当ブログでその卓見を度々紹介してきた英国のエコノミストAndrew Smithersが、イングランド銀行の“Chief Economists' Workshop”で、アベノミクスの評価と日本経済への提言を示しています。
- Abenomics – Myths, Rhetoric and Reality (Bank of England)
プレゼンテーション用の分かりやすいスライド形式になっていますが、ポイントを列挙してみます。
- アベノミクスは「日本はデフレのために他国よりも経済パフォーマンスが劣ってきた」との認識に立脚しているが、これは誤り。
- 低成長率は人口動態(労働力人口減少)によるもの。労働者1人当たりの成長率は他国に比べて低くない。
- 「デフレ→実質金利上昇→投資減少」が需要減少の構図とされるが、日本は投資過剰。
- 「デフレ→家計消費抑制」も需要減少の構図とされるが、家計貯蓄は増加ではなく減少している。デフレはむしろ家計を助けている。
- 日本には大幅な実質円安が必要だが、インフレはそれに反する。
- 財政赤字削減には企業部門の黒字削減が必要。その鍵となるのが減価償却の大幅削減(←税制変更)。
- 減価償却減少→人件費増加(→消費税収増加)
等々です。
日本経済停滞の主因が企業の過剰貯蓄にあるという指摘は『賃上げはなぜ必要か』の脇田成と共通しますが、単に企業に賃上げを求めるのではなく、その前段階として減価償却の役割に着目しているところが注目点です。
スミザーズは1990年代から日本の構造問題として人口動態、円の過大評価、投資過剰を指摘しており、決して「にわか」ではありません。その指摘は傾聴に値します。スミザーズの提言に従っていれば、「失われた20年」を回避できていたことは間違いないでしょう。
参考記事
- Japan: inflation is not a sensible policy (Financial Times)
- Anthony Hilton: Economists brave enough to debunk our cherished beliefs (Independent)
The Road to Recovery: How and Why Economic Policy Must Change
- 作者: Andrew Smithers
- 出版社/メーカー: Wiley
- 発売日: 2013/10/14
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 脇田成
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/02/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る