カメルーンのMFジョエル・マティプのタックルを受け、痛がるブラジルのFWネイマール Agence France-Presse/Getty Images

 サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会では素晴らしい試合が続いているが、よく聞かれる不満の1つは、選手が大げさに痛がるのに費やす時間が多いことだ。

 元気そうに見える選手が試合中、苦痛のあまりピッチに倒れ込むことがあまりにも頻繁に起こっている。彼らは悲鳴を上げたり、顔をしかめたり、拳を芝に打ち付けたりし、スタッフに担架を要求するしぐさをする。粉砕機に挟まっていたのをやっと抜いたかのように手足をつかんでいたりする場合もある。

 あたかも選手生命も終わりかと思われるような場面でも、しばらくすると担架の上で起き上がり、けがなどしていなかったかのように立ち上がってピッチに戻り、プレーを続けている。

 W杯のファンは、これが最も広く軽蔑されている最古の戦術の1つにすぎないことを知っている。ちょっとしたファウルをスカラ座での死の演技のように装うことで、相手選手への警告を引き出したり、時間を稼いだり、疲れたチームメートに一息つかせたりできる。ただW杯に関して興味深いのは、全代表チームが同じではないということだ。常に大げさに装うチームとほとんどそれをしないチームがある。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは今大会32試合の録画ビデオで包括的な実証調査を行い、「選手が倒れ込む回数が最も多いW杯出場国はどこか」を特定した。

 最初の32試合について、試合中に苦痛でのたうち回ったり、胎児のような格好をしたり、気絶してピッチに横たわったりした選手は302人いた。その間審判はプレーを中断させており、その時間は合計132分。われわれはこれを「身もだえ時間」と呼ぶことにした。

 とはいえ、プレー中に負傷することは実際にあり得る。頭と頭がぶつかったり、膝腱(しつけん)が切れたり、軟組織をスパイクで踏まれたりすることはある。試合中に交代を余儀なくされたり、次の試合の欠場が決まっていたり、欠場する可能性がある選手は全部で9人。これらを除外すると大げさに装っていた可能性があるケースは293件で、その時間は合計118分21秒になる。

 身もだえ時間の算出方法については、(負傷の可能性があるとして)笛が吹かれた瞬間から選手が立ち上がった時までとした。プレーを再開する様子がテレビカメラに映し出されていた場合は、立ち上がった瞬間は概算し、ピッチからいったん出た場合は、サイドラインを超えたときまでとした。

 調査の結果、明確に分かったことが1つある。選手の演技時間の長さと得点には強い相関性がある。「負傷者」のうち負けそうなチームの選手は延べ40人で、その身もだえ時間は約12.5分だった。しかし、「負傷者」のうち勝ちそうなチーム、すなわち時間稼ぎする動機が最もあるチームの選手は延べ103人で、その身もだえ時間は約4倍に上った。

 それではいよいよ、われわれが選んだ初の国際サッカー負傷演技賞の部門別「受賞者」を発表する。

最も身もだえする選手が多かったチーム:ブラジル

 2試合でブラジル代表選手が苦痛で倒れ込んだ回数は17と全代表チームで最も多かった。今大会の看板選手ネイマールはそうした「負傷」が5回とチーム最多。いずれの場合も15秒以内に立ち上がっていた。

最も身もだえ時間が多かったチーム:ホンジュラス

 ピッチに倒れていたり、トレーナーに手当てされていたりした時間が最も多かったのがホンジュラス。正確には7分40秒だ。当然ながら、そのうち5分10秒がフランス戦前半の引き分けの時間帯のものだ(ホンジュラスにとっては引き分ければ十分だった)。

最も我慢強かったチーム:ボスニア・ヘルツェゴビナ

 W杯初出場のボスニア・ヘルツェゴビナがこの戦術を理解していたなかったのは明らかだ。2試合で「負傷」した選手はわずか2人で、身もだえ時間は合計24秒。

1試合の「負傷者」が最も多かったチーム:チリ

 スペイン戦で序盤のリードを守り切ったチリだが、この試合での「負傷者」数は合計11人。他の24チームが2試合で出した負傷者数よりも多い。

最も速く「負傷」した選手:エクアドル代表エンネル・バレンシア

 ホンジュラス戦でバレンシアは4秒後にはピッチに倒れて足をかかえていた。

最も担架を悪用した選手:5人が同時受賞

 これまでの試合中に担架で運ばれた9人のうち、5人が90秒以内にピッチに戻っていた。

32試合での各チームの「負傷者」数と「身もだえ時間」合計