故宮博物院展:関係者奔走、実現に10年超 開催へ法整備も

2014年06月26日

内覧会で関係者に公開された特別展の会場=2014年6月23日、高橋昌紀撮影
内覧会で関係者に公開された特別展の会場=2014年6月23日、高橋昌紀撮影

 24日に開幕した台北・故宮博物院の特別展「神品(しんぴん)至宝」(東京国立博物館、毎日新聞社など主催)は、実現まで構想から10年以上の歳月がかかった。日本画家の故平山郁夫さん=2009年に79歳で死去=ら日台の関係者が開催に奔走したが、障壁となっていたのは文化財の帰属問題。国交のない日本に所蔵品を持ち出した場合、中国当局に差し押さえられる可能性を台湾側は危惧していた。実現の決め手となったのは、日本側が故宮展のため制定した新たな国内法だった。鑑賞待ちの長蛇の列が連日続いている特別展。「翠玉白菜」など至宝の数々は苦難のドラマの末、日本の美術ファンらの前に現れた。【高橋昌紀/デジタル報道センター】

 この国内法は、11年3月に成立した「海外美術品等公開促進法」。国際文化交流の振興の観点から、公開の必要性が高いと文部科学相が指定した海外美術品について、強制執行や仮差し押さえ、仮処分を禁止した。

 新法成立まで、政府は「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」を適用し、海外美術品を日本の裁判権から除外してきた。ただ、その対象となるのは外国政府などが所有する美術品。国連に非加盟の台湾には適用できなかった。

 日台友好に取り組んでいる超党派の日華議員懇談会(平沼赳夫会長、会員287人)によると、既に台湾・李登輝政権時代の00年前後には故宮展開催の構想が浮上していた。台湾側は中国側による差し押さえなどを避けるための法整備を要求。日本側は日華議員懇幹事長代理の古屋圭司衆院議員(現・拉致問題担当相兼国家公安委員長)が中心となり、新法の研究に着手したという。

 新法は台湾側の要請で生まれたが、実は中国側への配慮も盛り込まれている。関係者によると、「文科相は外相と協議しなければならない」との一文があり、今回の故宮展の開催決定前には外務省が中国側に非公式に打診。「賛成はしないが、反対もしない」との感触を得て、文科省に伝えたという。

 新法成立を機に、故宮展開催はとんとん拍子で決まった。12年2月には東京国立博物館の副館長が訪台。故宮博物院との本格的な交渉を始め、同年10月には正式な調印にこぎ着けた。古屋議員は「国際理解を深めるうえで、文化交流は非常に重要だ。政治が今回、その実現のための役割を果たせた」と感慨深げに語る。

 故宮展開催は東博特任館長を務めた故平山さんの宿願でもあった。毎日新聞の取材に対し、平山さんは生前、中国側の了解を既に取り付けていると証言。「中国とは長い文化的なつきあいがある。優れた文化を日本に紹介するため、展覧会を開催したい」と話した。

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