金融庁と証券取引等監視委員会は27日、上場企業の役職員が自社の株式を売買できる新指針を発表した。投資家の判断に影響を及ぼす可能性がある業務上の「重要事実」を知ったり、知りうる立場にいたりするだけではインサイダー取引規制に違反しないとの認識を示した。業績の上方修正など株価上昇が明白な重要事実を知った場合、不正に利得を得る意図がないことを条件に公表前に売ることができる。
インサイダー取引は金融商品取引法で禁止されている行為で、会社関係者が重要事実を知った場合、公表後でなければ有価証券を売買してはならないと定めている。上場企業やその役職員の間では、社員であることをもって自社株の売買を自粛したり、重要事実を知った後の売買は全面的に禁止されていると受け止めたりする例が多い。
金融庁と監視委は「Q&A」という形で出している指針を改訂し、新しい見解を示した。家庭の事情などで緊急に換金を迫られる役職員は少なくない。不正利得を得る意図がない取引を「重要事実を知ったことと無関係に(有価証券の売買が)行われたことが明らか」な例と定義し、取引を容認することにした。
ただ、報道などで公表前に重要事実が世間に知れわたり、株価が上昇した場合には注意が必要。インサイダー取引に違反する恐れがあるからだ。例えば、「サントリーホールディングスが外部から社長を招く方針」という報道。サントリー食品インターナショナルの株価は報道の出た24日終値が前日比105円(2.7%)高となったため、報道前なら売却はOKで、株価上昇後なら違反となる可能性がある。
証券会社に買い注文を出した後に重要事実を知り、その後に注文が成立した場合もインサイダー規制違反とはしない。また、経理部や企画部など重要情報を扱う部署にいても、担当ではなく重要情報を知らない役職員はインサイダー規制違反にはならない。
日本証券業協会は上場企業の役員をデータベースに登録する「J―IRISS」という制度を設けている。登録しておけば注文時にインサイダー規制に違反しているかどうかを注意喚起してもらえるため、不注意で取引してしまう「うっかりインサイダー」を未然防止できる。現時点で8割弱の登録率にとどまっており、金融庁と監視委はさらなる登録を促していく。
証券取引等監視委員会、インサイダー規制、インサイダー取引、サントリーホールディングス、サントリー食品インターナショナル