政府の途上国援助の基本方針であるODA大綱。この見直しに向け、有識者懇談会が岸田外相に報告書を出した。

 これまで大綱が禁じてきた軍への支援でも、災害救助など非軍事目的ならば認めてよいとの提言が含まれている。

 今年で60年を迎える日本のODAは、報告書が指摘するように「平和国家として世界の平和と繁栄に貢献してきたわが国の最大の外交ツール」であり、各国から高く評価されてきた。

 それが軍への支援に踏み出すとなれば、従来の方針からの大きな転換である。

 武器輸出三原則の撤廃、そして集団的自衛権の行使容認に向けた動き。安倍政権は「積極的平和主義」の名のもと、戦後日本が堅持してきた「平和国家」としての外交政策を次々と変えようとしている。

 今回のODA改革も、その文脈にある。性急に結論を出すのは危うい。

 台風、地震、津波。ODAの対象となる東南アジアの国々は自然災害と隣り合わせだ。昨年11月、フィリピンで約1千万人が被災したというすさまじい台風被害は記憶に新しい。

 これらの国々で災害救助に大きな役割を果たす軍に対し、日本がその目的を限って支援することの意味がないとは言えないだろう。

 とはいえ、日本がいかに非軍事という線引きをしても、その線がいつまでも維持される保証はない。それに、他国からみれば、軍への支援は「軍事支援」にほかならない。

 政府はフィリピンなどへの巡視船供与に続き、軍民共用港の整備も検討しているという。南シナ海への攻勢を強める中国への牽制(けんせい)が念頭にあるならば、「力には力」の悪循環を招きはしないか。

 厳しい財政事情を反映して、政府全体のODA予算はピークだった97年からほぼ半減した。効率を高め、国民の理解を得られるような改革は大いに進めるべきだ。

 だが、それが途上国の発展やそこに住む人たちの福祉の向上というODAの本質を損なうことになってはならない。

 軍への支援解禁を含む今回の大綱見直しの動きには、現地でさまざまな支援活動に取り組む多くの非政府組織(NGO)が懸念を表明している。

 政府は、年内の新大綱決定前にこうした団体とも意見交換する予定という。これを形式的に終わらせてはならない。

 積極的平和主義の一方的な押しつけは、禍根を残すだけだ。