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静脈はなぜ青い?

 静脈には、血が流れている。血は赤い。それなのに、静脈は青く見える。なぜだろうか。

静脈が青いのは光の散乱
 自然界に、青い色素がないのに青く見える現象は、数多い。光の散乱現象だ。


人間のもつ色の物質
 人間の皮膚色を決める色素は4種類しかない(*1)
(1)オキシヘモグロビン(動脈血の色で、明るい赤)(*2)
(2)デオキシヘモグロビン(静脈血の色で、暗い赤)
(3)メラニン(褐色から黒。黒髪やホクロの色)
(4)カロチン(黄色。黄色人種のみ)
 これらをまぜあわせても、青い色はつくれない。

人間の体の青い色

いずれの場合も、手前に組織があって、向こうに黒(メラニン)や赤黒いもの(静脈血)がある。

静脈が青く見える原因

 下図を見ていただきたい。静脈が青く見えるのは、手前の組織で青い光だけが散乱され、残りの赤や緑の光が向こうの色素に吸収されてしまうからである(*5)(*6)

皮膚の色

 皮膚が肌色に見えるのは、なぜだろうか。これは、かなり複雑だ。皮膚に白い光が当たっているとしよう。その光は、まず表皮角質層でかなり反射される(白)。真皮乳頭層の毛細血管の反射光(赤)が加わり、さらに皮下脂肪のカロチンの色(黄)も加わる。これらの合成で、反射光はいわゆる「肌色」になる。日焼けした人は、これに表皮基底層のメラニン色素の色(茶)が加わる。 皮膚の図を参照

新聞記事の誤り
 以前、某新聞日曜版の子ども向け記事に、「血管が青いのはなぜ?」というのがあった。

 「白い光で照(て)らしたとき、血からは赤い光の成分(せいぶん)が反射してきて赤く見えるのだけれど、同じ白い光で照らしても、皮膚や血管の壁を通して反射してくると、光の色は少し青っぽくなるというわけ。」

というわけのわからない結論を出していた。そこで、わたしは新聞社にメールで「間違っている。空の青さと同じ光の散乱現象だ。物理の先生に取材すべきだ」と指摘した。その返事が、

 「内科の先生に再度問い合わせて、散乱ということで意見が一致した。しかし、空の青さとは違い、何が光を散乱させるのかが不明なので、(青く見える)原因がわからないと書いた(のが、間違いではない)

というものだった。「白馬は馬にあらず」。この詭弁が、新聞社の回答だった。

 静脈で光が反射されないから青く見えるのだが、記事は、「赤い反射光が皮膚のフィルターによって青くなる」という、よくある誤った見方に近い。科学記事を書く記者なら、ちゃんと実験で確かめる姿勢を子どもたちに示すべきだ。その考え方こそ、科学なのだから。

なぜ角膜は透明なのか
 同じコラーゲンでできているのに、白目は白くて角膜は透明だ。角膜の角膜固有質は何枚もの板からなるが、その板をつくる膠原線維の方向が、きれいに揃っている。こうして、線維が揃うと乱反射がなくなり、透明になるのである。
 目のレンズが透明なのも同じだ。クリスタリンというタンパク質がいっぱい詰まったレンズ線維という細長い細胞でできているが、それがきれいに揃っている。
 透明な魚がいるのをご存じだろうか。この場合は、筋肉線維がきれいに揃っているのである。

体が冷えたとき唇が紫になるのは?
 プールで体が冷えたときなどは、表面に分布する毛細血管に血が行かなくなり、奥の静脈が透けて見える。だから、紫に見えるのだ。このとき、血液は、毛細血管を通らずに、動脈から動静脈吻合部を通って静脈に流れる。体表面の温度を下げ、内部の体温を維持するための仕組みだ。毛細血管への血流量は、平滑筋(毛細血管前括約筋)によってコントロールされる。唇が冷やされて血管がちぢまり、流れにくくなったわけではない。
 皮膚の色が青くなるチアノーゼというのは、血液のデオキシヘモグロビンが増えることで起こる現象である。唇が紫になるのとは、青くなる原因が違っている(*7)
 


(*1) 黄疸のときに皮膚は黄色く見えるじゃないかとか、ミカンを大量に食べたら黄色くなるじゃないか、などと突っ込まないこと。これは、血液中にその手の色素が「臨時に」入っただけなのだから除外する。
(*2) ケガをしたときに出る血は、動脈血と静脈血が混じっている。静脈血は、ケガのときのそれよりさらに暗い。採血のときの、あのどす黒い血だ。それに対して、動脈血は、ほんとうに明るい赤である。
(*3)虹彩の色は、「目の色」の項を参照。
(*4)骨の折れやすい骨形成不全症の人は、コラーゲンをあまりつくれないため、白目のコラーゲンの層(強膜)がとくに薄く、白目が青い(青色強膜)。
(*5)ある学生と雑談したとき、この話をすると、「では、青を抜いた光を当てたら、静脈は青ではなく赤に見えるのか」とすぐさま反応した。偉い! こうして簡単に実験で証明できる。
(*6)理科の実験では、皮膚みたいな光を散乱する膜を用意し、透過光ではオレンジ色に見えること、赤黒い紙を向こう側においた反射光では青く見えることを示せばよい。
(*7)チアノーゼcyanosisは、語源的には、皮膚がシアン色(cyan青)になるということを言う。某新聞の記事では、この語を唇が青くなるときにも使うとして、

 「寒(さむ)さで唇の血管がきゅっと縮(ちぢ)まって、血が流れにくくなったからよ。「チアノーゼ」というの。心臓(しんぞう)の病気などで酸素が不足して起こる場合もあるわ。」

とある。これでは、子どもたちは心臓病だと血が流れにくくなってチアノーゼになると誤解してしまう。


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作成:2005年10月28日   
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