ウェブロンザプラス

  • 政治・国際
  • 経済・雇用
  • 社会・メディア
  • 科学・環境
  • 文化・エンタメ
西森路代
西森路代

【無料】 「マーガレット」とアイドルの50年(上)――藤井フミヤから木村拓哉、福山雅治まで

2013年05月03日

このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事は購読手続きをしていなくても記事全文がお読みいただけます。全ジャンルパックを購読すれば、WEBRONZA+の全ての記事がお読みいただけます。各ジャンルごとに購読することもできます。

全ジャンルパック(月額700円・税抜)ご購読申し込み ログインする

WEBRONZA+(文化・エンタメ / \250(税抜))を購読する方はこちら

朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

朝日新聞デジタル有料会員の方ならログインするだけ!

「朝日新聞デジタル」を有料購読中の方は、ご利用中のログインIDとパスワードで
WEBRONZAのコンテンツがお楽しみいただけます。

 集英社の少女漫画雑誌、「マーガレット」と「別冊マーガレット」が創刊50周年を迎えたそうだ。

 私は、そのうちの1980年代からの30年くらいの状況しかリアルにはわからないが、数ある少女漫画雑誌の中でも、中高生の間は、断然「マーガレット」派だった。なぜならば、私が小中学生の頃の「別冊マーガレット」は、男性主人公のモデルが、人気バンドのボーカリストだったり、アイドルだったりで、ミーハーにはぴったりの漫画雑誌だったのだ。

 こう聞くと、「え? たまたま、自分の好きなアーティストやアイドルに似たキャラクターがいて、無理やり重ね合わせてたんじゃないの?」と思われる人もいるかもしれない。しかし、そうした傾向があったのは事実である。

 例えば、1980年代に人気を博した、紡木たくの「ホット・ロード」の主人公の春山洋志は藤井フミヤがモデルであり、その後、藤井フミヤがこの漫画を読んでインスパイヤーされて「Jim&Janeの伝説」(1988年)という曲が生まれたというエピソードもある。

 また、いくえみ陵の「I LOVE HER」のモデルは奥田民生だと言われていて、その後もいくえみ綾が奥田民生の名曲を漫画でトリビュートした作品集「スカイウォーカー」をヤングサンデーコミックスから発売したりしている。

 一方、当時の女子たちも、チェッカーズやユニコーンのファンだったりして、本当に漫画の中のキャラクターと自分の好きなアイドルやアーティストを重ね合わせて読んでいた人も多かったのだ。

 この2作品以外にも、聖千秋の「右手に嘘左手に愛」は吉川晃司がモデル、くらもちふさこの「ハリウッド・ゲーム」や「東京のカサノバ」は、しょこたんこと中川翔子の父親である中川勝彦がモデルだった。また、くらもちふさこの漫画には、芸能界を舞台にしたものが非常に多かった。

 このように、1980年代からの「別冊マーガレット」の漫画は、漫画家が自分の好きなアーティストやアイドルからイマジネーションを膨らませて描かれたものが多かったのだ。

 この背景には、当時の芸能界の状況が密接に関わっている。1980年代前半には、チェッカーズや吉川晃司などの、アイドルとミュージシャンの中間のような存在の芸能人が登場した。その人気は絶大で、チェッカーズは4週連続で3曲のシングルがベスト10入りを果たすほどだったのだ。

 その人気に目を付けて創刊されたのが「PATi PATi」だったが、この雑誌が創刊されたのは、チェッカーズをアイドルと捉えた「GB」が、チェッカーズを取り扱わない方針だったため、アイドルとアーティストの中間の彼らを新しく取り扱う雑誌としてチェッカーズを表紙に迎えて創刊されたのだった。

 残念ながら「PATi PATi」は2014年1月号をもって休刊することが発表されたが(以後はウエブ化)、創刊当時は、チェッカーズ人気とともに絶大で、「別冊マーガレット」の漫画家たちをも魅了していたのだ。

 アイドル・アーティストが「マーガレット」の男性主人公のモデルだった時代に続いてやってきたのは、アイドルと「マーガレット」との融合の時代だった。

 1980年代は、チェッカーズの藤井フミヤや吉川晃司、ユニコーンの奥田民生など、ミュージシャンをアイドル視する漫画家が、彼らをモデルにしてヒット作を生んでいた「マーガレット」だったが、1990年代に入ると純粋にアイドルがモデルになった作品が増えていく。

 代表的なのは、山田也の「キッシーズ」である。この漫画は、ヒロインの家の隣にアイドルが住んでいて、ひょんなことからヒロインがアイドルとの共同生活を始めるというストーリーである。実は当時、公言はされていなかったが、読者たちは、この男性主人公たちのモデルは人気上昇中のSMAPだなと思いながら読んでいたのだ。

 そして、この「キッシーズ」と同時期に「週刊マーガレット」に連載されていたのが、今や日本だけでなく、アジア中で大ヒット作となった「花より男子」(1992年〜2004年)であった。

 この「花より男子」の道明寺司のモデルは、映画「ヘザース/ベロニカの熱い日」のクリスチャン・スレーターだと作者の神尾葉子は公言している。花沢類にはモデルがいるとは語られていないが、神尾葉子はとくに、日本のアイドルをモデルにして描いたわけではなかっただろう。

 しかし、この「花より男子」のCDブックなるものが1993年に公式に発売されたとき、花沢類の声を担当したのは、なんとSMAPの木村拓哉だった。漫画は、アイドルをモデルに描かれる妄想のものだったのが、このときに、漫画はアイドルが実際に演じて音源化、映像化するものに変わったのだ。その後、「マーガレット」の漫画は、アイドルを生みだすものへと変化していくことになる(このことについては、<下>で詳しく説明する)。

 この「花より男子」のほか、1990年代の「マーガレット」の代表的作品には、「イタズラなKiss」(1990年〜1999年)がある。

 この作品の主人公の入江直樹にも、実はモデルがいる。1999年に事故のために急逝した多田かおるさんの夫の西川さんによると、それは福山雅治であるという。福山がドラマで冷たい医師役をしていたのを見て、インスピレーションを受けたのだそうだ。

 そして、この「花より男子」「イタズラなKiss」という作品は、マーガレットだけでなく、アジアのラブ・コメディ・ドラマの歴史を変えた作品にもなった。

 1980年代まで、少女漫画が原作のドラマは非常に少なかった。70年代に、忠津陽子「美人はいかが?」や、花村えい子の「霧の中の少女」(ともに「週刊マーガレット」連載)が、1980年代にも「生徒諸君」「陽当たり良好!」「花のあすか組」、そして「白鳥麗子でございます!」などがドラマ化されていたが、ほとんど少女漫画が原作のドラマが制作されることはなかった。

 しかし、1990年代前半からは、BE・LOVEの「悪女」や、りぼんの「お父さんは心配性」、mimiの「出会った頃の君でいて」、YOUの「ぽっかぽか」など、徐々にドラマ化が増えていき、1990年代後半には、一年に数本の割合で少女漫画原作のドラマが制作されていく。

 そして、マーガレット原作の「イタズラなKiss」は1996年にドラマ化、「花より男子」は1997年に映画化されることとなる。

 その後、1990年代は、特に「マーガレット」のラブ・コメディが数多くドラマ化されることにはならなかったのだが、実は2000年代に入り、主に台湾を皮切りに、この2作品が多大なる影響力を持つようになるのだ。(つづく)

プロフィール

西森路代(にしもり・みちよ)

フリーライター。1972年生まれ。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般について執筆中。著書に『K−POPがアジアを制覇する』(原書房)がある。

関連記事