環境技術と金融の推進による経済成長が今年の環境白書のテーマという。原発事故の後始末を最優先させるべき環境行政までが、政権の掲げる成長戦略にのみ込まれていくようで、気にかかる。
「我が国が歩むグリーン経済の道」。ことしの環境白書のテーマである。
グリーン経済とは、持続可能な環境と経済成長を両立させることであるという。そのために、経済成長の核となる環境技術の開発と、その事業化に必要な環境金融の推進に、まず焦点を当てている。
白書は、役所の姿勢を示す。安倍政権が進める成長戦略の一翼をどう担うかが、環境省にとっても最大の関心事ということなのか。
一方で、福島第一原発事故に関する記述が目立たなくなる。
一昨年の白書のテーマは「震災復興と安全安心で持続可能な社会の実現に向けて」であった。冒頭第一部の第二章を「東日本大震災及び原子力発電所における事故への対応」に割いていた。ところが今回の目次には「原発」の文字がほとんど見当たらない。
環境省は、除染や放射性物質の処理など、原発事故の後始末の重要な部分を担っている。
しかし、白書によると、ことし二月時点の国直轄除染の実施率は、福島県浪江町の宅地で0・1%、富岡町の農地で0・2%、双葉町にいたっては、実施計画すら策定されていない。
福島県内各地の道路沿いや空き地には、除染ではぎ取られた汚染土が袋詰めにされ、山積みにされている。最終処分の展望はなく、一時保管候補地である大熊町と双葉町の住民は不信を募らせる。責任は果たせていない。
原発事故から三年三カ月。被曝(ひばく)のリスク評価は定まらず、依然として国全体を不安が覆っているようだ。避難指示が解除されても、多くの人が帰るに帰れない。
省として真っ先に発信すべきは今もなお、原発事故の危険や不安から国民を解き放つ、意欲と道筋なのではないか。
そもそも環境省は、高度経済成長の負の遺産である公害に対処すべく生まれた役所である。
環境と経済の両立も大事な仕事には違いない。だが、経済の逸脱を監視、是正する役割は、それ以上に重いのではないか。
国民と自然を守るのが、今も第一の使命のはずである。
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