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「鯨飲馬食=大食い」は誤り? 鯨と馬に学ぶ健康法

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2014/6/25 6:30
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 梅雨が終われば夏がやって来る。暑い日にはジョッキを手に大いに飲んで食べたいものだが、暴飲暴食には気を付けなくてはいけない。この暴飲暴食の様子を表すのに「鯨飲馬食」という表現があり、鯨や馬は大食いの象徴とされている。しかし、実際の鯨や馬は決して大食いではないらしい。ならば「鯨飲馬食=大食い」という語釈は誤りなのか。

由来は中国

鯨は大きな口を使って餌と海水を丸のみする=有限会社「知床ネイチャークルーズ」提供
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鯨は大きな口を使って餌と海水を丸のみする=有限会社「知床ネイチャークルーズ」提供

 「広辞苑」によると、「鯨飲馬食」の意味は「鯨が飲み馬が食らうように、大いに飲み食いする様子」とある。辞書で見る限りでは、鯨も馬もかなりの大食いということになる。

 「鯨飲馬食」は、実は「鯨飲」と「馬食」という2つの言葉を合わせてできた表現で、その由来は中国にある。

 「鯨飲」の部分は中国盛唐の詩人、杜甫が作った「飲中八仙歌」からの引用。杜甫は、中唐初めの8人の酒豪の飲みっぷりを「飲如長鯨吸百川」<鯨(巨大な魚の意味)が100本の川を飲み干すようだ>と形容した。大きな口を開けて海水ごと丸のみする鯨のイメージがこうした表現につながったとみられる。

 「馬食」の部分は、中国前漢の時代に司馬遷が編さんした歴史書、史記の「范雎伝」(はんしょでん)に登場する「令両黥徒夾而馬食之」というくだりが起源。こちらは大食いの形容ではなく、懲罰として「馬のように口を食器に付けさせて食べさせる」という意味で使われている。成城大学の陳力衛教授は「中国では馬に大食いというイメージは全くないし、『鯨飲』と『馬食』をくっつけた言い回しも存在しない」という。

 大食いの象徴のように言われる鯨と馬だが、実際のところはどうなのか。東京海洋大学の加藤秀弘教授は「鯨暴食説」に首をかしげる。

実際は小食

 「ヒゲクジラが餌を取るのは1年のうち3カ月だけ。それ以外は絶食しているんです」。加藤教授によると、ヒゲクジラの餌はオキアミなどプランクトン類。海水ごと丸のみするが、口の中にあるヒゲでオキアミをこし取った後は海水をはき出している。一般に鯨が1日に食べる餌の量は体重の4%程度。人間で言えば体重約50キロの人が1日に合計2キロ程度食べるといったイメージだ。どうやら鯨が大食いとは言いにくい。

 同様に大食いのレッテルを貼られている馬も、実際の姿は異なるようだ。「馬に必要以上の餌をやったら、死に直結します」と話すのは、馬を放牧で飼育する石狩ホーストレック(北海道当別町)の代表、大城康子さん。大城さんによると、馬は腸がきわめて長いのに胃は小さいため、運動不足のまま食べすぎると「疝痛(せんつう)」という病気を起こしやすく、腸捻転になってしまう。予防法は、しっかり運動させて胃腸を動かさせることだという。大城さんは、飼い馬13頭のそれぞれの運動量に応じて、与える餌の種類と量をきめ細かく調整している。

 鯨や馬の専門家からすると「鯨飲馬食=大食い」という語釈は成り立たないことになる。

 ところが日本では「鯨飲馬食」という言葉は江戸時代から明治にかけて広まり、暴飲暴食の意味で使われた。なぜ、本家本元の中国で使われていた意味合いと異なって広まったのだろうか。

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