[オガム文字]

オガム文字とは、古代ケルトにおいて使用された文字です。
一般に、古代ケルト文化は、書き言葉を持たない無文字文化だとされています。
そのために、資料がほとんど残らず謎に包まれていますが、4世紀から7世紀頃まで
碑文などの言記表記をする際に、このオガム文字を使いました。
南アイルランドで考えられたとされるこの文字は、ラテン・アルファベットの音を基準にして
縦横の直線の長短と斜線の数で表現する独自の文字です。
刻みこまれた線の数と位置によって識別する線刻文字で、これは現代において最も
新しい文字であるバーコードの起源とも言われています。
主に神官であるドゥルイド達が使用した文字ですが、元々、彼らは口伝によりその秘技や
一族の歴史と系図、王家の年代記、神々や英雄、獣、自然などを讃える伝説を語り継いで
きました。
ウァテス(予言者)とバルド (吟遊詩人)の階級に分かれるドゥルイド(樫の木の賢者)にとり
膨大な量の聖なる歌を暗記することは、そのものが辛く厳しい修行の一つでした。
つまり、本当に需要なことについては記憶という媒体のみにしか残されなかったのです。
しかし、オガム文字には魔力があると信じられていたために、占いや神事の際など
通常の記述以外で使用されました。
石碑に残るものには、家系図を記したものが多くみられます。
オガムの語源は、神話に登場するトゥアハ・デ・ダナーン神族の一人、雄弁の神オグマに
ちなんで名付けられたものです。
ドゥルイドの信仰は、樹木と大変に関わり深いものですが、オガム文字も聖なる樹木と関連
付けられて、全ての「アルファベット」を樹木や植物の呼び名に対応させています。
彼らにとり、言葉と樹木の持つ意味や重要性は同等、もしくはとても近い存在であった
のでしょう。
その後、キリスト教がこの地に入るとともに、ラテン文字が導入され、ドゥルイド達の膨大な
記憶の財産は、修道士達の手を経てようやく書物として後世に残されることになりました。

オガム文字一覧表

  対応樹木 対応樹木(日本) アルファベット 対応月 象徴
Beith (birch) カバ 始まりの月(11月) 新しい始まり,
浄化
Luis (rowan) ナナカマド 2番目の月(12月) 魔法からの守護,
五感のコントロール
Fearn (alder) ハンノキ F,V 3番目の月(1月) 神託,守護
Saille (willow) ヤナギ 4番目の月(2月) 夜のヴィジョン,
月のリズム,
女性性
Nuin (ash) トネリコ 5番目の月(3月) 内と外の世界をつなぐ,マクロコスモスとミクロコスモス
Huathe (hawthorn) サンザシ 6番目の月(4月) 浄化,貞節
守護
Duir (oak) カシ 7番目の月(5月) 謎への入り口,
強さ,守護
Tinne (holly) ヒイラギ 8番目の月(6月) 戦い
Coll (hazel) ハシバミ C,K 9番目の月(7月) 直観
Quert (apple) リンゴ   美の選択
Muin (vine) ブドウ 10番目の月(8月) 予言
Gort (ivy) ツタ 11番目の月(9月) 自分自身の探求
Ngetal (reed) アシ Ng 12番目の月(10月) 行動
Straif (blackthorn) リンボク St, Ss, Z   選択権無し,
浄化
Ruis (elder) ニワトコ 13番目の月(10月の最後の3日) 始まりの終わり,
終わりの始まり
Ailim (silver fir) モミ   よい眺め,見通し
Ohn (furze) ハリエニシダ   収集,おしゃべり
Ur (heather) ヒース   内なるセルフとの
つながり,
全ての癒し
Eadha
(white poplar)
ハコヤナギ   再生への助け,
病をふせぐ
Ioho (yew) イチイ I,J,Y   再生と永劫
Khoad (grove) 木立 Kh,Ch,Ea   聖なる場所,
過去、現在、未来の全ての智恵のある所
Uilleand (honeysuckle) スイカズラ Ui,P,Pe   秘め事
Oir (spindle) マユミ Oi,Th   喜び,
突然のひらめき
Phagos (beech) ブナ Ph,Io   古い知識、古文


参考文献

図説ケルト文化誌  バリ−・カンリフ 蔵持 不三也【監訳】 原書房
ケルト神話の世界  ヤン・ブレキリアン 田中 仁彦;山邑 久仁子【訳】 中央公論新社
ケルトの宗教ドルイディズム 中沢 新一;鶴岡 真弓;月川 和雄【著】 岩波書店 
イメ−ジの博物誌(18)ミステリアス・ケルト〜薄明のヨ−ロッパ〜  
                    ジョン・シャ−キ− 鶴岡真弓【訳】 平凡社 
幻のケルト人  柳宗玄 社会思想社
ケルト人  ヴァンセスラス・クル−タ鶴岡 真弓【訳】 白水社
ケルト人の世界  T.G.E.パウエル;笹田 公明【訳】 東京書籍

[総合」

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文字の歴史  ジャン,G. 矢島 文夫【監訳】   創元社
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