6月25日、日本代表にとってのFIFAワールドカップ・ブラジル大会は、コロンビアに4−1で敗れたことにより、幕を閉じた。決勝トーナメント進出には勝利が絶対条件となる中、先制されながら前半終了間際に追いつくも、後半、突き放されて力尽きた。勝負の分かれ目はどこにあったのか。データダッシュボードで試合を振り返った。
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0-5分 日本
立ち上がり、いつも異なり縦への意識を強くし、サイドにおいても中央においても、まず縦パスを入れる意識の高さが伺われた。今野、吉田、長谷部でゲームを作り、青山が相手の虚を突く縦パスを入れる、そういう役割分担にしていたようだ。青山はきわどいところにボールを入れて、まだ通っていないため、データに現れていない。
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0-5分 コロンビア
コロンビアも早い時間帯の先取点が欲しかったようで、人数をかけて攻めてくる。中盤で細かくつながず、奪ってからサイドにシンプルに展開、クアドラードとキンテロの2選手がしかける。
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6-16分 日本
縦パスへの意識の強さは、まずすぐにでもゴールが欲しいこと、カウンターを狙う相手にスキを与えないよう、なるべく少人数で速く攻めてしまおうという意図がある。 8分の長谷部の縦のロングパスを大久保がペナルティエリア内で受けたプレーが象徴的で、これがまさに日本がやりたかった、縦に速い形。9分の大久保のシュートで終わったシーンも同じで、今野が中央、縦に入れたボールを本田がシンプルに大久保に落とした。
1戦目と2戦目とはっきり違うのは、左サイド中盤で細かいパス回しをしていないこと。普段の左サイドの攻めの中心となる長友に、長谷部からも今野からもパスが行っていないデータからもわかる。とにかく縦に速く。そして重心もいつもの左サイドではなく、右サイド寄りだ。
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6-16分 コロンビア
コロンビアの両サイドが攻撃の意識が高い一方、守備で穴を空けがち。そこを青山、長谷場、内田らに顔を出されてシュートを立て続けに打たれる。それでも両サイドの意識は守りというよりはカウンター寄りで戻りが遅く、2ボランチの脇のスペースが空く。陣形を見てもCBとサイドの選手、前線が長いことがわかる。 コロンビアのサイドがあけたボランチの脇のスペースの有効活用で、日本の流れが続くと思われた。この展開を見て、内田、長友の両サイドバックも高い位置を保っている。10分で5本ものシュートを浴びせる最高の流れ。
しかし、勝負はわからない。攻略どころだった、ボランチの脇のスペースで縦パスを受けようとした岡崎が、センターバックに突っかけられてボールを奪われる。完全に攻撃態勢に入って高い位置にいた内田の裏側に展開され突破を許し、ペナルティエリア内でたまらず今野がファール。PKを与えて先制される。
最高の数分間が、悪夢に。コロンビアのカウンターの鋭さが光った。
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17-25分 日本
先取点を取られた日本は、さらに攻めるしかなくなった。起点とするのは、失点前と同じ右サイド。本田も右寄りにポジショニングして、内田とともにサイドを攻略しようとする。
左サイドでなく、右サイドを使う一つの理由は、内田のビルドアップ。中盤でボールを持って前方向にパスを出す能力は日本のサイドバックの中でも屈指。24分の岡崎を狙ったフィードがいい例だ。 25分のチャンスも、長谷部がシンプルにロングパスを大久保に出し、落としたボールを香川が拾ってシュート。縦に速く、シンプルに。今日の日本の攻めだ。
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17-25分 コロンビア
守り方の甘さからピンチを招きながら、カウンターの鋭さで先取点を取ったコロンビアは、すぐに修正。DFラインと両サイドを下り目にして、ボランチの脇を埋めようとする。ポジショニングを見ても、中央にしっかりと人をかけている。
日本が起点とする右サイドを受けつつ、逆サイドに個人技のあるクアドラードを高い位置に維持させている。23分のカウンター攻撃が特徴的で、日本の右サイドを受けてボールを奪うとすぐにクアドラドに展開、真ん中に走りこんだ選手にスルーパスを出している。守りを固めて速攻、狙いは明確だが、サイドの戻りが相変わらず遅い。
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26-33分 日本
相手が下り目になったことで、相手のDFラインの裏は狭く、逆に中盤にはスペースができはじめる。それに呼応して日本は本来得意な左サイドでのパス回しに切り替え始める。最初の起点になる今野が、前の時間帯では右に位置していたが、左に変わっているのがデータにも現れている。今野の縦パスから香川、長友を絡めた攻撃。日本のいつもの形だ。ただし、本田がトップ気味の位置にいてパス回しに参加していないのがいつもの左サイド攻撃と違うところだ。
29分、日本がコロンビアのカウンター攻撃をしのいだあと、コロンビアの選手の戻りが遅れて大きなスペースがサイドに開いていた。しかしこのチャンスに、長友、本田は単純なクロスを上げ、跳ね返されてチャンスを逸してしまった。
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26-33分 コロンビア
コロンビアは変わらず、守って前線の4人にすばやく預ける形に徹する。クアドラード、マルチネスの両サイドの突破狙いだ。横パスがまったくないことからも徹底していることがわかる。
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34-41分 日本
日本は左サイドの攻めと縦パス重視の攻めを織り交ぜ始める。データでも長友と周りのパス線があると同時に、青山、長谷部からの縦パスも見られる。シンプルだが変化があり、良い流れ。
35分、青山が縦に長く入れたボールを大久保が右に落とし、内田の折り返しを大久保がオーバーヘッドキックしたシーン。たびたび見られる日本の狙いだ。 だがそれだけではない。37分と39分の左サイド、長友、香川、大久保で組み立てたシーン。今日はこの左サイドの崩しと縦の速い攻め、そして右の内田。コートジボワール戦とギリシャ戦には見られなかった、状況に応じて使い分けられる柔軟性がある。
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34-41分 コロンビア
コロンビアは先取点を取る前のように、サイドの選手の戻りが遅れ気味。組織的な守りというよりは、一対一で勝つような守りをしている。特に日本の左サイドを空けがちで、たびたびそこを日本のパスワークの起点に使われる。しかし奪ったあとは、前に残った選手に預けて、大きくサイドチェンジを狙ってくる。弱みと強みが表裏一体。どちらがモノにするか。
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41-45分 日本
同じ流れが続く。日本はコロンビアが空けたサイドを使い、コロンビアは前に残ったサイドの選手でカウンターをしかける。両翼から攻めていることがわかりやすい陣形。日本もコロンビアの速攻に晒されて、DFやボランチの選手の押し上げが効かず、長くて速いボールを前線に入れても、一人しか飛び込んでいないシーンが見られる。
相手が空けたサイドを攻略するか、前線に残った相手のサイドの選手にやられるか。お互いの攻めどころが明確な流れの中で、同点ゴールが生まれる。
中盤で長谷部が奪われたボールをクアドラドが運んで日本の右サイド側にパス。日本の守備陣が踏ん張ると、右サイドから内田が運んで、相手が戻りきれていないサイドにいた本田に渡す。本田のクロスに、前に残っていた前線の4人が飛び込んだ結果、中央にいた岡崎の頭に合って同点ゴール。 先取点を取ってもサイドを固めずもう1点を取ろうとしたコロンビア。戻らないコロンビアのサイドを突き続けた日本。このシーンでは日本が点を奪って前半を終了した。
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41-45分 コロンビア
コロンビアはなおもサイドを高い位置に残してカウンターを仕掛けようとする。41分の高い位置で奪って人数をかけた攻めなど、コロンビアにとっても惜しいシーンが続く。
45分の失点は、狙った形で日本にカウンターを浴びせるはずが、逆カウンターを食らって失点。コロンビアにとっては、前に出る日本を相手に2点目を決めて早々にゲームを終わらせたかったはずだが、マズいゲーム運びをしてしまい、前半を終えた。
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前半見られた日本の変化
前半の日本のパス。これまでと比べて細かい横パスでなく積極的に縦に狙う意志がデータにも現れている。
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比較)ギリシャ戦の前半のパス
左サイドで細かくつないでいる。縦に急ぐコロンビア戦とは異なる。
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45-55分 日本
ハメス・ロドリゲスの投入に寄って前に出てきたコロンビアに押され、これまでボールを持つ流れが続いていた日本が、ボールを支配できなくなる。ポジショニングデータもこれを証明するかのように、後半開始後から失点までの10分間、ほとんど前線でボールを繋げていない。エースを出してきたコロンビアの本気に押されている。
後半9分の失点は、日本が左サイドを押し込まれ、ラインが下がったところでできたスペースにコロンビアがバックパス。香川がマークに付ききれずにドリブルで侵入を許して失点した。
左サイドで甘くなって失点するのは、コートジボワール戦の2失点と似ている。
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45-55分 コロンビア
前半のマズいゲームの運び方を見て、コロンビアのペケルマン監督は後半始めから動く。カウンターの起点にはなっていたが、同時に守備の穴になっていたクアドラドを下げて、守備意識の高いカロボネロを投入。さらにゲームメーカーのハメス・ロドリゲスを投入する。
サイドに預けるカウンター狙いだった前半の戦い方から一転、自由に動き回るロドリゲスにボールを集めて、前線に人数をかけて攻め始める。
データを見て欲しい。縦線しかなかった前半と違って、前線の選手間で密にボールが回っている。
攻め方はサイドで二人、三人でボールを回して日本のディフェンスを引き寄せて、開いた中央に仕掛けるというもの。後半9分の勝ち越し点もこの形だ。後半頭からエンジンを掛けて突き放す。コロンビアのゲームプランがハマってしまった。
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56-66分 日本
もう攻めるしかない。コロンビアはがっちり引いて守るかと思いきや、まだ前線の3人は比較的ルーズで高い位置を維持。本田がトップ下の位置から左右のスペースを使うことを伺う。大久保もスペースを狙って動き、ドリブルの仕掛けが目立つようになる。
後半19分、決定的なシーンが生まれる。相手の戻りが甘い右サイドをから本田、内田、岡崎の3人のパス回しで崩してクロス。DFの間に飛び込んだ大久保がシュートを放つが枠を外れる。ペナルティエリアに3人が飛び込み、最高の形だった。
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56-66分 コロンビア
勝ち越し点を奪って、重心がやや低くなったが、サイドの選手の前残り傾向は変わらない。前半の先取点を取ったあとの流れに似ている。攻撃はハメス・ロドリゲス経由ではなくなり、再び縦、サイド重視。だが、相変わらずサイドのスペースを日本に突かれる。
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67-80
後半23分、日本は岡崎に代えて柿谷を投入。大久保と2トップを組む。再びコロンビアが引き始めたため、左サイドからのパスワークに切り替える。
後半28分の今野のシュートは左サイドから細かく崩した形で、日本がこれまで追求してきた形だ。守りを固めるコロンビア相手に、細かいパス回しで崩しにかかる。
しかし、重心を下げてブロックを作ったコロンビアに、本田がボールを奪われるとシンプルに縦に繋がれてカウンターを受けて失点してしまった。相手には狙い通り。日本としては攻めざるをえない中で、攻めきれず、逆襲を許した形になった。
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67-80分 コロンビア
危ない時間帯をやりすごしたコロンビアは、このあたりからサイドもきちんと戻り、引いて守り始める。明らかに前の時間帯より、両翼が下がっていることがわかる。
左サイドに偏った陣形は、日本の左サイドをしっかり受け止めたあと、日本の選手の密度が低い逆サイドに展開してカウンターを狙おうという構えだ。
後半33分のカウンターは山口の戻りで得点にはならなかったが、狙っていた形。後半35分の得点は、きっちり守ってから2人だけの速攻で点を取った。
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3点目のシーン
固めて、シンプルに縦へ。カウンターがハマった形だ。
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81-88
決勝トーナメント進出に3点が必要になった日本。押しこむしかない中、後半38分、長谷部が狭いところをスルーパス、香川が一番得意とする形で受けてシュートを打ったが枠を外れた。
引いて9人で守る相手に対してボールを持つが、トップの大久保、柿谷にボールが入らない。左サイドからの長友のクロスや柿谷のドリブルも不発。
ギリシャ戦の後半同様、真ん中に人数をかけ、両翼から攻める形だ。カウンターの対応に追われて今野も吉田も位置が上がっていない。
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81-88分 コロンビア
もう攻める意味のないコロンビアは全員が自陣に引いて守る。ワールドカップ最年長出場記録を更新するため、控えゴールキーパーのモンドラゴンを投入する余裕。
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81-試合終了 日本
前へ出ざるを得ない中で、再びカウンターを食らって失点。引く相手にボールを回して一矢報いようとするが及ばずタイムアップ。
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81-試合終了 コロンビア
しっかり受けて、タイムアップ。
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こうして振り返ってみると、8人スタメンを落として臨んだコロンビアの守りのスキも多かったにもかかわらず、それを活かせなかった、完敗といっていい試合だろう。
データで明らかなとおり、コロンビアは決勝点となる2点目を入れるまで、両サイドを張らせてカウンターを狙っていたため、ボランチの脇が慢性的に守備の穴になっていた。そこから幾度となくチャンスをつくったが、ゴールに結び付けられず、一方で相手は、前線に残したサイドを起点にカウンター攻撃を再三しかけ、ゴールを奪った。またも勝負を分けたのは、サイドの攻防だった。
日本は点を奪わなければいけない状況で、こうした流れになること自体が悪いわけではない。お互い、相手にやりたいことをやらせて力勝負をした結果、負けたという印象だ。
コロンビアは1軍でないだけあって、守りの陣形にほころびがあったものの、カウンターで待ち構えて先制、守備の乱れで追いつかれるが、エースを投入して勝ち越し、さらにカウンター狙いで追加点を挙げたあとは引いてきっちり守る、と、ゲーム運びに余裕があった。また、ハメス・ロドリゲスの存在も大きい。入ったとたんに落ち着いてボールを回せるようになっただけでなく、カウンターに切り替えても、決定的なパスを出せる。彼の投入は、確実に勝負を分ける要因のひとつだった。
一方、日本は縦方向を重視する戦略と、相手のサイドを突く動きで前半までは良かった。しかし後半、相手がハメス・ロドリゲスを入れてボールを持ち出すと対応できず、ディフェンスラインがジリジリと下がって失点。その後は引いて守る相手に左、右、中央とボールを持って攻めるが及ばなかった。
試合の流れの大半を定義付けたのは、「勝たなければならない日本」「2勝しているコロンビア」という状況で、戦前からわかっていたことではあるが、やはり最終戦までに勝ち点を稼いでおかないと厳しい、というのも事実だろう。
3試合通して日本は、ボールを持てども攻められず、というシーンが続いた。
コートジボワール戦の1点は、スローインからの香川のドリブルが起点、コロンビア戦での1点も、カウンターで相手が空けたスペースからクロスでゴール。いずれも日本が志向してきた、ゆったりした攻めと狭い地域でのパス回しで3人、4人が連動するゴールではなく、「自分たちのサッカー」が結果に結びつかなかった。
日本の左サイド潰しを用意していたコートジボワール。ボールキープの軸となる本田に厳しいマークを付けたコロンビア。一人少なくなるやすぐに引き分け狙いで割りきって守ったギリシャ。こうして振り返ると、相手は自らの持ち味も出しつつ、一方で躊躇なく、勝負のリアリズムに徹してきている。それに対して、日本はどうだったか。こうした点が、親善試合では決してない、本番ならではの厳しさだろう。
3試合を戦って、勝ち点1に終わった日本代表。今後、日本のサッカーは、どうなっていくのか。次の4年間に向けて、新たな旅が始まる。