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【ふくい老舗物語】

デジタル映写機 衝撃  テアトルサンク参事 伊藤雅秀さん

2013年2月4日

映画館の思い出を語る伊藤雅秀参事=いずれも福井市のテアトルサンクで

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映画館

 今まで見てきた中で、最も客入りのあった映画は、「もののけ姫」だった。立ち見席までぎゅうぎゅう詰めなのに、さらに一階まで人でいっぱい。「どうしていいのか分からなくなった。何が起きているんだ、という感じ」。福井市中央一丁目の映画館「テアトルサンク」の参事、伊藤雅秀さん(52)が思い出を振り返る姿は、本当に楽しそうだ。

 県内では最も古くから映画興行を行っている映画館。伊藤さんは、チケット売り場のベテラン女性職員に次ぐ古株だ。映画館としては、アニメ映画から人気の海外映画、高齢世代でも楽しめる映画まで幅広いジャンルを上映している。

 少年時代、映画は好きだったが、映画少年とまではいえなかった。本格的にのめりこんだのは高校時代から。北陸高校で映画研究部に入ったのがきっかけだった。詳しい先輩からいろいろと教えてもらい、卒業後の一九八三(昭和五十八)年に入社した。

 映画館での仕事は、多種多様にわたる。チケット販売、飲食販売、人員配置計画、会計…。「映画館に関わるほとんどすべて」の仕事に携わり、「夢中で働いてきて、気が付けばこんなに年月が過ぎていたかな」と振り返る。

現在活躍するデジタル映写機の横で役目を終えたフィルム映写機(手前)

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 たくさんの思い出がある。特に、二〇〇九年末のデジタル映写機の導入は衝撃的だった。「まさか映画館からフィルムがなくなってしまうなんて、考えたこともなかったから」。映画「アバター」の公開に合わせて導入。「大丈夫かなと思っていたけど、画像を一目見て『明るいな』と思った」という。

 今ではすべての映画をデジタル映写機で上映している。「操作も楽。昔は大変だった」。というのは、導入前は一本の重さ三十キロのフィルムを持って、五つあるスクリーンの各映写室に移動しないといけなかったから。体力勝負だった。

 入社したてのフィルムの時代。当時のフィルムは上映中によく切れた。映写係の人が、テープを張って修復していた。見る人もフィルム切れがあることは承知しており、修復されるのをじっと待つ、おおらかな時代だった。

 苦い失敗談もある。修復するのに実に十五分もかかった。ある映画の予告編の時だった。切れたフィルムを慌てて修復したら、誤って機械を操作ミス。再度切れてしまった。「焦ったね」と苦笑い。「映画興行はどんどん難しくなっている。これからは、テアトルサンクならではの特色を出していかないと」 (藤共生)

 【あゆみ】1928(昭和3)年に映画興行「福井松竹座」を現在の福井市中央1丁目で開始。徐々に事業を拡大し、「テアトル福井」「福井松竹座」「スカラ座」「ピカデリー」「福井日活」など5館を運営した。1999年に5館を統合して5スクリーンによる「テアトルサンク」にリニューアルした。

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