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古典的な外交戦略“合従連行”から「アジアの経済大国、中国との付き合い方」を鋭く分析!

近年、世界の中でも経済が著しく発展しているのが中国を筆頭としたアジア諸国です。今回は、そんなアジアの急成長国として注目されるベトナムを視察した内田氏が、ベトナムの経済現況などについて語ってくださいました。

また、中国の戦国時代の外交戦略“※合従連衡”の事象から内田氏が考察した「日本がアジアの経済界で勝ち組になるための戦略」と「世界第2位の経済大国、中国との効果的な付き合い方」についてご紹介します。

※合従連衡とは……中国の戦国時代、当時有力だった7ヵ国うち最も国力の強かった秦の圧力を防ぐため、その他の6ヶ国(韓、魏、趙、燕、楚、斉)が用いた外交戦略。

秦に対抗するため相互関係(合従)を結んだ6ヵ国が秦から個別の連盟関係(連衡)を打診され、自国だけが秦と手を組んで力を得るため他国と分裂するも、分裂した後、秦から1ヵ国ずつ戦略され滅んでしまった事象。結果的に秦が天下統一を果たす。

■アジアの急成長国、ベトナムの現況

●ベトナムの発展と日本企業の進出

十数年ぶりに訪れたベトナムは様変わりしていました。ホーチミンシティは、香港や台北などの都心と比べても遜色のないくらいの都会で経済の発展ぶりがうかがえました。

一方、トタン屋根のバラック小屋がつらなる地域もあり、高度成長期にあった日本の昭和30年頃の雰囲気もありました。そんな地域には市場が多く、食品や耐久消費財、消耗品などなんでもそろいます。日本の企業がこういった地域に進出し自国の商品を浸透させるには、昔の日本のように1軒1軒を訪れ商品を売り込むドブ板営業的なアピールが必要だと思います。

●ベトナムはバイク天国

トナムは人口が9,000万人ほどでバイクの年間販売台数は350万台、街を走っているバイクは3,500万台程度だといわれています。2.5人に1人はバイクに乗っている計算になる“バイク天国”といえるでしょう。

また、車も年々確実に増えてきているので道路はバイクと車でごった返す大渋滞状態で、交通事故が問題視されています。

バイクメーカーは圧倒的に日本製が人気です。特に『HONDA』が人気で、350万台中の60%のシェアをHONDAが占めています。
HONDAにとってベトナムは非常に大切な拠点となっています。

●ベトナムの日系企業

今回私は、キューピーのマヨネーズ・ドレッシング工場など、いくつかの工場を視察させていただきました。日系企業でベトナムに拠点をおいているのは、産業系というより食品系が多いです。例えば『エースコック』というインスタントラーメンのメーカーはかなり前からベトナムに工場を持っていて、ベトナムのインスタントラーメンシェアの半分以上を持っています。他には、『味の素』も大きなシェア持っています。

ベトナムには、昔からたくさんの日系工場があり、一番多いのは縫製工場です。安い人件費で技術のある女性労働者が確保できると重宝されてきました。十数年前までは、簡単な組み立てやミシン掛けなど女性向けの軽作業しかありませんでした。ただ、最近は様変わりしていて、大型の機械を造る工場も増えて男性の就業機会も増えています。機械の製造のなかでも、人海戦術が必要な細々した部品の組み立てや配線作業の仕事が多いです。日系だと『矢崎工場』が工場を持っています。

●韓国メーカーのブランド力

韓国メーカーのベトナム進出には目をみはるものがあります。有名なメーカーだと『ヒュンダイ』などです。ベトナム人は韓国ブランドをものすごく評価していて、今では、昔から人気のあった日本メーカーとの地位が逆転してしまうほどの勢いがあります。特に若い世代への韓国メーカーの浸透力がすごいです。

日本と韓国の違いは、音楽やゲームなど日本はコンテンツ産業で稼げるようにする、産業立国的な考えに力を入れています。
一方、韓国は日本より1段も2段も高いところで国をあげて自国メーカーのブランド力を強化しているので、日本が韓国をおさえてアジアの市場に入り込むのは難しいかもしれません。

●ベトナムと海外の輸出と輸入事情

輸出に関してはアメリカが世界一で、世界のシェアの約2割を占めています。続いて、2番目がEU、3番目は日本、4番目は中国です。アメリカ、EU、日本はベトナムの安い労働費を使って、加工製品をそれぞれの大消費国へ輸出します。

一方、輸入になると状況が変わります。例えば、ベトナムで電気製品を製造するといっても組み立てが主ですから、部品を日本から輸入しないといけない場合もありますし、単価の安い中国から輸入することも多いです。また、生活必需品なども価格が安い中国からたくさん輸入しています。

■ベトナムとアジア諸国の関係

ベトナムを訪問して感じたことは、今後の経済発展において中国など他のアジア諸国とどう協力して利害関係を築いていくかが重要になるということです。特に中国との付き合いは、ベトナムにとっては非常に頭の痛い問題です。中国とベトナムは一時敵対していた歴史もあるので「できれば中国に隷属したくない」という国民感情もあるでしょう。

■経済大国中国と、アジア諸国

中国と隣接するアジアの国は、日本・韓国・フィリピン・インドネシア・タイ・ミャンマー・インド・モンゴルなどです。

東南アジアの経済面でリードしているのがタイです。タイは自動車産業やエレクトロニクス産業が自立してバランスがいいので、近隣諸国のお手本になっています。また、輸入に関しても中国に依存していません。

また、日本などアジア進出をすすめる国が立地のいいタイに一極集中してハイテクな工場をたくさん建てた経緯もあります。

モンゴルは親日国で日本に対する期待の大きい国です。日本にもっと経済投資をして欲しいと考えています。ただ、GDPが低く労働力が少ないこともあり、日本からすると魅力が少ない国です。

一方で、モンゴルはウランや石油など天然資源が多いので、それをどう開発していくかが政府にとって大きな課題です。

全て国内で開発できるほど技術はないのですが、外国資本に開発の利権を売ると付加価値を他国にもっていかれてしまいます。なので、外国資本に頼りつつモンゴルにお金を残してもらうのがモンゴルの理想です。

■合従連衡からひもとく、中国に対抗する戦略

中国は日本や韓国をはじめとするアジア諸国から、輸入面で依存されていて大きな力をもっています。例えば、日本人で「メイドイン中国」の製品を持っていない人はいないでしょう。電化製品や服、家具などあらゆる製品の供給を中国に頼っています。日本は中国無しでは経済が成り立たない状況なので、中国とどう上手く付き合っていくかが重要です。

そんな中国なしでは国が成り立たない、日本、韓国、モンゴル、ベトナムが中国に対抗して上手く付き合っていくための方法を“合従連衡”からひも解こうと思います。

まず、現在のアジア諸国は自国だけが中国と上手く付き合おうとしています。それは、戦国時代に自国だけが秦と組んで上手くやろうとして滅ばされた国と非常に似ていて、とてもよくない状況だと思います。

そこで私が考えるベストな方法が、中国と一つの国が有利な関係を結ぶのではなく、アジア全部の国と組んでいこうというASEAN的な考えを取り入れることです。ASEANはもともと反共国家連合で、中国共産党に対抗するために民主主義や自由主義の国が共産化されないようにと中国に対抗するためにつくられた機関です。そんなASEANのように、中国に比べると小さな国々が連合を組んで対抗するのは1つの考え方ですね。

一方、日本・韓国・モンゴルなど、ASEANから離れている国がどう中国に対抗していくのかも考えるべきことです。今のように日本国単独で中国との関係を改善しようというやり方は難しいです。

そうではなくて、親日国が多いASEANと組んで中国に対抗していく方法がベストだと思います。そのとき、日本は「うちの国は経済大国だから」と威張るのではなくて、経済先進国としてASEAN諸国の“頼れる兄貴分”のような立場でいることが大事です。

例えば、EUは様々な国が連携して規模を大きくし、アメリカに対抗できる力をもった好例です。日本もアジアの中でEU的なポジションを築いて、中国と何か発展的なことをしていこうという姿勢が大事なのではないかと今回の視察で感じました。

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