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【香港】果たして投資家は政治情勢の悪化する香港から避難すべきだろうか。
アジア一の富豪である李嘉誠氏は今年すでに地元香港の資産売却に動いており、香港市場への信頼を失っているとの思惑が広がっている。民主的改革の約束をめぐって中国政府が強硬な姿勢を取ることをにらみ、アナリストは投資家に香港のポートフォリオを政治的悪影響から保護するよう警告している。
これはかなり劇的と感じられるかもしれない。政権が一貫して事業を支援し、資本主義的自由を享受するこの港湾都市では、これまで政治的リスクが取りざたされることはまれだった。しかし、最近のマッコーリー銀行による警告は、中国の国務院(内閣)が香港の自治権はいつでも剥奪できる特権だと述べた白書を発表したことを受けたものだ。
マッコーリー銀行は、この文書は民主化運動家への警告よりも「はるかに深刻」で、政治的に従順であることを余儀なくさせる経済的支配の脅威を示唆するものだと述べた。
中国政府の意図が香港の民主化運動を後退させるための脅しにあったとするなら、これは裏目に出たもようだ。
普通選挙の実施を求める民主派団体「オキュパイ・セントラル(占領中環)」が週末に開始した非公式の住民投票では、投票数がすでに70万票を超えた。この投票は、2017年に予定される香港特別行政区政府の次の長官選挙について3種の異なる制度を提示している。
すでに占領中環は、政府が普通選挙の実施に向けて許容できる計画を打ち出さなければ来月に香港の主要ビジネス街の一部を封鎖することをほのめかしており、緊張は高まっている。中国政府は、行政長官候補を指名する最終決定権を自ら持たなければならないと述べている。
こうした状況のため、このままでは中国共産党は香港の世論と衝突しそうだ。
各地に出没、張り子のパンダ1600頭
普通選挙の要望は、英国からの主権移譲から17年の間に香港政府がたどった過程に対する不満の高まりが背景にある。
不人気の指導者が続いているだけではなく、社会の分極化が進み、生活水準の低下を訴える声は多い。
貧富の差、大手不動産会社幹部や政府高官が絡んだ汚職疑惑は、香港にとって問題の一部にすぎない。これとは別に中国の国家資本主義と香港との相互作用も問題だ。
中国政府が香港に特別な地位を与え、中国本土の個人旅行客が海外旅行をする際の最初の行き先と位置づけたことをめぐっては、数多く取りざたされてきた。
これは小売りや不動産売買にある程度の恩恵をもたらしたものの、こうした優遇策は代償を伴うとの認識が広がっている。中国本土からの買い物客は物価上昇や混雑の問題を引き起こすほか、香港の財政のあまりにも多くの部分がこうした本土からの旅行客に対応するための輸送インフラに充てられているとの苦情もある。
いわゆる優遇策には、中国政府が人民元の国際化について香港の主導的役割を認めたことも含まれる。しかし、香港ドルが米ドルペッグ制を採用しているため、地元にはひずみもある。
人民元が着実に上昇する中、香港ドルの価値が抑制され、香港は輸入インフレや海外での購買力低下に直面している。これは中国本土に有利に働くもので、本土の買い物客は為替や税金の面で恩恵にあずかる。米ドルペッグ制によって香港の居住者にとっては事実上、銀行預金の金利がゼロに近くなり、本土企業は格安な香港ドル建てローンを増やしている。
こうした不公平な通貨制度をめぐる不満の高まりにかかわらず、中国の通貨が兌換(だかん)可能でない限り変更はできないという公式見解が維持されている。中国が資本勘定を自由化しない限り、香港は現状に耐えるしかないということだ。
所得の不均衡がかなり大きい中で議会制民主主義を導入すれば、人々が現状維持をよしとしないという問題が生じる。これはさまざまな既存方針が見直しの対象になり得ることを意味する。
しかし、政治リスクを警戒する投資家にとって当面の不透明要因は、民主派の抗議運動に中国政府がどう反応するかだ。白書の論調は、中国共産党に交渉の余地がみられないことを示している。
それでも中国政府は、強硬策に及ぼうとすれば微妙な状況に直面することになる。中国本土と違い、香港の資本と人々はまだ逃避する自由を持っている。