時として「人事マフィア」という表現が使われるほど、強大な権力を有してきた日本の人事部。なぜ日本の人事部はこれほど強くなったのか。数多くの大手企業の人事・組織コンサルティングを手掛けるヘイコンサルティンググループの高野研一社長に聞いた。
(聞き手は山根 小雪)
日本企業では「人事部は強い存在」というイメージがあります。
高野:一言で言うと、日本企業の人事部は「特殊」です。人事権を掌握し、大きな権力を持つ日本の人事部は、世界的に見ればエキセントリックな存在。欧米企業などの人事部とは全く異なる特性を持っています。
欧米企業には、人事部が強い企業はありません。欧米企業の人事部は、採用の支援や人事制度の策定などを中心に、事務的な仕事を担ってきました。人事権は人事部ではなく、現場にあります。現場のマネジャーが、従業員の採用から解雇までのすべてを意思決定します。
一方の日本企業は、人事部が人事権を掌握しているケースがまだまだ多い。これは終身雇用というユニークな制度が日本企業の大前提にあるからです。いったん雇用したら解雇することなく雇用し続けるわけですから、長い目で従業員を見る必要があり、これを人事部が担ってきました。
人事部が従業員の情報を把握し、採用から配置に至るまでを一手に取り仕切る。ヒト・モノ・カネの3大経営資源の1つを握っていたからこそ、人事部は強かったわけですね。
「子会社へ移ると人事部の怖さが増す」
高野:今なお、多くの日本企業が終身雇用を貫いています。人事が従業員の面倒を見続ける世界が残っている。
「55歳で子会社へ移ったら人事部が今までより怖い存在になった」という声を聞くこともあります。退職する65歳まで人事部が面倒を見てくれるのはありがたい。一方で、本社のラインに在籍していた時とは異なり、次の自分の処遇を人事部が左右するようになるため、人事部の存在が大きくなる。人事部の脅威が増したように感じるというわけです。