スポンサー広告
「IS インフィニット・ストラトス ~黒衣の侍~」
IS学園入学編
一斬 漢は行動で語るものだ
現在、一時間目終了後の休み時間。回りは女子ばかりのため翔と話し込んでいた織斑一夏はポニーテールと鋭い瞳が印象的な人物、篠ノ之箒との会合を果たしていた。その様子を周りの女子生徒は固唾を呑むようにして遠巻きに観察している。
「箒……?」
呆けた様に箒の名前を呼ぶ一夏に眉尻をぴくりと動かす箒のその姿は一見すると不機嫌そうに見えるが、実はそうでもない、本人としては表情が喜色に歪まぬ様に努力しているため、先程の様な反応になってしまっただけだ。
だが、それを自覚しているのは本人だけで、周りからすれば不機嫌に見える箒の反応に、一夏は少したじろぎ、翔は相も変わらず着席したまま腕を組み、箒をじっと見ている。
「お久しぶりです、師匠」
不機嫌そうに見えた箒が口を開くと同時に、少し頭を下げる。その箒の様子に翔は軽く笑い、一夏は苦笑を刻む。
「そう言う堅い所は変わらないな、箒」
「だよなぁ、同い年だぜ?」
そう言って笑う一夏に鋭い視線を向ける箒、無論たじろぐ一夏。その二人の様子に、今度は翔が苦笑を刻む。
「少し、一夏をお借りしてもよろしいですか?」
「構わん、積もる話もあるだろう、持っていけ」
あれ? 俺の意思とかそういうのは? と疑問を抱いている一夏をスルーして二人で話を進めている箒と翔、すぐさま話は纏まったのか、箒は一夏の腕を掴む。
「あ、あれ? 俺だけ? 翔は?」
「俺は後でも構わん、行って来い、一夏」
翔が付いてこない事にも疑問を覚えたのか、疑問をぶつけるが、さらりと返され、箒に意味深な笑みを向けて頑張って来い、などと言葉を送るが、一夏の頭には無論クエスチョンマーク、箒は少し頬を赤くしながら二人は教室の外へと消えていく。
二人がいなくなり、席の辺りが静かになった翔は、おもむろに立ち上がり、教壇を登り、自分を遠巻きに見ている女子生徒全員に声をかける。
「皆気になるのはわかるが、見られるだけではこちらとしても少々気になる、そこで、何か聞きたい事があれば質問してくれ、俺はそれに答えよう」
どうだ? と教卓に手をつき、あたりを見渡す翔に、女子生徒一同は呆けたように翔を見返していたが、その言葉の意味を理解すると、爆発。
津波のように教卓の前へと押し寄せる女子生徒に物怖じせずに掌を前に押し出し、勢いを止める。
「一気に聞かれても答えようがない、まずは席に着け、それから一人一人の疑問に答えよう」
落ち着いてそう言う翔に女子生徒達はすぐさま席に着く、その様子に翔は苦笑を一つ落とすと、一人一人の質問に簡潔且つ丁寧に答えていく。
「名前は?」
「柏木翔だ、聞かれそうな事を言っておこう、愛称は好きに呼ぶと良い」
「趣味は?」
「言ったと思うが読書だ、雑食性でな、雑誌から小説まで何でも読む」
「身長は?」
「168cmだ」
その答えに、170cmはあると思ったけど……と言う疑問の声があったが、時間は限られているのでスルーした。
「付き合っている人はいますか?」
「今はいない」
「タイプの女性は?」
「剣術ばかりで考えた事がなかったな、これからはそういう事も見ていこう」
と、そこまで終わった所でベルの音が聞こえる。同時に、箒と一夏が連れ立って扉を開ける様子も横目で確認する。
ふむ、と一つ頷いて翔は辺りを見渡す。
「えーと、何、やってるんだ?」
一夏の素直な疑問に、もう一度ふむ、と頷く。
「うむ、ドキドキ、得体の知れない男子生徒に質問してみよう、先生は柏木先生です、のコーナだ」
全く表情を変えず、真面目な声音で出てきた台詞はおよそ真面目ではなかった。
「相変わらず真面目な顔して冗談言うその癖直さないか?」
「ふむ、善処しよう」
その二人のやり取りに、今のは冗談だったと言う事実に安堵の息をつく生徒の声が一夏の耳には新鮮だったが、自分も最初は真顔で冗談のような嘘を言われて3日は信じた事を思い出す。3日後翔にあれは嘘だったと言われ荒唐無稽な嘘を信じ込まされた自分にちょっぴり自己嫌悪したのも良い思い出である。
「おい、さっさと席に……何だ? 座ってるじゃないか、何か……ってまぁいい、声を張る必要がないだけ楽になったと思っておくか」
一夏が幼き頃の思い出に浸っている間に一夏の姉、つまり担任の織斑千冬が教室の扉付近に立って少し驚いた表情になっていた。そして今現在席に着いていないのは一夏と翔の二人のみ、箒はいつの間にか席に着いていた、中々に要領の良い行動だ。
「さっさと席に着け、織斑、柏木」
担任の教師が入ってきても未だに席に着かない男子学生二人に当然の如く出席簿を振り下ろす。
ゴンッ、コツン。
明らかに贔屓を感じる音に一夏は堪らず声を上げる。
「いってぇ~! 明らかに今の贔屓じゃないんですか!?」
「馬鹿者、私が私の師匠に向かって強く出られると思っているのか?」
その発言に女子生徒達から悲鳴が上がりそうな気配を察知した千冬と翔は生徒達を眼光で黙らせる。
「構わん、ここにいる間は俺も皆と同様、ISの事を学ぶ者だ、同じように扱ってくれ、いいな? 千冬……ではなく、織斑教諭」
織斑教諭、と言った所で、千冬の瞳は少し細められたが、一瞬の事だったので翔以外は気が付かなかった、仮に気が付いたとしても、翔ではその瞳がどのような感情の色なのかは見分けられなかったである事は事実である。
「では、そのように……さて、全員席に着いた所で授業を始める」
「あ、あの、師匠って……一体?」
授業開始を千冬が宣言した所で、副担任である、山田先生、本名山田真耶から疑問の声が上がる。それに対して千冬は簡潔に答える。
「柏木……いや、師匠は私の剣の師だ」
重大事実をさらりと言ってのけた千冬の声は、ほんの少し苛立ちが混ざっていたが、誰もそれに気づく事はなく、驚愕した声を上げていた。私達と同い年だよね? や年下の男の子が? などと言った会話が小声でされている。最もすべて聞こえているが……。
そんな声にも身動ぎ一つしない翔の様子を視界に入れた千冬は、低く見られているような声色で話されているのに何故何も言わないのか? と苛立ちを感じたが、師が何も言わないならば弟子の自分が何か言うわけには……
「年齢など関係ない、師匠が私より強かっただけだ、お前たち小娘に何がわか……「そこまでだ、千冬」……わかりました」
全然我慢出来ていなかった、千冬を止めた翔を見やるとその瞳は悠然とこう語っていた。
『言いたい奴には言わせておけ』
翔のそんな様子を見た千冬は何となく安堵と嬉しさを感じ、場を仕切りなおそうと咳払いを一つ。
「では、改めて、授業を始める、山田先生」
「は、はい……」
今までのやり取りに呆けていた真耶は急にかけられた声に体を震わせながらも教壇に立つ、その様子を既に何時ものクールな表情に戻った千冬は見やり、視線を翔、一夏へと移す。
(一夏ももう少し師匠の様に受け流す事を覚えてくれればいいんだが……)
自分が声を上げなければ席を立ってまで声を荒げていたであろう弟の事を思い、すぐに自分もか、と思い直し苦笑を浮かべ、すぐに顔を引き締める。
教科書を読む真耶の声が教室を包み、周りの生徒は静かにノートを取りつつ、ちらちらと視線を二人の男子生徒へと送る者もいる。そんな教室の中、織斑一夏は額に冷や汗を浮かべながら必死に表情を取り繕っていた。
(ぜ、全然わかんねぇ…)
そう、何を隠そう、この織斑一夏、今まで全てのISに関する授業の内容を全く理解していなかったのだ。それと言うのも一夏がIS学園に入学するにあたって必読と大きく書かれたISの基礎知識に関する資料を電話帳か何かだと思い捨ててしまったのだ。無論その資料は翔の元にも届き、翔はそれに目を通していたので授業の内容を概ね把握できている。
(はぁ~、仕方ない、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、だ)
「あ、あの……「はい、山田先生」……え?」
何もわかりませんと言えるような雰囲気ではないが、覚悟を決めて先生に聞こうと声を上げようとしたとき、一夏の声を遮る様に低めのよく通る男子生徒の声が上がる。それと共に一夏の後ろの席の椅子が鳴る音と共にもう一人の男子生徒、柏木翔が何時もの感情を悟りにくいクールな表情で立っていた。
「はい? 何ですか? 柏木君」
「わからない所があります」
「何処ですか? 遠慮せず聞いてください」
生徒から質問されるのが嬉しいのか、ほにゃっとした笑顔と共に翔に聞く。
「全てわかりません」
恥ずかしげもなくその一言をノータイムで発する翔を目の前に真耶は笑顔のまましばし固まり……
「え? え? ぜ、全部ですか?」
「はい、全てです」
「お、おい……」
真耶とのやり取りの間に一夏が声を挟もうとするが、真耶が慌てて、他の女子生徒に分からないかどうかを聞いている内に片目を瞑り、笑みを浮かべた口元に人差し指を立て、喋るなというジェスチャーを一夏に送る。
その仕草は一夏だけでなく千冬にも向けられたもので、翔の仕草をしっかりと見ていた千冬は翔へと歩み寄る。
「必読と書いてあった資料はどうした?」
「剣術の鍛錬の時、誤って細切れにしてしまいました」
「そうか……仕方ない、後で送っておくから必ず読んでおくように」
「承知」
そう言われ、着席の瞬間、一夏の机に丸めた紙を投げ入れる。
何食わぬ顔をして席に着いた翔に疑問を抱きながらも一夏は渡された紙を広げる。
『帰ったら俺の資料を貸してやる、今度はちゃんと読んでおくようにな』
簡潔にそれだけが書かれていた。
(何これ? ありがてぇけど、格好よすぎだろ)
一夏の頭にフッ、と静かに笑みを浮かべる翔の顔が思い浮かび、消える。
不言実行、行動で語るのが男ってもの、この男の道を間近で見せられてきた一夏はそれに憧れ、同じようにこなそうとするが、中々この男のように後を濁さず事を起こす事が出来ない、だからこそ憧れるのだ。
この後この授業は一夏がどう考えても同い年に見えない少年への憧れを強くしながら進む事となった。
「箒……?」
呆けた様に箒の名前を呼ぶ一夏に眉尻をぴくりと動かす箒のその姿は一見すると不機嫌そうに見えるが、実はそうでもない、本人としては表情が喜色に歪まぬ様に努力しているため、先程の様な反応になってしまっただけだ。
だが、それを自覚しているのは本人だけで、周りからすれば不機嫌に見える箒の反応に、一夏は少したじろぎ、翔は相も変わらず着席したまま腕を組み、箒をじっと見ている。
「お久しぶりです、師匠」
不機嫌そうに見えた箒が口を開くと同時に、少し頭を下げる。その箒の様子に翔は軽く笑い、一夏は苦笑を刻む。
「そう言う堅い所は変わらないな、箒」
「だよなぁ、同い年だぜ?」
そう言って笑う一夏に鋭い視線を向ける箒、無論たじろぐ一夏。その二人の様子に、今度は翔が苦笑を刻む。
「少し、一夏をお借りしてもよろしいですか?」
「構わん、積もる話もあるだろう、持っていけ」
あれ? 俺の意思とかそういうのは? と疑問を抱いている一夏をスルーして二人で話を進めている箒と翔、すぐさま話は纏まったのか、箒は一夏の腕を掴む。
「あ、あれ? 俺だけ? 翔は?」
「俺は後でも構わん、行って来い、一夏」
翔が付いてこない事にも疑問を覚えたのか、疑問をぶつけるが、さらりと返され、箒に意味深な笑みを向けて頑張って来い、などと言葉を送るが、一夏の頭には無論クエスチョンマーク、箒は少し頬を赤くしながら二人は教室の外へと消えていく。
二人がいなくなり、席の辺りが静かになった翔は、おもむろに立ち上がり、教壇を登り、自分を遠巻きに見ている女子生徒全員に声をかける。
「皆気になるのはわかるが、見られるだけではこちらとしても少々気になる、そこで、何か聞きたい事があれば質問してくれ、俺はそれに答えよう」
どうだ? と教卓に手をつき、あたりを見渡す翔に、女子生徒一同は呆けたように翔を見返していたが、その言葉の意味を理解すると、爆発。
津波のように教卓の前へと押し寄せる女子生徒に物怖じせずに掌を前に押し出し、勢いを止める。
「一気に聞かれても答えようがない、まずは席に着け、それから一人一人の疑問に答えよう」
落ち着いてそう言う翔に女子生徒達はすぐさま席に着く、その様子に翔は苦笑を一つ落とすと、一人一人の質問に簡潔且つ丁寧に答えていく。
「名前は?」
「柏木翔だ、聞かれそうな事を言っておこう、愛称は好きに呼ぶと良い」
「趣味は?」
「言ったと思うが読書だ、雑食性でな、雑誌から小説まで何でも読む」
「身長は?」
「168cmだ」
その答えに、170cmはあると思ったけど……と言う疑問の声があったが、時間は限られているのでスルーした。
「付き合っている人はいますか?」
「今はいない」
「タイプの女性は?」
「剣術ばかりで考えた事がなかったな、これからはそういう事も見ていこう」
と、そこまで終わった所でベルの音が聞こえる。同時に、箒と一夏が連れ立って扉を開ける様子も横目で確認する。
ふむ、と一つ頷いて翔は辺りを見渡す。
「えーと、何、やってるんだ?」
一夏の素直な疑問に、もう一度ふむ、と頷く。
「うむ、ドキドキ、得体の知れない男子生徒に質問してみよう、先生は柏木先生です、のコーナだ」
全く表情を変えず、真面目な声音で出てきた台詞はおよそ真面目ではなかった。
「相変わらず真面目な顔して冗談言うその癖直さないか?」
「ふむ、善処しよう」
その二人のやり取りに、今のは冗談だったと言う事実に安堵の息をつく生徒の声が一夏の耳には新鮮だったが、自分も最初は真顔で冗談のような嘘を言われて3日は信じた事を思い出す。3日後翔にあれは嘘だったと言われ荒唐無稽な嘘を信じ込まされた自分にちょっぴり自己嫌悪したのも良い思い出である。
「おい、さっさと席に……何だ? 座ってるじゃないか、何か……ってまぁいい、声を張る必要がないだけ楽になったと思っておくか」
一夏が幼き頃の思い出に浸っている間に一夏の姉、つまり担任の織斑千冬が教室の扉付近に立って少し驚いた表情になっていた。そして今現在席に着いていないのは一夏と翔の二人のみ、箒はいつの間にか席に着いていた、中々に要領の良い行動だ。
「さっさと席に着け、織斑、柏木」
担任の教師が入ってきても未だに席に着かない男子学生二人に当然の如く出席簿を振り下ろす。
ゴンッ、コツン。
明らかに贔屓を感じる音に一夏は堪らず声を上げる。
「いってぇ~! 明らかに今の贔屓じゃないんですか!?」
「馬鹿者、私が私の師匠に向かって強く出られると思っているのか?」
その発言に女子生徒達から悲鳴が上がりそうな気配を察知した千冬と翔は生徒達を眼光で黙らせる。
「構わん、ここにいる間は俺も皆と同様、ISの事を学ぶ者だ、同じように扱ってくれ、いいな? 千冬……ではなく、織斑教諭」
織斑教諭、と言った所で、千冬の瞳は少し細められたが、一瞬の事だったので翔以外は気が付かなかった、仮に気が付いたとしても、翔ではその瞳がどのような感情の色なのかは見分けられなかったである事は事実である。
「では、そのように……さて、全員席に着いた所で授業を始める」
「あ、あの、師匠って……一体?」
授業開始を千冬が宣言した所で、副担任である、山田先生、本名山田真耶から疑問の声が上がる。それに対して千冬は簡潔に答える。
「柏木……いや、師匠は私の剣の師だ」
重大事実をさらりと言ってのけた千冬の声は、ほんの少し苛立ちが混ざっていたが、誰もそれに気づく事はなく、驚愕した声を上げていた。私達と同い年だよね? や年下の男の子が? などと言った会話が小声でされている。最もすべて聞こえているが……。
そんな声にも身動ぎ一つしない翔の様子を視界に入れた千冬は、低く見られているような声色で話されているのに何故何も言わないのか? と苛立ちを感じたが、師が何も言わないならば弟子の自分が何か言うわけには……
「年齢など関係ない、師匠が私より強かっただけだ、お前たち小娘に何がわか……「そこまでだ、千冬」……わかりました」
全然我慢出来ていなかった、千冬を止めた翔を見やるとその瞳は悠然とこう語っていた。
『言いたい奴には言わせておけ』
翔のそんな様子を見た千冬は何となく安堵と嬉しさを感じ、場を仕切りなおそうと咳払いを一つ。
「では、改めて、授業を始める、山田先生」
「は、はい……」
今までのやり取りに呆けていた真耶は急にかけられた声に体を震わせながらも教壇に立つ、その様子を既に何時ものクールな表情に戻った千冬は見やり、視線を翔、一夏へと移す。
(一夏ももう少し師匠の様に受け流す事を覚えてくれればいいんだが……)
自分が声を上げなければ席を立ってまで声を荒げていたであろう弟の事を思い、すぐに自分もか、と思い直し苦笑を浮かべ、すぐに顔を引き締める。
教科書を読む真耶の声が教室を包み、周りの生徒は静かにノートを取りつつ、ちらちらと視線を二人の男子生徒へと送る者もいる。そんな教室の中、織斑一夏は額に冷や汗を浮かべながら必死に表情を取り繕っていた。
(ぜ、全然わかんねぇ…)
そう、何を隠そう、この織斑一夏、今まで全てのISに関する授業の内容を全く理解していなかったのだ。それと言うのも一夏がIS学園に入学するにあたって必読と大きく書かれたISの基礎知識に関する資料を電話帳か何かだと思い捨ててしまったのだ。無論その資料は翔の元にも届き、翔はそれに目を通していたので授業の内容を概ね把握できている。
(はぁ~、仕方ない、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、だ)
「あ、あの……「はい、山田先生」……え?」
何もわかりませんと言えるような雰囲気ではないが、覚悟を決めて先生に聞こうと声を上げようとしたとき、一夏の声を遮る様に低めのよく通る男子生徒の声が上がる。それと共に一夏の後ろの席の椅子が鳴る音と共にもう一人の男子生徒、柏木翔が何時もの感情を悟りにくいクールな表情で立っていた。
「はい? 何ですか? 柏木君」
「わからない所があります」
「何処ですか? 遠慮せず聞いてください」
生徒から質問されるのが嬉しいのか、ほにゃっとした笑顔と共に翔に聞く。
「全てわかりません」
恥ずかしげもなくその一言をノータイムで発する翔を目の前に真耶は笑顔のまましばし固まり……
「え? え? ぜ、全部ですか?」
「はい、全てです」
「お、おい……」
真耶とのやり取りの間に一夏が声を挟もうとするが、真耶が慌てて、他の女子生徒に分からないかどうかを聞いている内に片目を瞑り、笑みを浮かべた口元に人差し指を立て、喋るなというジェスチャーを一夏に送る。
その仕草は一夏だけでなく千冬にも向けられたもので、翔の仕草をしっかりと見ていた千冬は翔へと歩み寄る。
「必読と書いてあった資料はどうした?」
「剣術の鍛錬の時、誤って細切れにしてしまいました」
「そうか……仕方ない、後で送っておくから必ず読んでおくように」
「承知」
そう言われ、着席の瞬間、一夏の机に丸めた紙を投げ入れる。
何食わぬ顔をして席に着いた翔に疑問を抱きながらも一夏は渡された紙を広げる。
『帰ったら俺の資料を貸してやる、今度はちゃんと読んでおくようにな』
簡潔にそれだけが書かれていた。
(何これ? ありがてぇけど、格好よすぎだろ)
一夏の頭にフッ、と静かに笑みを浮かべる翔の顔が思い浮かび、消える。
不言実行、行動で語るのが男ってもの、この男の道を間近で見せられてきた一夏はそれに憧れ、同じようにこなそうとするが、中々この男のように後を濁さず事を起こす事が出来ない、だからこそ憧れるのだ。
この後この授業は一夏がどう考えても同い年に見えない少年への憧れを強くしながら進む事となった。
- 関連記事
- 二斬 漢は時に泥も被るものだ
- 一斬 漢は行動で語るものだ
- プロローグ
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~