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何故 、助けないのか!

佐藤が隊長として派遣されたイラク サマーワ。

「何故 助けないのか!」

オランダ軍若手将校の怒りにも満ちた罵声が、運河沿いの現場に響きわたった。あの場面は、今でも鮮明に頭に残っている。佐藤ら車数量で、自衛隊宿営地からオランダ軍宿営地に向う途中での出来事だ。

自衛隊とオランダ軍宿営地間は数km離隔しており、宿営地間を結ぶ道は、遠回りだがアスファルトが多い道と、凸凹の運河沿いの近道の2つがあった。その近道は、かなり道路素質が悪く、4駆のオフロードタイプならともかく、イラクの古い車両には向かないため、あまり車は通らない道だった。

事件は、まさに、近道の運河沿いで起きた。運河沿いの窪地に、ジープが腹を見せてひっくり返っている。その近くには、英国の民間技術者が頭から血を流し横たわり、その傍らには英国軍人の下士官が怪我をした様子でうずくまっていた。

当時、オランダ軍兵士がイラク人の手榴弾やロケット攻撃で殺害されたり、負傷した事件が発生していたので、「やられたのか」と、一瞬、頭に警報が走った。事故か、襲撃か分からないので、警備の隊員に下車を命じ、現場の周りに警戒態勢を取り、佐藤ら数人が負傷英兵に近づいた。交通事故と分かったので、自衛隊宿営地に連絡し、自衛隊かオランダ軍の衛生部隊を派遣するよう、状況を説明・要請している途中で、オランダ軍衛生部隊が現場に到着した。いきなりオランダ軍が現れたので、驚いたが、実は、負傷した英兵が、事故後、オランダ軍に無線で救助を求めており、それを受け、オランダ軍が現場に急行したことが後で分かった。

現場に到着したオランダ軍将校の第一声、怒号が、「何故、助けないのか!」だ。彼らからすると、自衛隊は、同じ多国籍師団の仲間である英国兵や技師を助けず、多くの隊員が遠くから負傷者を眺めていたように映ったらしい。特に民間人が負傷しているのに助けないことにも怒っていた。オランダ軍衛生部隊は、応急処置をして、我々の説明も聞かず、負傷者を軍の救急車に乗せ、怒りながら、すぐに現場を立ち去った。

自衛隊側としては、襲撃か事故か不明なため、先ずは現場の安全を確保し救助に向かっただけなのだが、事前に事故と承知をして現場に到着したオランダ軍には、助けずに遠くで見ていた自衛隊、仲間を助けない自衛隊に見えたようだ。

「仲間を助けない、自衛隊」、この問題はオランダ軍内だけでなく、多国籍師団司令部でも問題となった。日本の武器使用の制約、駆けつけ警護ができないこととの相乗効果で、何かあっても日本の自衛隊は、仲間を助けないとの噂は、特に、近くにいるオランダ軍内には広まり、誤解を解くのに大変苦労した。大隊長等オランダ軍の上層部は、日本の法的制約に理解を示してくれたが、下士官含め多くの将兵は、理解不能で不信感を抱いて次の部隊と交代したと、自衛隊からオランダ軍に派遣されていた連絡幹部は言っていた。

これが現実の一つの世界だ。軍の仲間を助けない、特に民間人を助ない軍隊はあり得ない。そのようなことが現実に起きたら、仲間から、そして軍として信頼されるはずもない。

本来は、法律を守り、命を守らないことがあってはならない。命を守れるよう法を整備し、自衛隊に行動の根拠を与えるのが政治の仕事だ。政治が、日本国内では「自衛隊」、海外派遣では「軍として扱ってほしい」 と言うなら、余計に、現場の自衛隊が悩みそして誇りを持てないような仕組みを改善するのも政治の仕事だと思う。

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