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守れ! 金型メーカー

6月24日 20時55分

鈴木啓太記者

日本の高い技術力の流出の懸念が広がるなか、金融サービス大手の「オリックス」が官民ファンドのもとで経営立て直しを進めてきた大手金型メーカーを買収することを23日、発表しました。
ものづくりの根幹を支える金型メーカーと金融サービス大手の意外な組み合わせ、その背景について、経済部の鈴木啓太記者が報告します。

金型メーカー苦境の背景

大阪に本社がある金型メーカーの「アーク」は、最新の3D技術を活用した金型で、自動車や家電製品の試作品づくりに強みを持ち、日本やヨーロッパなどの主要な自動車メーカーと取り引きがあります。日本の金型を代表する企業のひとつです。

しかし、M&Aによって急速な事業拡大を進めていた矢先に起きたリーマンショックで受注が減少し、財務が悪化しました。3年前に官民ファンド「地域経済活性化支援機構」(当時は「企業再生支援機構」)から支援を受け、経営の立て直しを進めていました。

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金型はものづくりの土台

機構は金型メーカーの支援に実績がありました。2010年には、自動車部品の金型を作る業界大手2社の経営統合に際して、機構が出資し、再建を果たした事例もあります。

なぜ、機構が金型メーカーへの支援を行ってきたのか。
金型は、自動車や家電製品などの生産には欠かせず、ものづくりの根幹をなすと言われています。金型メーカーを支えることは、日本国内の製造業全体の競争力の維持に欠かせないと判断したからです。

最近は中国など新興国のメーカーとの価格競争に押されていますが、細部にこだわる日本の金型メーカーは依然、高い技術力を持っています。不採算部門を切り離すなど経営態勢を整えれば、世界で戦えると考えたからです。
また、こうした高い技術力に目をつけた海外のメーカーが、日本の金型メーカーの買収に乗り出したことも危機感を一段と強めたとみられます。2009年にはタイの自動車部品メーカーが大手の金型メーカーを買収、さらにその後、一部の工場は中国の自動車メーカーの手に渡りました。

支援のバトンタッチ

アークの経営の立て直しを進めてきた機構は、3年間で子会社の数をおよそ3分の1に削減。拡大していた金型を使った量産部門などの事業を大幅に縮小し、経営改革を進めました。
再建に一定のめどが立つなかで、機構は新しい支援先を探し始めました。支援先の条件として、私が取材した関係者は「高い技術を海外に流出させるわけにはいかず、日本企業に限った」と話していました。

最終的に、新たな支援先となったのが金融サービス大手の「オリックス」です。主力の自動車のリース事業などを通じて築いた自動車メーカーとのネットワークを「アーク」の成長に活用したいとしていますが、相乗効果は未知数です。

オリックスの真のねらいは純投資だとみられます。一般的な投資ファンドは、株式を3年から5年保有したあと、別の企業に売却するケースが大半です。一方で、「オリックス」は、投資ファンドと異なり、投資資金をすべて自社でまかないます。投資期間は柔軟に対応できるとしています。
つまり、買収した企業の成長を確実に見届けるまでは株式を手放さないとみられ、こうした点もオリックスが支援先に選ばれた理由とみられます。

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金型の未来は

最近では、日本企業が海外に生産拠点を拡大させた結果、新興国でも金型メーカーが育ってきています。特に、中国をはじめ、台湾や韓国などの技術レベルは高い水準になっていて、品質の面でも必ずしも日本メーカーの独壇場ではないと指摘されています。

さらに、近年、急速に存在感を示しているのが、3Dプリンターです。3Dプリンターは、コンピューター上で作った設計図をもとに、金属などを積み上げて立体物を作っていくもので、医療現場などで普及し始めています。
現時点では、今すぐに金型に取って代わることはないものの、最近では工業製品への展開も進み始めていて、試作品や生産量が少ない部品の生産に使われるケースもみられています。

欧米の自動車や航空機メーカーでは、10年後を見据えて、自社の開発や部品生産に3Dプリンターの活用を模索し始めています。日本の金型産業も3Dプリンターとどう向き合うのかが問われようとしています。
価格、品質それに新技術を巡る世界的な競争が一段と激しくなるなか、日本の金型メーカーが生き残ることを期待したいと思います。

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