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深夜

ここは、とある名門校。
幼稚園から大学まで揃った学園だ。
深夜の誰もいないはずのコンクリート造りの建物の一角から、蛍光灯の灯りが漏れている。
その部屋の中で、スーツ姿の美女と、高校生の制服姿の少女が、数台のモニター画面を見つめていた。
彼女達の視線が、その中の一つの画面に注がれた。


299998


299999


美女と少女の肩に、力がこもる


300000


その瞬間・・・美女の顔に微笑みが浮かんだ。
そして・・・・・。

「さあ、ゲームを始めましょう・・・・・」





五人の男達が、礼拝堂の前で、円形になって立っていた。

男たちは、全員が右手に赤いボールを持ち、左腕には四角い時計を填めている。
腰には、赤いウェストバッグを付けている。
そして何よりも、男たちは五人とも、視線が虚ろで焦点が定まっていない。

一人の男が、ハッとしたように辺りを見回した。
「ここは・・・・・どこだよ・・・・・?」
あたりには、赤い煉瓦造りの礼拝堂や、煉瓦風のタイル張りの校舎。たくさんの花が咲いている花壇等があるが、どれ一つ取っても、彼・・・・・安藤智樹にとっては記憶に無いものだった。
安藤は呆然と立ち尽くしているように見える、四人の男に気がついた。
彼は、傍らに立ち尽くしている男の肩を揺すった。
「大丈夫ですか?」
男はハッとしたように辺りを見回した。
「ここは、どこだ?」
「僕にもわかりません・・・どこかの宗教系の学校のようですが・・・・・」
答えている間にも、安藤は他の男達の肩を揺すって声をかけている。
気がついた男たちは皆、自分の置かれた状況に戸惑っている。
「なんだ?」
「俺、部屋でネットを見ていたはずなのに?!」
一人の小肥りの青年は、我に帰るなり手にしていたまんが雑誌を読み始めた。
その様子を見て、安藤は苦笑した。

その時、
「ようこそ『T・B』へ・・・・・」
突然、聞こえてきた女性の声に、五人の男達は辺りを見回した。
「どこにいる?!」
「さっさと元に戻せ!」
男達の声にかまわず、
「これから、ゲームを始めます・・・・・」

聞いた瞬間、安藤の顔に困惑の表情が浮かんだ。
ネットの一部のコミュニティで囁かれている、都市伝説を思い出したのだ。
ある時突然、男の人の姿が消え、代わりに美女や美少女が現れる・・・・・周りの人達は、ここには男性が住んでいたとか、両親が、自分の子供は息子だったと思うのだが、『モヤモヤ感』を感じるだけで、『当たり前』に日常が進んで行く。
「実は男が女になっているのでは?」
そんな噂が流れていたのだが・・・・・。

「これから、あなた達のいる、このエリアを使ってゲームをします。 ルールは簡単・・・あなた達の持っているボールなどのアイテムで、他の男性を倒していく・・・・・最後に残った一人が勝ち・・・・・簡単でしょう?」

安藤は『嫌な予感』が『確信』に変わりつつあった。
「倒された方はどうなるんだ? 元の場所に戻るのか?」
安藤が辺りを見回しながら言うと、
「そう、元の場所に戻るのよ・・・」
次の言葉を聞いた瞬間、男達は凍りついた。
「女性になってね・・・」

最初に渡すアイテムは、全員が持っている『トランスボール』・・・・・女性のエナジーをボール状に成形した物で、これを投げて相手にあてると、相手は女性になってエリアから退場になる。
撃破された相手は、その後は女性として生活をする。
誰が倒されたか? あるいはゲーム内の通知や、アイテムの購入などはウェストバッグ内の携帯電話で連絡を行い、全員にエリア内の通貨・・・・・30万TS$が支給されている・・・・・。

ゲームの説明を聞いている男たちは、時折、
「そんな・・・・・」とか「バカな」とか言っていたが、やがて諦めにも似た空気が漂い始めた。
そんな中で、ただ一人・・・・・小肥りの青年・・・・・梅本秀和だけは『いつもの自分』 を保っていた。
「さて・・・・・続きを読むか・・・・・」
そう言うと、花壇に置かれていたベンチに座り、手にしてきたマンガを読み始めたのだ。

「これから一分後に、ゲームがスタートします」

彼女が言ったその時、左腕につけられていた四角い時計がカウントダウンを始めた。
「タイマーだったのか・・・・・」
そう思うと共に、安藤は四人の男に視線を向けた。
彼らを『女性にしなければ』元の場所には戻れない。
「じゃあ、また後で・・・・・おれが女にしてやるよ」
30歳くらいだろうか・・・・・背の高い、ちょっと『チャラい』雰囲気の男が、ニヤニヤ笑いながら歩いて行った。
「この状況ですから、恨みっこ無しで」
鍛えた体を持つ制服姿の青年が、ボールを掲げながら言った。
「君、部活は何をやっているの?」
安藤が尋ねると、
「野球部です」
肩には自信がありますよ・・・・・そう言って笑う青年を、男たちは、苦笑いしながら見送った。
「手強い相手になりそうだな・・・・・」
安藤が呟いた。
「時間がないぞ」
知的な雰囲気を持つ青年が言った。タイマーを見ると、
「行きましょう」
安藤は青年に言うと同時に学校の校舎に向かった。
一瞬、ベンチに座ってマンガを読む梅本を見た。
相変わらず、一心不乱にコミック雑誌を読んでいる。
「あれでは・・・・・?」
真っ先に女性にされてしまうのでは・・・・・安藤は、今後の梅本の事を思ったが、すぐにその思いを消した。
自分自身だって、どうなるかわからないのだから・・・・・。

安藤は校舎に入り、タイマーに視線を落とした。
カウントダウンが進んでいる。

















「ゲームスタート」




「始まった・・・・・か・・・・・」






相手を撃破して、男性としての人生を守りきる。

それが・・・・・



Books Nigeuma 30万HIT記念作品


TRANS・BATTLE


T・B

作:逃げ馬




安藤智樹は、国立大学の名門、東都大学の法学部2年生の20歳の青年だ。
運悪く? あるホームページを見ていて、この「ゲーム」に参加をすることになってしまった・・・本人は全く望んでいなかったが。
校舎を歩いているうちに玄関ホールにでた。
たくさんの表彰状やトロフィー、記念写真や制服を着せたマネキン人形などもある。
「ここは・・・・・純愛女子学園か・・・・・」
安藤は表彰状に書かれた文字を見ながら呟いた。
純愛女子学園は、彼が通う東都大学と同様、名門と言われる女子大学だ。
国立で大学だけの東都大学とは違い、純愛女子学園の場合は、長い場合は幼稚園から大学院まで在学できその分だけ、一貫した濃密な教育を受ける事ができる・・・・・もちろん、女子限定だが・・・・・。
実際に、その結果は出ており、有力な国会議員や学者。 テレビ番組のキャスターや、変わったところでは人気女優やアイドル歌手まで輩出している。
彼の高校の同級生も何人か、この大学に入学したはずだ。

安藤は、視線を周りにはしらせた。
掲示物を見ると、今、彼がいるのは「純愛女子学園高校」らしい。
ふと何か気になり、視線を落とした。
腰には「勝手につけられた」赤いウェストバッグ。
それを開けて見ると、中にはスマートホンと、分厚い?お札が入っている。
お札を見ると「TS銀行券10000TS$」と書かれ、この学園の象徴である聖母像が印刷されている・・・・・ゲームに使うお金としては、なかなかの出来だ。
『こども銀行』じゃないんだから・・・・・そんなことを思いながら、さらに中を見ると、『エリアマップ』と書かれたこの学校の地図が出てきた。
どうやらこの学園の主な敷地は全て『戦いの場』になるらしい・・・・・。
安藤智樹は、唇を噛み締め、静かに闘志を燃やしていた。



伊藤博之は、IT会社に勤務する30歳の会社員。
180センチの身長と、いわゆる『イケメン』。そして、飽きさせないトークで、合コンにはよくお呼びがかかった。
そして、女の子を頻繁に『お持ち帰り』していたが・・・・・。
思わず笑ってしまう。
気をつけないと、自分が『お持ち帰り』される側になってしまう。
今夜も合コンがあるんだ・・・さっさと決着を着けてやる・・・・・たとえ、どんな手を使っても・・・・・。
伊藤は広々と広がる花壇に植えられた、桜の古木の影から様子を見ていた。
今、彼の視界には、梅本秀和の太った大きな体が見える。
相変わらず、ベンチに座ってまんがを読んでいるようだ。
あいつはいつでも倒せるな…伊藤は思った。
戦いの基本は、『最大の脅威を排除』する事だ。
あの男は、あの体ではボールを避けることも出来ないだろう。
最大の脅威・・・・・伊藤は、一人の男を思い出していた。
まずは彼から・・・・・伊藤は、その男を探すために、学園の中を歩き始めた。



小倉雄太は、24歳。
京洛大学 工学部で電子工学を学ぶ大学院生だ。
皆がそうだろが、彼もこんなゲームに参加をするのは不本意だ。
工学部の研究室で研究に没頭する彼はスリム・・・・・否、『不健康な生活』のため痩せ過ぎな体型で、身長も170センチと最近では小柄な方といえるだろう。
「どうしよう・・・・・?」
右手に持った赤いボールを見ながら、小倉は途方に暮れていた。
どちらかというと、スポーツは得意ではない。
かと言って、この場合、逃げ回っても問題は解決しない。
不意討ちをして相手を倒すしかない。
小倉は礼拝堂の向こう…花壇のベンチに座っている梅本の大きな体を見た。
あいつなら、僕でもボールを当てられる。
小倉は梅本に背を向けると、待ち伏せに良い場所を探すために、学園の中を歩き始めた。



関 克也は、17歳。
野球名門校の教剛高校野球部に所属する高校二年生だ。
昨夜は、ほんの興味本位であのサイトを開いた・・・・・その結果がこれだ。
まだ6月なのに浅黒く焼けた肌。その下には素振りやランニング。ノックや遠投など野球を通して鍛えた筋肉がある。
185センチの恵まれた体と、俊足と強肩もあって、今年の夏の大会は、レギュラーメンバーに入る事が出来そうなのだ。
もし、ボールを当てられると・・・・・女になってしまって、全国大会への出場はおろか、この体を失う事になるのだ。
関は、思わず右手に持ったボールを投げる真似をした。
シャドウピッチングだ。
負けるわけには行かない・・・・・関は『ターゲット』を探して学園内を移動している・・・・・。



梅本秀和は、マンガ雑誌を読んでいる。
彼は18歳。
178センチ、95Kgの体は、主にポテトチップスとコーラによって作られている。
昨夜は、パソコンをつけたまま、マンガ雑誌を読んでいて、気がつけば、この場所にいた。
雑誌を持って来れたのは良かった・・・・・彼は思った。
みんなが右手にボールを持っていたのに、彼だけは足元に赤いボールが置いてあった。
なぜか・・・・・それは両手に分厚いマンガ雑誌を持っていたからだ。
流石のゲームマスターも、彼の手からマンガを奪うことはできなかったのだ。
そして今、彼は一冊目のマンガを読んでいる。
相変わらずボールは足元に転がっているが、今の梅本には関心はない。
もしかすると、ゲームが行われていることすら忘れているかも知れない。

梅本秀和は、『恐るべき集中力』で、マンガを読み続けていた。




安藤智樹は、高校の校舎を出て、大学のキャンパスを歩いていた。
赤い煉瓦風のタイル張りの校舎は、陽光を浴びて美しく輝いている。
キャンパスの中も掃除が行き届いていて気持ちが良い。
ついさっきまで安藤は、大学の校舎内を見て回っていた。
こんな時でないと女子大学の中など、じっくりど見る機会など無い。
理学部の実験室も、大学の図書館も、法学、文学、経済学などに関連した蔵書の質と量も、彼の大学以上のものだった。
彼の大学と、この学園の両方に合格した女子学生は、この学園を選ぶ者が多いという理由も、これを見ると納得ができた。

しかし・・・・・?

「誰も・・・・・いないな・・・・・」

朝、それも日が高くなってきているのに、この学園の校内には学生はおろか、職員の姿すら無い。
「何かの力」が、この場所に人が来るのを遮断しているのだろうか?
それとも・・・・・?

安藤は、考えるのを止め、今の状況に集中する事にした。
「誰もいない」のは、このゲームに巻き込まれた者たちもそうだ。
この広い学園の中で、様子をうかがっているのだろう。
油断をすると・・・・・?



伊藤博之は校舎の壁に体を張りつけるように隠れながら、道を歩く安藤の姿を見ていた。
そこに・・・・・。
伊藤の顔に笑みが浮かんだ。制服姿のがっしりとした体つきの男が、こちらに歩いて来る。
関克也の姿を見た瞬間、伊藤の頭の中に、ある作戦がひらめいた。
伊藤はゆっくりと関に近づいて行く。
関は、伊藤の姿を見た瞬間、身構えた。
伊藤は両腕を、まるでバンザイをするように高く挙げると、
「大丈夫・・・・・俺は君とは戦わない」
関は、半信半疑の表情で伊藤を見ている。
腕の力も、さっきよりは抜けたようだが、その気になれば直ぐにでも、強烈なボールが伊藤に向かって飛んで来るだろう。

「それよりも・・・・・」

俺と組まないか?・・・・・伊藤がニヤリと笑った。
あそこを見ろよ・・・・・伊藤が指差した先には、安藤が歩いている。
「俺と君が組めば、彼との戦いを有利に進める事ができる。君と戦うのは、最後でいいだろう?」
伊藤の真剣な表情を見ているうちに関も、その気になってきた。
「なるほど・・・・・良いですね」
二人で有利に戦いを進め、その二人で最終対決をする。
関にとっても、体力を温存できて悪い話ではない。
伊藤は、関に向かって頷いた。
「よし・・・・・じゃあ手始めに、彼を倒そう・・・・・」
伊藤は、50メートルほど先にある木を指差すと、
「君は、あの場所からボールを投げてくれ・・・・・」
もしも当たらなかった場合は、反撃する彼を俺が攻撃する。
関は、頷いた。
伊藤が彼に向かって言った。
「始めよう」
関は、彼に背を向けると木に向かって走り出した。
その瞬間、伊藤はニヤリと笑うと、ボールを手にして振りかぶった・・・・・。



関 克也は、校舎の影から木に向かって走り出した。
視線の先には、安藤が警戒をしながら歩いている。
彼の鍛え上げた脚がスピードに乗った、その瞬間・・・・・背中に何かが当たった。

「まさか?!」

驚く関の体を、赤い閃光が包みこんだ。
関の視界から景色が消えた。
身長が少しずつ小さくなり、それに合わせるように、鍛え上げた筋肉が溶けるように消え去り、柔らかい脂肪が薄く体を覆っていく。
日焼けした肌は白くなってしまった。
短く刈り込んだ頭からは黒髪が伸びてポニーテールにまとまっていく。
「やめてくれ!」
叫んだ声は、練習でいつも叫んでいたドスの聞いた男の声ではなく、可愛らしい…彼と同世代の女の子の声だ。
その間にも、胸には柔らかい膨らみが現れ、ウェストに括れが出来て、ヒップが膨らむのに合わせるように、足が内股になっていく。
突然、胸がキュッと締め付けられ、ヒップをピッタリとした下着が包みこんだ・・・・・その下着のフィット感は、彼の分身がなくなった事を告げている・・・・・その意味を悟った瞬間、彼…否、彼だった彼女は、頬を真っ赤に染めていた。
制服のズボンが短くなり、白い太股がほとんど露になった。
黄色と白を基調とした鮮やかな色使いの半袖ミニスカートのユニフォーム・・・・・そして手にはポンポンが?
「これは・・・・・まさか・・・・・?」

眩い閃光が視界を包み、関克也の意識は途切れた。





スタンドには、夏の日差しが容赦なく降り注いでいる。
関里美(せき さとみ)は17歳、教剛高校の二年生 チアリーディング部に所属している。
今日は、野球部が全国大会の県大会の決勝戦を戦っている。
スタンドで応募団の女の子たちは、ブラスバンドのリズムに合わせてポンポンを振り、応援をしている。

「違う! 僕は応援をしに来たのではない・・・・・」
可愛らしい微笑みを浮かべながら、仲間たちと共に応援する里美の中で、関克也は叫んでいた。
打席では、関のライバルだった選手がバットを構えている。
「僕がいるべき場所は・・・・・」
頭の中で叫ぶ克也にはお構い無く、里美はポンポンを振り、仲間たちと共に応援をしている。
ポニーテールがリズミカルに揺れ、汗が頬を伝う・・・・・健康的な太股をスカートが撫でる。
その『甘い感覚』を感じながら克也の意識は、里美と融合していった・・・・・。



スマートホンから着信音がなった・・・・・メールだ。




伊藤博之が関克也を撃破
関克也はチアリーダーになり、伊藤博之の所持金は60万TS$になった。
残りは四人




「彼が・・・・・?!」

最後まで残ると思ったのに・・・・・安藤智樹は、メールに付けられた画像には、球場のスタンドで応援する可愛らしいポニーテールの髪のチアガールが・・・・・。
これが、あの彼なのか?
もしも、自分が倒されると・・・・・?
安藤は思わず身震いした。



「一丁あがり!」
伊藤博之は、笑みを浮かべながらスマートホンをウェストバッグに戻した。
その時、
「オッ?」
ウェストバッグに入っていたお金が倍の厚みになっている。
「増えても・・・・・何に使うのかな?」
まあ良い・・・・・さて、次は・・・・・?
伊藤は、爬虫類のような目で、次のターゲットを探し始めた。



「一人・・・・・撃破されましたね」
モニターの並ぶ部屋の中で、様子をチェックしていた少女が言った。
「では、予定通りに・・・・・」
微笑みを浮かべた美女が言うと、少女は頷き、マウスであるアイコンをクリックした。



四人のスマートホンが鳴った。
メールだ。




大学と高校の購買部で、新しいアイテムが売り出された。
それぞれの所持金でアイテムを購入することで、自分を強化する事が出来る。

アイテム

トランスボール・・・名前の通り、相手にぶつけることで相手を女性にしてしまう。 女性のエナジーをボール状に成形したもの(標準装備) (10万TS$)
トランスサーベル・・・女性のエナジーを光の剣にしたもの、接近戦用のアイテム。相手を切ったり、突き刺すことで相手を女性に変える。 (20万TS$)
トランスライフル・・・遠距離戦用のビームライフル。 女性のエナジーをビーム上に変換し打ち出す。装弾数10発。 射程距離50m 。シールドには3発命中させると消滅させることができる。(20万TS$)
シールド・・・文字通り、相手の攻撃から身を守る。 トランスボールや、サーベルの攻撃は受け付けない。ライフルのビームも、3発まで耐えることができる。 オレンジ色『トランス合金』で成形されている(15万TS$)
トランスナイフ・・・・「ガール・コマンド」だけが持つ、接近戦用の「ビームナイフ」 サーベルよりコンパクトで使いやすい。

ガール・コマンド・・・『美少女兵士』言葉は基本的に話さない。(ボディーランゲージ)
           『契約』することで契約者を助ける。 運動能力が高く、武器の扱いにも慣れている。 「契約者」が倒されるか、相手の攻撃が命中すると消滅する。           (契約金50万TS$)




「そういうことか・・・・・」
安藤智樹は、ウェストバッグの中のお金と、メールに書かれたアイテムのリストを見ながら思った。
どちらにしても、ボール一つでは心もとない・・・・・安藤はリストを見ながら考えこんだ。



「行かなきゃ!」
小倉雄太は、地図を確認すると、高校の購買部のある校舎を目指した。



「フン・・・・・」
梅本秀和は、鼻を鳴らすと、スマートホンをベンチに置いて、視線はマンガ雑誌に戻した。
せっかくの楽しい時間を邪魔して欲しくない・・・・・既に梅本の頭の中からは、メールの事は消え去っていた。



「ありがたいね〜」

伊藤博之は、満面の笑みを浮かべながら、大学の校舎の中を歩いていた。
関克也を倒したことで、懐は暖かい。
安心してアイテムを買うことが出来る。

やがて、『SAKURA』と書かれた看板が見えた。
おそらく、購買部の名前だろう・・・・・この学園にマッチした名前だ。
伊藤は中に入ると、
「ウヒョ〜ッ?!」
なんとも奇妙な感嘆を漏らした。
購買部は校舎の一階にあり、ちょっとしたスーパーマーケット程の広さがあった。
レジの脇に清潔な白いブラウスと、黒いタイトスカートを着た若い女性が立っている。
伊藤は名札を見ると、
「真希ちゃん?」
「はい」
彼女は大きな瞳を伊藤に向けると微笑んだ。
「金は、あるんだ・・・・・ガール・コマンドをくれる?」
「わかりました」
こちらです・・・・・真希は先に立って、伊藤を購買部の一角に連れて行った。
伊藤が真希の後ろから歩いて行く・・・・・が・・・・・伊藤の視線は、 タイトスカートに柔らかなラインを描く、真希のヒップに釘付けだ。
「こちらの認証装置に、手をあてて下さい」
真希が示した先には銀色のカプセルがあり、その中には可愛らしい女の子が、まるで眠っているかのように横たわっていた。
女の子は、黒い戦闘服と赤いベレー帽を身につけている。
カプセルの横には、四角い箱があり、人の手を認識するセンサーがあるようだ。
真希に促され、伊藤は箱に右の掌をあてた。
電子音が鳴り、シュ〜ッという音とともに、カプセルの透明なカバーが開いた。
カプセルの中に眠るように横たわっていた女の子は、スッと起き上がりカプセルから出ると、伊藤の前に立ち、サッと敬礼をした。

「・・・・・この娘・・・・・大丈夫かよ・・・・・?」
目の前に立つ女の子を上から下まで、まるで値踏みをするように見ていた伊藤が、真希に向かって言った。
「この娘、アイドルとしてなら良いかも知れないけど、これは戦うゲームだぞ?」
舌打ちをしながら言う伊藤に向かって、真希は、
「お言葉を返すようですが、彼女はお客様よりも遥かに身体能力が高いですよ」
「フン・・・・・」
本当かよ・・・・・伊藤が鼻を鳴らす。
その様子を目の前の女の子…コマンドは、可愛らしい顔で微笑みながら聞いている。
「この娘が役にたたなければ、おまえが埋め合わせをしてくれよ!」
金を払うんだからな…そう言うと、伊藤は50万TS$を払い、店を出て行く。
その後ろから、ライフルを手にした戦闘服姿の女の子が歩いて行く。
「ありがとうございました」
真希は、お辞儀をすると、二人の後ろ姿を見送った。



「いらっしゃいませ」
小倉雄太は、可愛らしい声に迎えられた。
ここは、純愛女子学園高校の購買部。
レジには、真っ白のブラウスと黒いタイトスカートを着た女性が立っている。
胸元に付けた名札には「真央」と書いてある。
身分証明なのに、なぜフルネームを書かないのだろう?・・・・・作者が面倒だからなのか?・・・・・そんな事を考える余裕は、今の小倉にはない。
『トランスライフル』を下さい。
小倉は真央にお金を渡した。
「しばらくお待ち下さい」
真央は、なぜか傘などと一緒に並べられていた、どう見てもこの場所には場違いな武器を手に戻って来た。
「こちらになります」
小倉がライフルを手にすると、ずっしりとした重みが手に伝わってきた。
「発射できるのは、10回です」
「わかった・・・・・ありがとう」
強力な武器を手にしたことで、小倉は安心を感じていた。
「ありがとうございました」
真央は店を出て、再び学園の中での戦いに向かう小倉の背中を見送った。



「これで、少しは安心かな?」
安藤智樹の左肩には、オレンジ色の『盾』がついている。
金属製なのに、付けている事を忘れる程に軽い。
店にいた大きな瞳のちょっと童顔の女性・・・・・真央と言う女の子は、何を買おうかと迷う安藤に、この盾を勧めた・・・・・「トランス合金で作られていて、軽くて丈夫ですよ・・・・・使い方次第でいろいろな事ができると思います」
どこかの銀行のCMで見たような笑顔を安藤に向けてくれた・・・・・それが理由と言うわけではないが安藤は、この盾を買ったのだ。
確かにこの盾は、ボールを投げられても、サーベルで突かれても攻撃を無効に出来て、ライフルの攻撃にもある程度は耐える事が出来る。
相手の攻撃を防ぐ事・・・・・例えば、相手が投げたボールを弾いたり、ライフルの「無駄弾」を撃たせたり・・・・・が出来れば、安藤が持つボールでも、相手を倒す事は可能だ・・・・・それに、相手のボールを奪う・・・・・つまり、相手を丸腰にしてしまうことも出来るだろう。
さあ・・・・・どこから来る・・・・・そして他の者たちは、何を買ったのだろう?
安藤は、静かに闘志を燃やしていた。



赤いベレー帽を被り、戦闘服を着た女の子が、学園の通りを歩いている。
彼女は伊藤の数メートル先を歩き、視線を走らせて、建物や物陰に『敵』がいない事を確認している。

伊藤博之は、その様子を見つめている。
前を歩く『コマンド』・・・・・女の子は、戦闘服を制服に着替えさせれば、そのまま『女子高校生』になってもおかしくない容貌だ。
このゲームが終わったら、食事にでも連れて行くか?・・・・・その後は・・・・・?
伊藤は想像をして笑いを浮かべた。
でも、あの購買部にいた真希という娘も、クールだけど棄てがたい・・・・・いっそのこと二人を・・・・・そう思ったその時、校舎の陰をチェックした女の子が、こちらに戻って来た。
「どうした?」
伊藤の問いを聞いて、彼女が指を指した。
見ると、どちらかというと小柄なおとなしそうな青年が、ライフルを手に、こちらに歩いてくる。
「あんな物を持っているなんて・・・・・やられちまうじゃないか?!」
そういえば・・・・・伊藤がコマンドを見ると、彼女は肩からライフルを提げている。
伊藤は、彼女に向かって顎をしゃくって命じた。

「行け・・・・・」

彼女は頷き、ライフルを地面に置くと、驚く伊藤をそのままにして、道を駆け出した。

小倉雄太は、ある意味では『万全の体制』で、ガールコマンドと対決する形になった。
ライフルを置いて駆け出した彼女に対して、射程距離50メートルのライフルと、トランスボールを持つ小倉は、彼女に対して武器は圧倒的有利な状態だった。
ただ心理面では、自分に向かって走ってくる戦闘服を着た女の子・・・・・ガールコマンドと初対決をする事になった動揺は隠せない。
「来た!」
叫ぶと同時にライフルを構えると、小倉は続けて二発撃った。
彼女は微笑みながら、まっしぐらに走ってくる。
ライフルの銃口から放たれた、二本の赤いビームは、彼女のはるか手前で消えた。
「射程外か?!」
小倉が構え直すと、彼女はスピードをあげ、ジグザグに走り始めた。
慌てた小倉が、ライフルの引き金を引くと、銃口からビームが放たれる。
しかし、彼女にかわされた。
銃口から続けて放たれるビームは、彼女に命中しない。
耳元で、カチカチと音が鳴っている。
ライフルを撃ち尽くして、引き金を引く音だけが聞こえたのだ。
小倉には、彼女・・・・・コマンドが、笑ったように見えた。
ライフルを捨て、赤いボールを手にした。

「喰らえ!!」

彼の容姿・・・・・知的な大学院生・・・・・には似合わない言葉で叫び、渾身の力でボールを投げた。



「?!」
安藤智樹は、叫び声を確かに聞いた。
「なんだ・・・・・?」
自動販売機の陰に隠れて、その瞬間を見た。



小倉が渾身の力で投げたボールを、彼女は簡単に受け止めた。
まずい!・・・・・逃げなければ・・・・・小倉が思った時には、彼女の可愛らしい顔は、彼の目の前にあった・・・・・なんて速さだ・・・・・。

「ば・・・・・化け物だ〜!」

小倉が叫んだその瞬間、彼女は右手に赤いボールを小倉の腹部にねじ込んだ。

「・・・・・」

小倉の体が小刻みに震えている。
痛みがあるわけではない・・・・・しかし、なんとも言えない感覚が、小倉の体を覆い始めた。

女の子がバク転をしながら小倉から離れる。

彼女がピタリと着地した瞬間、小倉の下腹部から赤い閃光が輝いた。



「・・・・・?」
誰かが小倉を読んでいる?
ハッとして振り向くと、白衣を着たショートカットの髪の女性・・・・・そう、二十歳くらいだろうか? 彼女が小倉を見て笑っている。
「美樹・・・・・居眠りをするなんて、昨夜は徹夜?」
彼女は、悪戯っぽく微笑むと、小倉の柔らかい頬を両手でつまみながら、
「夜更かしは、お肌の大敵だぞ!」
小倉は思わず、
「わかった・・・・・わかったから・・・・・翔子・・・・・」
言ってから、小倉は、自分の物とは思えない白く小さな手を見ながら震えていた。
僕は・・・・・そう言おうとしても、なぜか言葉が出てこない。
僕・・・・・そんな言葉を言うなんて恥ずかしい・・・・・わたしは・・・・・? わたし? そう、わたしは『小倉美樹、純愛女子大学 理学部の二年生・・・・・20歳・・・・・』
小倉は酔っていた。
自分の記憶が、美樹の記憶に飲み込まれていく感覚・・・・・それは言い様のない、快感と言ってよい心地よさだった。

一瞬、小倉が白衣を着た体を震わせた。
デニムのスカートから伸びる白い足も震えた。

「美樹・・・・・?」

大丈夫?・・・・・心配そうに顔を覗きこむ翔子に、美樹は頬を赤らめながら、
「大丈夫・・・・・さあ、実験を始めよう」
『いつも通りの』明るい声で答えた。


スマートホンから着信音が流れてきた…メールだ。




小倉雄太を伊藤博之が撃破。
小倉雄太は女子大学生になり、伊藤博之の所持金は40万TS$になった。





「あんなのと、どうやって戦えば・・・・・?」
安藤智樹は、小倉の消えた場所と、スマホの画面に映る映像・・・・・白衣を着た可愛らしい女子大学生が実験をしている様子を見比べながら、唇を噛み締めた。



「圧倒的じゃないか・・・・・あいつは・・・・・」
金を出したかいがあったな・・・・・伊藤は前を歩く彼女・・・・・ガールコマンドの様子を見ながら、満足そうに笑った。



「・・・・・」
メールを見ると、スマホはふたたびベンチに置いた。
さて、もう一冊読むか・・・・・梅本秀和は、二冊目のマンガ雑誌を読み始めた。



「どうすれば良い・・・・・?」
どうすれば・・・・・安藤智樹は、小倉雄太の消え去った場所を見ながら呟いた。

強力な武器、トランスライフルを持っていた小倉は、遠距離から相手を倒す事ができたはずだった。
だが、女の子・・・・・ガールコマンドの俊敏な動きに翻弄され、逆に倒されてしまった。
あの女の子を相手に戦うには・・・・・?



伊藤博之は、上機嫌だった。
ガールコマンドは、強力な武器を持った相手を、一瞬で倒してしまった。
「まあ、高い金を払ってやったんだからな」
伊藤はライフルを手に、周りを警戒しながら歩く女の子を見ながら思った。

突然、女の子が立ち止まり、右手で伊藤を制した。
「どうした?」
伊藤が尋ねるのと、彼女が植え込みの一角を指差したのは、同時だった。
今の伊藤は・・・・・『無敵』だ。

「行け!」

命じられると同時に、彼女はライフルを構えた。



「見つかった!」

安藤智樹は、身を低くして走り出した。
次の瞬間、鋭い音が響き、赤い閃光が彼の左肩をかすめて、校舎の壁に命中すると、光の粒が辺りに飛び散った。
「やばいぞ・・・・・」
安藤は懸命に校舎の入り口を目指した。
後ろを振り返ると、ベレー帽を被った女の子が、ライフルを片手に安藤を追ってくる。
その後ろには、
「もたもたするな!」
ガールコマンドに『指示』を出すイケメン男性・・・・・伊藤の姿が・・・・・。
あの女の子を相手に、障害物がほとんど無い外で戦うべきではない、ライフルで仕留められてしまう・・・・・安藤は、校舎の入り口に駆け込んだ。
後ろを振り返ると、女の子はその距離を縮めている。
彼女は足を止めて・・・・・。

「?!」

銃口に赤い閃光が輝くと同時に、安藤は床に転がった。無様な格好だが、そんな事は構っていられない。
赤い光が、廊下の突き当たり・・・・・教室のドアに命中して、光の粒が飛び散った。
安藤が女の子を睨み付ける。
女の子はライフルを操作して次弾を装填する。
「何をしている?さっさと片付けろ!」
校舎の廊下に、伊藤の『指示』の声が響く。

女の子・・・・・ガールコマンドが、ライフルの照準を合わせる寸前、安藤は素早く立ち上がると、校舎の階段を駆け上がった。
次の瞬間、赤い光の粒が、彼の足元で飛び散った。
彼女が発砲して、階段の踊り場に命中したのだ。
「追え! 逃がすな!」
あいつを倒せば、後は楽勝だ・・・・・伊藤が叫ぶ。
女の子がライフルを手に、安藤を追う。
伊藤はそれをニヤニヤ笑いながら見て、ゆっくりと階段を登って行く。

安藤は、一気に三階まで駆け上がった。
教室の一つに転がりこむと、素早くドアを閉めた。
懸命に呼吸を整え、廊下の気配をうかがう。
心臓の鼓動が激しい。
普段からもっと運動をしておくべきだったな・・・・・安藤は苦笑いを浮かべながら、右手に赤いボールを握ると、ドアにピッタリと耳をつけた。

「見失ったか?!」
高い金を払ったのに、何をもたもたしているんだよ…長い廊下の左右を見回し、安藤の姿を探すガールコマンドに向かって、伊藤は吐き捨てるように言った。
舌打ちをすると、ボールを片手にあたりを見回す。
完全に見失ったようだ。
「クソッ!」
彼は、ガールコマンドに向き直ると言った。

「奴を探せ!」



梅本秀和は、相変わらずマンガの本を読んでいた。
このエリアに持ってきたマンガは二冊だったが今のベンチの上には、女性向けのマンガ雑誌三冊が加わり、さらに冷えたコーラのペットボトルとポテトチップスが置かれている。
どれも、大学の購買部『SAKURA』で買ったものだ。
店には女性店員が一人いて、訳のわからない物を売りつけようとしていたが、自分には必要ないと言うと、変な顔をしていた。
その代わり、マンガとポテトチップスなどを買ったわけだ。
さて、次は・・・・・おもむろにページを捲り、梅本秀和は至福の時を過ごしている。



ドアの向こうには人の気配はない。
安藤智樹は、ゆっくりとドアを開けて、慎重に左右を見回した。
大丈夫・・・・・誰もいない。
運良く、さっきの危機は乗りきったが、彼らは自分を探しているだろう・・・・・とりあえず、この場所は離れた方が良さそうだ・・・・・安藤は、ゆっくりと廊下を歩いて行く。
誰もいない学校の廊下。
すでに日は高く登り、窓の外で風に揺れる木の枝からは、時おり小鳥のさえずりが聞こえてくる。
しかし、学校の校内には、人影はない。
現れるのは、彼にとっては・・・・・敵だ。
安藤の首筋に、じっとりと汗が滲む。
その時、
「?!」
ガラガラと派手な音が廊下に響き、安藤は床に転んだ。
咄嗟に、ボールを構えるが・・・・・。
「なんだ・・・・・」
辺りには、箒やモップなどの掃除道具が散らばっていた。
どうやらロッカーの扉が開いて、中から出て散らばってしまったらしい。
「参ったな・・・・・」
安藤は思わず、笑いだしてしまった。
極度の緊張が弛んだ事と、怯えている自分が可笑しく思えたのだ。
その時、散らばった掃除道具を見ていた安藤の中に、何かが閃いた。



「どこに隠れているんだ・・・・・」
伊藤博之は、苛立ちながら、校舎の廊下を歩いていた。
逃げる安藤に、上手くまかれてしまったため、今の伊藤は、ガールコマンドを先頭に、教室から物置まで、部屋をひとつひとつチェックしながら安藤を探している・・・・・彼の性格には合わない作業だ。
ガールコマンドが、教室から廊下に出てきた。
「いなかったようだな・・・・・」
伊藤の言葉に、苛立ちが感じられる。
ガールコマンドが頷いた。
これで二階には、安藤はいないことになる。
先に、あのマンガおたくを倒した方が良いのか?
伊藤の中に、迷いが生まれた・・・・・しかし・・・・・。
「上を探そう・・・・・あいつを倒して、それからだ」
女の子は頷くと、ベレー帽を被り直してライフルを手にすると、先に立って階段を上がり始めた。
三階、ここで安藤を見失った。
伊藤は、反対側の階段から下に降りたと判断したのだが・・・・・。
「隠れていても、始まらないぞ!」
さっさと出てこい・・・・・俺が倒してやる・・・・・そう思った時、
後ろから大きな音が聞こえた。
「奴だ?!」
伊藤が叫ぶ。
ガールコマンドは振り向くと同時に続けて二発撃った。
しかし・・・・・。
「なんだ・・・・・掃除道具じゃないか・・・・・」
無駄弾は射つな・・・・・伊藤は苛立たし気に女の子に言った、次の瞬間、
「来た!」
伊藤が叫ぶと同時に指を指した。
オレンジ色の盾が、こちらに向かって来る。
「撃て!」
伊藤が叫ぶ。
ガールコマンドは、スッとライフルを構えると、引き金を引く。
銃口に赤い閃光が輝き、ビームが盾に命中したが・・・・・。
「効かない?!」
伊藤が慌てる・・・・・このままでは逆に、こちらが・・・・・?
ガールコマンドは、二発目を撃つ、そして三発目・・・・・四発目が命中した瞬間、盾は赤い光の粒になって消え去った。

「なんだこりゃ?」

伊藤が思わず言った。
そこにあったのは、荷物運搬用の台車だったのだ。
そこに、白いビニール紐が結んである。
ハッとして振り向いた。
予想通り、掃除道具の入っていたロッカーの扉にも、紐が結んである。
「性格が悪い奴だ!」
伊藤が吐き捨てるように言った・・・・・そして、
「バカなやつ・・・・・」
その顔に笑みが浮かんだ。
紐がついている…ということは、その紐を辿れば・・・・・?

「行け!」

伊藤がガールコマンドに命じると、彼女は紐を辿って歩いて行く。
紐は、教室の一つの中に入っていた。
操作をするためだろうか、ドアが少し開いている。

「ここまでだ!」
伊藤が叫び、ドアを開けた。
次の瞬間、その表情は驚愕に代わった。
大きな音と共に、ドアの上で、バケツが裏返しになった。
中から赤いボールが、伊藤の頭の上に落ちてくる。
馬鹿な?・・・・・驚く伊藤の背中を、誰かが突き飛ばした。
床に仰向けに転がった伊藤が見たのは、バケツから落ちた赤いボールが、伊藤を突き飛ばしたガールコマンドの背中にあたる瞬間だった。
ガールコマンドにボールがあたった瞬間、彼女は光の粒に変わり、消え去った。
「何をやってんだよ?! 高い金を払ったのに・・・・・」
この役たたず・・・・・叫ぼうとした伊藤の目の前に、男が転がりこんで、ガールコマンドにあたり床に落ちた赤いボールを掴むと同時に、伊藤に向き直った。
安藤だ。
唖然としている伊藤に向かって、安藤がボールを投げた。
我に帰った伊藤が、寸前でかわすと、教室から駆け出した。
「汚い手を使って・・・・・卑怯だぞ?!」
伊藤が叫ぶ。
安藤は、外れて壁に跳ね返ったボールを掴むと、伊藤の後を追った。



伊藤が階段を駆け降りる。
その後を安藤が追う。
伊藤が必死に走る。
30歳、夜遊び好きの会社員には、辛い状況だ。
彼の前には礼拝堂が、そして、ベンチに座ってマンガを読む梅本が見える。

伊藤は、礼拝堂の前まで来ると足を止め、安藤に向き直った。
「決着をつけようじゃないか?」
伊藤は尊大な態度で言った。
安藤が、歯を食い縛る。
安藤がボールを持って振りかぶる・・・・・投げた・・・・・と見えた瞬間、伊藤が慌ててボールを投げた。
しかし、必死に走り、まだ落ち着いていない伊藤のボールは、とんでもない方向に飛んでいく。
安藤は、素早く落ちたボールを拾った。
これでボールは2つ。
そう、安藤は投げる『マネ』をして、相手の動揺を誘ったのだ。

「お前、本当に卑怯だな?!」
伊藤が毒ずく。
それまでガールコマンドを持ち、『最強』だった伊藤は、とうとう丸腰になってしまった。
「お前、丸腰の相手を倒して楽しいか?!」
伊藤が必死に叫び、安藤は、じりじりと間合いを詰める。
安藤の右腕が・・・・・。

その時、

ベンチに座っていた梅本が、マンガの本を勢いよく閉じると同時に、足元に転がっていたボールを掴み、その太った体からは想像出来ない速さで、伊藤に向かって行った。

「うるさくてマンガが読めないんだよ!」

叫ぶと同時に、伊藤に向かってボールを投げた。
ボールは大きく口を開けた伊藤にあたると、赤い光が伊藤を包み、光が消えた時には、伊藤の姿は消えていた。

「やった・・・・・」
タナボタだが、勝った・・・・・あとは・・・・・。
そう思った安藤に、

「お前もだよ!」

転がったボールを拾うと、梅本は安藤に向かってボールを投げた。
「アッ?!」
安藤は、体を捻ってボールを避けようとしたが、背中にボールがあたる感覚を感じた。

次の瞬間、彼の視界は、赤い光に包まれた。

「?!」

安藤智樹は、声にならない声をあげた。
視界が赤く染まり、体の力が抜けていく・・・・・そして・・・・・ジェットコースターで坂を下る時のような、どこかに落ちて行くような感覚が・・・・・?

「痛っ・・・・・」

安藤智樹は、尻餅をついた。
ゆっくりと立ち上がると、
「ここは・・・・・?」
見慣れた景色、そして昨日、脱いでそのままベッドに放り出してあるパジャマ。
「そう・・・・・ここは貴方の部屋よ」
可愛らし声が聞こえ振り返ると、そこには美しい黒髪を持つ白く輝く光の服を着た少女が立っていた。
「元の場所に戻れると言ったでしょう?」
少女が魅力的な微笑みを浮かべた。
「撃破されたから・・・・・女性としてね・・・・・」
少女が言った瞬間、安藤智樹は、体全体を、見えない巨人の手で押さえつけられたような感覚を感じていた。
自分の体に、何が起きているのか・・・・・彼は理解していた。
そう、何かの力によって、彼は女性にされようとしているのだ。
「女になって・・・・・た・・・・・ま・・・るか・・・・」
体全体が軋むような感覚の中で、安藤が呻く。
その言葉を聞いて、少女は微笑んだ。
彼女の目の前で、安藤の体は、ミシミシと音をたてながら、小さくなっていく。
20歳の男性…それにふさわしい、凛々しさを感じさせていた顔は、男性とも女性ともつかない・・・・・どことなく優しさを感じさせるものになっていく。
体が小さくなったため、ズボンはブカブカになり、白く細い腕が、上着の袖から伸びている。

「貴方は女の子・・・・・安藤麻里絵ちゃん・・・・・今は、純愛女子学園中学校の2年生の14歳・・・・・」
少女が言うと、
「違う! 僕は、安藤智樹だ!」
自分のものとは思えない高い声で、言った。
その時、股間の慣れ親しんだものが、まるで溶けるように小さくなっていく。
無くなるな・・・・・安藤は、歯を食いしばって抵抗していたが、その抵抗を嘲笑うかのように、その名残を微かに感じるだけだった。

無くなってしまった・・・・・そう思った瞬間、安藤智樹の視界は暗転した・・・・・。



「はい、ではこの問題は、安藤さん・・・・・」
「ハイッ」
先生に指名され、安藤は席を立つと、黒板に向かって歩いていく。
純愛女子学園中学校の制服・・・・・紺色のプリーツスカートが揺れ、袖に濃紺のラインが入った夏の白いセーラー服と濃紺のリボンが清潔感を出している。
安藤が黒板に答えを書くと、

「はい、正解!」

さすがね・・・・・先生は満足そうに微笑んだ。
褒められた安藤は、嬉しくなったのだが・・・・・我に帰った。
僕は大学生だぞ…この程度の問題は、解けて当たり前じゃないか・・・・・?
チャイムの音が聞こえてきた。
授業が終わると、安藤は「クラスメイト達」と共に、次の授業・・・・・体育に向かった。

純愛女子学園中学校のプールは、室内にある真新しい温水プールだ。
対して、高校の方は屋外、従って、高校の生徒からは、先生に対して抗議の声が挙がっているそうだ。
しかし、そのような「優遇された状況」も、今の安藤には、ありがい…とは言えない状況だ。
プールサイドには、濃紺のスクール水着を着た生徒達が並んでいる。
安藤は、周りのクラスメイト達と、自分のスタイルを比べてしまう。
「どうして・・・・・」
安藤麻里絵は、小さなため息をついた。


自分の部屋に戻って来た安藤麻里絵は、肩にかけていたスクールバッグをフローリングの床に置くと、洗面所の鏡の前に立った。
ベリーショートの黒髪は、彼女に少年のような雰囲気を持たせている。
そして・・・・・。
スカートのファスナーを下げ、スカートを脱ぎ、続けて上着を脱いで鏡の前に立った。
そこには、美しい・・・・・少年のような体が映っていた。
否、少年・・・・・ではない・・・・・ショーツには、男性の持つものの脹らみは無く、胸には、着けたジュニアブラの下には、ほんの僅かだが、膨らみがある。
しかし今、鏡に映る彼女の姿は、『女性の体のライン』というには程遠かった。
彼女は、その小さな両掌を、ブラジャーの上に置いた。
今日の体育の授業で改めて見たクラスメイト達の体・・・・・もちろん、発達の差があるのは理解している。
女性への階段を登り始めた者もいれば、既にグラビアのモデルのような美しい・・・・・女性だけが持つ体のラインを得た者もいる・・・・・それなのに・・・・・?
安藤麻里絵は、鏡を見ながらため息をついた・・・・・しかし、

「アッ・・・・・ぼ・・・・・僕は何を?!」
我に帰った、安藤智樹は、鏡を見ると、顔を真っ赤にして、脱ぎ散らかした制服を手にすると、体を隠した。

「どうしたの・・・・・麻里絵ちゃん」

どこかから、少女の声が聞こえてきた。
「僕は安藤智樹だ・・・・・早く元に戻せ!」

安藤は座り込んだまま、天井に向かって言った。
僕は男だ・・・・・女にはならない・・・・・と・・・・・。
安藤の耳に、クスクスと少女の笑い声が聞こえてきた。
少女は言った。
「女の子に変身する時に、男だ・・・・・と意識を強く持つとね・・・・・どんどん女の子らしくなるのよ・・・・・」
心も体もね・・・・・少女の声を聴きながら安藤は部屋に戻ると、ポロシャツとジーンズを引っ張り出すと、急いで着替えた。
『安藤がいつも着ている』ポロシャツやジーンズは、今の安藤の体には大きすぎる。
しかし、安藤は男性の服を着ていないと、自分がいったい誰なのか・・・・・不安になるのだ。



そう、自分が『安藤智樹』であることを忘れないために、自分の服・・・・・男物の服を着たのだ。
「でも、あなたは女の子でしょう・・・・・?」
安藤の前に光が集まった・・・・・その光の輝きが収まった時、再び少女が姿を現した。
「違う・・・・ぼくは・・・・」
安藤がすべてを言い終わる前に、彼女は、
「でも、鏡の前で自分の体を見ていたでしょう?」
男の子みたいな体は、嫌だと思いながら・・・・・少女がクスクスと笑った。
「あなたに良いものをあげるわ・・・・・」
少女が掌を上に向けて、安藤の前に両手を差し出した。
掌の上には、赤く光を放つ光の球体があった。
きれいな光・・・・安藤は、そう感じた。
「これをね・・・・」
少女が微笑んだ。

「?!」

安藤は思わず呻いた。
しかし、呻きは声にならなかった。
視線を落とすと、少女が彼の下腹部・・・・左右に、赤い光の球体を押し込んでいく。
やがて光の球体は、安藤の体に中に消えて行った。
「その光が、あなたを女の子にしてくれるわ」
少女が言うと、
「違う! 僕は男だ!!」
安藤が言ったその時、彼の左右の下腹部で赤い光が光った。
「?!」
光が光った瞬間、安藤智樹は、胸の先端に疼きを感じた。
「エッ?!」
ポロシャツの首の部分を広げて胸の辺りを覗きこむと、両方の胸の先端で、乳首が何かを告げるかのように、硬く尖っていた。
安藤の下腹部では、赤い光が強く・・・・・弱く・・・・・脈動するように光っている。
「今の貴方は14歳・・・・・これから成長していくのよ。女の子としてね」
その光が手伝ってくれるわ・・・・・。
少女の言葉を聞いて、安藤は大きく首を振った。
「違う! 僕は・・・・・」
その時、安藤は何かを感じた。
胸の辺りがムズムズする。
小さな手をあてると、ほんの僅かだが、膨らんだようだ。
ウエストには、少し締め付けられるような感覚を感じた。
「これから、あなたの周りの時間の流れを速くしてあげる・・・・その間に貴方には、いろいろと女の子を感じてもらうわ・・・・・」
少女が戸惑う安藤に向かって微笑みを向けた。
「17歳になった時に、貴方は男の人でいられるかしら・・・・・?」
彼女は光に包まれ、姿を消した。

「・・・・・?」
安藤の部屋の景色が揺らいだ。
部屋に置かれた机やタンス、カーテンや持ち物までが、女の子の物に変わっていく。
「そんな?」
安藤は、クローゼットに駆け寄った。
中を開けると、純愛女子学園中学校の制服が皺ひとつ無く、きちんとかけられている。
その周りには、中学生らしい可愛らしいワンピースやミニスカートがハンガーにかかっている。
安藤は慌てて、引き出しを開けた。
開けた瞬間、安藤は目眩を感じた。
並んでいたのは、見慣れた自分の下着ではない。
今のこの体に合った、ジュニアブラやショーツだったからだ。
どうして、こんな真似を・・・・・安藤は、あの少女に対して怒りを感じたが、安藤は、微かな違和感も感じていた。
これは自分のものだ・・・・・そう感じる安心感だ・・・・・。
そんなものは、安藤としては認めたくはない。
だから益々、あの少女に怒りを感じるのだが・・・・・。
「・・・・・?」
安藤は、胸の辺りに窮屈さを感じた。
認めたくはない・・・・・認めたくはないが、彼の胸は大きくなり始めているのだ。
そう・・・・・思春期の女の子のように・・・・・。
「女になるな・・・・・!」
安藤はしゃがみこみ、両手で胸を押さえつけた・・・・・そうすれば、大きくならないと信じこんでいるかのように・・・・・。
しかし彼の胸は、彼の抵抗を嘲笑うかのように、彼の神経細胞を通じて脳細胞に甘い疼きを伝えながら、少しずつ大きくなり、小さな掌におさまる形の良い膨らみになっていた。
「なぜだよ!」
安藤は、胸に気をとられて気がついていなかったが、彼の下半身では、ジーンズのなかで、ヒップが丸く柔らかな膨らみになり、細かった太股には、女性らしく脂肪が付き、美しい脚線美を作りつつあった。
「そろそろ15歳・・・・・愛女子学園高校に進学する頃ね・・・・・」
あの少女の声が聞こえた。
「うるさい!」
早く元に・・・・・安藤は、そう言おうとしたのだが・・・・・?
「アッ? 体が・・・・・?」
戸惑う安藤を無視するかのように、成長しつつある女の子の体は立ち上がった。
クローゼットの隣にある姿見…いや、なぜ姿見など自分の部屋にあるのだ?・・・・・に、その姿が映る。
鏡に映ったその姿は、洗面所の鏡で見た時とは違っていた。
顔は少年のような雰囲気だったはずなのに、瞳が大きくなり、唇も厚さが増している。
顔の輪郭にも女性らしい柔らかさが出てきた。
ポロシャツの胸の辺りには、まだそれほど大きくはないが、それでも2つの膨らみが、シャツを下から押し上げている。
その胸から下に向かって、緩やかなラインを描いて細くなっていく。
ファッションモデルのようなラインではないが、それでも女性らしい体のラインになりつつあるようだ。
「さあ、麻里絵ちゃん・・・・・貴方には男の服は似合わないわ。 着替えましょう」
少女の言葉を聞くと、安藤の体は自分の意思に背いて勝手に動き出した。
「何を?!」
彼・・・・・否、彼の体は、着ていたポロシャツとジーンズと一緒に、身につけていた下着を脱ぎ捨てると、クローゼットの引出しを開けて、純白の下着を取り出すと『慣れた手つき』で身につけていく。
姿見に、女の子の身体になった自分の裸体が一瞬見えた時、安藤智樹は心の目を閉じた。
戸惑う安藤にお構い無く、女の子として成長しつつある身体は、彼の意思など無視して動いている。
ショーツに足を通して、大きくなり始めたヒップを包みこみ。
慣れた手つきでブラジャーをつけた。
鏡に映った『女性の下着をつけた自分の姿』・・・・・それが、女の子の身体に変身した自分の姿であったとしても、安藤はショックで目眩がしそうだった。
その間にも安藤の体は、足に濃紺のハイソックスを履き、白いスクールブラウスを着て、赤いリボンタイを締めた。
ブルーのチェック柄のプリーツスカートが、裏地が足を撫でながら腰にあがってくる。
ファスナーを上げると、純愛女子学園高校の学生・・・・・安藤麻里絵の完成だ。

「違う・・・・・こんなの・・・・・」

僕ではない・・・・・そう言おうとした安藤の視界が揺れて、まるで眠りに落ちる時のような感覚を感じていた。



誰かが呼んでいる?

安藤智樹が、そう思った瞬間、胸に今まで感じたことのない感覚を感じた。
それが何であるかを理解した時、安藤は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ちょっと・・・・・やめろよ・・・・・舞?!」
胸を掴む白い手から、なんとか逃れると、安藤は厳しい顔で睨み付けた。
後ろの席で、ポニーテールの髪の少女が、安藤を見ながらケラケラと明るく笑っている。
「麻里絵の胸、また大きくなったんじゃない?」
悪戯っぽい視線を安藤に向けてくる。
彼女の笑顔を見ていると、安藤は何も言えなくなる。
ずっとそうだ・・・・・純愛女子学園小学校で、初めて同じクラスになった時だって・・・・・その時、安藤はゾッとした。
今、初めて見たはずの彼女…山原舞(やまはら まい)に関する記憶が、なぜ僕の中にあるのだ?
目を大きく見開いて、何か恐ろしいものでも見るような表情で自分を見ている安藤・・・・・彼女から見ると『安藤麻里絵』だが・・・・・を見て、山原舞は肩をすくめながら、
「もう・・・・・麻里絵ったら・・・・・ごめんなさいね」
でも・・・・・そう言うと舞は、安藤の左右の頬を、両手で摘まむと引っ張りながら、
「男の子みたいな言葉使いは、やめなさい! 聖母さまのバチがあたるわよ!」
「わかった…わかったから・・・・・」
安藤が言うと、舞はにっこり笑って、
「よ〜し・・・・・許す!」
山原舞は、安藤の左右の頬から手を離すと、明るく笑った。
この笑顔を見ていると・・・・・ついつい何をされても許してしまう・・・・・安藤は、そう思うと同時に、その不思議な感覚に身震いをした。
この感覚は、いったい・・・・・?

その後、安藤智樹は時折感じる『安藤麻里絵』としての意識と戦うことになった。
体育の授業を受けるために着替える時にも、自分の身体を見下ろして、『自分は男だ』と理不尽さに怒る智樹と、『自分の身体』に安心する麻里絵。
バスケットボールをして、少しずつ大きくなっていく胸が揺れる度に、智樹の心も・・・・・。

授業が終わり、安藤智樹は、いつもの手つきで教科書やノートをスクールバッグに入れた。
席を立とうとすると、
「麻里絵ちゃん」
後ろから、舞が抱きついてきた。
帰りに、ちょっとつきあってくれない?
まるで、目を覗きこむような視線で尋ねられると、安藤は断ることができなかった。

「しかし・・・・・こんな所に来るなんて・・・・・」
安藤は店の前に、苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。
彼と舞は今、ランジェリーショップの前に立っている。
「やっぱり、僕は帰るよ」
今にも帰ろうとする安藤の細い腕を、舞が掴んだ。
「また僕なんて言って・・・・・聖母さまのバチがあたるわよ・・・・・」
安藤の耳もとで囁く。
安藤の胸や腰・・・・・お尻や太股に、ムズムズとした感覚を感じたが、安藤は気にしないようにしていた。
「それに、身体にあった下着を着ないと、スタイルが良いのにもったいないわよ」
舞が安藤の左胸をツンツンと突っつく。
そこから感じる感覚に安藤は驚き、思わず舞の前から飛び退き、顔を赤らめ『まるで女の子のように』細い両手で胸を隠した。
その様子を見ていた舞は、
「かわいい」
クスクスと笑いながら安藤の手を取り、店に入って行った。

今日は災難ばかりだ・・・・・安藤智樹は、舞に手を引かれて店に入った。
舞は店に入るなり、若い女性店員を捕まえると、
「彼女に合うランジェリーを買いたいのですが?」
聞いた瞬間、安藤は逃げ出したかったが、なぜか体が動かなかった。
「では、こちらへ」
店員が満面の笑みを浮かべて安藤を試着室に入れると、
「では、制服を脱いでいただけますか?」
「エッ・・・・・?」
「服の上からでは、正しいサイズが計れませんので・・・・・」
その時、安藤は自分を見つめる視線に気がついた。
舞が試着室のカーテンの間から顔を出して、安藤を見ている。いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべながら、
「脱ぎなさい!」
「ハイ・・・・・」
安藤は泣きそうな顔で、リボンタイを外し、細い指でブラウスのボタンを一つずつ外していく。
ブラウスを脱ぐと、白いブラジャーに押さえつけられた、2つの胸の膨らみが現れた。
「失礼・・・・・」
後ろで店員が言うと同時に、彼女は安藤のブラジャーのホックを外した。
まるで弾かれたように、安藤の女性だけが持つ、形の良い2つの胸の膨らみが露になった。
安藤は驚いた。 まさか・・・・・大きくなっているのでは・・・・・?
「お客様が着けておられるブラは、サイズが合っていませんね・・・・・」
これは、Bカップですよね・・・・・お客様には、もっと大きなサイズが必要ですよ。
店員は、安藤の胸に。ウエストに、そしてヒップにメジャーをあてて、安藤のスリーサイズを計った。
「バスト89cm、ウエストが57p、ヒップが90p・・・・ブラはFカップですか、形もいいですし素晴らしいですね」
店員は、感嘆の溜息を洩らしながら微笑むと、
「しばらくお待ちくださいね」
安藤を残して、試着室を出て行った・・・・・しばらくすると、
「それでは、これなどお似合いになると思いますよ」
「麻里絵、これも似合うと思うよ」
舞と店員は、安藤にカラフルな色使いなランジェリーを試着させた。
女性だけが身につける下着。
そして、女性の魅力を増幅させる効果も持つ?
安藤は試着室の鏡に映る、ランジェリーを着た魅力的な身体を持つ女子高生・・・・・安藤麻里絵の姿を見ることになる。
「違う・・・・・ボクは・・・・・」
その時、下腹部で2つの赤い光が輝いた。
胸に、ウエストに、そしてヒップに・・・・・ムズムズとした感覚を感じた・・・・・安藤は理解した・・・・・少女が安藤の下腹部に埋め込んだ赤い光・・・・・それが安藤を『魅力的な身体を持つ女性』に成長させていく。
その効果は、目の前の鏡に映る自分の姿を見れば、容易に確認できる。
スカイブルーのブラジャーに包まれた形の良い胸の膨らみ。
そこからキュッと絞りこまれたウエストと、ブラとお揃いのショーツに包まれた、形良くふくらんでいるヒップに続くライン。
健康的な太股と、細く引き締まった足首へと繋がる脚線美。
ついさっきまでは男だった安藤には、信じられない光景だ。
「これが・・・・・」
鏡を見ながら呆然としている下着姿の安藤に、
「ほら・・・・・ぴったりのランジェリーを着れば、麻里絵はこんなにかわいいのよ」
舞が言った。
「かわいい・・・・・?」
僕が・・・・・? 呆然としたままの安藤に、
「そうよ…あとは、言葉を直せばバッチリ!」
「わたし」と言ってみて・・・・・舞が言ったが、安藤はどうしても、言うことができなかった。



安藤智樹は大きな紙袋を2つ手にして、自分の部屋に戻って来た。
フローリングの床に座り込み、大きな溜め息をつく。
その座りかたが、いわゆる「女の子座り」になっているにも気がつかないほどだ。

あれからランジェリーショップを出て、安藤は舞に手を引かれて、今度はブティックに連れて行かれてしまった。
「麻里絵の可愛さが出る服を買おう!」
と、半ば着せ替え人形にされてしまった。
安藤自身は、ジーンズ(と言っても、今の身体に合うのはレディースだが)とポロシャツを買おうとしたのだが、舞が強引にチョイスしたのは、フリルを使ったフェミニンなブラウスとミニスカート。そして、ワンピースだった。
「まるで、女の子だな・・・・・」
床に広げた服を見ながら、安藤智樹は苦笑いをした。
そして自分の身体を見下ろすと、ブラウスの胸のあたりを下から押し上げる2つの膨らみが目に飛び込んでくる。
安藤は、広げられた服に視線を戻した。
その時・・・・・。
安藤の下腹部で、あの赤い光が輝いた。
「?!」
身体が安藤の意思に背いて、スッと立ち上がった。


リボンタイを外し、スクールブラウスのボタンを慣れた手つきで外すと、脱ぎ去った。
制服のプリーツスカートのファスナーを開けると、スカートは安藤の太股を撫でながら、床に落ちて行った。
安藤の心はまるでこの身体に閉じ込められたかのように、成り行きを見守るだけだ。
安藤の身体の動きは止まらない。
朝、学校に着て行ったブラジャーを外し、ショーツを脱ぎ去った。
そして、身体を姿見に映した。
「・・・・・」
そこには、美しい女子高校生の裸体が映っている。
見てはいけない・・・・・安藤の理性は、目を閉じようとするのだが彼の身体は、まるで安藤の男の心に見せつけるように、じっと姿見を見つめていた。
安藤の身体・・・・・否、麻里絵と読んだ方が良いのだろうか?・・・・・は、買ってきたばかりのパステルグリーンの真新しいショーツに足を通した。
女性の下着独特の滑らかな肌触りが太腿を撫で、やがてヒップを包み込んだ。
身体の動きは、止まらない。
白く細い手は、ショーツとお揃いのブラジャーを手にすると、躊躇うことなく着けていく。
背中の金具を留めると、豊かな胸の重さは肩紐に分散され、今までサイズに合わない物を着けていただけに窮屈さもなくなり、動きやすくなった。
彼女は白いブラウスを手にすると、細い手を通していく。
そして、一緒に買った、夏らしいスカイブルーのフレアースカートに足を通して、ウエストの位置を決めた。
顔を上げて、姿見を見た。
そこには、美少女が映っていた。
大きな瞳をこちらに向けて、安藤を見つめている。
白い肌。
いつの間にか、腰の近くまで伸びた艶やかな黒髪。
スッと通った高い鼻。
魅力的な唇。
白いブラウス越しでも、その大きさがわかる胸の2つの膨らみ。
細く絞りこまれたウエスト。
フレアースカートが描くラインを柔らかく膨らませているヒップ。
そして、スカートから伸びる白い美脚。
それらを持つ美少女は、自分自身…安藤智樹その人なのだ。
「ぼ・・・・・ぼ・・・・・く・・・・」
ひどく言葉を言いにくい。突然、意思に反して唇が動く。
「わたしは・・・・・安藤麻里絵」
自分の言った言葉に驚き、両手を口にあてた…その仕草も、女の子らしい。
「そうよ、麻里絵ちゃん・・・・・すっかり可愛い女の子になったわね・・・・・」
あの少女の声だ・・・・・安藤は怒鳴りつけてやろうとしたが、身体は彼の意思に反して・・・・・姿見に映る美少女は、その言葉に満足そうに微笑んでいる。
安藤は戸惑いと、強烈な怒りを感じていた。
叫ぼうとする安藤の心を、甘い感覚が押さえつけようとする。
しかし、安藤の怒りは、それを跳ね退けた。
「僕は男だ! さっさと元に戻せ!」
美少女が鋭い視線で、天井を睨み付けている。
少女の笑い声が部屋に響く。
「男・・・・・ね・・・・・?」
その時、
「?!」
下腹部に風が吹き込むような感覚を感じた。視線を落とすと、スカイブルーのフレアースカートが捲れ上がり、パステルグリーンのショーツと、白く健康的な太股が露になっていた。
「キャーッ?!」
安藤は悲鳴をあげて、両手でスカートを押さえると、床に座り込んでしまった。
見られてしまった・・・・・そう思うと、恥ずかしさから顔が真っ赤になっていく。
少女が面白そうに笑っている。
「フフフッ・・・・・男の子が、スカートが捲れて悲鳴をあげるかしら?」
床に座り込んでいた安藤は我に帰ると、立ち上がった。
「僕は・・・・・!」
言った瞬間、安藤の中に、また甘い疼きが生まれる。
「貴方は女の子・・・・・安藤麻里絵ちゃん・・・・・17歳の女の子・・・・・」
安藤の下腹部の左右で、赤い光が光っている。
「身も心も、女の子になりなさい!」
その瞬間、下腹部の光から生まれる赤いオーラが安藤の身体を包んだ。
「アッ・・・・・アアッ?!」
まるで全身が、敏感になったようだ。
ブラジャーのカップの中で、胸の先端が硬く自己主張をしているのがわかる。
下腹部の赤い光は、強くなったり弱くなったり・・・・・リズミカルに光っている。
その発光にあわせて、今まで感じたことのない感覚が、安藤の脳細胞を襲った。
あの赤い光がある場所・・・・・あれは・・・・・子宮だ・・・・・あの光が、わたしを女の子に変えていったんだ。
そして、女性の姿になってからの出来事・・・・あれは、わたしに女の子としての生活を追体験させていたのだ・・・・・。
また、これまで感じたことのないような・・・・・それでいて、慣れ親しんだような感覚が襲ってきた。
太股を擦り合わせ、懸命にその感覚に耐えようとした。
思わず『呻いた』・・・・・つもりだった。
しかし、艶やかな唇から漏れたのは、悩まし気な女の子の甘い声だった。
それを合図にしたかのように、身体を包んだオーラからの刺激が強くなる。
唇から、胸から、ウェストや滑らかなお腹から、太股から、そして、新たに生まれた女の子の器官から・・・・・刺激が安藤を高みに連れていく。
安藤智樹が『男性』として最後に感じた感覚は、自分の意識を包み込もうとする、白い閃光だった。



梅本秀和のスマートホンから着信音がなった。
メールだ。



伊藤博之はOLに、安藤智樹は女子高校生になった。
勝者は梅本秀和




「フン・・・・・」
鼻を鳴らすと梅本秀和は、コミック雑誌を手にした。
これで落ちついて漫画を読める。
ベンチに座った梅本の身体を赤い光が包んだ。



ここは、とある会社の給湯室。
伊藤みなみは、このIT企業に今年の春に入社した新人OLだ。
しかし、この会社のことを良く知っている気もするのだが・・・・・。
みなみは、あまり要領の良い方ではなく、仕事ののみ込みも遅い。
とうとう先輩社員から「ドジっ娘」という、ありがたくないアダ名をつけられてしまった。
今朝は、とりあえず、先輩たちに朝のコーヒーを淹れて、機嫌を取ろうと思っているのだが・・・・・。
「?!」
浅黒い手が、みなみの細い腕を掴んだ。
同じ部署の男性社員が、みなみにピッタリと身体をくっつけた。
「いつも仕事でフォローをしているんだ・・・・・これくらいいいだろ」
男の手が、みなみの胸やヒップに迫る。
泣きそうな表情の伊藤みなみだが・・・・・彼女はかつて、他の女性に対してこの男と同じことをしていたような『錯覚』を感じていた。
伊藤博之だった伊藤みなみは、朝の給湯室の片隅で涙を浮かべていた。



梅本秀和は、いつものように、自室のベッドで朝を迎えた。
机や部屋の棚には、アニメやマンガのキャラクターのフィギュアが並び、マンガ雑誌や単行本がずらりと並んでいる。
昨夜は変な夢を見た・・・・・どこかの学校のベンチに座ってマンガを読んでいた。
梅本は思わず笑ってしまった。
そんなことがあるわけない・・・・・たくさんのマンガがある、この部屋が一番落ちつく。
梅本は机の上に置いてあったポテトチップスの袋からひとつ摘まむと口に運び、珍しく部屋の窓を開けた。
朝の空気が部屋に入ってくる。
外では、制服を着た女子高校生が二人、登校途中のようだ。



安藤麻里絵は、朝の街を歩いていた。
昨夜は変な夢を見た・・・・・どうしたのかな・・・・・?
不安を振り切るため、両手を広げて深呼吸をしようとすると、
「?!」
誰かが、抱きついてきた。
そして、その腕は麻里絵のFカップの形の良いバストを掴んで揉み解した。
「こら、舞!!」
麻里絵が振り向くと、クラスメイトの山原舞が、明るく笑いながらペロッと舌を出した。
「おはよう、麻里絵」
「おはよう!」
この笑顔を見ていると、怒ることができない。
麻里絵も明るく挨拶をすると、二人で並んで学校に向かう。
「あのね昨日、美味しいケーキ屋さんを見つけたんだ・・・・帰りにいっしょに行かない?」
舞が、麻里絵の瞳を覗き込むように言った。
「良いね・・・・・行こう!」
麻里絵が微笑みながら頷いた。
「おはよう!」
クラスメイト達が、麻里絵に声をかける。
校門を入ると、麻里絵は友人たちとともに礼拝堂に向かった・・・・・聖母様にお祈りを捧げるために・・・・・。



「無事に終わりましたね」
モニター画面を見ていた少女が言うと、スーツ姿の美女が頷いた。
「ガールコマンドは、まだ相手の動きや行動に対応するために、バージョンアップが必要なようね・・・・」
「すぐに対応をします」
少女が頷いたその時、モニター画面の一つに、白く輝く服を纏った青年が現れた。
「聖母様! また変なゲームをしましたね?! おかげで因果律の調整が大変ですよ!!」
美女と少女が、お互い顔を見合わせた。
少女が肩をすくめる。
「はいはい、わかりました」
そう言うなり、美女はスイッチを切った。
モニター画面から、青年の姿が消えた。



「アッ・・・・・切ったな!!」
青年は天を仰いだ。
「全く・・・・・いつも、やりっぱなしなんだからな・・・・」
タブレットを手にした青年は、ため息をつくと、忙しげに指を動かし『アフターケア』に励んでいた。





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T・B


(おわり)


作者の逃げ馬です。
おかげさまで、このホームページも一つの節目、30万HITを達成することができました。
これも、このホームページにいつも来てくれる読者の皆さんのおかげです。
いつも応援いただき、ありがとうございます。

これからも、読者の皆さんと『キャッチボール』をしながら、作品を書いていければと思っています。
よろしければ、これからもこのホームページと、逃げ馬作品におつきあいください(^^)/


この作品に登場をする団体・個人などは、実在をするものとは一切関係のないことをお断りしておきます。

2014年6月 
逃げ馬








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