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「残業代ゼロ制度」の年収要件は1千万円から下がる可能性があるのか~民主党・山井和則議員質疑書き起こし

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24日政府による新たな成長戦略が発表された。その中では、労働の生産性を高めることを目的に、労働時間ではなく成果によって報酬が決まる新たな「労働時間制度」を創設を目指し、来年の通常国会をめどに必要な法整備を図るとされている。この“新たな労働時間制度”をめぐっては、国会内でどのような議論があったのだろうか。6月16日の決算行政監視委員会における民主党・山井和則氏の質疑の模様を書き起こしでお伝えする。この中では、新たな労働時間制度の対象者の要件が問題とされた。(※可読性を考慮して表現を少し整えてあります。)

安倍総理「希望しない人には適用しない」

山井和則議員(以下、山井):私からは決算とも関連しまして、この度の成長戦略。そして、その目玉についてのご質問を安倍総理にさせていただきたいと思います。安倍総理にはすべて質問通告をさせていただきましたので、総理の答弁をお願いを申し上げます。

今回、成長戦略について、5月1日ロンドンで安倍総理は講演をされました。こちらのフリップにございますように有名な講演ですね。「労働改革と年金運用改革をドリルの歯となってやっていく」と。どんな改革をするのかなと思いましたら、ここに書いてありますように、「労働の制度は新しい時代の新しい働き方にあわせ、見直しを進めます。これをドリルの歯は最大速度で回転しています」。

このドリルの歯を最大速度で回転して、この労働改革をしていくと。具体的に、どういうことかと思いましたら、「残業代ゼロ制度」、別名「ホワイトカラー・エグゼプション」。安倍総理が第一次安倍政権で行われようとして、頓挫をしたのがこの残業代ゼロ制度でございました。

簡単にご説明をさせていただきますと、残業代は管理職には払われておりません。管理職以外の一般社員には、労働基準法によりまして、残業代が払われているわけでございます。しかし、今回の残業代ゼロ制度というのは、一般社員であっても残業代をゼロにしていくという、そういう制度でありまして、この制度、今年収が1000万以上とかいろいろ議論が出ておりますが、ドンドンこの年収要件が下がって拡大していってしまうのではないかと、私は心配をしております。

実際、今日も配布資料に書きましたけれども7年前、第一次安倍政権で取り組まれた時は、日本経団連が年収400万円以上ということを要望されたわけですね。400万以上。ところが、最終的に年収900万円以上で、なんとかやろうとしたと。しかし、次の資料にありますように、2007年1月16日に決定があったわけですね。「現段階で国民の理解が得られていると思えない」という風に安倍総理が述べられて、この残業代ゼロ案というのは7年前に一度安倍総理が断念をされたわけです。

そして、今回下に産経新聞も配布資料でありますけれど、「対象は年収は1千万以上、残業代ゼロ、関係閣僚が合意」。産経新聞の6月12日の朝刊に記事が出ております。そこで安倍総理にお伺いしたんですが、7年前、第一次安倍政権でこの残業代ゼロ、ホワイトカラー・エグゼプションができなかった。今回、成長戦略の目玉としてやろうとされている。7年前に頓挫した残業代ゼロ制度と今回の残業代ゼロ制度。どのように違うのでしょうか?

安倍総理:(以下、安倍)そもそも、まず委員は「残業代ゼロ」と、そういうレッテルを貼っていますよね。さすがに、そのレッテルにもちょっと自信がないので、クエスチョンマークをつけているようなんですけれども、そういう考えでは、まったく考え方が異なるわけでありまして。

創造的な仕事と能力をもった方々を「どれだけ長く働いたか」ということで評価することが適切だとはいえないわけでありまして、日本人の創造性を解き放って、付加価値を高めていくためには、残業代という概念がないような時間で働く。そういう人々がですね、そういう世帯で成果をあげていく。あがった成果に対して評価をしていくことが大切であります。

極めてクリエイティブな仕事をしている人たちにとっては、いわば時間という制約ではなくて、そういうひらめきが起こった、集中的に仕事をしていくわけでありまして、そこで結果を出していくということになります。それが短時間で成果が上がる場合もあるわけであります。そして、さらにですね私から「希望しない人には適用しない」。そもそも希望しない人には適用されないんです。そして、対象は「職務の範囲が明確で、高い職業能力を持つ人材」に限定をします。それ以外の一般の勤労者の方々は対象にしません。そして、働き方の選択によって賃金の下がることがないようにしっかりと手当てをしてまいります。それをした上で検討するように、関係閣僚に対して、指示をしたところであります。

今のご説明をするとですね、最初山井議員が話された時に、「大変なことが始るのかな」と思った多くの方がご安心をしていただいたのではないかと。

そこで私の目指す労働改革はですね、子育て・介護などの事情を抱える方、高度な専門性を持つプロフェッショナルな方など、様々な方が柔軟に働き方を選べるようにするものであります。現在、政府内部で検討を進めているところでありまして、今後与党とも協議を行いまして、成長戦略の改定に向けてしっかりと方向性を出していきたい。その上において、制度の詳細について、今後関係審議会において検討を行うこととしているところでありますが、いずれにいたしましても労働環境は大きく変わったわけでありまして、春闘で直近10年間で最高水準の賃上げを実現をし、ボーナスにおいても過去30年間で最高の伸び率。有効求人倍率は、政権を取って以来17ヶ月連続で改善をしているわけであります。

その中におきまして、使用者側も、いい環境、いい賃金を提供しなければ、だんだん人が集まってこなくなっているという状況ができつつあるということも申し添えておきたいと思います。

山井:最初に申し上げますが、今日配布資料にも書いてありますが、私だけが残業代ゼロと呼んでいるわけではなく、朝日新聞でも産経新聞でもそういう風に報道をされているということを申し上げたいと思います。そして、また安倍総理は「本人が希望しないとこの制度の対象にならない」と言いますが、幹部候補生などが対象になると言われていますが、やはりですね、上司や会社側から、「こういう制度、将来の幹部であるあなたにやってほしい」と言われたら、なかなか本人は断れない。そういうものだという風に、私は思います。

おまけにですね、安倍総理。今、私が質問したことに結局お答えになりませんでしたね。7年前には、「現段階で国民の理解が得られていると思えない」といって断念をされたんです。この制度、ホワイトカラーエグゼプション、残業代ゼロ制度。今回とどう違うんですか?

安倍:前回もですね、その制度自体が悪かったのかどうかということよりも、残念ながら理解が得られていなかったということであります。そして、もう既に山井委員がご指摘になったようにですね、今回1千万以上ということでございますし、そしてまた国民の理解を得る上において、今こういう機会も与えていただいておりますので、「本人が、そもそも了解をしなければ、適用にならない」ということも含めて、今条件を明示させていただいたところでございます。そういうことも含めてですね、国民の皆様に対する理解を進めていくことが、これからは充分に可能ではないかと、こう考えている次第でございます。その点が、7年前とは大きく違うというところでございます。

年収要件が1千万から、800万、600万と下がることがあるのか

山井:それは7年前でも、本人の了解が必要なのは、そんなことは当たり前だと私は思いますし、結局7年前は900万円以上で失敗したから、今回は1千万以上なのかということかという風に思います。

これについては経団連の方からは、少なくとも10%程度の方を対象にしてほしいと。そういう要望が来ているわけであります。少なくとも全労働者の一割は対象に、という風に経団連の会長はおっしゃっておられます。ということは、全労働者5千万人おられますから、1割と言う事は500万人ぐらい対象にするようにということが要望されております。 さらに7年前の要望でも400万円以上というのが、経団連の要望でありました。そこで安倍総理にお伺いしたいんですが、これですね、今1千万円以上ということを安倍総理はおっしゃいましたけれど、これはずっと1千万円以上なんですか?それともこの制度導入して、何年かたったら800万円、600万円という風に年収要件下がる可能性あるんですか?

田村厚生労働大臣:(以下、田村)今、総理からお話がありましたとおりですね、成長戦略の改訂版にですね、載せる検討を今いたしております。これ骨格決まってまいりましたら制度設計するわけでありまして、制度設計の中で少なくとも1千万以上というような言い方をしておりますけれども。妥当な、つまり今委員がおっしゃられたとおり、例えば労働者が納得しなくたって、そう迫られたらそうせざる得ないじゃないかといわれましたが、そのような交渉力のある方、そのような金額というのはどれぐらい給料だろうか。

あわせて申し上げれば、先程以前のホワイトカラーエグゼプションと一緒じゃないかといわれましたが、これに関してはですね、以前のはまさに自己管理型の労働制。課長さんのこと言われましたよね、労働時間を自分で管理できる。そういうような視点から前回は提案をさせていただいたわけでありますが、今回は成果を評価する。

労働時間を計るのではなくて、成果を評価する働き方。こういう方々に限定をいたしておりますので、おのずから変わってくるわけでございます。そういうところを含めてですね、交渉力のある。そういう年収、こういうものを一つ設定してまいりたい。詳細決まった上でですね、その後もいろんなことを形を示してまいりたい。このように考えております。

山井:安倍総理、質問通告もしておりますので、安倍総理からもお答えください。ここは重要なところです。なぜならば国民にとっては1千万円以上の方だけの話なのか、導入時はそうだけど、将来的に800万円、600万円と年収要件が下がってくるかは非常に重要な問題ですから、安倍総理お答えください。

田村:今から、まず金額については話し合って決めていきます。その後に関しましては、経済状況もいろいろと変わってまいります。先程も申し上げました。交渉力のある年収はいくらであるか。そういうことを勘案してですね、その後に関していろんな議論をしていくということであります。

山井:安倍総理、逃げないでください。質問通告もしっかりしてあります。この年収要件は下がる可能性はあるんですか?

安倍:これは担当大臣がいるんですから。あなたが聞いているのは事実関係でしょ?(山井:違います。総理の考えを聞いているんです)。私の考えというよりも厚生労働大臣がお答えしていることが事実ですよ。厚生労働大臣が話しているんですから。ですから、“交渉力のある”ということで現在では1千万円ですよ。つまり、これは段々ですね、今この労働市場もタイトになっている中において、かつ1千万円以上であればですね、企業にとって、その人材は絶対に必要なんですよ。つまり、そういう人材が必要な中で、「あなたはどういう働き方がいいですか」という選択をして。そういう時代なんですよ。

山井さんもちょっとですね、考え方がだいぶ古いですよね。はっきりと申し上げまして、新しい時代でグローバルな中で勝ち抜いていかなければいけない。企業も勝ち抜いていかなければ雇用も確保できないんですよ。よって、国民にとってもしっかりと収入の場が確保できないという中にあるわけですね。その中で今、大臣がお答えをしたように現時点では1千万円というのが目安になるわけでございまして。

経済というのは生き物ですから、これはですね、我々今デフレ脱却が出来ましたから、デフレ脱却は出来ていませんが、“デフレではない”という状況をつくりました。デフレ脱却をしてですね、完全に。だんだん物価安定目標に向かってですね、ちゃんと進んでいけばですね、1千万円がだんだん状況としては上がっていくということになります。しかし、逆にですね、世界経済が大きく変化する中においてですね、これはいわばお金の価値がまた変わってくれば、それは当然そういうことが起こるわけでありますが。いずれにいたしましても、今ポイントはですね、大臣がお答えをしたように、いわばそのしっかりと交渉をする、交渉力を持つ金額ということで今、答弁をさせていただいたとおりでございます。

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