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「IS インフィニット・ストラトス ~黒衣の侍~」
IS学園入学編
十斬 漢なら人生に一度決め台詞は言いたいもんだ
「失礼します、織斑教諭、現在状況はどうなっていますか」
「柏木か……まぁ、良いとは言えないな」
モニター室へ入室してきた三人。翔、セシリア、箒を眺め、そう続ける千冬。翔達に、見ろ、と指を指した先には、遮断シールドレベル4、ステージに通じる扉の全てがロックされたと言う内容の表示がされていた。
それを見たセシリアと箒はあからさまに慌てだすが、翔から落ち着け、と声が掛けられる。
「二人とも落ち着け、今はこの通り何も出来んが、その内出来る事がやってくるはずだ……時に、この塩入りのコーヒーを作ったのは誰だ?」
明らかに場違いな発言に、セシリアと箒は動きを止め、山田教諭は必死に発言を抑えている様に全身を震わせている。千冬は一瞬だけピクリと口元を動かしたが、すぐに何時もの表情に戻り、犯人の名前を挙げる。
「山田先生だ」
「えぇ!? 何言ってるんですか!? それは……」
自分の名前が出て来たのが余程不服だったのか、真耶は抗議の声を上げるが、その途中で千冬に口元を覆うように鷲掴みにされる。その瞬間は驚いたような反応をする真耶だが、徐々に握りこまれていく手に恐怖を感じたのか、若干涙目になっている。
「山田先生は少しドジな所があってな、時々やってしまう、そうだな? ん?」
普段と変わらない抑揚の声でそう告げられている事が、真耶には余程怖く映ったらしく、首を縦に振るしかない。その答えに満足したのか、千冬は満足し、改めて三人へ向き直る。セシリアと箒はこの展開についていけないのか、口を開けて呆けているが、翔は何時も通りの表情で、コーヒーに塩は入れるものではないな、等と言いながら、それを飲み干していた。
こんな状況ではあるが、その翔を見て千冬は何だか少し嬉しくなった。
「さて、状況が動くにはもう少し掛かりそうだな、行くぞセシリア」
「えっ? えっ? 行くって、何処へですの?」
急に話し掛けられたセシリアは慌てて反応するが、翔の意図を察せていないのか、疑問を投げかける。それに対して説明を始めるが、どうやらセシリアだけに説明しているわけではなく、千冬達にも聞かせるつもりがあったようで、改めて千冬達を見渡す。
「この状況で教師達が手をこまねいて見る訳もあるまい、既に突入部隊の編成は終わっているはずだ」
どうだ? と千冬に問いかけるが、無論返ってくるのは、是。それに翔は一つ頷き、続きを話す。
「だが、シールドとロックが原因で突入させる事が出来ない、それが解決され、突入が出来たとしても、部隊を統率し、突入させるには幾許かの時間が必須、そのタイムラグを俺達が埋める。俺とセシリアならば二人しかいない、フットワークは部隊よりも軽いはずだ、俺達で済むならそれでもいい、それでダメなら突入までの僅かな時間を稼ぐ、どうだ?」
翔の提案に、千冬は考え込む、部隊を突入させるためには、確かにシールドとロックが解除されても数分は掛かる。人数が少ないほど機動力が高いというのは本当の事だ、翔とセシリアならば、突入までの時間を稼ぐ事など容易な事だろう。そう結論付けた所へ会場へ続く扉のロックが解除されたと報告が入る。
「本当にタイミングが良い事だ、会場へ入る事は出来るぞ、倒せるのなら倒しても構わん、あいつらを頼む」
「承知、織斑教諭も、箒が勝手な行動をしない様に見張っていてください」
千冬の許可に、忍び足でモニター室を出て行こうとしていた箒を指差しながら答える。出て行こうとした箒はあからさまに全身をビクン、と硬直させる。心なしか後頭部にでっかい汗が見えるのも仕方ない事だろう。
その箒の行動にため息を一つ落とすと、箒の首根っこを掴み、行動を制限、後生だ、と駄々をこねる箒を完全にスルーして、セシリアを伴った翔はモニター室を出て行く。
「それで? 作戦はどういたしますの?」
「ただ斬り捨てるのみ」
「えーと、搭乗者は……」
「その事だが……恐らくあれに人は乗っていない」
会場へ続く道を歩きながら作戦を話す二人の内、翔から驚愕の言葉が出てくる。その言葉にセシリアは一瞬足を止めそうになるが、何とか歩みを止めない事に成功する。一夏と鈴音を助けるために歩みを止めないセシリアは、翔の顔を見てみるが、嘘や冗談で言っているようには見えない。だが、ISは原則、人が動かす事が大前提で作られた物、無人機など……。とセシリアが意識を思考に傾け様とした時、翔から言葉が飛んでくる。
「考え事は後にしろ、セシリア、今は動かなければならない」
翔の言葉に、セシリアは意識を切り替える。翔を見てみるが、歩みのリズムに乱れは無く、会場へ向けて歩いている。そんな何時も通りの翔に、ふと、彼が慌てている姿とはどんな姿なのだろう?と微かな好奇心が湧き上がるが、今はそんな時ではない。その根拠として、会場へと続く扉が見え、それを、潜り、見えたのは鈴音が衝撃砲を撃ち、それを追うようなタイミングで凄まじい加速を掛けた一夏が雪片を振りかぶっている様子が飛び込んでくる。
セシリアは頭の何処かで、決まった、と考え翔の方を見てみるが、翔は黒いネクタイピンに触れ、既に黒衣零式を身に纏っていた。翔は厳しい瞳でアリーナの中央当たりを見つめている。と、通信。
「柏木、あのISどのような形でも構わん、鹵獲しろ」
「承知」
聞こえて来た千冬の声に短く返した所で、あのISが無人機である確立が、ほぼ確信できる所まで数値が上がる。ならば、遠慮する必要は無し、と空へ飛び上がり、セシリアへと指示を出す。
「セシリア、目的は、敵の鹵獲、両手両足、頭を狙うぞ」
「分かりましたわ」
その指示に異論は無いのか、疑問を挟む事無く、セシリアは是と答える。そして今、一夏が雪片を振りぬき、後退した敵に避けられ、首を掴まれる。その様子を見た翔は瞬間、景色を置いてけぼりにしながら急降下、一夏を掴んでいる腕目掛けて正宗零式のスラスターを稼動させつつ迫る。
「一刀両断!」
「やっと来たか……」
黒と金の閃光が敵のシールドバリアをガラス細工の如くあっさりと突き破り、腕を文字通り断ち斬る。身体が自由になった一夏は翔へ笑いかけるが、問答無用とばかりに、翔の腕により、鈴音の方へ投げ飛ばされる。投げられてきた一夏を受け止める鈴音。一夏は翔へ抗議しようと身体を起こすが、そこへ通信が入る。
「文句なら後で聞こう、今は休んでいろ」
「わかった、後は頼むわ」
「承知」
短くそうやり取りすると、翔は敵へと向き直る。その時にはセシリアによって片足を打ち抜かれている所だった。高所から敵の足を打ち抜いたセシリアへと声を掛ける。
「往くぞセシリア、合わせろ」
「承知しましたわ! まずは、足を止めさせていただきますわ!」
景色を置いていく速度で敵に向かう翔の邪魔をさせないよう、セシリアがBTで牽制を掛け、足を止める。敵へ向かって降って来る牽制のビームの隙間を縫い、肉薄。敵の腕が残っている側の脇に下から正宗をねじ込む。
「このままもって行く、セシリア!」
「了解ですわ!」
脇に差し込んだ正宗を持ち上げるようにして空中へと上昇し、耐久力の限界を迎えた腕は、肩から両断され、正宗を振り抜いた翔はそのまま上昇。スターライトmkⅢを構え急下降して来たセシリアとすれ違い、セシリアは敵へ急下降で接近、スターライトmkⅢから放たれたエネルギーは二発、三発と残った足を打ち抜き、敵機の足を完全に破壊、セシリアを追うように続いて急降下してきた翔の正宗が金色のエネルギーの残滓を撒き散らしながら敵機の首を狙い、寸分違わず破壊。敵機も稼動を停止したのか、地上へと落下していく。翔は正宗を肩に担ぎ、地上で完全停止したセシリアの左後ろに背を向けて完全停止。
「私達に……」
「断てぬものなし!」
そこで計った様に翔の立っている5mほど前に敵機の残骸が落ちてくる。元々派手好きなセシリアは満足そうな表情。翔も何時もの涼しげな表情の中に満足そうな色があった。その現場を間近で見た一夏と鈴音は口をあんぐりと開けて呆然。
「俺、この二人に喧嘩売るとか馬鹿らしくなってきた」
「奇遇ね、アタシもそう思ってた所よ、セシリア一人だけならまだしも……」
そう固く誓う、一夏と鈴音。翔達の少し先へ視線を移した二人には、機能を完全停止させた無残なISの姿が目に入り、あぁなるんだ、と自らに言い聞かせていたとかいないとか。
ちなみにこの映像を見ていたIS学園一年一組の担任は、あれぐらい私でも出来るぞ、と周りに居る人間からすれば、要領の得ない事を呟いていたと言う姿が目撃されている。
完全に無傷とはいかなかった一夏の見舞いを終え、千冬は廊下へ出る。が、その瞬間、携帯から着信を知らせる電子音。誰からの着信か大方の予想はついていたため、警戒せずに着信を受ける。
『織斑先生』
「山田先生か、どうだった?」
『はい……それが』
少し言いよどむ真耶、もし、自分の予想したとおりならば仕方のない事だ、と思いながらも耳に携帯を当てながら廊下を歩き出す千冬。向かう先は翔とセシリアに半壊させられ、鹵獲された所属不明のISの分析を行っている場所。千冬が考えるのも同じISの事だった。
『やはりあのISは無人機でした、コアも調べてみましたが……どの国家にも登録されていないものです』
「やはりな……」
真耶の分析結果を聞いた瞬間に、一人の友人の顔が頭に浮かぶ。どの国家にも登録されていないコア、実際はどうだか知る事は不可能だが、今現在現存するコアは467機でその所属も明らかになっているものが多い。そしてそのコアは、千冬が頭に思い描いた人物以外に製造はほぼ不可能。そこで一つの答えにたどり着いてしまいそうになるが、千冬はそこで思考を止める。答えを出すにはあらゆるピースが足りない。決定的な何かが無ければ答えを出す事は出来ない。
『何か、心当たりが?』
「いや、ない、今はまだ……な」
そう、今は、いずれ決定的なピースが揃った時、答えは出る。確実に。ならばその時まで生徒に危険が及ばないようにすればいい、ただ、それだけの事だ。これからの方針を再確認した千冬は通話を終了し、真耶と合流するために廊下を歩く。
夕食時、学生食堂。
現在、翔、一夏、箒、セシリア、鈴音の五人は一つのテーブルを囲んでいた。そしてその話題の中心は、専ら無人機のISと、翔とセシリアの事が話題の中心になっていた。
「しかし、凄かったよな、あの時の翔とセシリア」
量の少ない夕食を突付きながら、呟く一夏に、同じく間近で見た鈴音も同意する。モニターで見た箒もその凄さは分かっているのか、頻りに頷いている。
「正に電光石火、って感じだったもんねぇ……」
「あれくらい当然ですわ」
一夏と鈴音の言葉に、当事者の一人であるセシリアは胸を張って褒め言葉を受け取っているが、もう一人の当事者である翔は静かに夕食を口に運んでいる。そこで、頷いていた箒が、自らの師匠を差し置いて賞賛を受け取っているセシリアが何となく気に食わなかったのか、それに反論の声を上げる。
「だが、今回は師匠が相方だからこそ出来たのではないのか? 牽制のために撃ったビームの雨など師匠くらいでなければ潜り抜けて一撃当てるなど出来まい」
「そ、それを言われてしまうと……」
地味に痛い所を突かれたセシリアは言葉につまり、一夏と鈴音はなるほど、確かに、と頷く。結局翔が居なければ成り立たなかったコンビネーションだと話が落ち着きそうな時に、静かに食事を口に運んでいた翔から声が上がる。
「まぁ、そう言ってやるな、確かに未熟な所はあるが、セシリアは確かに優秀だ、ある程度の優秀さがあって射撃武器が主体のセシリアならば背中を預けても不満は無い、だからこそ、させるに任せただけの事、落ち度は無い」
「あ、ありがとうございます……」
そう言ってセシリアを褒める翔に、頬を紅潮させ、どもりながらお礼を言うセシリア。そんなセシリアを鈴音と箒がニヤニヤと笑いながら凝視。一夏はうーんと考え込み、疑問が出て来たのか、翔へと疑問をぶつける。
「俺でも翔達と同じような事が出来るのか?」
「俺と一夏で、と言う事か?」
「そうそう」
「ほぼ確実に無理だ」
翔から即答で帰ってきた答えに、自分が未熟だと判断したのか、あからさまに落ち込む。それを見ても何時もの様に冷静な声音で一夏の考えている事を否定する。ちなみにセシリアは箒と鈴音にからかわれ、赤くなっているが、翔は自分には関係のない事だと判断し、スルーしている。
「勘違いするな一夏、お前が未熟だからと言う事ではない、今のお前は普通では考えられない速度で成長している、だが、俺と合わせるには成長しすぎたと言うだけの事だ」
「どういうことだ?」
翔が言っている事を理解できなかった一夏は翔へと聞き返す。つまりだ……と翔は説明に入る。
「俺も一夏もどちらも接近武器だ、コンビネーションを組むに当たってこれが弊害になっている、接近武器同士のコンビネーションは実力が離れすぎている者達か実力が近いもの同士で行わないと難しいものだ」
「近いもの同士ってのは分かるけど、離れすぎてるってのは?」
「離れすぎている者同士のコンビネーションが可能なのは、実力の高い者が低い方に合わせるからこそ可能と言う意味だ」
その説明で、なるほど、と一夏は納得する。実力が離れすぎているならば、実力が低い方は実力のある者の胸を借りる事が出来るという事。だが、既に一人でそれなりに実力のある者になると、高い方について行く事は可能かもしれないが、合わせる事までは無理、つまり高い方にとっても何処でフォローを入れるべきなのか判断がつかなくなると言う事になる。
「つまり、お前は俺のフォローが無くとも問題ないレベルまで成長できたと言う事だ、今回セシリアとのコンビネーションが可能だったのはセシリアが射撃主体だったからだ、コンビネーションと言う上では射撃と格闘は相性が良い、ある程度実力の差は無視できると言う訳だ」
「なるほどなぁ……」
自分は成長している、と昔師と仰いだ男から言われ、安堵と共に納得する一夏。近接格闘同士ならば実力が近い物同士ならばコンビネーションが可能、と、そこで一夏に純粋な疑問が生まれる。
「千冬姉となら出来るのか?」
「俺と千冬が、か?」
「あぁ」
と一夏が疑問を投げかけた所で、一夏の頭に衝撃が走る。その原因は、食堂に遅くまで残っている生徒を寮へ帰すために見回りに来たと思われる千冬の握り締められた拳が原因だった。
「何を当たり前の事を聞いている、馬鹿者、出来るに決まっているだろう、それ以前に、私とコンビネーションが出来る接近格闘専用IS乗りなど、世界を探しても柏木以外にいるわけが無い。それと、学校では織斑先生と呼べ」
「ハイ……オリムラセンセイ……」
千冬の台詞に箒と鈴音にからかわれ、小さくなっていたセシリアには聞き捨てならなかったのか、千冬に厳しい視線を送る。その視線に気が付いたのか、千冬は余裕の笑みで持ってセシリアを見返す。
「何か言いたい事がありそうだな? 小娘」
「いいえ? 特に言いたい事などありませんわ? 織斑先生」
くっくっく、おほほほ、と笑いあう美女と美少女の背中には確かに何か幻影が見えたと箒と鈴音は後に語るが、自分が原因になっているなど微塵も思っていない翔は、食べ終わった食器を片付け、一夏に射撃武器と格闘武器の相性、射撃武器同士の相性、それらの相性がいい理由について講義していた。無論、冷静にそんな事をしているのは翔だけで、一夏は翔の話を現実逃避の居場所として聞きながらも、視線は時たまセシリアと千冬へ向けられ、箒と鈴音に至っては一夏にしがみつき、震えていた。
(ふむ、箒も鈴音も積極的でなによりだ)
自分の恋愛事など露ほども考えずに、他人の恋愛事情に対して盛大に勘違いしている翔がこの場では一番幸せな存在なのだろう。
「柏木か……まぁ、良いとは言えないな」
モニター室へ入室してきた三人。翔、セシリア、箒を眺め、そう続ける千冬。翔達に、見ろ、と指を指した先には、遮断シールドレベル4、ステージに通じる扉の全てがロックされたと言う内容の表示がされていた。
それを見たセシリアと箒はあからさまに慌てだすが、翔から落ち着け、と声が掛けられる。
「二人とも落ち着け、今はこの通り何も出来んが、その内出来る事がやってくるはずだ……時に、この塩入りのコーヒーを作ったのは誰だ?」
明らかに場違いな発言に、セシリアと箒は動きを止め、山田教諭は必死に発言を抑えている様に全身を震わせている。千冬は一瞬だけピクリと口元を動かしたが、すぐに何時もの表情に戻り、犯人の名前を挙げる。
「山田先生だ」
「えぇ!? 何言ってるんですか!? それは……」
自分の名前が出て来たのが余程不服だったのか、真耶は抗議の声を上げるが、その途中で千冬に口元を覆うように鷲掴みにされる。その瞬間は驚いたような反応をする真耶だが、徐々に握りこまれていく手に恐怖を感じたのか、若干涙目になっている。
「山田先生は少しドジな所があってな、時々やってしまう、そうだな? ん?」
普段と変わらない抑揚の声でそう告げられている事が、真耶には余程怖く映ったらしく、首を縦に振るしかない。その答えに満足したのか、千冬は満足し、改めて三人へ向き直る。セシリアと箒はこの展開についていけないのか、口を開けて呆けているが、翔は何時も通りの表情で、コーヒーに塩は入れるものではないな、等と言いながら、それを飲み干していた。
こんな状況ではあるが、その翔を見て千冬は何だか少し嬉しくなった。
「さて、状況が動くにはもう少し掛かりそうだな、行くぞセシリア」
「えっ? えっ? 行くって、何処へですの?」
急に話し掛けられたセシリアは慌てて反応するが、翔の意図を察せていないのか、疑問を投げかける。それに対して説明を始めるが、どうやらセシリアだけに説明しているわけではなく、千冬達にも聞かせるつもりがあったようで、改めて千冬達を見渡す。
「この状況で教師達が手をこまねいて見る訳もあるまい、既に突入部隊の編成は終わっているはずだ」
どうだ? と千冬に問いかけるが、無論返ってくるのは、是。それに翔は一つ頷き、続きを話す。
「だが、シールドとロックが原因で突入させる事が出来ない、それが解決され、突入が出来たとしても、部隊を統率し、突入させるには幾許かの時間が必須、そのタイムラグを俺達が埋める。俺とセシリアならば二人しかいない、フットワークは部隊よりも軽いはずだ、俺達で済むならそれでもいい、それでダメなら突入までの僅かな時間を稼ぐ、どうだ?」
翔の提案に、千冬は考え込む、部隊を突入させるためには、確かにシールドとロックが解除されても数分は掛かる。人数が少ないほど機動力が高いというのは本当の事だ、翔とセシリアならば、突入までの時間を稼ぐ事など容易な事だろう。そう結論付けた所へ会場へ続く扉のロックが解除されたと報告が入る。
「本当にタイミングが良い事だ、会場へ入る事は出来るぞ、倒せるのなら倒しても構わん、あいつらを頼む」
「承知、織斑教諭も、箒が勝手な行動をしない様に見張っていてください」
千冬の許可に、忍び足でモニター室を出て行こうとしていた箒を指差しながら答える。出て行こうとした箒はあからさまに全身をビクン、と硬直させる。心なしか後頭部にでっかい汗が見えるのも仕方ない事だろう。
その箒の行動にため息を一つ落とすと、箒の首根っこを掴み、行動を制限、後生だ、と駄々をこねる箒を完全にスルーして、セシリアを伴った翔はモニター室を出て行く。
「それで? 作戦はどういたしますの?」
「ただ斬り捨てるのみ」
「えーと、搭乗者は……」
「その事だが……恐らくあれに人は乗っていない」
会場へ続く道を歩きながら作戦を話す二人の内、翔から驚愕の言葉が出てくる。その言葉にセシリアは一瞬足を止めそうになるが、何とか歩みを止めない事に成功する。一夏と鈴音を助けるために歩みを止めないセシリアは、翔の顔を見てみるが、嘘や冗談で言っているようには見えない。だが、ISは原則、人が動かす事が大前提で作られた物、無人機など……。とセシリアが意識を思考に傾け様とした時、翔から言葉が飛んでくる。
「考え事は後にしろ、セシリア、今は動かなければならない」
翔の言葉に、セシリアは意識を切り替える。翔を見てみるが、歩みのリズムに乱れは無く、会場へ向けて歩いている。そんな何時も通りの翔に、ふと、彼が慌てている姿とはどんな姿なのだろう?と微かな好奇心が湧き上がるが、今はそんな時ではない。その根拠として、会場へと続く扉が見え、それを、潜り、見えたのは鈴音が衝撃砲を撃ち、それを追うようなタイミングで凄まじい加速を掛けた一夏が雪片を振りかぶっている様子が飛び込んでくる。
セシリアは頭の何処かで、決まった、と考え翔の方を見てみるが、翔は黒いネクタイピンに触れ、既に黒衣零式を身に纏っていた。翔は厳しい瞳でアリーナの中央当たりを見つめている。と、通信。
「柏木、あのISどのような形でも構わん、鹵獲しろ」
「承知」
聞こえて来た千冬の声に短く返した所で、あのISが無人機である確立が、ほぼ確信できる所まで数値が上がる。ならば、遠慮する必要は無し、と空へ飛び上がり、セシリアへと指示を出す。
「セシリア、目的は、敵の鹵獲、両手両足、頭を狙うぞ」
「分かりましたわ」
その指示に異論は無いのか、疑問を挟む事無く、セシリアは是と答える。そして今、一夏が雪片を振りぬき、後退した敵に避けられ、首を掴まれる。その様子を見た翔は瞬間、景色を置いてけぼりにしながら急降下、一夏を掴んでいる腕目掛けて正宗零式のスラスターを稼動させつつ迫る。
「一刀両断!」
「やっと来たか……」
黒と金の閃光が敵のシールドバリアをガラス細工の如くあっさりと突き破り、腕を文字通り断ち斬る。身体が自由になった一夏は翔へ笑いかけるが、問答無用とばかりに、翔の腕により、鈴音の方へ投げ飛ばされる。投げられてきた一夏を受け止める鈴音。一夏は翔へ抗議しようと身体を起こすが、そこへ通信が入る。
「文句なら後で聞こう、今は休んでいろ」
「わかった、後は頼むわ」
「承知」
短くそうやり取りすると、翔は敵へと向き直る。その時にはセシリアによって片足を打ち抜かれている所だった。高所から敵の足を打ち抜いたセシリアへと声を掛ける。
「往くぞセシリア、合わせろ」
「承知しましたわ! まずは、足を止めさせていただきますわ!」
景色を置いていく速度で敵に向かう翔の邪魔をさせないよう、セシリアがBTで牽制を掛け、足を止める。敵へ向かって降って来る牽制のビームの隙間を縫い、肉薄。敵の腕が残っている側の脇に下から正宗をねじ込む。
「このままもって行く、セシリア!」
「了解ですわ!」
脇に差し込んだ正宗を持ち上げるようにして空中へと上昇し、耐久力の限界を迎えた腕は、肩から両断され、正宗を振り抜いた翔はそのまま上昇。スターライトmkⅢを構え急下降して来たセシリアとすれ違い、セシリアは敵へ急下降で接近、スターライトmkⅢから放たれたエネルギーは二発、三発と残った足を打ち抜き、敵機の足を完全に破壊、セシリアを追うように続いて急降下してきた翔の正宗が金色のエネルギーの残滓を撒き散らしながら敵機の首を狙い、寸分違わず破壊。敵機も稼動を停止したのか、地上へと落下していく。翔は正宗を肩に担ぎ、地上で完全停止したセシリアの左後ろに背を向けて完全停止。
「私達に……」
「断てぬものなし!」
そこで計った様に翔の立っている5mほど前に敵機の残骸が落ちてくる。元々派手好きなセシリアは満足そうな表情。翔も何時もの涼しげな表情の中に満足そうな色があった。その現場を間近で見た一夏と鈴音は口をあんぐりと開けて呆然。
「俺、この二人に喧嘩売るとか馬鹿らしくなってきた」
「奇遇ね、アタシもそう思ってた所よ、セシリア一人だけならまだしも……」
そう固く誓う、一夏と鈴音。翔達の少し先へ視線を移した二人には、機能を完全停止させた無残なISの姿が目に入り、あぁなるんだ、と自らに言い聞かせていたとかいないとか。
ちなみにこの映像を見ていたIS学園一年一組の担任は、あれぐらい私でも出来るぞ、と周りに居る人間からすれば、要領の得ない事を呟いていたと言う姿が目撃されている。
完全に無傷とはいかなかった一夏の見舞いを終え、千冬は廊下へ出る。が、その瞬間、携帯から着信を知らせる電子音。誰からの着信か大方の予想はついていたため、警戒せずに着信を受ける。
『織斑先生』
「山田先生か、どうだった?」
『はい……それが』
少し言いよどむ真耶、もし、自分の予想したとおりならば仕方のない事だ、と思いながらも耳に携帯を当てながら廊下を歩き出す千冬。向かう先は翔とセシリアに半壊させられ、鹵獲された所属不明のISの分析を行っている場所。千冬が考えるのも同じISの事だった。
『やはりあのISは無人機でした、コアも調べてみましたが……どの国家にも登録されていないものです』
「やはりな……」
真耶の分析結果を聞いた瞬間に、一人の友人の顔が頭に浮かぶ。どの国家にも登録されていないコア、実際はどうだか知る事は不可能だが、今現在現存するコアは467機でその所属も明らかになっているものが多い。そしてそのコアは、千冬が頭に思い描いた人物以外に製造はほぼ不可能。そこで一つの答えにたどり着いてしまいそうになるが、千冬はそこで思考を止める。答えを出すにはあらゆるピースが足りない。決定的な何かが無ければ答えを出す事は出来ない。
『何か、心当たりが?』
「いや、ない、今はまだ……な」
そう、今は、いずれ決定的なピースが揃った時、答えは出る。確実に。ならばその時まで生徒に危険が及ばないようにすればいい、ただ、それだけの事だ。これからの方針を再確認した千冬は通話を終了し、真耶と合流するために廊下を歩く。
夕食時、学生食堂。
現在、翔、一夏、箒、セシリア、鈴音の五人は一つのテーブルを囲んでいた。そしてその話題の中心は、専ら無人機のISと、翔とセシリアの事が話題の中心になっていた。
「しかし、凄かったよな、あの時の翔とセシリア」
量の少ない夕食を突付きながら、呟く一夏に、同じく間近で見た鈴音も同意する。モニターで見た箒もその凄さは分かっているのか、頻りに頷いている。
「正に電光石火、って感じだったもんねぇ……」
「あれくらい当然ですわ」
一夏と鈴音の言葉に、当事者の一人であるセシリアは胸を張って褒め言葉を受け取っているが、もう一人の当事者である翔は静かに夕食を口に運んでいる。そこで、頷いていた箒が、自らの師匠を差し置いて賞賛を受け取っているセシリアが何となく気に食わなかったのか、それに反論の声を上げる。
「だが、今回は師匠が相方だからこそ出来たのではないのか? 牽制のために撃ったビームの雨など師匠くらいでなければ潜り抜けて一撃当てるなど出来まい」
「そ、それを言われてしまうと……」
地味に痛い所を突かれたセシリアは言葉につまり、一夏と鈴音はなるほど、確かに、と頷く。結局翔が居なければ成り立たなかったコンビネーションだと話が落ち着きそうな時に、静かに食事を口に運んでいた翔から声が上がる。
「まぁ、そう言ってやるな、確かに未熟な所はあるが、セシリアは確かに優秀だ、ある程度の優秀さがあって射撃武器が主体のセシリアならば背中を預けても不満は無い、だからこそ、させるに任せただけの事、落ち度は無い」
「あ、ありがとうございます……」
そう言ってセシリアを褒める翔に、頬を紅潮させ、どもりながらお礼を言うセシリア。そんなセシリアを鈴音と箒がニヤニヤと笑いながら凝視。一夏はうーんと考え込み、疑問が出て来たのか、翔へと疑問をぶつける。
「俺でも翔達と同じような事が出来るのか?」
「俺と一夏で、と言う事か?」
「そうそう」
「ほぼ確実に無理だ」
翔から即答で帰ってきた答えに、自分が未熟だと判断したのか、あからさまに落ち込む。それを見ても何時もの様に冷静な声音で一夏の考えている事を否定する。ちなみにセシリアは箒と鈴音にからかわれ、赤くなっているが、翔は自分には関係のない事だと判断し、スルーしている。
「勘違いするな一夏、お前が未熟だからと言う事ではない、今のお前は普通では考えられない速度で成長している、だが、俺と合わせるには成長しすぎたと言うだけの事だ」
「どういうことだ?」
翔が言っている事を理解できなかった一夏は翔へと聞き返す。つまりだ……と翔は説明に入る。
「俺も一夏もどちらも接近武器だ、コンビネーションを組むに当たってこれが弊害になっている、接近武器同士のコンビネーションは実力が離れすぎている者達か実力が近いもの同士で行わないと難しいものだ」
「近いもの同士ってのは分かるけど、離れすぎてるってのは?」
「離れすぎている者同士のコンビネーションが可能なのは、実力の高い者が低い方に合わせるからこそ可能と言う意味だ」
その説明で、なるほど、と一夏は納得する。実力が離れすぎているならば、実力が低い方は実力のある者の胸を借りる事が出来るという事。だが、既に一人でそれなりに実力のある者になると、高い方について行く事は可能かもしれないが、合わせる事までは無理、つまり高い方にとっても何処でフォローを入れるべきなのか判断がつかなくなると言う事になる。
「つまり、お前は俺のフォローが無くとも問題ないレベルまで成長できたと言う事だ、今回セシリアとのコンビネーションが可能だったのはセシリアが射撃主体だったからだ、コンビネーションと言う上では射撃と格闘は相性が良い、ある程度実力の差は無視できると言う訳だ」
「なるほどなぁ……」
自分は成長している、と昔師と仰いだ男から言われ、安堵と共に納得する一夏。近接格闘同士ならば実力が近い物同士ならばコンビネーションが可能、と、そこで一夏に純粋な疑問が生まれる。
「千冬姉となら出来るのか?」
「俺と千冬が、か?」
「あぁ」
と一夏が疑問を投げかけた所で、一夏の頭に衝撃が走る。その原因は、食堂に遅くまで残っている生徒を寮へ帰すために見回りに来たと思われる千冬の握り締められた拳が原因だった。
「何を当たり前の事を聞いている、馬鹿者、出来るに決まっているだろう、それ以前に、私とコンビネーションが出来る接近格闘専用IS乗りなど、世界を探しても柏木以外にいるわけが無い。それと、学校では織斑先生と呼べ」
「ハイ……オリムラセンセイ……」
千冬の台詞に箒と鈴音にからかわれ、小さくなっていたセシリアには聞き捨てならなかったのか、千冬に厳しい視線を送る。その視線に気が付いたのか、千冬は余裕の笑みで持ってセシリアを見返す。
「何か言いたい事がありそうだな? 小娘」
「いいえ? 特に言いたい事などありませんわ? 織斑先生」
くっくっく、おほほほ、と笑いあう美女と美少女の背中には確かに何か幻影が見えたと箒と鈴音は後に語るが、自分が原因になっているなど微塵も思っていない翔は、食べ終わった食器を片付け、一夏に射撃武器と格闘武器の相性、射撃武器同士の相性、それらの相性がいい理由について講義していた。無論、冷静にそんな事をしているのは翔だけで、一夏は翔の話を現実逃避の居場所として聞きながらも、視線は時たまセシリアと千冬へ向けられ、箒と鈴音に至っては一夏にしがみつき、震えていた。
(ふむ、箒も鈴音も積極的でなによりだ)
自分の恋愛事など露ほども考えずに、他人の恋愛事情に対して盛大に勘違いしている翔がこの場では一番幸せな存在なのだろう。
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