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「IS インフィニット・ストラトス ~黒衣の侍~」
IS学園入学編

十四斬 漢なら切り札を持っているもんだ

 ←十三斬 漢には建前ってもんが必要な時がある →十五斬 漢は本当に必要な時に力を使うもんだ
 ラウラ・ボーデヴィッヒがIS学園に来た同日の放課後。一夏は訓練の為、箒、セシリア、鈴音、シャルルと共にグラウンドに向かい、翔はそれとは別行動、用事があると言って一人抜け出し、ISの設定などを行うための設備が整ったモニター室へ向かっていた。翔だけが別行動だと伝えた時、セシリアと、何故かシャルルが寂しそうにしていたが、特に異論を出す事もなく従って、一夏の訓練へ行った。

(今頃は、シャルルに射撃武器の特性を教わっている頃か)

 そこまで考えて、モニター室に着いた事に気が付き、躊躇なくモニター室の扉を潜る。そして、中には翔を呼び出した本人、千冬が一人でモニター室のキーボードを叩いている。

「来たか、柏木、こちらも丁度調整が済んだ所だ」
「それで、織斑教諭、俺の頼んでいたものは?」

 そこだ、と指を指された方向には一本の刀が台座に寝かせてある。いや、刀と言うには少し変だろう、まず、刀身の形が、普通の刀の様に反りがなく、刃の背が棒か何かが入っているかのように丸い、大きさこそ、ISが使う標準の接近用ブレードよりも少し大きいぐらいで、正宗零式よりは常識的な大きさだ。次に明らかにおかしいのは、本来鍔があるべき場所に、比較的大き目の回転式弾倉が存在し、合わせて、柄にはご丁寧にトリガーまで存在している。その武器を見た時、翔は一つ頷き、千冬は武器の説明を始める。

「名は虚鉄(こてつ)、武器の種別的にはブレードと言うよりも、パイルバンカーに近い、弾は5発で刃の背に仕込まれたパイルを打ち出す仕様だ」

 これが、翔が束に頼んでいた切り札の追加武装である。この追加武装を受け取る事、それが翔の言う用事だった。説明を終えると、千冬は黒衣零式の拡張領域へ虚鉄をしまい込む為にキーボードへ向き直る。

「柏木、各センサーと虚鉄へつながれている線を待機状態の零式へ繋げ」
「承知」

 千冬に言われた通り、零式を虚鉄に繋ぎ終え、後は零式の中へ虚鉄の登録が完了するまで待つのみ、特にやる事もなく千冬の隣で静かに待機していた翔に、突然千冬から謝罪が掛かる。

「済まないな」
「ボーデヴィッヒの事ですか」

 それ以外に千冬が翔自身に謝罪する事などないと考えたのか、間を置かずに翔から確信的な言葉が出る。その翔の確信を篭めた予想に、そうだ、と千冬は頷く。

「気に病む必要はありません、立ち塞がるのならば斬って捨てるのみ、闘う事でしか分からない事もあります」
「私とお前がそうであったように、か?」
「織斑教諭は俺に立ち塞がったわけではありませんが、まぁ、そう言う事です」

 相変わらずの物言いに千冬は苦笑。翔の表情に変化はないが、昔にあった事を懐かしむような色が瞳に浮かんでいた。そこで、千冬が思い出したように翔へ問いかける。

「そう言えばお前は相変わらずコーヒーを淹れるのが趣味なのか?」
「今でも趣味ですが、それが何か?」
「いや、ただそう、暇のある時で良いんだが、淹れてもらえないかと思ってな」

 少し歯切れの悪そうに言う千冬の顔は、心持ち赤くなり、落ち着かないように視線を彷徨わせていた。無論、その提案を断る翔ではない、何も今すぐと言うわけではなく、時間のある時で良いと言っているのだ、断る理由はない。その提案に了承の返事を返す翔。

「そうか、ならば、その時はお前も一緒にどうだ?」
「承知、ご一緒させてもらいます」

 千冬の提案を次々に了承していく翔に、普通の人なら分からないが、見る人が見ればよく分かるほど浮かれている千冬。制御しようとしてもどうにもならない感情と言うのは人にはあるという事であろう。そして、そこで、零式の中へ虚鉄の登録が完了したのか、虚鉄が粒子となって消える。それを見届けた翔は、零式をポケットに挟み込むようにして取り付け、千冬へ挨拶し、モニター室を出て行こうとした所で千冬から念を押される。

「今の約束、忘れるなよ?」
「承知」

 それに対して肯定の返事を返した翔がモニター室の扉を潜り姿が見えなくなると、千冬は無言で腰だめにガッツポーズ、ここだけの話、千冬は翔の淹れるコーヒーや翔の作る料理が好物だったりするのである。


 千冬から虚鉄を受け取り、自室に帰ってきた翔が聞いたのは、水音が流れる音、正確に言うならば誰かがシャワーを使用している音。翔以外にシャワーを使う可能性のある人物は9割方一人しか居ない。

「シャルルが帰ってきているのか……」

 その事実だけを認識し、自らの荷物の中から本を取り、部屋に添え付けられているデスクに着き、読書を始めようとした時、突然シャワー室の扉の開く音。

「む? 上がったのか……迂闊だぞ、シャルル?」

 シャワーから上がったのかと本に向けようとした目をシャワー室の扉の方へ視線を向けた翔の視界に飛び込んできたのは、まだろくに身体を拭き終えず、バスタオルを身体に巻きつけたシャルルの姿。その姿は正しく女性としての身体。男にはないふくらみがはっきりと見える。

「え? あ、何で?」
「そう言われてもな、今さっき帰ってきた所だ」
「そ、そうなんだ?」
「あぁ、で? 何か忘れ物か?」
「う、うん、ボディーソープが切れてて……」
「そうか」

 完全に何時も通りに対応する翔に、シャルルは慌ててはいるが、何となく面白くなさそうな表情。翔はすたすたと部屋の中を歩き、ボディーソープが仕舞われている棚からボディーソープを取り出し、シャルルに渡す。最早その対応は、シャルルを見て、女である事が知られていないようなそんな対応の仕方。が、それは、翔の一言で否定される。

「しかし、迂闊だな、バレたく無いのなら、細かい所まで気を使う事だ」
「あ、ちゃんとわかってたんだ」
「無論だ、取り敢えずシャワー室に戻れ」

 その言葉に、シャルルは今自らがどんな姿だったのかを思い出し、これ以上無いほどに顔を赤く染め上げる。恥ずかしそうに肯定の返事を返し、シャワー室に戻るシャルル。シャワーの音が聞こえて来た事から、取り敢えずシャワーは浴び終える事にしたようだ。翔は、仕方ないと言ったように肩をすくめ、読書をしようとしていたため、それに戻る事にする。


 翔が読書を始めて15分から20分ほど、再びシャワー室の扉が開く音。今度はきちんとジャージを着込んだシャルル。だが、今までと明らかに違う事が一点、今までは胸を押さえつけるためにコルセットか何かを巻いていたようで、今はそれを外しているのか、女性であるとはっきりと分かる様になっていた。シャルルは、口元を隠すようにタオルをきゅっと握り締め、無言で自分のベッドに腰掛ける。その顔は言わずもがな、かなり赤い。そんなシャルルに躊躇なく声を掛ける翔。こう言う時は遠慮していても話が進まない事を知っているのだ。

「迂闊だな、バレてしまったのなら俺も聞かざるをえない」
「うん……ていうか、もう少し反応してくれてもいいと思うんだけど……」
「何のことだ?」
「いや、はは、良いよ……はぁ、女として自信なくしそう……」

 顔は赤く恥ずかしそうなのに、声は落ち込んだような声を出すと言う器用な真似をしたシャルルに若干驚きつつも話を続ける。

「お前が男の真似をしなければならなかった原因は知らないが、その目的は大体は理解している、元々女だと言う事も分かっていた」

 翔の台詞に素直に驚くシャルル。それも当然だろう、シャルルは徹底的に男の仕草などを叩き込まれたのだ、現に一夏はシャルルが男である事を疑っていた様子もなかった。シャルルからしてみれば翔もそんな様子はなかった。

「い、いつから?」
「お前がクラスに来た時から疑っていた、ほぼ確信に至ったのは昨日の実習前のロッカールームだ」
「そんな時から……」

 シャルルがこれ以上無いほどに驚いている様子を見ながら、翔も自分のベッドに腰掛け、シャルルと話をする体勢に身体を向けていく。そこで何かに気が付いたように翔の顔を見るシャルル。

「合わせてくれてた、の?」
「バレたくないようだったからな」
「ロッカーで一夏の着替え中に、僕の視線遮ったのは……僕が女の子だって分かってたから?」
「あぁ、お前があからさまに視線を逸らしたら一夏が疑問を抱く可能性があった」
「僕の、ため?」
「さっきも言ったが、知られたくないようだったからな」
「やっぱり、翔は優しいね?」
「さて、な、取り敢えずお前の事情、聞かせてもらおう」

 シャルルの褒め言葉を濁し、話の本題に入ろうとする翔が何だか可愛く見えたシャルルはくすくすと笑いながらも、その意見を了承、ここに来る事になった経緯を話し始める。その話を静かに聞いていく翔に、シャルルは何だか嬉しくなった。


 話を聞き、シャルルの置かれる現状を把握した翔にとって、最早、シャルルの目的がどうだとかは、どうでもいい事になっていた。が、翔にとって気に入らなかった事がたった一つだけあった。

「お前は、何をしている?」
「うん……翔と一夏を……」
「そんな事はどうでもいい」
「え?」
「俺にとって自分が調査されたなど、些細な事だ、そう言う事があるだろうとも予測していた」

 そう言い切る翔に驚き、視線を上げ、翔の瞳に視線を合わせるシャルル。翔の瞳には嘘をついているような色はない、では翔はシャルルの何に怒っているのか?

「俺が気に入らないのはここまで来て、何故自分の道を歩かないかと言う事だ」

 翔の言葉に感情が爆発したのか、カッと来たようで、思わずシャルルは翔に飛び掛り、翔に馬乗りになり、自分の感情を吐露していく。

「何が分かるんだよ! 仕方なかったんだ! どうしようもなかったんだ!」
「分からないさ、人の感情なんて他人が理解出来ない、だからこそ、俺達は自ら前へ進むしかない」
「僕はちっぽけだったんだ……どうやっても前へ進めなかったんだ……」
「そうだったのかもしれん、だがそれでも他人に自分の人生の手綱を握らせる理由にはならん」
「じゃあ……僕はどうすればいいの?」

 翔の服の胸倉を弱々しく掴み、瞳に涙を溜めたシャルルは切なげに、翔に疑問を投げかける。それを見上げる翔に迷いは一切ない。身動ぎ一つせず、シャルルの好きにさせながらも真っ直ぐにシャルルを見返す。そして紡がれる言葉にも迷いはない。

「知らん、俺に聞くな、自分で決めろ、自分の人生は自分が主役だ」
「厳しいんだね……」
「当たり前だ、決めるのはお前自身の仕事だ、俺達はそれを手伝うだけだ」
「手伝って、くれるの?」
「お前の人生の手綱を握るのはお前だ、俺は俺の人生の手綱を握っている、お前がそう望むなら、俺は俺の手綱をお前に寄せて行く、それだけの事だ」

 手伝って欲しいなら、そう言えばいつでも手伝ってやる、訳すると翔がそう言っているのは理解できるシャルルだが、どうも変な意味にも取れたのか、顔を真っ赤にして、あからさまに慌てだす。翔の上に乗っているこの状況も何かしら手伝ったのであろう。そんなシャルルの様子に疑問を抱いたが、取り敢えず落ち着かせようと、シャルルの頬に右手を当て、親指で目元をゆっくりと撫でる。

「ふぁ……」

 突然の翔の行動に思わずため息なのか何なのか分からない変な声が出るシャルル。だが、これ以上無いほどの安心感に、翔の手を感じるために目を瞑り、その安心感に身を委ねる。

「もうそろそろ、前へ進む時だ、シャルル・デュノア」
「はい……」

 力強く、優しく背を押してくれるようなその声に答えながら、シャルルは自分の頬に触れている手に、自らの手を重ねる。あったかい、そう思う。翔も翔の手も、あったかい。

「まずは何処にも干渉されないこの学園で、前へ進む為の手段を探す事から始めるといい」

 取り敢えずの指針を翔がシャルルへ送った所に、ノックの音。翔の上に乗り、翔の言葉と手の安心感に身を委ねていたシャルルは一瞬反応出来なかったが、その間にもこの男が電光石火の早業で、シャルルの頬から手を抜き、上半身を起こし、シャルルを抱き上げる。シャルルが気が付いた時には既に翔の腕の中だった。

「はわ……」
「静かにしていろ、お前は現在体調が優れない、そう言う事にする」
「ひゃ、ひゃい……」

 抱き上げられている事で伝わってくる翔の力強い腕の感触と言葉に、シャルルの返事があやふやな上に顔が赤い。そのシャルルの様子に既に演技を開始していると勘違いした翔は、内心で感心しつつ、シャルルをベッドへ寝かせ、客人を部屋に招く。果たして客人とはセシリアだった。

「あら? デュノアさん、どうかなさったんですの?」
「あぁ、体調が優れないらしい」
「う、うん、ちょっとね……ご、ごほごほ」

 部屋に入ってきたセシリアは真っ先にシャルルの様子がおかしい事に気が付いたのか、シャルルについて聞いてくる。翔はいたって何時も通りのトーンで平然と嘘を突き通す。シャルルは慌てているのか、それとも先程の事が尾を引いているのか、若干どもっている。

「そうなんですの? ご無理はいけませんわよ?」
「う、うん、気をつけるよ」
「それで? セシリア、用はなんだ?」

 あまり突っ込まれると面倒な事になると判断したのか、セシリアがこの部屋に来た理由を問う。その瞬間、この部屋に来た理由を思い出したのか、セシリアの視線が落ち着かないように泳ぎ、頬もうっすらと赤くなる。

「そ、それはその……翔さん、お食事はもう御済になりましたの?」
「いや、まだだ、これからシャルルの分も受け取りに行こうと思っていた所だが……」

 翔の返答に、セシリアの表情が明るく彩られる。

「で、でしたら、私と一緒に、どうでしょう?」
「俺は別に構わんが」
「で、では! デュノアさん、翔さんをお借りしていきますわね?」
「ど、どうぞ!」

 セシリアからの食事の誘いを了承し、これ以上無いほど嬉しそうに、ふわりと柔らかく微笑むセシリアは控えめに見ても魅力的な女性である事がよく分かる。視界の端にそんなセシリアを捉えたシャルルは、少し不機嫌そうに語尾を荒く答えてしまうが、セシリアは特に気にした様子はなく、機嫌が良さそうに歩き出す、が、何か思い出したように翔の所まで戻ってくると、翔の腕に自らの腕を絡める。そのセシリアの顔はこれ以上無いほどに恥ずかしそうに、真っ赤に染まっている。

「む? 何だ?」
「と、とと殿方は、女性をエスコートするものですわ!」
「そう言うものなのか?」
「え、えぇ、そう言うものなのですわ!」

 疑問を抱くが最終的に納得し、セシリアの歩調に合わせて歩く翔に顔を赤くしながらも幸せそうに微笑むセシリア。そして二人がそのまま部屋を出て行くと、シャルルは勢いよくベッドから身を起こし、不満をぶつけるように両手で掛け布団を叩く。

「むぅ~~! 翔ってばあんなにデレデレして! さっきまではあんなに僕に優しく……優しく……はふん……」

 最初は不満をぶつけるように掛け布団を叩いていたシャルルだったが、何かを思い出したのか、頬が紅潮し、へにゃ、と幸せそうな笑みに彩られていく。翔が食事を持って帰ってくるまで、何かを思い出して恥ずかしそうにしているシャルルだけが部屋に残されていた。
 ちなみに言っておくならば、翔は全くデレデレなどしていない。


 食事を済ませ、部屋に帰ってきた翔が見たのは、何か幸せそうに笑っているシャルルの姿。幸せそうなシャルルに水を差すのは気が引けたが、食事を食べさせないワケにもいかないので、仕方なく声を掛ける。

「シャルル、食事を持ってきたぞ」
「へぁ!? あ、ありがとう! ありがたくいただくよ!」

 声を掛けられ、翔を視界に捕らえると、あからさまに慌てるが、それでも表情は嬉しそうに笑顔を浮かべている。それも、翔が持って来た食事のあるものを視界に入れた瞬間に引きつる事になったが……。

「む? どうかしたか?」
「い、いやいや、何でもないよ、うん、いただきます」

 問いかけてくる翔に慌てて取り繕い、箸を持って食事をしようとするが……

「あれ? あれ? あわわ……」
「箸をまだうまく使えないのか」

 そう結論付け、声に出すと、練習してるんだけどね、とシャルルから苦笑が返ってくる。ふむ、と一つ頷くと、翔は席を立ち上がり、部屋を出て行くように歩き出す。

「え? えっと、何処に?」
「む? フォークとナイフを貰ってこようと思ってな」
「い、いいよ、そこまでしてもらわなくても」
「言った筈だ、望むなら手伝うと」

 そう言ってくる翔に、少し、考え込み、結論が出たのか、顔を上げたシャルルは、少し恥ずかしそうに翔にして欲しい事を告げる。

「じゃ、じゃあ、食べさせて欲しいなー、なんて……」

 恥ずかしそうに要求してくるシャルルに、次は翔が考え込む、腕を組み、目を瞑る翔におそるおそる、駄目? と聞いてくるシャルルに首を振る翔。

「駄目と言うわけではないが……どうせならば箸を使う練習した方が俺が食べさせるよりも後々効率的だな」
「そ、そっか、分かったよ、じゃあ、頑張るね……」

 翔の言葉に少し気落ちしたように箸を持ち直すシャルル。それを見た翔は、シャルルの後ろに周り、後ろからシャルルの身体に手を回す。正確に言うならば、シャルルの箸を持つ手に手を重ねている。

「へ?」

 何が起こったのか理解できなかったシャルルだが、理解した瞬間、これ以上無いほどに頬が赤に染まり、慌てながらも何とか翔に問いかける。翔は何時も通りの表情のまま、シャルルの手に自らの手を重ねている。

「な、なな何を!?」
「む? いや、こうやって持ち方と使い方を俺の手でシャルルの手を動かした方が効率よく覚えられると思ったのだが、要らぬ世話だったか?」
「い、いやいや! 助かるよ! うん! 凄く助かる!」

 気合が入ったように返事をするシャルルに、満足したのか、一つ頷くと、自らの手でシャルルの手を動かし、箸の使い方を教えながら、シャルルの食事は進む。

(こ、これって、ただ食べさせてもらうよりも、いい……かも……翔に抱きすくめられてるみたい……役得だよね)

 恥ずかしそうに、しかし、嬉しそうに箸の使い方を教えてもらいながら終えた夕食は、シャルルにとって思わぬほど幸せの時間だった。


 電気の消えた翔とシャルルの部屋、翔の寝ている傍に立っている人影。この距離で翔が起きないと言う事は、翔が警戒しなくてもいい人物と言う事。翔の傍に立っている人物、シャルルから独り言が漏れ出す。

「寝顔まで男らしいんだね……」

 そう言って優しく微笑むシャルルは、少しずつ翔の寝顔へ顔を寄せて行く。

「真っ直ぐで、頼もしくて、優しくて、あったかい……そんな翔だから、僕は……」

 熱が篭ったような声音で独白しながら翔の額に唇を落とす直前になって、シャルルは、はっとしたように顔を上げ、翔の寝顔を見つめ直す。

「寝てる翔にこんな事しても、意味無いよね……」

 でも、いつか……と覚悟を決めたような瞳と言葉を呟いて、シャルルは自らの寝床へ戻る。
 後には何処となく満足そうな寝顔の翔とシャルルがいた。
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