編集委員・忠鉢信一
2014年6月25日18時54分
(24日サッカーW杯、日本1―4コロンビア)
日本の命運をかけたコロンビア戦は惨敗に終わった。大試合に強い本田圭佑(28)は得意のフリーキックで3度ゴールを狙ったが不発。サイド攻撃が持ち味の長友佑都(27)はこの試合も苦しんだ。香川真司(25)は後半途中で交代し、ベンチ脇に座り込んだまま試合終了を迎えた。
「優勝すると言ったことには責任がある。これが現実。惨めだけど、すべてを受け入れる」
本田は「悔しい」を何度も繰り返した。
香川も同じだった。
「これで終わりだと思うと寂しい。(自分の力を)出し切れなかった。点を取りきれなかったことに責任を感じる」
長友は誇りを保とうとするかのように、笑顔で、しかし無言で帰路についた。
本田はACミラン(伊)、長友はインテル・ミラノ(伊)、香川はマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)。世界一になった歴史を持つビッグクラブに所属する3人だ。日本のサッカーファンの夢を広げてきた。
アジア予選の頃から、本田は「突き抜けた存在になって日本を引っ張ろうと、僕、長友、香川の3人で話し合っている」と言っていた。1次リーグC組の4カ国の中で、日本の世界ランキングは一番下だったが、「優勝を目指す」と言ってはばからなかった。
掲げた目標に日本が近づくには、その3人の活躍が必要だった。
内田篤人は「左のMF香川、DF長友、そこに絡む中央のMF本田の3人が、日本の攻撃の形を作る。僕は右DFで守りのバランスを取る」と役割分担を語っていた。
初戦のコートジボワール戦では3人の連係で本田が先取点を奪った。しかしその後は日本の左の三角形が輝くことはなかった。
右の内田が1次リーグの3試合を通じて攻撃で活躍できたのは、相手が香川、長友、本田を封じることに力を注いで、右が手薄になったからでもある。
しかし自滅したところもあった。本来の作戦では、香川はまず左に張り出すことになっていた。しかし香川は点を取ろうと中へ入るのを焦った。本田と近くなりすぎて、本田がもっとも得意とする香川への斜めのパスが出にくくなった。後ろから上がる長友も、前に香川がいなくなったため単独で突き進むしかなくなった。
世界一を目指すという言葉で、無責任に期待をあおっていたわけではない。
本田は大阪・摂津市立鳥飼北小の卒業文集に「W杯で優勝する」と書いた。石川・星稜高に進学するときには、「サッカー留学をする意味があるだけの大きな目標を宣言しろ」と父親に言われた。高校時代から「ビッグマウス」とあだ名された。
だが、正直な自己分析は「才能がないからだれにも負けない練習と工夫が必要」。高い目標を掲げるのは、自らに努力を強いるため。そして最近は、同じ目標を多くの人と共有することが、実現につながると考えるようになった。
「同級生の本田とは熱い話でも、厳しいことでも言い合える」という長友は2010年夏、「世界一のサイドバックになる」と誓ってFC東京からチェゼーナ(伊)へ移籍した。おぼろげだった「世界一」の像が明確になったきっかけは11年1月のインテルへの移籍だ。当時、アルゼンチン代表だったサネッティという手本に出会った。
サネッティはポジションを争う長友に助言を与え、勇気づけてくれた。社会貢献に熱心で、振る舞いはいつもチームの顔にふさわしい。「世界一のサイドバックは、チームを世界一にするだけでなく、人間的に優れていなければならない」
長友はインテルに入ってからずっと、チーム練習の前後に個人練習をしている。昨夏には、長友の提案で練習場の隣に坂道を造らせた。原点である足腰の強さを磨き直すため、1人でそこを繰り返しダッシュした。「この4年間、僕はだれよりもW杯のことを思い続けてきた」
本田、長友より年下の香川は、自分から「世界一」とは言わない不言実行のタイプだ。しかしドイツのドルトムントで活躍している頃から、目標は世界一に定めていた。
今大会も活躍しているアルゼンチン代表のメッシを世界最高の選手と憧れるが、メッシに追いつけないとは思わない。メッシのプレーを見て、自分にも採り入れたいと思ったら、すぐに練習で試す。一昨年に入団したマンチェスター・ユナイテッドの同僚、イングランド代表のルーニーのことも「毎日の練習で見ながら学んでいる」。
高い目標は、最高峰の世界で競い合う3人の日常に欠かせないものであり、支えでもあった。
結果は、時間をかけて糧となっていく。香川は「すぐには気持ちを切り替えられないが、4年に一度のこの大会を勝ち抜いていくには、力を出し切る精神力が必要だとわかった」と振り返った。
本田は「これで僕の発言への信用は下がる。ここで世界一という目標を変えないと言っても、何を言っているんだと言われてしまう。でも僕は、こういう生き方しか知らないから」。おこがましいと言われても、恥ずかしいと思っても、もう一度、目指すほかにない。
長友は長い時間軸を意識してこう言っていた。
「僕たちが優勝と言えば、今一緒にプレーしている選手だけでなく、将来の日本サッカーを背負う子どもたちの心の中にも、『優勝』という言葉が入る。そうすれば、日本は変わる」
W杯ロシア大会のある4年後、本田32歳、長友31歳、香川29歳になっている。(編集委員・忠鉢信一)
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