新たな提案を出したかと思えばすぐ引っ込める。

 集団的自衛権など安全保障政策の与党協議の混迷は、もはや見るにたえない。

 国連決議にもとづく集団安全保障の一環としての武力行使に、自衛隊も参加できるようにしたい。中東・ペルシャ湾での機雷除去を念頭に、自民党が公明党にこう提案したのは、20日のことだった。

 だが、これに公明党が猛反発すると、自民党はきのうの協議では棚上げ。一方で集団的自衛権を認める座長私案を公明党の求めに応じて修正し、両党は合意に向け一気に歩み寄った。

 政府や自民党としては、議論を足踏みさせるよりは、合意を優先させたということだ。狙い通り、来週には閣議決定されそうな運びになった。しかも自民党は、機雷除去をあきらめたわけではなさそうだ。

 一連の協議のありようは、驚くほどに軽い。

 戦争のさなかのペルシャ湾で、自衛隊に機雷除去をさせるべきかどうか。まさに隊員の命がかかった問題だ。

 かつて占領下の日本で、こんなことがあった。

 朝鮮戦争が始まった1950年、政府は占領軍の強い要請を受け、海上保安庁による「日本特別掃海隊」をひそかに朝鮮半島沖に派遣した。憲法9条に反するとの声を、吉田茂首相が押し切った。

 ところが一隻の掃海艇が機雷に触れて沈没、隊員1名が亡くなった。「戦後ただひとりの戦死者」と言われる。

 集団安全保障は、平和や秩序を壊す国に対し、国連加盟国が経済や軍事的手段で制裁する仕組みだ。日本が憲法の枠内でどこまで協力するかは、本来は時間をかけて正面から議論すべき重いテーマである。

 先の与党協議では、多国籍軍の後方支援にあたっての新たな条件が突然示され、やはり公明党の反発ですぐさま別の条件に置き換えられた。

 自民党はとっかえひっかえ取引カードを繰り出しているだけではないか。誠実さを疑う。

 「安倍政権での議論を十分だと思いますか」。朝日新聞の世論調査で、「十分ではない」と答えた人は76%だった。

 集団的自衛権に集団安全保障。ただでさえわかりにくい言葉が飛び交い、議論の焦点もくるくる変わる。こんな協議を見せられれば、多くの人が不十分だと思うのは当然だ。賛否以前の問題である。

 この状況のまま、本当に閣議決定に踏み切るのか。