ブラジルW杯1次リーグC組で1分け2敗という無残な結果に終わった理由のひとつに、チームの人間関係がバラバラだったことが挙げられる。

 昨年10月の東欧遠征で、本田圭佑とザッケローニ監督がすでに求心力を失っていたことは知られるが、この時にある決定的な事件が起きていた。「GK川島永嗣の本田罵倒事件」だ。

■川島が本田の胸ぐらをつかみ

 遠征で日本代表は、セルビア、ベラルーシとW杯予選を突破できなかった相手に2連敗を喫した。ベラルーシ戦後、整列に加わらずベンチに座ったまま、サポーター席にあいさつに行かなかった本田に川島がキレたのだ。

「あいさつくらいしたらどうなんだ!」と語気を荒らげた川島に、「感謝の気持ちはある。それで十分やろ!」と取り合わない本田。ところがロッカーに引き揚げてから第2幕が始まった。チームメートのミスを指摘する本田に川島が「お前も何度もミスしたじゃないか!」と言うと、「アンタこそミスが多い!」と本田がやり返したのだ。

「川島が鬼の形相で本田の胸ぐらをつかんだので周囲の選手が慌てて割って入り、何とか殴り合いのケンカは避けられた。でも、この日から本田派と反本田派、中立派の3つグループに分かれてしまった」(試合を取材した記者)

■シュラスコ店でのテーブルにも人間関係が

 コロンビア戦前のオフに訪れたブラジル肉料理店でも、3つのグループは別々だった。本田と同じ席に座ったのはセリエA仲間の長友佑都、08年にフランスで開催されたトゥーロン国際トーナメント大会にU−23日本代表として一緒に出場した岡崎慎司、青山敏弘たち。

 本田と距離を置く川島、吉田麻也、内田篤人、森重真人、酒井高徳、酒井宏樹たちが離れた席に座った。群れないタイプの長谷部、今野泰幸、伊野波雅彦、西川周作ら中立派が、店の真ん中辺りで黙々と肉を食べていたという。

■本田とザックの蜜月関係にも微妙な溝

 本田が孤立していったのは、ザッケローニ監督から過剰に頼りにされていたことも無関係ではない。ザックは本田の自己主張の強さを好ましく思い、おとなしい選手ばかりのチームにあって、日本人離れしたメンタリティーがチームに刺激を与えてくれると、高く評価していた。

「ザッケローニは紅白戦などで選手のポジションが50センチほどズレただけで文句を言うが、本田にだけはミスしようが、守備をサボろうが、何も言いません。体調不良でも試合には使うし、何から何まで特別扱い。面白くないと感じている選手も中にはいました」(ある選手の関係者)

 ザッケローニと本田の蜜月も、W杯本大会前には崩れてしまう。きっかけは、ボランチ山口と青山の抜擢だ。アグレッシブな守備から前線に縦パスを入れられる2選手と、中盤でボールを細かくつなぎ、ポゼッションを高めてゴールに迫るサッカーがしたい本田。サッカー観の違いから、2人にも微妙な溝ができてしまう。

「本田は攻撃組み立ての中心としてチームに君臨したいが、ボランチから前線にパスを送られるとそれができなくなる。2人の新戦力の加入に反対の態度を取るようになった本田を、ザックですらコントロールできなくなっていたのです」(現地を取材したサッカージャーナリスト)

 コロンビア戦では、最終ラインの今野と吉田から、ボールを奪った後に速い縦パスが中盤に送られた。前日、選手同士で共有した、攻撃のテンポを上げるためだ。ところが、前線の岡崎や大久保が相手DFの裏に抜ける動き出しをしていても、パスの多くは一度本田を経由した。数人の選手は、「本田中心」の攻撃イメージに引きずられたままだった。結局チームはバラバラのまま、1−4で試合を終える。

■異例の現地解散

 コロンビアに1−4で惨敗した翌日(日本時間26日)、日本サッカー協会は「日本代表は現地ブラジルで解散する」と発表した。サッカー協会の原専務理事(兼技術委員長)とザッケローニ監督、選手は27日夕に成田空港に到着。空港には1000人のサポーターが出迎え、労いの声がかけられたが、恒例の帰国会見は行われなかった。主な海外遠征で初となる「現地解散」が、日本代表の足並みの乱れを雄弁に物語っている。

 主将の長谷部誠は、移籍内定先フランクフルトでのメディカルチェックを終えてひと足早く帰国したが、本田は海外で休養と自主トレを行い、所属のACミランに戻る予定。現時点で日本に帰国する予定はない。