大手開発会社からスタートアップに転職した「Compath Me」の女性CTOである桜井祥子さん
「スタートアップ業界には女性エンジニアが少ない」と話すのは、その珍しいとされる女性エンジニアでCompath Me のCTOである桜井祥子さんです。
現在の麻布十番から7月には代々木にオフィスを引っ越す同社に祥子さんがジョインしたのは約3年ほど前。少数精鋭のスタートアップチームのCTOとして、自身で開発の手を動かし、プロダクトをつくっています。
大手のIT受託会社に5年間務めた経験を持ち、その後、コンシューマー向けサービスをつくりたいという思いで現在のCompathに転職しました。
「まず大企業に勤めて、それからスタートアップという順番で良かったなと思っています。大企業のいいところはリソースが豊富なこと。でも、スタートアップに入ってみて、私にはこっちのほうが合っているなと実感しました。Compathではエンジニアは基本私ひとりなので、勉強して身に付く量が全然違うんです。それにスピード感もあります」
2012年2月にサービス開発に着手したCompath.meに加えて、2013年3月には家族向け育児日記アプリの「KiDDY」をリリース。「身近な人が、これがないと困る」と言ってくれることが何よりのやりがいだと話す祥子さん。
そんな日本のスタートアップ業界における貴重な女性CTOにお話を伺いました。
今の自分の基盤が出来た大手会社員時代
大学では物理学を専攻。幼い頃から星を見ることや宇宙が好きで、自然現象について「なぜ?」と必ず追求したくなる好奇心旺盛な子どもでした。
「子どもの頃、一番成績が良くて得意だったのは国語でした。でも、それ以上に、昔から物事の仕組みを探ることがすごく好きで。それが今のプログラミングを楽しいと感じることにもつながっている気がします」
大学を卒業して就職先に選んだのは、大手のシステム会社。最初からエンジニア職で入社し、金融系企業の会員向けウェブサイトをつくるなど、受託仕事でシステム開発のノウハウを習得していきました。
「その会社は半年間の研修期間が設けられていました。その間に模擬プロジェクトなどでシミュレーションをして、チームを組んで要件定義や基本設計を行っていくんです。最初に大手に入って良かったなと思う理由は、エンジニアの自分としての基盤が出来たことと、仕事を回す上での全体の仕組みが見えるようになったことです」
「現場でコードを書いていたい」
クライアントの受託仕事はプロジェクトの内容も多岐にわたり、常に新しいチャレンジがあるやりがいのある環境だったと言います。最終的には、プロジェクトマネージャー直下のリーダー職に就き、後輩エンジニアを統括するまでに。
ところが、祥子さんは5年間勤めたその職場を離れることを決意します。
「プロジェクトの規模も内容も毎度異なって新鮮でした。でも、5年いる中でプロジェクトにおける自分の役割もステップアップしていきました。上流設計をすることも、お客さんに会うことも楽しかったんですが、コードを書かないマネージメント職になるのは嫌で。現場でプログラミングをしていたかったんです」
また、祥子さんにはコンシューマー向けのサービスをつくってみたいという思いもありました。またアプリ開発やデザインなど勉強したいことも沢山ありました。現職ではそれは叶わないと断念し、まずは会社を辞めることを決めたのです。
人の行動や生活を変えるサービスがつくりたい
次を決めないまま会社を辞めてからは自宅に引きこもり、独学でゲームをつくるなどして過ごして2ヶ月ほどが経ちました。
次の仕事について具体的に考え始めた頃に、 同じ大学出身でCompathのCEOである安藤拓道さんと共通の友人を介して知り合います。
「安藤さんと知り合った当時、彼がつくっていたのはCompath.meだったんですが、話を聞いて面白そうだなと直感的に思いました。その後、じゃあ次の日にOpen Network Labに来てみる?って言われて、そのまま入社することになりました」
コンシューマー向けのサービスと一言で言ってもさまざまなサービスがあります。祥子さんはCompath.meのどこに惹かれたのでしょうか。
「いろんなサービスに興味があるんですが、すごく面白いなと思ったポイントは、まるでコンパスのように人の行動を導けることです。それが無ければ起こさなかったであろうアクションをユーザーが起こすきっかけをつくる。そんな風に生活を変えていく感じに共感しました」
身近な人のニーズから誕生した育児日記アプリ「KiDDY」
ママやパパが、撮った子どもの写真を家族で共有するために使われる「KiDDY」。もともとCompath.meも写真を主役とするサービス。写真という要素は共通していますが、KiDDYに関しては、思い描くユーザーは自分の周りにいるママやパパとして子育てをする友人でした。
「周りの友達が親になる年齢になってきて、子どもの写真はみんな沢山撮るんですが、その撮った写真は実はスマホに入れたままだったりして、やり場が無いという課題があるなと感じました」
そんなママやパパ、家族が抱える共通の課題への解決策を提供したい。そんな思いでプロトタイプをつくり、それを手にして家族連れが多い上野公園に出向き、ユーザーヒヤリングを行ったと言います。
「反応は上々でした。手応えを感じて本格的にサービス化することを決めました。自分の友人にアプリを紹介したりするんですが、友達のその先の周辺の人が有料版で使ってくれて、「これがないと困る」って言ってくれることが本当に嬉しいです」
柔軟にできるスタートアップだからこそ、ママ・エンジニアを活用
最初に入社した大手システム会社では、エンジニア全体の3割を女性が占めていたと言います。
「その時に女性エンジニアの姿を沢山見ていて、すごく活躍している女性マネージャーも大勢いました。スタートアップ業界に入ってみて、なんでこんなに女性エンジニアが少ないんだろうと疑問で。安定を求めていたり、公私のバランスが難しかったりといった理由があるのかもしれませんが、女性エンジニアがもっと増えればいいなと思います」
祥子さんにとって、今のエンジニアというプロフェッションの醍醐味は「自分で動くモノが作れること」。またスマホアプリなら、ユーザーからの反応も即座にダイレクトに返って来る。少しずつ、でも確実に思い描くサービスが形になっていくことにワクワクするのだと言います。
スタートアップ界隈にはいなくても、同じような楽しさを分かち合える女性エンジニアはきっと多いはず。最近では、ママさんエンジニアの活用も真剣に考えています。
「うちなら、働く時間を一緒に考えてあげることができますし、そういう働き方を色んな人がもっと模索してもいいはずです。エンジニアは手に職ですし、自宅にいながら十分リモートでできる仕事なので今後は女性エンジニアの仲間を増やしたいです」
身近にいる非ITな人を思い浮かべてつくること
「Compath.me」と「KiDDY」の2つのプロダクトで、人の生活を変えるサービスを志す祥子さん。いわゆるメインストリームの、決してITリテラシーが高くないユーザーさんを対象にしています。
独りよがりにならないプロダクトをつくるために、祥子さんには普段から心がけていることがあります。
「自分のすぐ近くにいるちょっぴりITオンチくらいの友達を思い浮かべて、「あの子でもわかるかな?」って考えながらプロダクトに落とし込んでいます。新しい機能を実装する時には実際にいじってもらいます。具体的な誰かを思い描いてつくることをいつも意識しています」
少人数だからこそ学ぶことがより多いスタートアップという環境。疑問があっても周囲に頼れる人はいないため、Googleで検索したりしながら根性と自力でプロダクトをつくり続けていると言います。そんな彼女が今、目指すこと。
「まずは、プロダクトをビジネスとして完全に回るところまで持っていきたいです。これまではプロダクトをつくるところに注力してきたので、それをどうマネタイズして事業にしていくか。事業をつくるというところも自分の経験として積みたいです」
立ち上げから2年と少しが経ったCompathは、現在もCEOである安藤さんとCTOである祥子さんの二人三脚。祥子さん曰く、どちらかと言うと感覚派な安藤さんと、自他ともに認めるロジカル派な祥子さんはお互いを補い合うチームなのだと言います。
そんな2人が手掛けるプロダクトが今後どのように成長していくのか。これからを楽しみにしたいと思います。