1995年に記録されたスティーブ・ジョブズの幻のインタビュー動画が発見されました。Appleに復帰する前年で、まだWebが本格的に利用されていない時期に、ジョブズはネット社会の到来を的確に予言。Web上によってパソコンがコミュニケーションの手段となること、さらにeコマースの隆盛、スタートアップ企業の出現なども見通しています。(この動画は2013年に公開されたものです)
【スピーカー】
ITジャーナリスト ロバート・クリンジリー 氏
アップル社創業者 スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs) 氏
【動画もぜひご覧ください!】
映画「スティーブ・ジョブズ 1995~失われたインタビュー~ 」特別映像
1995年、当時40歳のスティーブ・ジョブズへ行われた幻のインタビュー
ロバート・クリンジリー氏(以下、クリンジリー):ロバート・クリンジリーです。テレビシリーズ『Nerd(オタク)たちの勝利』を制作中の1995年、私はスティーブ・ジョブズにインタビューしました。彼はその10年前にアップル社を去っています。自分が引き抜いたCEOジョン・スカリーとの激しい確執が原因でした。
インタビュー当時、彼はアップル社辞職後に創業したニッチ企業のNeXT社を率いていました。そのわずか1年半後、NeXT社をアップル社に売却し、古巣の実権を再び握ることになろうとは、夢にも思っていませんでした。番組で使われたのは、インタビュー映像のごく一部のみです。さらに、マスターテープが1990年代にロンドンから米国に輸送中に紛失し、長年この映像は失われた存在でした。
しかし数日前、当時の監督ポール・センが、コピーしたVHSテープをガレージで発見したのです。数少ないジョブズのインタビュー映像の中で、この映像は彼のカリスマ性、率直さ、ヴィジョンを余すところなく伝えています。この偉人を称え、全映像をご覧に入れましょう。大半が初公開の秘蔵映像です。
資産は25歳で100億円以上、しかし「金儲けについては考えなかった」
(以下、当時のインタビュー)
クリンジリー:それにしても、Apple II(1977年発売)の成功は驚異的だったね。アップル社は急成長し、株式公開を経て、君たちは財を成した。大富豪になった気分は?
スティーブ・ジョブズ氏(以下、ジョブズ):興味深い体験だったよ。22歳で資産は100万ドル以上あり、24歳になると1,000万ドル、25歳で1億ドルを超えた。でも、そんなことは重要じゃない。お金が目的じゃなかったからね。確かにお金は素晴らしい。資金があれば、短期的に儲けが出ない事業にも投資できたりなど可能性が広がるからね。
だがあの時の私にとって、一番大切なのは会社であり、社員や自社の製品だった。この製品を使うことで人々が何をできるかとかね。金儲けについてはあまり考えなかった。株だって売らなかったし。会社は将来必ず成功する、と確信していたんだ。
(途中カット)
スカリーが陥った病とは?
ジョブズ:そうだな。アップル社にとって大きな痛手だったのは、私が会社を去った後、(ジョン・)スカリー(元CEO)が深刻な病に侵されたことだ。同じ病気にかかった人を見てきたが、彼らは優れたアイディアさえ出せば、作業の90%はできたも同然だと考える。そして「素晴らしいアイディアが浮かんだ」と差し出せば、あとは社員が具体化してくれる、と思い込むんだ。
しかし、素晴らしいアイディアから優れた製品を生み出すためには、大変な職人技の積み重ねが必要だ。それに、製品に発展させる中でアイディアは変容し、成長する。当初とはまるで違ったものになる。詳細を詰める過程で多くを学ぶし、大きく妥協することも必要になってくるからね。
電子、プラスチック、ガラス、それぞれにできることとできないことがある。工場やロボットだってそうだ。だから製品をデザインする時には、頭の中で一度に5,000ものことを考えることになる。欲しいものを手に入れるためには、大量のコンセプトや、新たな方法をいろいろ試して組み合わせる。毎日が新たな問題や発見の連続で、その度に全体を組み直す。そういったプロセスがマジックを生むんだ。
アイデアはぶつかり合うことで「美しい石」になる
確かに、初期のアップル社は素晴らしいアイディアにあふれていた。だが、目標を信じて突き進むチームと言えば、思い出すのは、子どもの頃、近所に住んでいた老人のことだ。妻に先立たれた80代の男性で、一見怖そうな感じだった。私は芝刈りのバイトか何かで彼と知り合いになった。
ある日、「ガレージに来い。おもしろいものを見せてやる」と言われて、古い研磨機を見せられたんだ。モーターとコーヒー缶をバンドで繋いだものさ。それから裏庭に出て、一緒に石を集めた。ごくありきたりの石だった。彼は石をいくつか缶に入れ、液体と研磨剤を加えた。缶にふたをしてモーターを動かすと「明日また来い」と言うんだ。缶の中で石が激しく音を立てていたよ。
翌日彼を訪ね、缶を開けてみると、驚くほど美しく磨かれた石が出てきたんだ。缶に入れた時はただの石だったのに、石と石がこすれ合うことで摩擦や騒音はあるが、美しく磨き上がる。私にとっては、この体験こそが、情熱をかけて目標に取り組むチームの象徴なんだ。
卓越した才能を持つ者が集まって、ぶつかり合い、時には議論を戦わせ、ケンカし、主張する。そうやって互いに切磋琢磨し合い、アイディアが磨かれ、美しい石となる。説明するのが難しいが、1人の力ではないんだ。人はシンボルを求める。だから、私はシンボルにされているが、実際、Macの開発はチームの努力の結果だ。
ジョブズ流マネジメント「間違えることは気にしない。最終的に正しい決断を下せばいい」
ジョブズ:真に優秀な人というのは、自分でもそのことを自覚している。だから、自尊心をくすぐってやる必要はない。何よりも大事なのは仕事をこなすことだ、とわかっているんだ。全体の中で自分の役割を確実に果たすことが求められる。
真に優秀で頼れる人に対してこちらができることは、彼らの努力が足りない時にきちんと指摘してやることだ。理由を明確にして説明し、軌道修正を促してやるのさ。彼らの能力を疑っているように思わせてはいけない。だが、その仕事に関してはチームの目標に貢献できていない、と悟らせる必要がある。簡単ではないね。
それでも、私はいつもはっきりと伝えてきた。これまで共に働いてきた優秀な人たちに聞いてみてくれれば、それが有益だったと言うはずだ。もちろん、耐えられないって人もいたけどね。
だが、私は自分が正しいかにこだわらないタイプでね。こだわるのは、成功だけさ。多くの人が知っているが、私は何かを強く主張していても、反対の証拠を見せられた5分後には、180度意見を変えていた。そういう性格なんだ。間違えることは気にしない。実際、私はよく間違うが、気にしていない。大事なのは、最終的に正しい決断を下すことさ。
ネット社会の到来を予見した、1995年時点の予言
クリンジリー:君が開発中の技術は、10年後にはどうなっているだろう? ヴィジョンを聞かせてくれないか。
ジョブズ:注目すべきはインターネットとWebだね。今、ソフトでもハードでも、この業界で熱いのは、オブジェクト指向とWebだ。Webはものすごく刺激的だ。コンピュータが単なる計算機から脱却し、コミュニケーションの手段となる、という私たちの夢が実現するんだ。Webのおかげで、それが可能になりつつある。しかもマイクロソフト社の所有じゃないから、イノベーションが期待できる。だから、Webは今後の社会に多大な影響を与えるだろうね。
現在の米国では、商品とサービスの約15%がカタログやテレビを通じて販売されている。それがWebに移行したら、インターネットショッピングはすぐに何十億ドル、何百億ドルという規模に成長するだろう。顧客に直接販売が可能な究極のルートだよ。それにWeb上では、世界一小さな企業も世界一の大企業と肩を並べることができるんだ。
だから10年先の未来から今を振り返った時、Webの登場がコンピューターの社会的重要性を確立したとして、テクノロジーの歴史に刻まれていると思うんだ。Webはこれから大きく成長する。パソコンの世界に驚くべき変化を引き起こし、新しい命を吹き込んだ。とにかくすごいことになるよ。
音楽、詩、歴史–芸術的素養を持つエンジニアがMacを作った
ジョブズ:子どもの頃、Scientific Americanという雑誌である記事を読んだんだ。地上の様々な動物の移動効率を計測したもので、クマやチンパンジー、アナグマ、鳥や魚などが載っていた。1キロあたりの消費カロリーをヒトも含めて比較していて、1位を獲得したのはコンドルだった。万物の霊長のはずのヒトはふるわず、下から3分の1あたり。
だが誰がひらめいたのか、自転車に乗ったヒトも測ってみたら、コンドルなんて目じゃなかった。この記事に私は強い衝撃を受けたのを覚えている。人間は道具を作る動物だ。道具によって、生まれ持った能力を劇的に増幅できるんだ。アップル社の最初期には「パソコンは脳の自転車」と広告を出したことすらある。
将来、歴史を振り返ってみた時に、人類が発明したものの中で、コンピュータが一番かそれに近い重要性を持つだろう。私はそう確信している。我々が生み出した史上最高の道具だよ。私は本当に幸運だと思う。この発明品の創成期と言える今の時代に、シリコンバレーという絶好の土地に身を置くことができるのだからね。
例えばロケットでも、打ち上げの段階で方向を少し修正すれば、宇宙に何マイルも飛ぶようになるんだ。コンピュータも今はまだその初期段階だから、正しい方向に動かせばもっと良いものになるはず。進化していくにつれてね。今までにも何度かそういう機会があったが、非常な満足感を覚えたよ。
クリンジリー:でも、正しい方向を見定めるには?
ジョブズ:それは……結局、センスの問題だろう。人類が生み出してきた優れたものに触れて、自分のしていることに取り入れるんだ。ピカソが言ったように、「優れた芸術家は模倣するが、偉大な芸術家は盗む」さ。私たちは良いアイデアを恥じることなく盗んできた。
Macが素晴らしい製品になった理由の1つは、開発チームが音楽や詩、芸術、動物学、歴史に通じていて、しかも世界最高のコンピューターの知識を持っていたからだ。コンピューターのない時代なら、別の分野で活躍していただろう。
彼らは非常にリベラル・アーツ的な雰囲気でMac開発に臨んだ。リベラル・アーツ的な、ジャンルにとらわれないクリエイティブな姿勢で、別分野で触れた最高のものをMacに注ぎこんだんだ。視野が狭いとそんなふうにはいかないだろう。
優秀な人にとって、コンピュータは手段でしかない
ジョブズ:私がともに仕事をした真に優秀な人々は、コンピュータを作るのが目的とは思っていない。手段になるから作っているだけだ。他の人と共有したい感情を伝える、最も有効な媒体がコンピューターなんだ。わかるだろうか?
クリンジリー:ああ。
ジョブズ:コンピュータが生まれる前だったら別の人生を歩んでいただろうが、彼らはコンピュータと出会い、アップル社にやってきた。学生時代に、あるいはその前から興味を持っていたからだ。「自分の言いたいことが、この機械なら表現できるかもしれない」ってね。
(エピローグ)
このインタビューが行われた翌年の1996年、ジョブズはNeXT社をアップル社に売却。倒産まで90日の崖っぷちにあった古巣を再び率いることになった。そしてアメリカ史に残る企業再生に着手。iMacやiPod、iTunesやiPhone、iPad、Apple Storeといった革新的な製品を武器に、破綻寸前のアップル社を時価総額米国トップの企業へと導いた。インタビューの中で彼が言ったように、「誰もがより優れたもので育つように」まさに最高のものを広めたと言える。