網でも鉄板でもない、
日本の焼き物料理の原点とは?

変わるキッチン(第3回)~「焼く」(前篇)

2014.06.27(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 子どもの頃、私はガールスカウトに入っていて、夏になると毎年キャンプに行っていた。キャンプに行くと、まずやるのは穴を掘っただけの原始的な竈(かまど)を作ることだった。そして、朝、昼、晩の三食のご飯を作ることに大半の時間が費やされた。

 いろいろあった野外料理のなかで、私が今でもよく覚えているのは「カンガルートースト」と呼ばれる朝食用のホットサンドだ。

 厚切りの食パンの一辺にナイフを横から挿し込んで袋状に切る。そこにハムと溶けるチーズを入れ、アルミホイルで包む。さらにそれを牛乳パックなどの紙パックに押し込み、そのまま火に投入する。

 紙パックが燃え尽きたら出来上がり。煤けたアルミホイルをむくと、ほどよく焼き色のついた香ばしいパンから、チーズがとろりとはみ出す(もっとも炎の強さによって、ときには丸焦げになってしまうこともあったのだが)。

 初めて食べたときは、炎の中に突っ込むだけで、おいしいホットサンドが簡単に出来上がることに感動を覚えた。それまで食パンを「焼く(トーストする)」といえば、トースターに入れてダイヤルを回したことしかなかったからだ。ジリジリいうトースターの電熱線と、ゴウゴウと燃え盛る焚き火の炎。いまにして思えば、ゴールは同じでも、調理の仕方に大きなギャップがあることに驚いていたんだと思う。

 料理の歴史に関する本を読むと、必ずと言っていいほど、冒頭に「調理の歴史は火の利用から始まった」といったようなことが書かれている。

 人類の火の利用は、これまでは確実に79万年前まで遡るとされていた。イスラエルのゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡で見つかった焼けた種子や木片、石材などがその証拠だ。だが2012年には、南アフリカのワンダーウェーク洞窟で100万年前頃のものと推定される植物の灰や焼かれた骨が発見され、議論を呼んでいる。

 いつから人類が火を使いだしたかはさておき、火を使った最も原始的な調理法は「直火焼き」だったことに、いまのところ異論はない。火さえあれば、そこにかざすだけで食材が焼けるからだ。

 そうして「直火焼き」から始まった「焼く」という調理法を、人類はこれまでに様々な道具を発明して多様化させてきた。ガスコンロを使ってフライパンで目玉焼きを焼き、グリルでサンマを焼き、オーブンでグラタンを焼く。

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澁川 祐子 Yuko Shibukawa

1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の安全に対して国民の関心が高まっている。国民が健康を意識しているのはもちろんだが、今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。このコラムでは、日本や世界における食の安全への取り組みを様々な角度から取り上げていく。