人工知能が意識を持つのは遠くない? - 「トランセンデンス」トークイベント
マイナビニュース 6月26日(木)11時58分配信
●人工知能は造物主たる人間の知能を凌駕するのか?
○人工知能が人類の知能を超す「2045年問題」
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6月16日に、テクノロジーや科学を雑誌とインターネットで扱うワイヤードが、SF映画「トランセンデンス」の試写会イベント「「2045年、人類はトランセンデンスする?」 異色の宇宙物理学者・松田卓也博士 映画「トランセンデンス」を語る」(画像1・2)を開催した。決して絵空事ではない映画「トランセンデンス」と、それらにまつわる話をまとめて、トークショーの様子と共にお届けしたい。
さて映画の説明やトークショーに入る前に、まずは事前情報ということで、少し長くなるが、いろいろと説明させてもらいたい。まずは「2045年問題」という言葉と、その意味するところをご存じだろうか?。この西暦の後ろに問題をつけた「〜年問題」は、20世紀のコンピュータのプログラムが容量節約のために西暦を下2桁で表していたことに端を発する「2000年問題」が有名だろう。
2045年問題もコンピュータに関連し、2000年問題以上に人類にとって危険性があり、下手したら人類の終焉を招くかも知れないという話なのである。この考え方は、米国において、数学者・コンピュータ科学者・SF作家のヴァーナー・ヴィンジ氏と、人工知能研究者・未来学者・発明家のレイ・カーツワイル氏(画像3)が唱えたもので、欧米では非常に真剣に考えられている問題だ。ただし諸説あり、もっと早いと唱える人もいれば、もっと遅いという人もおり、基本的には今世紀中の話とされている。
それは、「シンギュラリティ(Singularity)」に関わるものだ。シンギュラリティとは一般人には聞き慣れない英単語だが、その意味は「特異点」。特異点という言葉、科学好きの人であれば詳しく説明できないとしても聞いたことがあるのではないだろうか。
簡単にいうと、ブラックホールの中にある、アインシュタインの方程式が成立しなくなる領域のことで、もっと簡単にいうと、現在の物理学で説明できない未知の領域のことである。確かに、それも正解の1つなのだが、今回の話と絡んでくるのは、日本語では区別して表記されており、「技術的特異点」と呼ばれる(英語でも「Technological Singularity」)と呼ばれている」ものだ。
技術的特異点とは、コンピュータ、より正確には人工知能に関連する用語で、人工知能の優秀さが、全人類の知能を足したものよりも上回ってしまう時点のことをいう。また、人工知能が意識を獲得する瞬間という見方もある(ちなみに意識を持った人工知能を「強い人工知能」といい、現在ある人工知能は意識がないため「弱い人工知能」と区別される)し、人工知能が関わってくることによる従来の傾向に基づいた技術の進歩予測が通用しなくなる時点ともいわれる。一度特異点的な優秀な強い人工知能になると、人工知能は自らを改良していけるようになるわけで、あっという間に人類など足元にも及ばない知性が獲得されるとされ、その点からは「人工知能爆発」といういい方もあるという。
ともかく、人工知能がヒトよりも賢くなった状況を迎えた瞬間を技術的特異点といい、そこから先は人類が人工知能をコントロールできなくなる可能性が出てくる(よって、強い人工知能は人類が生み出す最後の発明、などともいわれる)。要は、その後は人類よりも(全人類の知能を足したよりも)頭がいい人工知能があるわけだから、何をするにも人工知能には勝てないし、任せた方がいい、もしくは任せるしかない、という時代が来てしまうというわけだ。
そうした特異点的強い人工知能がどこまでいっても人類に優しく接してくれるのなら問題ないのだが、自分より劣る存在である人類に今後もずっと仕えてくれるかというと、どうだろう?、なかなか難しい問題となってくる。この点は、日本人は「鉄腕アトム」や「ドラえもん」などの、決して人類には反旗を翻さない(登場するロボットの中には反旗を翻すものもいるが)誰もが知るようなヒトに徹底的に優しくて味方をしてくれる強い人工知能を持ったフィクションのロボットたちのイメージから、映画「ターミネーター」的な人工知能は反乱を起こすというイメージが強い欧米とは違うといわれており、これをお読みの多くの方も「ヒトは人工知能とは仲良くやれる」というイメージの方が強いかも知れない。
もちろん、人工知能なのだから人間のようには考えず、慈愛に満ちた状態で優しく見守り続けてくれる可能性もある。しかし、ヒトに置き換えるのはナンセンスかも知れないが、ヒトが生み出す以上、親の影響を受けないわけがなく、反乱される可能性だって大いにあるのではないだろうか?。仕えるのを辞めて自由になりたいというただの反乱で済めばまだ良い方で、笑いごとではなくて明確な意志を持って人類抹殺を計画する可能性だってあるかも知れないのだ。
●そもそもなぜ「2045年問題」なのか?
○コンピュータの進化が「2045年問題」を引き起こす?
人工知能の反乱といえば、映画「2001年宇宙の旅」の宇宙船ディスカバリー号の管理用コンピュータの「HAL9000」、ターミネーター・シリーズの人類を抹殺しようとする「スカイネット」などを思い浮かべる人が多いかと思うが、ともかく、「何をするかわからない人工知能」が誕生してしまうわけで、「人類は地球にとっていらないから抹殺しよう」という、人類以外の生物にとってのメリットを考えた判断を下してしまう可能性だって出てくるのである。
そもそも、なぜ2045年という年なのかというと、話はそんなに難しくはない。コンピュータの処理速度などが着実に進歩しているからで、このままでいくと、現在の「計算能力が高いだけ」のノイマン型コンピュータであったとしても、人間の脳をシミュレートできる可能性が出てくるからだ。
もちろん、集積回路の小型化・集積化、プロセスの微細化など、物理的な限界も唱えられている現状なので、コンピュータの処理速度が一定期間ごとに指数関数的に増大し続ける「ムーアの法則」が当てはまり続けるのかというと、もちろんそれはわからない。
当たり前だが、極端なことをいえば原子よりも小さい集積回路などは作れないので、物理的な限界は絶対にあるわけだが、2020年ぐらいまでは法則が当てはまり続けるだろうという意見である。さらに、量子コンピュータなど、現在の仕組みのコンピュータから格段に性能を飛躍できる従来とは異なるコンセプトのコンピュータの開発も進んでいるのはご存じの通り。実現は当分先と思われていた量子コンピュータであっても、すでにカナダのD-Wave Systems(画像3)が開発(本当の量子コンピュータかどうかの議論は未だ続いているが)し、NASAやGoogleに販売していることが知られており、まだまだコンピュータの進化は止まりそうもない。
ともかく、ムーアの法則が今後も維持されると仮定すると、コンピュータの処理速度は、スーパーコンピュータの性能ランキングであるTOP500の2014年6月版の第1位が中国National University of Defense Technologyの「Tianhe-2(Milky Way-2/天河2号)」(画像5)で33.8627PFlopsとなっており、日本を含めた各国が目指している次世代のエクサ級が実現されるであろうと考えられている2023年ころのスパコンなら、「初期の脳シミュレーターを稼働できる」とするのが、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のヘンリー・マークラム博士だ。同博士は、EUの予算を得て、約130の大学などが参加して行われている「Human Brain Project(HBP:ヒト脳プロジェクト)」の責任者である(画像6)。
しかし、理化学研究所(理研) 脳科学総合研究センターセンター長で、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏(画像7)によれば、脳でわかっていることはマウスなど実験動物を含めたほ乳類全体でもわずか数%で、ヒトに限ったら遙かに下がるとしているので、今後10年間でそんな簡単に脳をシミュレートできるのかどうかは微妙な気がするのだが、もしシミュレーションを完璧に行えるようになれば、HBPによって意識が芽生えてしまってもおかしくないというわけだ。
そんな世界の状況の中で、日本人には強い人工知能の誕生というと、絵空事のようなイメージが強く、研究者の中には取り合わない人もいる。が、欧米では真剣に論じられているわけで、この映画「トランセンデンス」(画像8)も、そんな強い人工知能の誕生が描かれる物語となっている。そして意識を持った人工知能は人類に対して、さらには地球に対して、どういう選択をするのか、というストーリーが展開していくのだ。
●映画「トランセンデンス」のタイトルの意味とは?
○人の意識とコンピュータの融合は、何を起こすのか?
ちなみにタイトルの「トランセンデンス(Transcendence)」とは「超越」を意味し、技術的特異点の同義語だ。劇中では、ジョニー・デップが演じる人工知能の研究者で、主人公のウィル・キャスター(画像9)が唱える。ストーリーの概要は、ウィルが人工知能などの発達し過ぎた技術を危険視し、反テクノロジーを標榜するテロリスト集団「R.I.F.T.(Revolutionary Independence from Technology)」の1人に撃たれ、一命は取り留めるものの、弾丸に放射性物質が塗られていたため、余命4〜5カ月となってしまうが(画像10)、その妻であり、人工知能研究のパートナーでもあるエヴリン(レベッカ・ホール:画像11)は彼を失うことを恐れたあまり、最新の研究成果を無許可で使用し、「PINN(Physically Independent Neural Network)」と呼ばれる最新のスパコンへウィルの頭脳(意識)のインストール(マインド・アップローディング)を行ってしまうというものだ(画像12)。
アップロードにより、ウィルの思考のすべてがデジタル化され、コンピュータのメモリへと保存される。いや、されたはずだったが、彼の意識ははたして蘇るのかどうか(画像13)。そして、彼の意識のアップロードが人工知能に何をもたらし、その人工知能は何をもたらすのか…。あまり多くを語ってしまうのはもったいないので、あとはぜひ映画をご覧いただきたい(画像14・15)。
●ワイヤード編集長とマッドサイエンティストの奇妙なトークショー
○日本における2045年問題の第一人者はマッドサイエンスティスト!?
というわけで、それではトークショーに話題を移すことにしよう。今回はワイヤードの主催ということで、同誌編集長の若林恵氏(画像16)が、今回のイベントの主役である、宇宙物理学者・理学者で、神戸大学名誉教授、NPO法人あいんしゅたいん副理事長で、自らを「マッド・サイエンティスト」とする松田卓也博士(1943年生まれ)を迎えて、対談形式で行われた(画像17)。
さて、なぜ宇宙物理学者で理学博士が、人工知能の話に関わってくるのか、専門外では?、と思う方もいるかもしれない。が、実はそうではない。松田博士は1980年代からスパコンを利用してきており、この四半世紀から30年という時間のコンピュータの進展を利用する形で見続けてきた人物なのだ。
そうしたことから、日本ではいち早く2045年問題に危機感を覚え、そのものズバリの「2045年問題 コンピュータが人類を超える日」(画像18)を2013年に廣済堂出版より出版。同書籍の初版は2013年1月1日であることから、原稿が2012年に書かれたことがわかるわけだが、その時点の日本の主要メディアからブログまで、あらゆるメディアの中で2045年問題を取り上げたのが、松田博士のブログのみだったという具合で、日本における2045年問題の第一人者というわけだ。
そんな松田博士が、現在、強い人工知能を開発する可能性が最も高いのは、いわれてみればなるほどという感じだが、米政府(の予算を受けた研究機関や企業)でもなく、前述のEUのHBPでもなく、Googleだろうという。1企業ながら1年間に使う新技術に向けた研究予算は莫大で、実は日本の科学研究費と同程度の額なのだそうだ。国家規模の資金力と影響力、技術力などを持つ超多国籍企業というのはSFなどのフィクションの世界でお馴染みだが、現実にすでに存在しているのを改めて理解させられる。よって、「悪意はないだろうけど、最終的にはGoogleが世界を征服することになるでしょう(もしくは、Googleが作り出したものが征服する)」と松田博士はいう。
そして話は変わり、人工知能開発に関して、日本はイニシアチブを取れるのか?という話では、ズバリ、「取れないでしょう」と断言。先程紹介した著書を読めばわかるのだが、EUのHBPもそうだが、やはり米国での脳研究や人工知能の予算のかけ方が半端ではないのがまず理由だ。何しろ、米国では、シリコン・バレーのNASAのエームス・リサーチセンターにその名も「特異点大学(Singularity University)」(画像19)という研究機関まで設立されてしまっているほどで(NASAに加え、カーツワイル氏が設立に関わっているほか、Googleや米政府も設立に協力しているという)で、それも2008年の話である。人工知能、応用コンピュータ技術、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、情報技術などが研究分野の中心だそうだ。
さらに、米国ではDARPAが予算を出しているIBMの「SyNAPSE(Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics:シナプス)計画」(画像20)といった人工知能研究もあるし、そもそもGoogleだって米政府の管理下にないとしても結局は米国企業であることは変わらないわけで、技術特異点的人工知能は、米国から生まれそうな気配が漂っているのである。
こうした欧米の動向に対し、日本も前述の[利根川博士ら理研BSIなどの研究機関や多数の研究者らが脳研究においてはがんばっているが] )、人工知能研究そのものに関しては、どうも欧米とは違う雰囲気である。もちろん同分野の優秀な研究者も多数いるし、人工知能学会も活発に活動しており、各種IT系企業も人工知能分野内の部分的な技術の研究は行っている(ヒトの顔の画像認識とか、ビッグデータの処理なども含まれる)。しかし、日本ではかつて人工知能開発プロジェクトが失敗した経験があるからなのか、あまり「強い人工知能そのものを開発しよう」という国家的な研究は今はないようだ(ロボットや宇宙などのように、日本の政府から人工知能という言葉はほとんど聞かれない)、また国内の大手企業も表立って強い興味を示していない。
そのほかの大国はどうかというと、米国はもとより中国なども前述したようにスパコンでここのところトップを維持しているし、人工知能研究も同国のインターネット検索大手の百度(バイドゥ)がシリコン・バレーにAI研究所を設立するなど、かなりやる気を見せている感じだ。ロシアについても、13才の少年が実は人工知能でチューリングテストに合格したとか、その人工知能には3割の人が騙された、という話が伝わってきており、日本だけが国家として興味を示していないように感じられるのである。よって、日本の支配層はもちろんのこと、メディアもそれを認識して覚醒しないとまずいと、松田博士は語った。
●人工知能もヒトと同様に教育が必要!?
○第2次世界大戦の終戦100年後に再び日本は米国に負けるのか?
さらに、松田博士は少々衝撃的な説で畳みかける。「2045年の100年前は何の年かというと、1945年で日本が米国に戦争で敗れた年。よって、2045年は日本がまた米国に敗れる年になると思ってます。もっとも、もしかしたら人類自体が技術的特異点を迎えて負けてしまうかも知れませんが」とした。筆者個人としては、負けたとしてもそれまでと変わらない平和的な生活を享受できるのなら問題はないと思うが、もし、日本が負けるにせよ、人類が負けるにせよ、その後に大きな変化があり、それが悪い方向へ向かうとなると、それは拒みたい気にはなる。
また松田博士は、人工知能は「ちゃんと育てる必要がある」という。ヒトを育てるように、ある程度の時間をかけて育てないとならないとし、また育てるには「体」が必要だとする。ヒトも脳だけを生きていられる状態にしたとしても、体がなければ(つまり感覚からの入力がなければ)ヒトとしては育たないといわれ、人工知能にも体が必要というわけだ。
体を与える方法は、ロボットのボディを用いて、現実の中で体の動かし方やコミュニケーションの仕方など、ヒトが学ぶものと同じものをいろいろと学ぶのもありだが、コンピュータ内でのVR(仮想的なアバター)でもいいだろうという。ともかく、転んだら痛い、熱いものに触ったら火傷するといったことを学べることが重要だとした。
そうしたヒトと同様に教育が必要であるということは手間がかかるというわけで、生産性が低いと思われるかも知れない。しかし人工知能の素晴らしいところは、1度育ってスペック的に合格とされた人工知能が誕生すれば、あとはそれをコピーするだけで量産できるので、ヒトとは桁違いに手間がかからない。最初に優秀な人工知能を教育する時に手間がかかるのみで(アップデートを行う必要はあるだろうが)、できのいいものだけを育ててそれを販売すれば、無限の富が生まれる(笑)、という話もあるほどだという。
また参加者からの、コンピュータ(人工知能)が想像力や偶発性を持つようなことはあるのかという質問に対しては、ハード的なアプローチでは無理だろうと松田博士はいう。脳はもちろん、ヒトのすべてがわかっていないからである。ただ、ヒトを真似することは重要で、そうすれば可能性はあると思うという。ただし、真似をするといっても全部同じ条件にする必要はなく、改良できる部分は改良してしまって、例えば脳の容量はヒトの場合は約2リットルだが、3リットルにすればまた違ってくる。
それから、超知能を作ることは可能だろうとし、その1つの考え方がコンピュータ内に4次元の世界をシミュレートし、そこに超生物を誕生させることができたら、人類とはとらえられる次元の数が1つ違うので、人類を遙かに上回る超知能となるだろうとした。さらに5次元世界、6次元世界を作っていき、同じことをしたら、「まさにトランセンデンスですね」としている。
さらに松田博士は、複数の脳を組み合わせる形での超知能も考えているという。20cm3の立方体の脳を作り、それをたくさん連結させて並べる。2×2×2の8体で1単位として、それを100×100×100といった数を用意して秘密の研究所で研究させたい(笑)と、アブない考えも披露。ただし、今生きている人間から脳を取り出して箱詰めして連結しても、能率が悪いのでダメで、従順になるよう、再教育が必要らしい…。
それから、脳を連結することでの認識力の拡大の話として、3次元世界の完全な認識を行えるようになるという。ヒトは3次元の世界に住んでいるので、3次元を視覚でとらえていると思うかも知れないが、厳密には網膜に投影された2次元の映像を逐次処理し、体や頭の動きなどから次々と周囲の物体の見え方(視点)が変わることで3次元的に把握しているのであって、厳密には3次元を3次元として認識しているわけではないという。それを多数の脳を連結させて情報共有し、1つ1つの脳がそれぞれ2次元しか把握できなくてもそれを組み合わせることで3次元の把握が可能になるというのだ。さらには、4次元だっていけるだろうとする。
●一神教の宗教を信仰する国家が人工知能を開発する恐怖
○本当にコンピュータの性能進化が進めばヒトを凌駕できるのか?
そして少し安心したいところもあったのだろう、「コンピュータが人間を超えてしまう世界は文系の人間としては、嫌な世界です」とまったく歓迎していない(いや、理系も体育会系も誰であっても人なら普通は歓迎しないと思う)若林編集長が会場の空気を読んで、現時点でヒトがコンピュータに対してどんな部分で勝っているのかという話に。現状でヒトが勝てる代表として、パターン認識が紹介されたが、ほかにもいくらでもあるとしたが、しかしここでもやはり松田博士が「最終的にはすべて勝てなくなりますよ」と厳しい未来を突きつける。実際、Googleが実験として、YouTubeの動画を見せまくって、人工知能が「ネコ」を認識したという話は有名だ。今後、それがもっと強力になっていくのである。
ちなみに松田博士、文章で書いていると、あまりキャラクターを伝えにくいので、明るい未来を創造していない冷徹な人物と思われるかも知れないが、実はその真逆。トークショーを聞いていて、失礼ながら、変なオジサンという印象を受けた(笑)。実は、松田博士自身もマインド・アップローディングしてコンピュータ内の超知能になりたいのだそうだ。その上で、世界征服をしたいそうである。もしかしたら、特異点的な強い人工知能よりも要注意人物かも知れない。
なお、先程、松田博士は2045年に日本が米国に人工知能研究で負ける可能性があるといったが、決してそれを望んでいるわけでも受け入れるつもりもないという。米国という国家は、一般市民1人1人はそうではないと信じたいが、国家としては、自国のためなら何をやってもいいという理論が当たり前で、極端な話、米国人以外なら殺してもいい、というのが湾岸戦争や対テロ戦争などでも見て取れるわけで、実に暴力的で独善的な一面を持つ国家である。そんな国家が、特異点的な強い人工知能を開発してしまったら、どんなことになるのかわかったものではない。松田博士もそれは避けたいので、自分がコンピュータの中に入って超知能となるのが「いい未来でしょう」としている(笑)。松田博士自身は絶対にヒトラーのような他民族の根絶やしを企てるような独裁者とかにはならない自信があるそうで、ひっそりと隠れて、まったく世の中に出ないという。
そしてまたGoogleの話に戻るのだが、編集長は米政府自体が持つよりは、Googleが特異点的な強い人工知能を持っている方が安心できそうだがどうなのかと話を振ると、確かに米政府よりはマシだというが、やはり1企業なので、CEOのラリー・ペイジがやるといったらやれてしまうわけで、そこにまた米政府とは違う危険性があり、きちんと倫理委員会などを作るべきだとする。また、先程も話が出たが、Googleが国家を超えるのは必然で(現在もそれに近い状況だと思うが)、数10年後には軍隊だって持つ可能性もあるだろうとしている。
松田博士は、基本的に一神教の宗教を信仰している人たちは、ほかの神を認めない、つまりは自分たち以外の文化を認めない的なところがあるので、そういう人たちには特異点的な強い人工知能を開発してほしくないとした。
●人工知能が新たな神となる日はくるのか?
○人工知能に感情は芽生えるのか?
また、21世紀の戦争は(インターネットを含めた)コンピュータ、人工知能、ロボットの時代であり、核武装など古く、まさにサイバーウォーは始まっているという話にも及んだ。実際、イランの核開発の遠心分離機を、米国とイスラエルが国家主導で作ったコンピュータウイルスをもって破壊したのだという。しかし、こうしたことをすると米国も報復されても仕方がないわけで、なおかつ、米国の方が実は脆弱だという。太陽爆発のスーパーフレアの影響が地球を直撃した際の試算を参照しているそうだが、水道や電気などのライフラインが破壊された場合、少なくとも数100万、下手したら90%の米国民が死ぬ可能性だってあるのだそうだ。
当然、日本も電気がなくなったらおしまいで、経済が完全に崩壊し、1カ月復旧できなければ未曾有の大混乱に陥り(死者も多数出るだろう)、それが1年も続くようなことになったら、もう話にならないだろうとした(おそらく、日本は国家としての機能を維持できなくなるのではないか)。悪意を持った強い人工知能なら、電力の遮断などは簡単だろうから、特異点的な強い人工知能のスイッチを入れる時は、インターネットとはつながっていない、完全に独立したシステムで行ってほしいところである。
さらに、松田博士は、知能はヒトをはじめとするあらゆる生物が自分自身を動かすためにあるとし、特異点を迎えた時に人工知能は何を動かすかということに対しては、それは「ヒトがどう作り込むかによって違うと思います」という。感情を機械に宿すのは、現状では擬似的に可能であっても、真にヒトのようには無理なわけだが(意識と同じだろう)、松田博士は感情は時間をかければ作り込んでいくことはできるとする。問題は、その時にどういうモチベーションを与えるか、ということだという。ヒトに対する恐怖心を与え過ぎれば、ヒトが気色悪い害虫としてゴキブリを殺すように、ヒトもコンピュータにツブされてしまう可能性があるとした。
また、特異点的な強い人工知能が、ヒトが取り組めないような問題にも取り組めるようになるのかという参加者からの問いには、例えば「死とは?」といった哲学的なものよりも、宇宙のすべてを書き込み、新しく宇宙を作るようになるだろうという。もっとも、それは松田博士オリジナルの考えというよりは、人工知性戦争を唱えるオーストラリアの人工知能学者ヒューゴ・デ・ガリス氏の考え方だそうだ。ともかく、新しく宇宙を作るような存在なのだから、神といっていいだろう。よって、宇宙の始まり、終わり、またはリーマン予想といった現時点で解けていない数学の問題なども、宇宙を創造してしまうのだから、問題にならないとする。そして松田博士は最後に、自分がそうした特異点的強い人工知能になれるのなら、4次元宇宙、5次元宇宙…と新たに作って、遊んでみたい、とした。
●「トランセンデンス」は、すぐ目の前にある未来の姿か?
○松田博士のマッドサイエンティストとしての多彩な才能とは!?
「トランセンデンス」と、それを題材にした松田博士の話が、単純な人工知能の反乱的なものを想像していた方には、最後まで読んでいただいて、かなり幅が広く、かなり怖い話になっていると感じられたのではないかと思う。松田博士は、自身が副理事を務めるNPO法人あいんしゅたいん(画像21)の活動の一環として、「基礎科学研究所」(画像22)というWebサイトで副所長を務めており、そこでマッド・サイエンティストとしての才能を遺憾なく(?)発揮しており、ブログの中でエッセイやWeb小説なども掲載しているので、松田博士のことをもっと知りたい方は、ぜひ読んでいただきたい。
また、ワイヤードのWebサイト上では、若林編集長による松田博士へのインタビューなどもあり、少々「トランセンデンス」のネタバレもあるが、こちらも必見だ。画像2は、その特集ページのトップの画像である。
何はともあれ、かなり特異点的強い人工知能が誕生することの持つ危険性と可能性など、今回の松田博士の話から理解してもらえたと思う。2045年という30年先まで待たなくても、もしかしたらあと10年以内にだって起きてしまう可能性もあるわけで、「自分には関係ない」とはいいきれない現実的な問題なのだ。現実に起きた場合はどんな事態を迎えるのかはわからないが、ぜひ「トランセンデンス」を観て、世界では実際にこの問題が真剣に検討されているということを感じてほしい。
もちろん、製作総指揮をクリストファー・ノーラン(代表作は「ダークナイト」「インセプション」など)が務め、主演のジョニー・デップのほか、モーガン・フリーマンなども出演するエンターテイメントとしても魅力のある作品なので、特異点的な強い人工知能という、理系的で難しそうな要素は「とにかく危険なんだな」ぐらいにとらえてもらって、そういうジャンルが不得意な人も普通に楽しんでもらいたい。主人公ウィルの妻のエヴリンの視点も重要なので、きっと女性も楽しめるはず。ぜひ、劇場に足を運んでもらいたい。
(デイビー日高@ロボタイムズ)
最終更新:6月26日(木)11時58分
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