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雑誌『週刊金曜日』の6月6日号“「アイドル」を守れ”特集を受けたトークイベントレポートの後編。前編【アイドル論者が語る“握手会と現場”の最前線「人の心は金で買えないけど、ヲタの心は“握り”で買える」】では、中森明夫氏と倉本さおり氏が司会を担当。濱野智史氏、宗像明将氏、姫乃たま氏が登壇し、アイドル現場の最前線について語り合った。後編では、中森氏と倉本氏が司会を継続。評論家の栗原裕一郎氏、ライター・物語評論家のさやわか氏、アイドル専門ライターの岡島紳士氏が登壇し、アイドル評論のあり方から、ネット時代における音楽・出版といったコンテンツ産業の難点、さらにはアイドルカルチャーの世界進出についてまで、広範に議論を展開した。
アイドル評論のあり方について
中森:今、アイドルってすごい人数がいるよね。
栗原:尋常じゃないですよね。下手すると数千人くらいいるんじゃないですか。このたびのアイドルブームで感心したのは、人間というのはこんなにたくさん固有名詞と顔を覚えられるのか、ということで(笑)。80年代、おニャン子クラブ以前は、アイドルなんて主要な人たちはせいぜい100人前後というところで、たかが知れていたじゃないですか。
岡島:埼玉県主催の『メディア/アイドル ミュージアム』っていうイベントをやったときに総人数を数えようとしたんですけど、3~4ヶ月の開催期間中にもどんどん解散したり結成したりするので、無理でした。
栗原:これだけ入れ替わりが激しくて人数も多いと、仕事柄、10年後、20年後に振り返った時にちゃんと記述できるだろうかって思っちゃうんですよね。今のうちからヲタたちの集合知で、wikiか何かを使って、移動や引退なんかの情報も含めたリストを作っておいたほうがいいんじゃないかという気がする。
中森:まぁ、一人の力じゃ無理だね。バンドブームやGSブームの時はどうしていたんだろう。
栗原:あの頃は紙だから残っていて発掘できるっていうのがあるんですよね。「ぴあ」のチケットインフォメーションとか残り続ける。今、特にアイドルはネットの情報が主体ですけど、ネットの情報って、半永久的に残ると思われているけど実は消えていくんですよね。
岡島:地方に行ったりすると、メイド喫茶がアイドルっぽい活動していたりもして、どこまでがアイドルかの境界線も曖昧。
中森:これまでメディアといえばテレビだったんですよね。でも、ネットができたおかげで誰でもアイドルになれるようになった。
栗原:今のアイドル評論が難しいなって思うのは、とにかく現場が主体になっているからっていうのもあります。昔はアイドル評論をやりたければメディアの情報を見ていればよかった。メディアの虚像がむしろ本体だったから。でも、今はメディアを見ていてもダメなんですよね。かといって、日々の仕事があるから、ヲタのように毎日現場に行くわけにもいかない。
中森:アイドル評論は、もうなくても良いと思われている。でも、評論家がいてもいなくても良い状況だからこそ、逆に淡々とやれるわけ。それにこういう事件起こった時には現場の人ではなく、やはり評論家に意見が求められるでしょう。
岡島:僕は役割分担だと思っていて、それぞれが得意なことを紹介していけば良いと思っています。
中森:栗原さんみたいに、ちゃんと歴史を記述できる人もあんまりいないですからね。ヲタは現場を回るの忙しくて、そんなことをしている暇はないでしょうし。
AKB商法とCD不況問題の関係性
中森:10年前を振り返るとアイドルブームの気配なんて何もなかったじゃない。AKB48の最初のライブも観たけど、これほど盛り上がるとは思わなかった。だから今のアイドルブームはウソみたいな感じさえする。
さやわか:本当にそうですね。岡島さんが『グループアイドル進化論』を出した2011年くらいの頃から、僕らはいろんな人に「いつブームが終わるんですか?」みたいなことを聞かれ続けてきた。どうせ短期的なブームだと思われていたわけです。でも2014年になった今もアイドルの盛況は続いている。ざまぁ!みたいな気分ですよ(笑)。
中森:ひとつ言えるのは、アイドルの歴史を考えると79年は本当にアイドルがダメだったんですね。その時になにがあったかっていうと、渡辺真知子と桑江知子とか、今でいうディーバ的な人たちが台頭していた。ニューミュージック、シンガーソングライターの時代だよね。アイドルがダメな時は、ニューミュージックやロックの全盛期なんですよ。80年代も、おニャン子がダメになってから、ブルーハーツとかバンドブームへと至る。2000年代初頭もモー娘。がピーク越えた後はJPOPでしょ。それで今のアイドルブームが終わらないのはなぜかを考えると、実はJPOP的なものがまったくダメになっているということなんじゃないかと。
栗原:そのダメになった理由と繋がってくるのが、CDが売れないという問題ですよね。CDが売れない、じゃあどうしようということでAKB商法が生まれたと。
さやわか:AKB商法というとアイドルばかりがやっているように思われがちですけど、今やオリコンの上位にいるミュージシャンはみんなAKB商法をやっていますしね。たとえばEXILEが売れているのだって、AKB48とほとんど同じ販売手法をやっているだけなんですよね。
栗原:でも僕なんかは古い人間なので、同じCDを複数枚買うっていう行為を、頭でわかっても、生理的には受け入れがたいところが残るんですよね。ある世代より上の音楽好きには、音盤というものにはフェティシズムが拭いがたく付随しているわけです。レコードからCDに切り替わった時に清算されるかと思ったんだけど、紙ジャケみたいなかたちで継続した。それが、10年くらい前、輸入権とかCCCDとかの問題があったときに、とあるレコード会社のディレクターと話してたら「最近の子はCD捨てちゃうんですよ」って言われて。仲間内で回してリッピングが済んだら捨てちゃうんだと。たしかに、言われてみれば、CDなんてデータの器にすぎないから、その意味ではPC雑誌の付録のCD-ROMと変わりがない。それで頭がパチッと切り替わって、音はもうデータでいいんじゃないかって思った。ところが、それを『ミュージック・マガジン』の編集者に話したら激怒されて(笑)。
中森:CDはもうパチンコ屋の景品替えのようなものでしかないですよね。
岡島:BiSなんかすでにミュージックカードにしていました。
さやわか:でも、そういうビジネスモデルとアイドルの相性は良いんですよね。ミュージックカードとかは、音楽を買うという行為を握手会やライブに参加するためのチケットに変えてしまうわけだから。言い換えると、今のシステムはレコード会社が非常に弱い立場になってしまった結果だと言える。つまりチケットが求められているいまの音楽ビジネスにおいて、「CDを売る」っていうことを無理やり介入させてもらっている状態になっていると思うんですよ。80年代とか90年代だと、音楽ビジネスはレコード会社が主導権を握って、レコードを売るんだっていうことを中心にして芸能事務所やメディアなどのすべてが動かされていた。でも今はレコード会社にそういう力がない。
中森:レコード会社も音盤が不要になることは絶対にわかっていたはずなのに、なす術もなく今の状況に追いやられてしまったよね。
栗原:そこにはやはりフェティシズムがあったと思うんですよ。「音盤は神聖なものである」っていう意識が絶対にあったし、紙ジャケやリマスター盤なんかもそうですけど、それを延命させる方向でずっとやってきた面はありますよね。
さやわか:そこで「音盤を売る」ということが「音楽」それ自体を売っているのだという風に考えなかったのは皮肉なことですよね。「自分たちは、音盤というモノではなく、音楽を売っている」という誇りの持ち方をしていれば、ダウンロードとかストリーミングに対してももっと前向きに対応できたはず。
中森:でも、栗原さんも言っているように、頭でわかっても身体でわからなかったんだろうね。人は自分の若い頃の成功体験からは逃れられないじゃない。出版社だって、インターネットが普及することはわかっていたのに、なす術がなかった。
栗原:もうひとつAKB商法について思うのは、CDに握手券を付けて売るようになったら、複数買いする人がいっぱい出てきた。そうすると、その現象は何かってことを後から考えるわけですね。で、いろいろな方面から批判が出てきたんだけど、最終的には、さやわかさんが『AKB商法とは何だったのか』に書いたように、倫理的なものしか残らない。経済活動として見ると、消費者当事者が満足ずくでやっている以上、そこは実は批判が成立しづらい。そういうふうに潰していくと、音盤に対するフェティシズムであるとか、あるいはキャバクラになぞらえて搾取されてるぞと警告するとか、倫理的なことしか批判の根拠が残らないんですよね。
中森:もしCDを介在しなくても「なんでこんな女の子に金払ってんだ」っていうのは絶対に残る。それはCDじゃなくて、もっと剥き出しになって出てくるのね。
さやわか:アイドルに対する批判っていうのは、主に経済的な側面に集中しがちですけど、本当は「なんか気に食わねえ」とか「いっぱいメディアに出ていて腹が立つ」とか、そういう感情に基づくものですよね。
栗原:「売れやがって」とかね。でも、そういう理屈で考えても解消できない情の部分にこそ、アイドルの価値があるわけでしょう。
中森:芸能っていうのはもともと理屈で解消できないものですよ。だけどお金が介しているので理屈というか、説明責任を要求される。そこにひとつの捻れがあるんじゃないかな。
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