[ルーン文字]
ルーン文字とは、紀元前1〜2世紀頃から14世紀、もしくは17世紀あたりまで、
ゲルマン民族の間で使用された一種のアルファベットです。
その最初の第1ルーンから第6ルーンまでの音価 f u p(th) a r k
からフサルクとも
呼ばれています。
その発生のルーツに関しては諸説あり、いまだ謎が多く解明されていませんが
「北イタリア説」「ラテン文字説」「ギリシャ文字説」などが有力とされています。
ルーンの語源は、古代ゲルマン語の「吠える」「唸る」という言葉にあるとされています。
その後、スカンジナビア語で「秘密」を意味する「ルン」やゴート語で「秘密」「ささやく」を
意味する「ルナ」に、さらに英語の「ルーン」、ドイツ語の「ルーネン」に変化していきました。
その使用地域は、スカンジナビア半島を中心に北はアイスランド、南は一部ですが
ドイツにまで広がります。
その使用地域の広さと年代から、ルーンには幾つもの種類がありますが
大きく分けて2種類、8世紀まで使用された24文字から成る旧ルーンとよばれるもの、
9世紀ごろから使用された、16文字から成る新ルーンです。
さらに、それらは3種類に大別されます。
まず、最も古くて他の2つの原形となったのが、「ゲルマン・ルーン」です。
これは先にも述べた通り、24文字から成り、その最初の6文字−futhark−を取って
「フサルク」と呼ばれています。
この24文字は、8文字ずつの「アエティール」と呼ばれる3つの組に分けられ、それぞれ
にはフレイヤ・ヘイムワズ・ディワズという北欧の神々の名が与えられています。
占いやファンタジーで馴染みの深いものが、このルーンでしょう。
次に「アングロサクソン・ルーン」は5〜12世紀にイギリスで使用され、
これは元々は28文字で構成されていましたが、その後33文字にまで変化しました。
主にブリテン島に残されている碑文に多く使われています。
そして「スカンジナビア・ルーン」です。
これは16文字で構成され、その名のとおり、スカンジナビア半島一帯で使用され
発展したルーンです。
数の上では、石碑やその他に刻まれて現代まで最も多く残されているのが、
この「スカンジナビア・ルーン」です。
スカンジナビアでは独自のルーン文字が生まれる約8世紀まで標準ゲルマンルーン文字
が使用されました。
しかし音声の変化とともに標準ゲルマンルーン文字はその姿を変化することになったの
です。
その変化は標準の24文字を減らしg、w、e、p、e、ng、o、dを消滅させ16文字に変えました。
ngはn、gの別々に置き換えられ、eはiルーンによって引き継がれたのです。
一般にヴァイキング時代と呼ばれる、8世紀から10世紀、11,12世紀に発達した
このルーンは、またデンマークフサルクとスウェーデン・ノルウェイフサルクに分類されます。
ルーン文字は、一文字ごとが音を表すと同時に固有の意味をもっていました。
つまり我々の使っている漢字と同じく「表意文字」でもあるわけです。
書き方は左から右のものもあれば、その逆のものもあります。
ルーンというと、石碑に刻まれた碑文や、魔術的な意味合いのものが中心と思われがち
ですが、中世の人々にとっては、もっと一般的な文字であったようです。
材料が腐敗しやすかったり、教会の保護をうけることがなかったために、これらの存在が
確認できませんが、詩や碑文、占いなどの他にも一般文書・法的文書にも使われていた事は
確かなようです。
ゴットランドのルーン石碑には、同一の文を<学識ある者のために>小文字のラテン語で、
<無学の者のために>ルーンによるゴットランド語で書かれたものがあります。
もちろん、これらのルーン文字は、神々への祈りや神々からの神託を記すのに使われた他、
聖なる力を持つものとして魔術的・呪術的な用途に使われていた事も確かです。
現在残されている碑文などを見ると、きちんとした文章というよりも一つの単語だけとか、
あるいはいくつかの単語の羅列や動詞を組み合わせただけの、呪文のようなものも多く
見られます。
このように、北欧の人々にとっては生活に根ざすとともに、信仰の上でも欠かすことの出来ない
ルーン文字でしたが、11世紀以降になると、キリスト教会が北欧の神々に対する信仰を
異教として弾圧を始めます。
その結果、ルーン文字さえも禁止の対象とし、ルーン文字は徐々にその姿を人々の間から
消してゆき、失われた文字となりました。
ゲルマン・ルーン 一覧表
| ルーン | 名称 | アルファベット | 象徴 | 意味 | |
| フ レ イ ア |
フェオ(feoh) | F | 家畜 | 豊かさと発展 | |
| ウル(ur) | U | 野生牛 | 荒荒しい力 | ||
| ソーン(thorn) | TH | 氷の悪魔 | 試練と忍耐 | ||
| アンスール/オス (ansur)(os) | A/O | 神 | 保護の力 | ||
| ラド (rad) | R | 車輪 | 旅、発展 | ||
| ケン (ken) | K | たいまつの炎 | 知性の力、光 | ||
| ギューフ(geofu) | G | 贈り物 | 愛、人間関係 | ||
| ウィン(wynn) | W | 栄光 | 潜在的な力 | ||
| ヘ イ ム ダ ル |
ハガル(hagall) | H | 氷、冬 | 沈黙、障害 | |
| ニイド(nied) | N | 必要性 | 火急時の力 | ||
| イス(is) | I | 槍 | 争い、権力 | ||
| ヤラ(jara) | Y | 一年 | 実りの年 | ||
| ユル(yr) | E/I | イチイの木 | 制限、必要悪 | ||
| ペオー(peorth) | P | ダイスカップ | ハプニング | ||
| エオロー(eolh) | Z | 鹿 | 保護、友情 | ||
| シゲル(sigel) | S | 太陽 | 生命力、健康 | ||
| テ ィ ワ ズ |
ティール(tir) | T | 戦いの神 | 勝利、勇気 | |
| ベオーク(beorc) | B | カバの木 | 母性、豊かさ | ||
| エオー(eoh) | E | 双子の神 | コミュニケーション | ||
| マン (mann) | M | 人間 | 自我意識、自己主張 | ||
| ラーグ(lagu) | L | 水 | 状況の変化 | ||
| イング(ing) | Ng | 豊穣の神 | 魅力、性 | ||
| オセル(othel) | O | 遺産 | 遺伝、伝統 | ||
| ダエグ(daeg) | D | 一日 | 終わりと始まり |
ル−ン文字
R.I.ペ−ジ;菅原 邦城【訳】 学芸書林
北欧の言語 エリアス・ヴェセーン;菅原邦城【訳】 東海大学出版会
古代北欧の宗教と神話 フォルケ・ストレム;菅原邦城【訳】 人文書院
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