(一)


一年ほどが経った
片目が赤紫色、もう一方の目が青紫色の背の高い女が
聖堂近くの一軒のアパートに立ち寄る
ロブ伯私兵団の女弓術士”紫レンズ”のセライア
あの事件でプアザンから移植されたほうの目が青紫色
もう一方の目は真紫色のオッドアイ
超遠視能力に加え、別の独特の眼術力が宿っていた
その能力とさらに磨きのかかった弓術により、今や帝国最強弓使いの
一人に数えられる

今日訪ねたアパートは、パンタとその子と二人を面倒みる
彼女の上の弟が住む部屋
セライアは玄関に耳を当て、中の様子を窺ってからノックする
戸が開き、男性が現れ見舞いに来た彼女を招き入れる
「…これは珍しい酒ですな わざわざあいすみません」
「彼女にはお会いできますか? どうぞ、どうぞ、あいかわらずでして
 張り合いは無いと思いますが」
部屋の奥に通されるとにこやかに子をあやすパンタがいた
セライアのほうにちらりと目を向ける、そしてすぐに子の方に向き直る
「この調子でして…」
頭を掻いて見せる弟、精神崩壊している姉の方がずっと年下に見える
セライアがきりだす
「下の弟さんはあいかわらず帝都の方へ行ったきりですか?
 僭越ながら調べさせて頂きました
 下の弟さん、あのイージー=グアゼルの直弟子でいらっしゃるとは」
グアゼルなる人物は名剣士だったセライアの父をして、かつて大魔族の
暗黒剣士と並び、闘うに面倒な相手だったと言わしめた名戦士
極めて特異な武技を用いる、正業は古着商という変わりだねの武闘家である
「あいつの師が有名人なだけですよ あいつ自身はというと…
 いくら何でも、鬣流団長を倒すには到底…
 無茶をして返り討ちに合わないよう、祈るばかりです
 そういえば、あなたの姉君、旦那さんと帝都へ赴任なさるそうですな
 つい一昨日、見舞いに来られた際にききましたよ」
正確にはフィラーの転任にその妻であるセライアの姉トレリナが同道する
フィラーはいまだに止まらない身長だけでなく、戦士としての成長も目覚ましく、
タランテラ二世というあだ名も、正真正銘となりつつあった
結果、ロブロジェ伯爵の身辺警護に当る私兵団四番組隊士に抜擢されたのだ
「姉が度々見舞いに来れなくなってもうしわけない」
「とんでもありません 知り合いの栄転は素直に喜ぶべきものです
 ジェネリ様が度々訪れてくれるお陰で治療には事欠きませんし」



   (二)


見舞い客を見送ったあと、部屋の奥へ行くと、姉の子が寝息を立てていた
姉を犯して廃人にした男の子供、産むこと自体反対だった
しかし、姉はこの子を産みたがっていた
膨れていく腹を毎日、いや毎時毎分毎秒眺めていたと言っても過言ではない
子を産ませることが精神回復の一助になるかもしれない
この提案がトレリナやジェネリの口からの物で無ければ到底承服出来は
しなかっただろう
家族にとって、男兄弟にとって、辛く厳しく屈辱的な決断、
大切な姉を奪われた、守れなかった、そもそも傍にいなかった自分ら
姉の回復の一助になるやもしれぬと同姓の医療者の口から告げられたら
もはや自分らの反対など単なる男の我侭でしかない
下の弟は出産させることが決まった時点で街を後にした
以来、ここに足を運んでいない

月日が経つ
産まれた子は玉のようにかわいらしく、それを抱く姉はあたかも聖母の様
産まれた子に罪はない… そもそも産んだのは我らの姉さんではないか…
建前ではなく、本心からそう思えて来始めている自分が腹立たしかった
何もかも俺に押し付けて、自分だけ帝都に姿をくらましやがって…
下の弟に対する苛立ちも募る
姉の世話は俺に任せて、おまえは帝都で姉の仇を討てと言って送り出したのは
確かだ、だからといってこんなにも顔を出さないとは何事か!
あいつくらいの武術の腕であの鬣のペンギンを討てるものか!

子が寝付いて、ぼんやりとするパンタ
「姉さん、それじゃ体を綺麗にしようか」
弟は姉を抱き起こすとその肩を抱き、浴室に向かう
事件から三ヶ月ほどはまったく歩くことができなかったが
今は抱き起こし、肩を貸せばよろよろふらふら歩くことは可能
弟は姉から着衣を外し、バスタブに薄く貼った湯の中に入れる
のんびりと湯船に寝そべる姉の体が十分温まるとバスタブからひきあげ
洗い場で体を洗ってやる
だいぶ弛んだとはいえ、まだ鍛えていた頃の面影の残る姉の肢体
垢を丁寧に擦り落としてやる

…子供の頃、自慢の姉だった
明るく美人でスタイル抜群だった姉は近所で評判の娘だった
「口うるさくて、鬱陶しいだけだよ、姉さんなんかさ」
羨ましがる友人連中にこんなふうに口では答えていたものの
心中では鼻高々だったものだ
故郷を出てゆくと言い出した時の姉、陽気だけど言い出すと聞かない
俺も弟も姉に何一つ口答えなんてできやしなかった
本当は行かせたくなかった
すがりついて土下座して頼みこんででも行かせるべきじゃなかった
今、目の前にいる女性は確かに俺らの姉だ、顔だけは
緩みきった視線の定まらない壊れた人形みたいな顔
自分らの知る姉の面影はどこにもない…

「胸が張って苦しいのかい姉さん」
豊かすぎる乳房から液が滲んでくる、子が飲みきれないほどの量が滴る
その先端に弟の口が近づき、それを摘み取る
「は…ん…」
パンタは短く喘ぐ、弟はそんな姉の母乳を啜った
ごく… ごく… ごく… 喉を鳴らす弟の頭を我が子と勘違いして
パンタの手が抱える



   (三)


胸のつかえが薄れてくると同時に、肌が次第に火照ってくるパンタ
その頃には弟も裸になっていた
弟の手が姉の体を、肌を清拭するのとは明らかに違う動きで這う
姉は子供のように、憚ること無く、はぁはぁ…と切なげな声と顔で訴える
「姉さんの肌… 姉さんのかおり…」
指に続いて、弟の舌が姉の体を這っていた
涎を滲ませる唇を掠め、ぎゅうぎゅうと接吻を行ったあと、
火照ってひくひくさせる肌を舐めてより性感を高めてゆく
こうしないと姉は眠れない、弟は姉のフトモモを開かせる
己れの隆々とした部分を姉の一番ひくつく、熱と香りの篭もった所に宛てがう
ごく自然かつ当然な流れという動きで弟は姉と繋がっていった

ん… ん… ん… ん…
実の弟の陰茎で産道を擦られるパンタの詰まり気味の喘ぎが流れ出る
風呂の洗い場でまぐわう姉弟、この家では近親相姦がほぼ毎日行われていた
姉は一日一度は必ず性欲をさらけ出す
それを鎮める者が確実に必要だった、彼女の自慰はあまりにも破壊的執拗だから

姉は挿入を受け止めると、すぐに手足を絡ませてくる
時にはこちらが動けないほど強くしがみつかれる
仕方ないので弟は腰を左右ににひねり、ねじるように掻き回してやる
もしゃもしゃと密着した姉弟の陰毛がもつれあう
姉が快感でいくらか蕩けはじめると手足が緩み、弟はようやく往復律動へと
移行する



あ… あ… あぁ… あ…
弟の陰茎が姉の子宮を撞くことによって絞り出る喘ぎが浴室に充満する
不意に姉が唇を尖らせる、接吻をねだる衝動に弟は応えてやる
ぐちゅっ ぐちゅぅ ぐちゅっ ぐぷぅ
口と性器の粘膜が分泌液を絡め攪拌させる音色が弟の耳にこびりつく
弟はがしがしと腰を振り、姉との性交に没頭する
弟の薄い胸板は姉の巨大な胸の膨らみの中で彼女の母乳まみれになっていた
姉弟揃って、背筋がぞくぞくする
…姉さんの中…とても熱い……
苦悩する弟、その心中は姉を安眠させるための行為から逸脱し
己れ自身が愉しんでしまっていることに対する嫌悪が走っていた
熱烈にセックスを行うパンタとその弟
抱き締めあい、蕩けるような禁断の時が過ぎてゆく

やがてパンタは女の極みに達し、尻を震わせ、体内に入り込んでる弟の器官を
搾るように締め上げる
弟は姉の中で果てる、ぎくぎくとしなる艶やかな腰の奥、
姉の痴態に誘われるまま射精を行う
あぅ… はぅ…ぅ…
パンタが喜悦のうわ言を垂れ流す、
彼女の実の弟の子種が子宮の中で渦巻いていた

こんな姿、弟のあいつには見せられない
私は最低だ、姉の周囲にいたあの大男や、姉をこんなふうにした人殺しどもと
同じじゃないか…
すうすうと寝息を立てはじめた姉の脇で弟は苦悶の表情を浮かべながら、
濡れたタオルで女陰の奥から溢れ出る濁った泡立ちを拭った




   (四)


街の用水路の端に腰掛けノンビリと釣り糸を垂れる壮年の小男
「釣れるっすか?」
ジェロムがひょいと覗き込む、すると男の釣り竿が不意にみしみしと撓り
大物がかかった反応を示す
「うおっ!とっ、とっ」男は釣り竿を持ってゆかれまいと踏ん張る
「こりゃあ、けっこうな大物だわい 我の手には負えんわ」
予想外の大物に小人族の男は無理に踏ん張ることなく釣り竿を放棄する
するとジェロムが上着を脱ぎ捨てると用水路に飛び込んだ
「おいおい、ここは流れ早いし、かなり深いぞ」
男の心配をよそにジェロムはあれよという間に水を掻き、落ちた釣り竿を拾い
そして岸まで戻ってきた
「なんとまあ、大した泳ぎっぷりだな いや、ありがとうよ
 この竿は割とお気に入りだったもんでな」
「グッツァ師 …あれ?ジェロムじゃないか」
背後からかかる声に振り返ると異様に長い脚と、ふわふわと空中に浮く鮮やかな翼
セライアとハーピィ族にして今や伯爵家長男夫人のツァロロが覗き込んでいた
「やあ! グッツァのじいちゃん! 新聞社の記者さん!」
種族特有の訛りが最近ではすっかりとれ、案の定ジェロムをすっかり忘れていて
改めて新聞社の記者として知り合いになったツァロロが明るく話しかける
「ツァロ嬢、また城を抜け出して来たんかい
 誑しのおセラ、さてはおめえが手引きしやがったな
 また奥様、フスェ嬢様にこっぴどくしぼられちまうぞ」
「た!たらし…って、グッ師にまで言われちまうなんて!」
「今更慌てることもねえだろ
 この街でおめえの女誑しっぷりをしらねえ奴なんざいるかい」
セライアはプアザンが亡くなって以降、男性とはぷっつり縁を切っていた
その代わりなのか、女性達相手に浮き名を流しまくっていた
街場のごく普通の娘から貴族のご婦人ご令嬢、警衛の女将校や女性判事、
手当たり次第に次々関係を持っていた
「これは… あたしのほうから手を出してるわけじゃなくて
 向こうから言い寄られて仕方なく相手してるだけで…」
「へっへへ、おめえは確かに女にモテモテだからなあ
 女房恋人を寝取られて泣きっ面こいてる野郎が大勢いることだろうぜ」
「あ、姐御久しぶりっすね まだ俺のこと覚えてくれてたっすか」
窮地に立たされた姐御を救うがごとくジェロムが口を挟んだ
「ん? ま、まあな 来週からまた一緒だ うちの班が遠征に出るんで
 おまえらも取材同行許可が降りたと言ってたぞ
 あっ… グッツァ師の組もうちらと同道だって」
「んあ? なんだい、当面城の警備じゃないのかね ヒルズで楽さしてもらう
 予定だったに、頭領も人使い荒いのう
 おめえさんの組というと、ハナェお嬢が頭だったな
 こうるせえガキどものお守りかよ、てんでついてねえや」
ガラガラ声で川面を見つめたままゴチるグッツァ師

一年前、鬣流のコバンザメにプアザンを殺害された報復でグッツァ率いる私兵三番組は
向こうの黒帯クラスの戦士を六人も葬った
帝都遠征中だった自分らの失態で敵にこちらのテリトリー上陸を許してしまった責にも
戦いに失敗や犠牲はつきもんだ…と、この老兵はにべもなかった
その態度にセライアは一言言ってやろうと歩み出たものの、
見上げる相手のゾッとするような視線に口が止まってしまった
「おめえなら俺より上手くやれたってのかい? 半人前以下のおまえならよ」
目でそう語っていた
何百何千と人命をその手にかけてきた、セライアなどと比べるべくもないほどの数の
死線をくぐり続けてきた超ベテラン戦士の不気味なオーラが
一米も高い位置にある娘っこの吠えたがりの口を噤ませてしまったのだった
頭にくるクソオヤジ! そう思いながらも周囲からこの男の逸話を聞くにつけ
他の人と同様グッツァ師と呼ぶようになっていった
スピリゥムの街にあるプアザンの生家、彼の老いた母親の元を訪れ、
土下座して詫びた話が特に彼女の心を打ったのだった


   (五)


「遠征先はどこだい?おセラちゃん」
「タスクロートだって そこを本拠地に六月岬沖でローレライの大規模な巣の掃討」
「あれ? 姐御の出身街じゃないすか?」
「ほんとに? ツァロロも行きたいなあ 海、しばらく見てないなあ」
「いくら何でも、街の外までは連れ出せないよ 今度はアルィにねだってみるんだね」
「全然無理ということじゃないか…
 あの人、母さまにも姉さま達にもぜ〜んぜん頭上がんないんだから……」
「あたしはツァロとは逆に行きたくないよ 誰かに代わってほしいくらいだ」
ため息をついてみせるセライア、
あいかわらず釣り糸垂れてるグッツァがぼそりと質問する
「おセラ坊、タランテラの親父さんとは顔を合わせたかい?」
「半年ほど前に こちらへ姉を訪ねて参りましたんで
 というか、あたしが鬱なのは父に会いたくないからでなくて、海が苦手で…」
「なんじゃ、そうかい
 いまだに親父怖さで故郷の土を踏みたくねえのかと思っちまったよ
 しかしなあ、海軍の手が回らん所為でそんな仕事まで我らが
 出張らないといかんとはのう
 ただローレライだけで二組も出撃とはどういうこっちゃ」
「クイーン級のローレライが出現してるそう」
「なるほど、そりゃ厄介だな」
「大丈夫っすよ!姐御 海に落ちたら、また俺が助けて… いでえ!!」
「うるせんだ!このどチビ短足野郎!! 調子にのってんじゃないよ!!」
「あいでで!! わ、わかりました すんませんん!!」




ノッポ姐とチビ舎弟 完

幻想系成年文書処 四然堂
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