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「IS インフィニット・ストラトス ~黒衣の侍~」
IS学園入学編

十五斬 漢は本当に必要な時に力を使うもんだ

 ←十四斬 漢なら切り札を持っているもんだ →十六斬 漢なら黙って真っ向勝負
 今現在、篠ノ之箒は自らの席で、何でもないような表情と姿勢のまま全力で今飛び交っている噂について考えていた。箒が現在全力で頭を悩ませている噂、それは、現在教室の真ん中辺りに円の隊形で話し合っている女子生徒が話している噂にあった。その中には鈴音とセシリアまで入っている。

「それは本当ですの?」

 少し疑心を抱えたようなセシリアの瞳が一人の女子生徒に突き刺さる。セシリアは両手を腰に手を当て、微妙に呆れた様な目、そんなセシリアにうぐっとたじろぐ女子生徒だが、勢いのまま噂の内容をぶちまける。

「ホントだって、今度の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と付き合える事になってるんだって!」
「その話、本人は知ってますの?」

 セシリアの疑問に、その女子生徒は何故かセシリアの耳元に口を寄せ、小声でセシリアの疑問に答える。

「それだけど、どうも本人は知らないらしくて、女子の間だけの取り決めみたいなの」
「なるほど、そうですか、鈴さん、頑張ってくださいな」
「も、勿論やってやるわよ!」

 顔を赤く染めながらも気合を入れる鈴音に、少し楽しそうに微笑むセシリア、随分と余裕そうなセシリアに女子生徒から疑問が掛かる。

「セシリアはあんまり興味なさそうだね?」
「実際余り興味ありませんから……織斑さんってそんなに人気なんですの?」
「そりゃそうだよ、顔良し、性格良し、運動神経悪くない、これだけ揃ってるんだよ? 人気に決まってるって」
「それは知りませんでしたわ……」

 力説するクラスメイトに若干引き気味に口元を引きつらせるセシリア。

「皆、何の話してるの?」

 そこでひょっこり入ってきたこのクラス三人目の男子生徒、シャルルの声に各々解散の理由を誰ともなく呟きながら解散していく、無論鈴音も一夏の顔を見て顔を赤くしながら、言い訳を始める。

「あ、アタシも自分のクラス戻らなきゃ……」

 そう言ってそそくさと自分のクラスへと帰っていった、その様子に一夏とシャルルは首を傾げるが、既に自分の席に着いていた翔は特に何の反応もなく、授業開始を待っていたが、そこへセシリアから声が掛けられ、一夏、シャルル、セシリア、翔で雑談が授業開始5分前まで続けられる事になる。
 以上の話の流れで分かっていただけたと思うが、つまりはそう言う事。箒は一夏と部屋が分かれた日の夜、自分が学年別トーナメントで優勝したら付き合って欲しいと一夏に言った。それがいつの間にか、学年別トーナメントで優勝すれば、一夏と付き合えるという噂に早変わりしていた。翔達と楽しそうに話す一夏を見て、箒は人知れずため息を吐くが、次の瞬間には気合を入れたように気を取り直す。

(私がトーナメントで優勝すれば何の問題もない事だ……)

 そこで一抹の不安が過ぎる。それは箒自身の過去の事、箒が引っ越した後に起こった、出来事。これは己の師匠も知らず、師匠が知ったならば、叱責は免れない程のものだ。

(私が過去振るった剣は暴力以外の何者でもなかった、信念無き力は只の暴力、それは力ある者がしてはいけない義務であり責任、私はこの言葉を最初に師匠から教わったはずだ……)

 なのに……と拳を握り締める箒、クラスに溢れる喧騒など耳にも入って来ないほど自らが過去に犯してしまった罪を繰り返さないかどうかの不安、それが箒の不安だった。
 そんな箒の不安をよそに、千冬から授業開始の号令が放たれ、今日も一日が始まる。


 本日の授業が終わり、放課後、セシリアはトーナメントに向けて鈴音と模擬戦闘による特訓をすると第三アリーナへと向かい、そうなってしまうと一夏の教官が少なくなってしまうため、シャルルも一夏の特訓に付き合うようにお願いしておいた。そして全員と別行動を取った翔が向かった先、それは、事務室、この間の千冬との約束を果たすために、一度部屋へ戻り、翔自身が買い集めたドリップコーヒーの為の機器を持ち、それを事務室へもって行き、千冬に振舞う。何故事務室なのかと言うと、千冬がそこを指定してきたからだ。
 そして、翔が事務室の扉を潜るとまだ千冬は来ておらず、無音の空間と、幾つかの事務机、ここで息抜きの為にコーヒーを飲む者もいるのか、インスタントのコーヒーと電気ポットが翔を出迎えた。

「ふむ、丁度いい、今の内に準備を済ませてしまおう」

 そう考え、翔は持って来た機器を広げる。機器、と言っても大したものは無い、湯を沸かすための電気ケトル、コーヒーを抽出するためのペーパードリップの道具一式に、コーヒー豆。言ってしまえばこんな物である。まずは、と翔はコーヒーを入れるための道具を入れてきたバッグから、天然水を取り出す、無論、翔は軟水で淹れたコーヒーが好きなので、水は日本の水である。その水を電気ケトルへ注ぎ、それを電気ケトルの台座にセットし、スイッチを入れる。もう後は湯が沸くのを待つしかないのだが、他にも準備しておく事がある。
 とそこで、事務室の扉が開く。勿論入ってきたのは千冬である。先に来て準備をしていた翔に少し驚きながらも声を掛ける。

「待たせてしまったようだな」
「いえ、今湯を沸かそうとしていた所です」

 そうか、と短く返し、事務机の一つにお茶請けなのか、それなりに値段の張りそうなクッキーが入った箱が置かれる。目線で、これは? と千冬に問いかける翔、何を問われているのか千冬も理解したのか、それに対しての答えを翔へ開示する。

「これはな、たまたま偶然、山田先生が持っているのを見かけたわけだ、それはどうしたのかと聞くと、どうも少し奮発しようと思ったらしくそれなりの店で買ったと言っていてな、そこでたまたま私は山田先生がダイエット中だと思い出した私はそれを山田先生に告げた、そうしたら、快く私に譲ってくれてな、いや、私もいい後輩を持ったものだな」

 中々裏の見える答えが返ってきたが、そんな事翔は気にしちゃいない、と言うより、山田教諭はダイエット中か……体重の話はタブーだな、覚えておかねば山田教諭を知らぬ内に傷付けてしまうかもしれん、などと妙な所で気遣いを発揮していた。

「柏木、湯が沸いているようだが?」

 千冬の言葉に、翔がケトルの方に視線を向けると、確かに沸騰したのか、スイッチが切れていた。それを確認した翔は、ケトルを放置し、ドリッパーの準備に取り掛かる。千冬は翔の様子を見ながら、翔がよく観察できる事務机の椅子に腰掛け、翔の手際を見る。見られている事も気にせず、翔はろ過機に置くペーパーを取り出し、底の部分を折り、底を折った方向とは反対方向に側面の片側を折る、そしてペーパーを広げ、ろ過機にセット。そこでコーヒー豆を取り出す。

「キリマンジャロか……」

 コーヒー豆の袋に張られているラベルを見て、確認するような千冬の声に頷く翔。そのドリップ用に細挽きされたキリマンジャロの豆を1カップ、ペーパーの中へ入れ、それを耐熱ガラスのビーカーへ乗せる。

「キリマンジャロならば無難かと思い、もって来たのですが?」
「いや、嫌いなわけではないから、気にするな」
「承知」
「所で、ISの操縦には慣れたか?」

 コーヒーを抽出するのに丁度いい温度になったと判断したのか、電気ケトルを台座から持ち上げ、注ぎ口から線のように細いお湯をコーヒー豆の中心に少し注ぐ、ビーカーへコーヒーが落ちない程度に湿らされたコーヒー豆を見ながら千冬の質問に回答する。

「そうですね、完璧とは言いがたいですが、基本操作は8割方問題ないかと」
「そうか、わからない所があるなら遠慮なく私に聞け」
「承知、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言います」

 30秒ほど置き、またコーヒー豆の中心へとお湯を注ぎ、次はのの字を書くように外側へお湯を注ぎ、ペーパーにお湯が触れない内にお湯を注ぐのをやめ、コーヒー豆の中心が窪まない程度にお湯が落ちた所で同じようにもう一度。

「そうだな、いい心がけだ、いつか私も置いていくのだろうな」
「だとしても、今はまだあなたに教えを請います、それに、俺が織斑教諭の前からいなくなる事など、まずない事です」
「そ、そうか……」

 後はビーカーに目的の量のコーヒーが落ちるまで同じ作業を続けるだけ、そして、それが終わったのか、翔の発言で少し頬が赤くなった千冬を見つつ、今しがた注いだお湯が落ちきる前に、ろ過機をビーカーから外し、受け皿へろ過機を置く。そして、出来上がったコーヒーを二つのカップに注いでいく。

「それに、ここで教鞭を振るう事は結果的に多くの人を守る事に繋がる、ならばその守る術を与えてもらった織斑教諭の前から居なくなるほど不良生徒では無いと自負しています」
「う、うむ、ならばいいんだ……」

 出されたコーヒーに少し砂糖を入れつつ、落ち着こうとしているが、頬の赤みが全く取れていない千冬。翔は特にその様子を気にした気配は無く、自らが淹れたコーヒーに舌鼓を打っている。翔のその反応に若干憮然とした表情になりつつもしっかりコーヒーは飲んでいる千冬。

(私だけ慌てているなど……こいつはいつもそうだ)

 自分を時折慌てさせるくせに、本人は冷静に事を進めている。いつものパターンに何故か悔しくなる。そして魔が差した、いや、後の事を考えると差してしまったというべきか……

「相変わらずうまい、お前の淹れるコーヒーが私は好きだぞ」
「それは良かった、俺も好きですから」

 千冬が自分の発言に失態を覚えた時には既に遅く、翔の発言に目を丸くし、みるみるうちに首から頭まで赤く染まる。食べかけていたクッキーも落としてしまいそうなほどに唇が震えているのが千冬自身でも分かる。千冬をその状況に追い込んだ張本人は千冬が先に食べたので翔もクッキーを静かに口へ運んでいる。先程の発言がその口から放たれたものだと思うと、自然と視線はそこへと集中してしまうが、それを振り払うように、口にあったクッキーを噛み砕き、コーヒーを啜る。

(お、落ち着け、あいつが言ったのはコーヒーの事だ、そう、分かっているんだ、分かっている……よし、私は正常だ、今のは少し油断しただけだ)

 そう心の中で結論付けた時にはコーヒーが無くなっていた。翔はまだ涼しい顔で自らの淹れたコーヒーの批評をしている。次はどんな作戦でいくか……と検討していた千冬だが、そこで千冬の携帯が鳴る。そこには千冬のクラスの副担任、山田真耶の名前、その着信に無言で通話ボタンを押す。

『あ、織斑先生ですか!? 大変なんです! 今第三アリーナで……』
「山田先生……グラウンド10周だ」
『何でですか!?』
「で? 何でしょう?」
『あ、あれ? 撤回してくれないし私の疑問はスルーですか!?』
「で? 何でしょう?」
『……い、今第三アリーナでバリアが破られました』
「そうか……ではすぐに向かう」

 それだけ言い、すぐさま通話を切る。千冬の話していた内容を聞いて大体の話は把握したのか、千冬と共に席を立つ。

「どこかの馬鹿がアリーナのバリアを破ったらしい、手伝ってくれ」
「承知」

 簡潔にやり取りを済ませ、事務室を出る千冬と翔。

(何処の馬鹿者共だ、この私の、私の……)

 言葉にならないほどの憤りを押さえ込み第三アリーナへ向かう、翔は千冬の怒気を受け流しながら、千冬の怒りの原因を考えていたが、答えまで到達しなかったのは当然である。翔との約束を途中で邪魔されたのが原因などと言う答えにたどり着けるほど翔は自意識過剰ではなかった。
 ちなみに、携帯から聞こえて来た恐ろしい千冬の声と、千冬に泣く泣く差し上げたクッキーの事もあって、真耶は地味に涙目になりながら、事務作業をこなしていたのは誰にも知られない事実だったりする。


 第三アリーナ、ここでは先程までセシリアと鈴音の二人と新しく一年一組に来たラウラ・ボーデヴィッヒが模擬戦闘をしており、勝負はほぼ決まっていたが、追撃を止めないラウラを止めるために、一夏が止めに入り、一夏がラウラのISのレールカノンに狙われた瞬間、シャルルがラウラの足止めに入り、その隙にセシリアと鈴音を安全な場所へ避難させ、ラウラが接近戦をシャルルに仕掛けようとした瞬間、一つの声が響き、黒の影がシャルルの目の前に飛び出す。いや、現われる。

「一意専心!」

 周りの景色が追いついた瞬間、シャルルの視界に誰が居るのかようやく理解する。黒い装甲に数多く存在するスラスター、ラウラのプラズマ手刀を止める長大で重厚な刀を持つ人物。

「翔!?」

 そこに居るのが柏木翔だと言う事を認めた瞬間、思わずシャルルの口からその名前が口をつく。そしてシャルルの呼びかけに答えず、状況を確認するため、翔は視線を巡らせる。目の前には憎々しそうに翔を睨みつけるラウラ、そして翔自身の少し右に離れた所に一夏、その後ろにはアリーナの壁に座らされたセシリアと鈴音。二人はそれなりの怪我をしているのか、動きたくても動けない。セシリアは翔が来た事を認識した瞬間、安心したような表情を浮かべ、意識を失う。

「問おう、あの二人をあそこまでしたのはお前か?」
「何か問題があるのか?」

 悪びれも無く是と答えるラウラにも、翔の表情は揺らがない。

「問題は無い、二人がお前よりも弱かった、ただそれだけの事だろう……」
「翔! お前、何を言って……ッ!?」

 翔の冷酷とも取れる言葉にラウラは笑い、一夏は翔へ抗議の言葉を投げかけそうになるが、何かを感じ取ったのか、ビクリと身体を震わせ、後ずさる。

「ならば貴様が口を出す事ではない、違うか?」
「そうか、所でお前は軍人だな?」
「それがどうかしたのか?」

 翔の質問の意図が全く持って分からないと言う様に聞き返すラウラ。

「この国では郷に入らば郷に従えと言う言葉がある、ここはIS学園だ、お前が居た軍ではない」
「……」
「強い力を持つ物が振るう力は暴力であってはならない、当然の事だ、感情に振り回され力を振るうとは、未熟以外の何者でもない」
「わ、私が未熟だと!? この私が……」

 翔の言葉にカッとなったのか声を荒げるラウラだが、その隙を付かれて翔の正宗に身体を押し返される。

「黙れ!! 感情に振り回され力を振るうなど、言語道断!! 言い訳の余地もありはしない!」
「そこまでにしておけ、柏木、小娘の相手は疲れるだろう?」
「きょ、教官……」

 翔の気迫に圧されるラウラだったが、翔の気迫を心地良さそうに受け流しながら近づいてきた千冬に目を見開く。そしてその場は千冬が仕切る。

「模擬戦をやるのは構わん、だが、アリーナのバリアまで破るような自体となれば、教員として、教員として!! 見逃すわけにはいかん!」

 何故か教員である事を強調しながら一夏の方を睨みつける千冬。その視線を受けて、一夏は身を縮こまらせる。内心はそんなに怒らなくても、と思っているが、それを態度に出すと後でひどい事が分かっているので恐縮するだけだ。ちなみに千冬はバリアを破っただけならば厳重注意で済むはずだった事を明記しておこう。

「この決着はトーナメントでつけてもらう」
「教官がそう仰るなら……」

 千冬から告げられた決定に異を唱える事無く従い、ラウラはISを待機状態に戻す。続いて、千冬は一夏とシャルル、そして翔に確認を取る。

「柏木、織斑、デュノアも、いいな?」
「承知」
「はい」
「はい」

 全員の了解が取れた所で、その場は解散となり、翔と一夏はセシリアと鈴音を保健室へ運ぶ事となり、一夏が鈴音を背負い、翔がセシリアを横抱きにして保健室へ向かう。それに付き添っているシャルルと、トーナメントまで私闘を禁じる事を宣言している千冬に、翔がセシリアを抱き上げた時にこれ以上無いほど不満そうで羨ましそうな目線を向けていたが、翔は全く気にしていなかった。


 保健室に着く直前に目を覚ましたセシリアが、状況を把握し、顔を真っ赤にして身体を小さくするような姿勢を取ったり、シャルルが目を覚ましたなら降りたらどうか、などと言って怪我人だからとの理由でシャルルの意見を翔が却下するなどと言った事はあったものの、現在は二人の手当ても済み、二人はいたる所に包帯を巻いていた。

「完敗でしたわ」
「そんな事無いって、助けてもらわなくても勝てたもん……」

 素直に負けを認めるセシリアとばつが悪そうに視線を逸らすが強がる鈴音。対照的な二人にシャルルが苦笑しつつも、二人に飲み物を渡す。

「何で鈴はそう強がるんだよ」
「~~~っ!?」

 そう言って一夏に肩を叩かれた鈴音は声にならない声を上げる。その鈴音の様子に面白そうにクスクス笑うシャルルは鈴音に近づき、鈴音にしか聞こえないような音量でその核心を突く。

「好きな人にかっこ悪い姿見せたくないもんね?」
「ななな、べ、別にアタシはそんなんじゃ……」
「?」

 シャルルの言葉に顔を赤くさせながら否定する鈴音に、何を言ったのか聞き取れなかった一夏は疑問に首を傾げている。

「はぁ……」
「何を落ち込んでいる?」

 セシリアのため息に気が付いた翔が、鈴音と一夏の様子を見ながら声を掛ける。

「いえ、翔さんに格好悪い所を見せてしまいましたわ……」
「何を言う、これでお前はまた一つ成長する、それを格好悪いなどと笑うものか」
「成長、ですか?」
「あぁ、今回新しい物を知っただろう? それを分析し対抗策を考え、実行する、それにより成長できるはずだ」

 負ける事も生きているのならば勉強、そう言うような翔に、最初に翔と戦ったときの事を思い出し、少しおかしそうに笑い、そうですわね、と翔の意見を受け入れるセシリア。それを見て翔も満足そうに頷く。

「まぁ、今日の所は、ゆっくり休め、それと、よく頑張ったな」
「はい……」

 そう言ってセシリアの頬を一つ撫で、いつもよりは柔らかい声音でセシリアを労う、そんな翔にセシリアは、やはり、翔はとてもあたたかい、と再認識していた。と、そこで、保健室に押しかけて来る大量の女子生徒、その手には一枚の紙が握られている。
 いかにも必死、と言った女子生徒達を押し止めながら、事情を聞く事にする。

「皆落ち着け、これは何の騒ぎだ?」
「これ見て、柏木君」

 一人の女子生徒から差し出された紙をざっと読んでみると、トーナメントは二人一組となってのタッグバトルで、当日までに決まらなかったものは学園側が抽選に基づいて決められると言ったような事が書かれている。

「と言う訳で……柏木君私と組も!」
「デュノア君! 私と組んで!」
「織斑君! 一緒に組んで頑張ろう!」

 その騒ぎの中、一夏とシャルルは困ったように苦笑し、どうしようか考えているが、翔は一人冷静に今の状況を考え、自分がどういう行動を起こすのがベストなのか、高速で巡らせていた。

(今、シャルルが女性だと知っているのは俺のみ、ならばシャルルが他の誰かと組むよりも俺と組んだ方がバレる確立は極端に低いか……)

 そう結論を出した時、既に翔の口は動いていた。

「すまないな、皆、俺は既にシャルルとペアを組む事が決まっているのでな」

 それを聞いた女子生徒達は、三人の内二人の男子が候補から消えた事を認識すると、あからさまに肩を落とす。

「そうよね……寮も同じ部屋だしね……」
「でもまだよ!」
「そうよ! まだ織斑君が居るわ!」

 それぐらいではへこたれない女子生徒達は一夏に詰め寄る。一夏はその勢いに明らかに圧されつつある。

「翔! た、助けてくれ!」

 助けを求めてくる一夏に、翔は慈悲溢れる一言を一夏へ送る。

「未熟……」
「こ、このやろー!!」

 その後一夏は一人の女子生徒、名を小波夏乃(さざなみ かの)に名前を書かされ、勝利者となった夏乃は嬉しそうに一夏へ、頑張ろうね! などと声を掛けていた。
そうして、事態も自然に収集し、元の静かな保健室が戻ってくる。その静かな保健室に鈴音の一夏を怒鳴る声が響く。

「ちょっと一夏! 何名前書かされてんのよ!」
「仕方ないだろ……あれをやり過ごせなんて俺にはまだ無理だ……」

 心持ちぐったりした様子の一夏は反論する言葉にも元気が無い。セシリアは、タッグバトルだと知っていれば……と妙に悔しそうにシャルルを見ていた。シャルルに話しかけている翔は現在セシリアに背を向けているが、シャルルとの話が一段落すると、セシリアへ言葉を投げる。

「セシリア、お前はISが手酷く破壊されている故、試合に出る事は出来ないが、見ていろ、本当に前に進む為の力は他人をも前に進ませる事が出来る、お前の手に入れたい強さを、見ていろ」

 力強くセシリアにそう言う翔の背中に、自然と是とセシリアは翔へ向けて答えを返すが、翔の言葉には続きがあった。

「それに、流石にお前等が怪我をしているのを見て、少し頭に来たのも事実だ」

 珍しく真に感情の篭っていない冷たい言葉を吐き出す翔の言葉にセシリアは背筋が凍る感覚に一瞬動きを止めるが、その原因が、セシリアや鈴音にあるとわかった瞬間、セシリアは自分の状況を棚に上げて嬉しそうに笑みを浮かべる。

「そうですか……次は無茶しないようにしますわ」
「そうしてくれ」

 嬉しそうな声音でそう答えるセシリアに、簡潔に答える翔は、シャルルと共に寮へと帰っていった。
 ちなみに鈴音と一夏は未だに一方的な言い合いを続けていた。

「大体一夏はさぁ!」
「勘弁してくれよ……」
「勘弁して欲しいのはこちらの方ですわ……ここは保健室ですのよ?」

 疲れたようにそう呟くセシリアが結局二人を落ち着かせ、一夏を寮へ帰す事になったのは言うまでも無い。


 保健室から、寮の部屋へ戻る道中、シャルルは翔へ言葉を投げかけ、歩みを止めさせる。

「翔、えっと、言い忘れてたけど、さっきは有難う」

 さっき? と首を捻っていた翔だが、しばらくすると思い当たる節があったのか、肩をすくめる。

「気にするな、シャルルが女性だと言う事を隠すには俺と組むのが一番安全だろう」
「そうだけど、でも有難う」

 そう言ってほにゃ、と微笑み、礼を言ってくるシャルルに、ふっ、と笑みを浮かべ、シャルルの礼を受け取る。シャルルにとっては珍しいその笑みに少し見とれながらも、歩き出した翔の後をついていく。


 寮の部屋へ帰ってきた翔とシャルルだったが、問題が一つ浮き上がってきた。最近は意図的に寮の部屋へ帰ってくる時間をずらしていたので発生しなかった問題、着替えと言う問題が発生した。互いに着替えを出したはいいが、その問題に気が付き、どうしようかと頭を悩ませていた。

「ふむ、やはり俺が外に出ていよう、その間に着替えるといい」
「で、でも、それだと、男同士なのに部屋の外で着替えを待ってるなんて疑われない?」

 着替える時に翔が部屋に居ると困るのは自分の方だが、何故か翔の意見に反論するシャルル、その意見に翔も押し黙り、ぬぅ、と唸っている。

「この際だ、仕方が無い、お互いに後ろを向いて着替える、妥協案だが、どうだ?」
「う、うん、それで良いよ!」

 何故かその妥協案に力強く頷くシャルルに首を傾げる翔だが、特に気にする事も無く、妥協案に従いシャルルに背を向けて着替え始める。制服の上着を脱ぎ捨て、カッターを脱ぎ終えた所で、背中に視線を感じる翔。

「シャルル、着替えないのか?」
「ひゃわわ、いや、えっと、すごいなぁって、翔の身体、凄く鍛えてるんだね?」
「鍛える事が目的だったわけではなく、刀を振り続けていたらこうなっただけだ」
「へぇ~、でも何となく分かる、無駄な筋肉なさそうだもんね、その為に絞り込まれてる肉体って感じ……」
「うむ、それはいいのだが、着替えないのか? このままだと俺が着替え終わった時自由に動けんのだが……」
「うわわ、ごめん!」

 そう言って慌てたようにシャルルも着替え始めた事を音で認識した翔はそのまま着替えを再開する。

(もう、翔ってば女の子が自分の後ろで着替えてるんだよ? もうちょっとこう、反応があっても良いんじゃないのかな?)

 翔に自らの性別がばれた時に翔が見たシャルルの格好に反応が薄い事に不満があったのもそれに拍車を掛けているのか、今回の状況にも反応が無い翔に心の中で不満を呟くシャルル。と、考え事をしていたのがいけなかったのか、脱ごうとしていたズボンに足が引っ掛かり、そのまま身体が倒れていくシャルル。

「あわわわわ!」

 思わず目を閉じるシャルルだったが、前のめりに倒れていたのが、急に止まったので、目を開いてみると、翔がシャルルを受け止めていた。そして、すぐさまシャルルをしっかりと立たせ。シャルルの目の前で背を向け、正座。

「翔?」
「事故とはいえ見てしまった事は事実だ、煮るなり焼くなり好きにしろ」

 黒のジャージを身に纏い、まるで介錯を待つ武士のようにそこに正座している翔を見て、慌てて、気にしてないと伝えようとするが、翔の台詞の内容を思い出す。

(少しずるいかも知れないけど、いいよね? 何か罰を与えないと翔は自分を許さないと思う……いや、許さないよ! だからこれは仕方ないんだ! うん、仕方ない!)

 心の中でそう結論付けると取り敢えず着替えを終える事にしたのか、しばらく待つように翔へ声を掛ける。

「じゃあ、少し待ってて」
「承知」

 シャルルの言葉に素直に応じる翔を見て、着替えを始めるが、翔に一切動く気配は無く、身動ぎ一つしない。そんな翔に、若干の不満を覚えつつも、早々に着替えを終えるシャルル。ジャージに身を包み、翔へと近づく。

「翔、今から僕がする事を止めちゃ駄目だよ?」
「承知」

 そう言われても揺らがない翔は既に覚悟を決めているのか、シャルルの言葉に対する返答も一切の迷いが無く早い。その翔の反応に満足そうに頷くと、シャルルは翔の後ろに膝立ちになり、そのまま両腕を翔の身体の前でクロスさせて、翔を抱きすくめる、と言うより、翔の背中に抱きつき、自分の体重を翔の背中へ預ける。

「シャルル?」
「しばらく、こうさせて? それが罰、それにこうしてると安心するんだ……」
「承知」

 これが罰だと言われれば翔は受け入れるまで、と了承すると、シャルルは嬉しそうに抱きつく力を少し強め、翔の背中との密着度が更に増すが、翔は内心がどうかは分からないが表情は変わらない。そんな翔に少し不満を感じつつも、翔の背中の安心感にその感情も押し流されていく。

(思った通り、翔は、あったかくて安心するなぁ……)

 未だに表情を変えない翔の頬にシャルル自身の頬をぺったりとくっつけ、心の底からそう思う。
 最終的にその罰は、シャルルの方が何だか色々我慢できなくなる直前まで続けられ、頬を紅潮させて、もう寝よう、と力強くそう言い、ベッドへと勢いよく入るシャルルに一つの疑問が浮かんだ翔がぽつりと呟いた言葉がこの日の最後だった。

「シャルル、寝るのはそんなに気合を入れるものではないと思うが……」
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