「美味しんぼ」論争・科学者からの反論〔2〕福島県の親御さん、心配無用です
PHP Biz Online 衆知(Voice) 6月17日(火)12時15分配信
<誤認されやすい放射線と放射能の実態を徹底解説/高田純(札幌医科大学教授・理学博士)>
◆放射線による甲状腺がんは発生しない◆
レベルC(線量0.1〜0.9シーベルト)は無症状です。ただし、受精から15週までに瞬時にレベルCの線量を受けた妊婦の場合に、流産、奇形、精神遅滞のリスクがあるので要注意です。繰り返しますが、福島の超低線量ではこのリスクはありません。広島と長崎の被災者のなかでレベルC以上(線量0.2シーベルト以上)の生存者は、白血病、胃がん、甲状腺がん、乳がんなどの悪性腫瘍のリスクが高まりました。一方、レベルC未満のケースでは、悪性腫瘍のリスクは見られませんでした。福島県民の外部被曝はレベルDであって、レベルC以上はいません。白血病、固形がんのリスクは増加しないのです。
小児の甲状腺影響の心配に対し、福島県は10メガヘルツのエコープローブ(超音波探触子)を使用して甲状腺検査を実施しています。しかも、確かな疫学調査とするために、ケース(福島県)&コントロール(他県)スタディが実施されています。平成24年度、福島県民13万4074人と県外(青森県、山梨県、長崎県)4365人の両者の甲状腺検査結果に統計的有意差はありませんでした。高分解能超音波エコーを用いた10万人規模の検査は世界でも珍しいものです。通常、100万人に一人の小児甲状腺がんとは、未検査の場合に見つかる甲状腺がんの確率であり、10万人規模の実検査で発見される確率ではありません。県内外の比較で、異常なしのA判定が99.3%(県内)に対して99.0%(県外)、二次検査の必要ありのB判定は0.7%(内)に対して1.0%(外)、直ちに二次検査の必要なC判定は0.001%(内)、に対して0.0%(外)でした。
すなわちこの疫学調査の結果は、福島の子どもたちに特別な甲状腺の異常は発生していないことを示しています。県内外で、特段の差異は見つかっていません。今回の事例は、多数の検査で、普通の生活のなかで発生するごく稀な甲状腺異常が見つかった範囲です。
加えて福島県民の甲状腺線量は35ミリシーベルト以下でした。私も、震災の翌4月に浪江町民40人、二本松市民24人、飯舘村民2人の計66人を検査した結果、最大の人でも8ミリシーベルトでした。この値は、チェルノブイリ事故周辺住民の最大線量50シーベルトの1000分の1以下しかありません。
チェルノブイリと同じリスク係数を当てはめても、放射線由来の小児甲状腺がん年間発生リスクが1000万人に1人以下と予測されます。すなわち、放射線による甲状腺がんは福島県で発生しない、と判断できます。
福島県の親御さん、心配無用です。
◆政府の誤推定では未来永劫、浪江町に帰れない◆
私は先述のように、東日本大震災の翌4月8〜10日に福島県民の放射線衛生を調査しました。浪江町民から、残してきた牛たちを見てきてほしいといわれ、末の森に行きました。一人で畑の放射能測定をしていたら、遠くにいた20頭ほどの黒毛和牛たちが集まってきました。飼い主たちがいなくて淋しかったのでしょう。そのなかで下痢や脱毛など、急性放射線障害を示す牛は一頭もいませんでした。これは低線量率の証拠です。現地では、牧畜家の元浪江町議会議長の山本幸男さんに偶然出会いました。それ以来、牛たちの放射線衛生調査を継続しています。最大の悲劇は、政府による非道な殺処分です。牛3500頭、豚3万頭、ニワトリ44万羽、馬100頭が犠牲になりました。民主党政権から始まった風評加害事件はまるで中世の魔女狩りです。
誤解されるようですが、放射能は伝染病ではありません。放射能は弱まり、消滅する法則があります。半減期が短い核種ほど強い放射線を出しますが、最初に消滅します。半減期が約8日間の放射性ヨウ素は、すでに消滅しています。大気中および体内のセシウムも3年たったいまでは大幅に減少しています。
福島第一原発の境界敷地でも2日間の測定をしました。胸に装着する個人線量計で積算線量を確認すると、0.1ミリシーベルト。震災元年4月の2泊3日の現地調査では1日当たり0.05ミリシーベルトです。この低線量率は危険でないので、私は持参していた防護服とマスクを着用しませんでした。もちろん当日、私に鼻血はなく、脱毛もなく、いまも髪はフサフサです。
2年目の3月に、政府が年間50ミリシーベルトを超えると断定し、帰還困難区域と指定した浪江町末の森にある山本さんの自宅で、2泊3日の調査を行ないました。すると1日の実線量は0.05ミリシーベルト、年間17ミリシーベルトだったのです。政府の調査は畑での空間線量率を測り計算しているので、3倍くらいの過大の線量評価になっています。政府の誤った線量推定では未来永劫、浪江町には帰還できません。この地は政府が放置し、まったく除染がされていないのです。放牧地と自宅周辺の除染をすれば、すぐに年間5ミリシーベルト以下に改善できます。
5月14日、日本人初の国際宇宙ステーション船長を務めた若田光一さんが、半年ぶりに、ソユーズ宇宙船でカザフスタンの草原に帰還しました。そのときの映像をテレビで観ましたが、彼は至って元気そうでした。もちろん、鼻血は垂れていません。宇宙飛行士が、国際宇宙ステーション内で受ける線量率は1日1ミリシーベルトです。この線量率は、地表の平均値の30〜300倍です。今回の若田さんの場合は188ミリシーベルトになります。
私の調査グループは、宇宙飛行士522人の線量と死因を調査しています。522人の宇宙飛行士とアメリカの一般人の死因を比べて、特段の違いは見つかっていません。月面着陸したアームストロング船長は2012年8月に、82歳でこの世を去りましたが、アメリカ人の平均寿命79歳よりも3年長く生きました。
生命にとって、受けるエネルギーは総量よりも毎日の量がとくに重要です。放射線でいえば、1日当たりのエネルギー=線量・線量率(ミリシーベルト/日)です。生命活動は休みなく持続し、細胞に寿命があって再生されているからです。たとえば、白血球であれば3〜5日、小腸栄養吸収細胞が24時間です。だから、各細胞が受けたエネルギーは蓄積しません。宇宙飛行士が健康を維持している理由がここにあります。
震災から3年たったいま、福島県民の多くは、セシウムによる線量は年間1ミリシーベルト程度か、それ以下です。これは、食品摂取による体内セシウムも含めての値です。線量率は宇宙飛行士の300分の1程度で、健康被害のリスクはまったくありません。食品流通の目的で農地や放牧地さえ除染すれば、20km圏内の産業も再建できます。
昭和20(1945)年8月、広島は70年間、草木が生えないといわれました。しかし同年10月には、市内電車も全線再開し、人たちも少しずつ戻ってきました。翌年には市内で農作物が収穫できていますし、広島市の女性の平均寿命は日本一に輝いたこともあります(86.3歳、2005年)。当然、福島県は完全に復興できます。
さらば迷信、こんにちは科学。
(『Voice』2014年7月号より)
■高田 純(たかだじゅん)札幌医科大学教授・理学博士
1954年、東京生まれ。弘前大学理学部物理学科卒業。広島大学大学院理学研究科博士課程中退。シカゴ大学ジェームス・フランク研究所、京都大学原子炉実験所などを経て、2004年より現職。放射線防護情報センター代表・放射線防護医療研究会代表世話人を務めるかたわら、ロシア、ウクライナ、カザフスタンなど世界の核被災地を調査し、福島の復興に注力する。著書に『福島 嘘と真実』(医療科学社)ほか多数。
最終更新:6月17日(火)12時22分
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