漫画家とのコラボレーションが目立ちます。
ニンジャスレイヤーのコミカライズ2作(余湖忍殺・グラキラ)については昨年紹介したので割愛します。今年はこれに続き「ニンジャスレイヤー殺」が少年シリウスで連載開始。少年漫画としてアレンジされたニンジャスレイヤーで、グラキラのような大胆すぎる翻案はないものの、ダークニンジャなど一部のニンジャのビジュアルは大幅にアレンジが加えられています。
ハリウッド映画化された『AllYouNeedIsKill』は、なんと『DEATHNOTE』『バクマン。』『ヒカルの碁』『スタードライバー 輝きのタクト』などで知られる小畑健が作画を担当。映画公開に合わせ発売された原作新装版のイラストも、小畑健が担当しています。
週刊少年ジャンプからは、成田良悟書き下ろし原作の『ステルス交境曲』が連載開始。ジャンプノベライズ→原作担当の読み切り→連載という流れが西尾維新を彷彿とさせますが、西尾維新の『めだかボックス』同様アニメ化されるのでしょうか。
国際的評価を得たライトノベル映画
今年はライトノベル及びその周辺作品の実写化が目立つ年となりました。
ライトノベルSFの中で『猫の地球儀』『紫色のクオリア』と並んでオールタイムベストに挙がることの多い、ライトノベル初のハリウッド映画『AllYouNeedIsKill』は主演のトム・クルーズの日本縦断など大々的プロモーションが行われ、ラノベマニア・SFマニアのみならず、映画マニアから注目を集めました。映画公開に合わせ、原作(SD版)には映画版ビジュアルの掛け替えカバーが付きました。
また、モスクワ国際映画祭グランプリを受賞した『私の男』とキョウリュウジャーで絶賛された坂本浩一が監督を務めた『赤×ピンク』の桜庭一樹原作映画が2本公開されました。
そのほか、「はがないのアニメは見なかった」「オタクは現実を見ろ」など、監督の挑発的発言が賛否両論を呼びつつも蓋を開けてみたら意外と?好評価だった『僕は友達が少ない』などがあります。
キャラノベでは、実写映画『万能鑑定士Qの事件簿』や、土9でドラマ化された『戦力外捜査官』、剛力彩芽主演の『私の嫌いな探偵』などがドラマとして放送されました。
ビブリアやはがないのように、原作イラストとの乖離や設定改変から原作ファンからは激しい抵抗を受けやすい実写化。
しかし、意外と好評なケースも存在し、昨年の『ビブリア』『トッカン』『陰陽屋』から続くキャラノベ原作ドラマも多く作られていきそうです。
注目作家
グループSNE出身で「クレイとフィン」シリーズなどのSF・時代小説にも進出している友野詳
『魔女の子供はやってこない』『[少女庭園]』などのラノベホラーで話題の矢部嵩
能力者が法律で管理されるウォッチメンのような社会を描いたラノベ『不戦無敵の影殺師』でマニアから大絶賛された森田季節
小説デビュー作『ルガルギガム』が高い評価を受けた稲葉義明
衝撃作『絶深海のソラリス』が話題となったらきるち
デビュー作『悠木まどかは神かもしれない』で騒然となった竹内雄紀
まとめ
メディアワークス文庫の創刊から語られるようになってきたキャラノベですが、今年は富士見L文庫や新潮文庫nexなどキャラノベレーベルが創刊され、角川書店や講談社や集英社や新潮社などの大手出版社が本腰を入れてビジネスとしてキャラノベに取り組もうとしています。ラノベと一般文芸の看板作家を大量起用したnexなどに表れるように、ラノベ作家と一般文芸作家が入り混じって一つのレーベルで書く状況が進展しています。高木敦史、野崎まどといった一般文芸寄りラノベ作家と、古野まほろ、櫛木理宇といったラノベ寄り一般文芸作家が同一の「キャラノベ作家」となり、そこにはもはやラノベかそうでないかという差異は消えてなくなるのではないでしょうか。
SFやミステリといった文学ジャンル以外にも、アニメ・ゲーム・漫画・ボカロ楽曲など、様々なメディアがライトノベルの周辺を取り巻いています。レトロゲームや初音ミクはもちろんのこと、学習参考書やハリウッドまで貪欲に、ストレートに、取り込んでいけるところが、ライトノベルの強みだと思っています。
キャラノベ戦国時代。ネット小説出版争奪戦。ボカロPの小説家デビュー。ゲームノベライズ。ハリウッド映画化。
かつてこれほどまでにライトノベルが目まぐるしく変わっていった上半期はなかったと思います。
これからもライトノベルには、小説には、こまごまとしたルールやジャンルを突破した自由な作品が多く出ることを期待しています。
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