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- 花が供えられた事件現場の自転車道。海が見渡せるこの場所で、親子は何を考えていたのだろう―=2013年11月下旬、静岡市駿河区下島
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静岡市駿河区の海沿いに延びる自転車道。昨年11月、車椅子に乗っていた55歳の男性が焼死した。87歳の母親が、持参した灯油に火を付けた。「息子が1人で残ると困る。無理心中した方がいいと、前から思っていた」。殺人予備罪に問われた裁判で、そう答えた母親に今月中旬、静岡地裁は執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。
法廷で、母親は障害のある息子を介護する日々を語った。息子は10年にわたって入退院を繰り返した末に一昨年5月、静岡市内の介護施設に入所した。
「施設の人に迷惑が掛かるから」。母親は1人で暮らすアパートから毎日、洗濯物を持ってバスを乗り換えながら片道1時間半、息子の元を訪ねた。
顔を見せると、うれしがった。「息子は花屋に勤めていて、花が好きだった。花を持っていくと喜んだ。それを見て、自分もうれしかった」。好物の菓子やパン。ねだられれば、何でも買い与えた。
◇年金頼り、体力衰え
経済的には追い詰められていた。家を売り、定期預金もほぼ底をつき、事件当時は年金頼り。体の衰えも顕著だった。
海沿いの自転車道を、2人はたびたび散歩していたという。事件後、献身的な介護の様子を知る地元住民は「どうしてあの母親が」と驚いた。一方で、民生委員や地域包括支援センターの職員は「自分に代わって息子の介護を周囲がしてくれるだろうか」と母親が漏らすのを聞いていた。
◇強い愛情、募る不安
強い愛情が大きな使命になってのし掛かったのでは、とみる人もいた。母親はこうも話していたという。「息子の思いをかなえることは私にしかできない。息子より先に死ぬことさえ、私には許されない」
判決言い渡しの時、耳の不自由な母親には判決要旨が手渡された。「長男を殺そうとしたことは正しかったと思っているなどと述べ…反省をしているかについては疑問と言わざるを得ない…」。裁判官の朗読に合わせ、母親の小さな声が廷内に響いた。