2014.06.26
「ナッジ」という“魔法”を知っていますか?

こんにちは、ヨーロッパ班の松村です。きのう発売したばかりのクーリエ・ジャポン8月号では、特集『「先が読める人」の流儀』を担当しました。世界的ベストセラーになった『ブラック・スワン』の著者であるナシーム・ニコラス・タレブや、ドローンの可能性にいち早く目をつけたクリス・アンダーソン、革新的なシステムやプロダクトを次々と生み出すナイキやIBMなど、先見の明のある人々や企業はいったいどんな方法で「これからの世界」を読んでいるのか──。皆様が将来を考える際にもきっと役立つ記事が満載なので、ぜひ、一度手に取ってみてください。

36-37

さて、みなさんは「ナッジ(nudge)」という言葉をご存知ですか? これは「ヒジで軽く突く」という意味の英語ですが、行動経済学の分野では「科学的分析に基づいて、人間に『正しい行動』をとらせようとする戦略」として知られています。

「人間は常に合理的な判断を下す存在である」と、経済学では長らく見なされてきましたが、行動経済学の研究者はそうは考えません。たとえば、次のような状況を想像してみてください。あなたが1000円を渡されて、「いくらかAさんにあげるならば、残ったお金は全部あなたのものだ」と言われるとします。ただしAさんは、すべての事情を知ったうえで、あなたからのお金を「受け取らない」という選択をとることができ、その場合はあなたもAさんも一銭ももらえません。さて、あなたはいくらAさんにお金をあげようとしますか?

Aさんにしてみれば、突然ふって湧いたお金なのだから、いくらであれ受け取るだろう。そのほうが、もらえないよりはマシなのだから。あなたはそう考えて、100円か200円をあげようとするかもしれません。でも、実際に実験を行ってみると、あなたが半額をあげないかぎり、Aさんは「フェアじゃない」と感じて受け取らない可能性が高いそうです。つまり、人は往々にして、経済的合理性に反した行動をとるというわけです。

また、ここでちょっとした算数問題に挑戦してみてください。下記の文章を読んで、その問いにできるだけ早く答えてください。

英国のとあるパブでは、「フィッシュ&チップス」が2.90ポンドで売られています。また、「フィッシュ」の値段は、「チップス」の値段よりも2ポンド高いそうです。では、セット割引などがないとすると、「チップス」の値段はいくらでしょうか?

「0.90ポンド」と答えた人も多いと思いますが、残念ながら不正解です。正解は「0.45ポンド」。ゆっくり考えれば、わかりますよね。でも、人間は日常的な物事や問題に対しては、直感的で素早い思考をする傾向があるそう。だから、こうした間違いをよくおかしてしまいがちなのです。

人間は、経済的に不合理な判断を下したり、直感的に素早い思考をしたりする──この傾向を先読みしたうえで「人を『正しい行動』に導こう」とするのが、始めに紹介した「ナッジ」です。ナッジ戦略は、欧米の公共政策にも広く取り入れられていて、例えば「自動車のスピード違反防止運動」や「省エネ政策」などで活用されているそう。

では、実際にどんなことをして、人をナッジするのか。その詳しい内容については、ぜひ特集の「行動経済学で人の心を操る現代の魔法『ナッジ』とは何か?」という記事を読んでいただければと思いますが、最後にひとつだけ、「計画作成効果」を利用したナッジを紹介させてください。

例えば、選挙の投票率を上げたいときは、有権者に電話して「明日は何時に投票所に行きますか? 家か職場か、どちらから行きますか? 電車か徒歩か、どちらで行きますか?」などと計画を詳細に尋ねることが有効だと、さまざまなナッジ研究から分かっています。とるべき行動を具体的にイメージすることで、実際にその行動を起こす可能性が高まるそうなんです。ということで……最後の最後に質問をもうひとつ。

明日は、どこでクーリエ最新号を手に取ってみますか? 通勤・通学前のコンビニで、それともアフター5の書店ですか?

コメントをどうぞ

コメントは送っていただいてから公開されるまで数日かかる場合があります。
また、明らかな事実誤認、個人に対する誹謗中傷のコメントは表示いたしません。
ご了承をお願いいたします。

Facebook
PAGE TOP