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2014年6月27日 (金)

赤字決算に対する覚悟と思い

サイボウズは、今期、創業以来17期連続で続けてきた黒字経営に終止符を打ち赤字決算とすることにしました。


昨日発表したプレスリリース
http://group.cybozu.jp/news/14062610.html


目的は、クラウド事業拡大への投資


「赤字にする理由は?」という質問に答える前に、「今期を赤字にしない理由は?」という質問に答えてほしいというのが正直なところです。


○クラウド事業について
クラウド事業は電話料金と同じで一度契約すると複数年にわたり継続的に売上が見込まれます。詳細までは書かないですが、クラウド事業を開始してこの3年間の解約率と追加率の実績だけで考えると、理論上はこの程度の赤字など長期での財務状況に対しては、ほとんど影響がないと考えています。もちろん、今後この数字は変わっていきます。ただ、スタートしたばかりのクラウド事業ですので、5年後よりも今のほうが確からしい数字だということは言えると思います。


○32億円の現預金について
サイボウズは、これまで17期連続で黒字経営を続けてきました。それもあって、上場時に10億円を市場から調達はしましたが、18億円の自社株買いを実施して、なお、無借金で32億円の現預金があります。この現預金は、実質的には、会計上、赤字にしない限りは投資に使えません(資産としてなどの会計上のテクニックはここではおいときます)。しかも、今期2億円の赤字になったとしても30億円残ります。つまりこの資金を使うには、赤字にして投資をするか、配当して株主に還元するか、自社株を購入するか。この選択肢の中で考えなければなりません。


○株主に対して
配当性向50%にしていたのをクラウド配当として、クラウド事業による「売上」の10%を配当とすることにしました。ですので、長期の株主の方には少なくとも期初の予想よりは配当が多くなります。100株あたりで、昨年の206円に対して365円。昨年比1.7倍。過去3番目の配当額になります。今後どの程度継続していくかはわかりませんが、少なくともクラウド事業への投資を継続する限りは、クラウド事業の売上に対して還元していくのが適切であると考えています。


○社員に対して
社内的な話ですが、賞与は、売上に対して設定しており、赤字になることで、給与や賞与が減るわけではなく、逆に増える可能性が高まります。多少の不安を感じる社員もいるかもしれませんが、「クラウド事業への投資」の多くは社員への投資でもありますので、こちらを緩めることもありません。


○税金について
今期の法人税の支払いはほとんどなくなりますが、使う金額が増えますので支払う消費税は増えます。また、人件費も増えてますので、間接的ですが所得税として、サイボウズが事業を行う上で発生する税金は増えています。さらにいうと、ここでの投資は将来売上を増やすためのものですので、将来の税金も増える可能性は大いにあります。ちなみに、今まで税金を払ってきた上での32億円の現預金でもあります。決して、税金を少しでも減らしたいという考えなどはありません。


○競合について
海の向こうでは、クラウド事業をする成長企業は、とにかく初期投資を重視し、売上と同程度の赤字を続けながら、売上を拡大している会社も少なくありません。クラウド事業を主として、最近上場して急成長している会社の大半は赤字だという話もあります。それらの会社全てが競合ではありませんし、だから赤字でいいんだというつもりもありませんが、世界一を目指すにあたり、競合も意識して投資していく必要は少なからずあると思います。


これらの状況の中で、

「なぜ黒字を続けて投資を制限するのですか?」

この質問に自分自身でちゃんと答えれませんでした。


「創業以来黒字を続けてきたから」「環境に左右されない堅実な経営を続けたいから」「赤字会社となり世間のみなさまからの信頼を失い販売や採用など様々な信用リスクが顕在化する可能性があるから」などなど。

一方で、経営は長期でしたい。しかも、クラウド事業自体が長期での継続売上になる。ただ、会計は単年度。そんな中、「単年度での赤字決算に何の意味があるのか?」と本当に悩みましたし、未だにこれが正しい判断かどうかさえわかりません。

ただ、チェレンジすることに決めました。本当の長期経営、そして、クラウド事業を
主体とするのであれば、単年度会計での損益にこだわるのではなく、別の指標を見て
経営をする。そして、黒字経営の呪縛から解き放たれようと思います。

では、どんな指標を見るのか。もちろん、単年度決算も見ますが、複数年度決算みたいなものも考えないといけないです。さらに、解約率、追加率、新規ユーザー増加率。そんなクラウド事業環境における長期経営に必要な指標を考えて、経営していこうと思っています。


本当にリスクを感じないのか?

唯一のリスクは、この予算を使い切れないこと。行くぞと決めて、結局、やりきれない。それがある意味一番のリスクかなと思います。


赤字は悪で、黒字が善。自分が銀行員の時には悩みもしなかった当たり前のことを本当にそれでいいのか、と問うてこの結論に至りました。今回の赤字は、自分達の経営の概念をぶち破る、非常に健全で、かつ、前向きで、そして、サイボウズ史上においてエポックメイキングで、そして、サイボウズらしい意思決定だと自負しています。さらに言うと、これからの世の中の参考になるようなものになるのではないかとさえ思っています。


いずれにせよ、この決断が正しいかどうかの証明は、将来の業績で示すしかありませんので、何年後かにしっかりと振り返りたいと思います。

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